第181話: 不死の王討伐9

俺とスイとの戦いが始まった。


お互い、魔術特化なので、一定の距離を保ちつつ、互いの魔術が衝突する。


俺の知っている魔術ならば、まだ先読み等、対処する事が可能なのだが、生憎とどれも知らないものばかりだった。

そればかりか、こちらの放った魔術に対して、挑発のつもりか、敢えて同属性の上級魔術を放ってくる。



雷撃ライトニングボルト

「紫電」


直線的な雷撃ライトニングボルトに対して、奴の放つ紫電は、あり得ない動きで迫ってくる為、避けるのは至難の技だ。


風刃ウインドカッター

「風神」


単発で放たれる風刃ウインドカッターに対して、風神は、縦横無尽に四方から襲って来やがる。

嫌らしい魔術この上ない。

高速で動きつつ、何とかそれらを躱すが、全てを躱し切ることは叶わず、結果HPを削られてしまう。


しかし、こちらの攻撃も確実にスイに当たっているはずなのだが、またしてもHPが減る気配がない。

また分身体か?とも思ったが、どうやら別のカラクリがありそうだ。

単純に俺の魔術を無効化しているような気がする。

魔術の合間に、隙を見て投石を試みるが、やはりスイに当たると、一瞬のうちに溶けて蒸発してしまった。


全範囲雷撃ライトニングレイン


俺の正確無比に操作された幾多もの雷がスイ目掛けて落とされる。奥の手の一つでもあるのだが、これすらもノーダメージで涼しい顔をしていやがる。


「そんな攻撃じゃ、ボクには当たらないよ?」


くそっ、何処までも舐めやがって・・


ん?今、当たらないと言ったのか?

届かないじゃなくて、当たらない?


何かヒントがないか、辺りを注意深く観察していると、ある不可解な点に気が付いた。

レーダーに表示されているスイの場所と、今スイが立っている場所との位置が、僅かながらズレていたのだ。

その差は、大体2m程だろうか?


もしかしたら、攻撃ぐ当たらないのは、単に俺が見当違いの場所に攻撃していたからじゃないだろうか。

全範囲雷撃ライトニングレインは、相手の場所に正確に落としている。

だとすれば、それが仇となっていないか?

ならば、コントール精度のない全範囲火撃インフェルノレインならば、どうだろうか。

物は試しだ。


スイの攻撃を躱しつつ、魔力を溜める。


全範囲火撃インフェルノレイン


3m級の巨大火の玉が、降り注ぐ雨の如く、スイへと襲い掛かる。


注意深くレーダーを観察していた為、いち早くスイが俺の後ろ側へと転移した事に察知する事が出来た。

やはり、俺の推測は間違っていなかったようだ。

危険だと、避けれないと判断したからスイは逃げたのだ。


背後からの不意打ちを喰らう前に、風刃ウインドカッターを放つ。

いつも放っている縦薙ぎの風ではなく、横薙ぎの比較的範囲の広い奴をお見舞いする。

勿論、レーダーで奴の場所が表示されている場所を巻き込んでいる。


「グッ・・」


スイが小さく声を挙げた。


MP残量など気にしない、ここで一気に畳み掛けてやる。

すぐに解除されるだろうが、重力グラビティを使い、スイの動きを封じる。

動きが止まった所を、火嵐ファイアーストームを撃ち込む。


途端、凄まじい重力が伸し掛かったかと思いきや、巨大な火柱が現れた。

それは、間違いなく火嵐ファイアーストームだった。

おいおい、同じ魔術かよ・・。

まだ、俺を馬鹿にしているのか?


すぐに障壁を張り、火嵐ファイアーストームをやり過ごす。


「あまり調子に乗らない方がいいよ」


依然として、スイは涼しい顔をしている。

先程の魔術連打で多少なりともスイのHPは削れていた。


再び雷撃ライトニングボルトをスイにお見舞いする。

すると、やはり同じ魔術がこちらに帰って来る。

今度は避けられずにまともに直撃してしまった。

中々の速度と威力じゃないか・・

それにしても、さっきからスイが足元に展開している魔法陣が気になる。


魔術を掻き消してるかと思い雷撃ライトニングボルトを放って確認したが、どうやらスイにも直撃しているようだし、他に怪しい素振りは見えなかった。


あれ?


なら、いつ同じ魔術を返したんだ?

そんなモーション見えなかったぞ。

魔術を行使する際、必ずモーションが必要になる。

一階の魔術師ならば、魔術を行使する際には詠唱すら必要なのだ。

ある程度の熟練魔術師なら、詠唱破棄を使う事が出来る。

俺は元々、エスナ先生から詠唱を使用しない魔術の使い方を習ったので、そこらへんの過程はすっ飛ばしている。

しかし、魔術を行使する際、魔力を溜めたり杖を振るうなどのモーションは必ず必要となる。

でなければ、どの場所にどの程度の威力の魔術を放つのかを定める事が出来ない。

スイは、それすらも不要という事なのだろうか?

いや、ありえない。

それとも、速すぎて見えなかったとでも言うのだろうか?

それを確かめる為に、もう一度だけ風刃ウインドカッターを使い様子見する。


やはり、先程と同じように、同じ風刃ウインドカッターが戻って来る。


・・・そうか、分かったぞ!

やはり、モーションが見えなかった訳ではなく、する必要がなかったのだ。


「反射か」

「良く分かったね。魔術反転結界ターニングサークルという代物でね、相手の放った魔術を強制的に跳ね返すのさ。今の時代ではロストマジック扱いになってるみたいだけどね」


そんな魔術、スイの事が記されている文献には記載していなかった。


しかし、反射はしてもスイ自身にも魔術は届いている。

つまり、タフな方が勝つって事。

そして、僅かながらスイのHPが減っている。

このままゴリ押せばいずれ勝てるはずだ。

俺の残存HPは残り2/3程だった。


「まさか、反射すると分かっていながら、このまま続けはしないだろ?」

「そのまさかだ!」


いつまでもお前の思い通りの展開になると思うなよ!


全範囲雷撃ライトニングレインをスイに向けて放つ。

直後、俺の頭上より数多の雷が降り注ぐ。


ぐっ・・流石にこれは・・・痺れるとかいうレベルの話ではない。

雷に撃たれた感覚など、どう表現していいのか分からない。

めちゃくちゃ痛い!そして熱い!


こちらのHPも減り続けているが、スイのHPもかなりの速度で減り続けていた。


そのまま構わずに撃ち続けると、堪らずスイが転移で離脱する。


「へっ、我慢比べは俺の勝ちだな・・」

「くそっ!バカか!お前は!」


すぐに治癒ヒールで回復しようとして違和感に気が付く。


治癒ヒールが発動しないだと・・」

「はははっ!そうさ!言っていなかったけど、このボクが創った空間では、あらゆる回復の類の魔術は使えないの!勿論ポーションなんて物も効果を発揮しないのさ!お前は自ら墓穴を掘ったのさ!」


こいつは参ったな・・

単純にHPがなくなれば、回復するだけだと思ってたんだが、もしかしてこれは詰んだのか? ははは、まさかね・・。


恐る恐る、自分のHPを確認する。


大凡残り1/3程度だった。


冗談抜きで、回復使えないとか・・だめだろ・・無理ゲーかよ・・


額を嫌な汗が流れる。


こんな絶好のチャンスをスイは逃さなかった。

無防備な俺に、スイが紫電を撃つ。

当然躱せるはずもなく、残り少ないHPが更に少なくなってしまった。


このままだと、俺は死ぬだろう。


俺は今、究極の2択を迫られていた。


このまま、戦いを続ける。

もう一つは、何とか脱出を試みるか?だ。


だがそれは、同時に逃げるという事になる。


仮に脱出出来たとしても危険因子のスイが外にいる仲間たちを襲わないとも限らない。

いや、十中八九襲うだろう。それは絶対に阻止しなければならない。

最悪、相討ちに持ち込んででもスイを外に出す事は出来ない。


もう、あれを使うしかないのか・・



自身のレベルが100となった時にあるスキルを取得していた。


''スキル 限界突破を取得しました''


その説明に記載されている内容が、俺を足踏みさせている。


''自身の全ての能力の限界値の上限を外す。一度使用すると、解除は出来ない。ご利用は計画的に''


解除出来ないのは何だな怖い気もする。

それに最後の文面、どっかのカードローンかよ!と内心でツッコミを入れてしまった。


その時、近くで膨大な魔力の流れを感じた。


その正体は、当然スイだ。

目の前にいるスイが、まさに今、大魔術を放とうとしていた。今までとは比べものにならない程の魔力を杖先に凝縮させている。

あれは、ヤバすぎる。


「キミも一度その目で見てるだろ?この閉鎖された空間で、こいつから逃れる術はない」


グッ、どうやら考えている時間はないようだ。

ええい、なるようになりやがれ!


俺が、スキル限界突破を使用したのとスイがアースストレインを使用したのは、ほぼ同タイミングだった。


''魔術完全無効を取得しました''

''物理耐久値が大幅に増加しました''

''魔術耐久値が大幅に増加しました''

''最大HPが大幅に増加しました''

''最大MPが大幅に増加しました''

''転移を獲得しました''



地形を変えながらアースストレインが俺毎呑み込む。

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