第183話: 決着
何もない空間からナマズのような出で立ちをした巨大魚が現れた。
正確には、俺の振るった剣に当たったのだろう。
身体が半分になっていた。
そのナマズの中から、スイが出てきたのだ。
予想通りだな。
スイは、俺の広範囲魔術を恐れ、魔術に完全耐性のあり、尚且つ姿を消すことの出来る召喚獣の体内に隠れていたのだ。
姿は見えなかったが、声だけを頼りに声のする方を狙ってみるとジャストミートしたって事。
しかも、その攻撃はスイにも当たったらしく、同じくスイの身体も上半身と下半身が分断されていた。
普通ならこれで生きてる方がおかしいんだけどね。
「くそっ・・・何故バレた・・くそっ!」
スイの元へと歩み寄る。
「終わりだ。最後にもう1回だけ言う。取引しないか?」
「まさか、もう勝った気でいるのか?」
次の瞬間、スイの姿が消えた。
だが、異変はそれだけではなかった。
「こ、・・・」
声が出ない。
喋れない魔術か?
いや違う。息が出来ないんだ。
魔術の類じゃない。だって魔術は効かないはずだ。
ならば・・・
あいつ・・・とんでもない事考えやがったな・・。
普通考えても実行するか?
この空間はスイが作ったんだ。
だから、後から変化を加える事だって可能なはずだ。
あいつ、この空間から、酸素を消しやがった!
声を出すどころか、息が出来ない。
打開する策は何かないか・・?
ヤバい・・
意識が遠のいて来た・・
悠長な事言ってないで、すぐに倒せば良かったんだ・・
スイを倒せばこの空間から脱出する事が出来る。
レーダーで奴の位置を・・ダメだ反応見えない。
また、召喚獣の中に隠れたのか・・
当てずっぽに攻撃を繰り出すしか手はないのか・・
また魔術が効かなかったら?物理だとピンポイントで狙わないと意味がないぞ。
どうする?
スイは何処だ!
酸素が無い以上、音を頼りに探る事は出来ない。
もう勘でも何でもいい。
全ての感覚を索敵にあてる。
''
!?
薄れ行く意識を呼び覚ましたのは、目の前に浮かんだ文字だった。
すぐに熱源探知を発動させる。
そして、後方だいたい500m程の地点にクッキリと姿を消していたスイ自身の形が熱源として視認出来るようになった。
しかし、ここから少しだけ距離があった。
歩いて向かう気力は残っていない。
文字通り、最後の力を振り絞り投擲スキルで、聖剣アスカロンを無我夢中でスイ目掛けて投げ放つ。
何とか投げ放つ事には成功したが、そのまま酸欠で意識を失った。
どれくらい眠っていたのだろうか。
「・・ちゃん・・・お兄ちゃん!」
誰かの声が聞こえて目を覚ました。
「ここは・・・天国か・・」
「起き抜けから、何寝ぼけちゃってるんですか〜」
「いや、起き抜けだから寝ぼけるのは普通だと思うぞ?」
あっ、反射的にルーのボケにツッコミを入れてしまった。
ユイが勢いよく抱きつく。
まだ力の入らない腕で抱きしめた。
「心配掛けたみたいだな」
「ううん、私は信じてたから」
どうやら、俺は生きていたようだ。
あの空間から出られたという事は、スイを倒したって事なのだろうか。
「
「まだ寝ぼけてるの?ユウさんが倒したんじゃないんですか?」
その後、俺を発見してから今に至るまでの話を聞いた。
戦いの最中、俺は突如としてその場から消えたようだ。
その間、ユイたちは複数のスイの分身体と戦っていた。
しかし、分身体は名前の由来通り、不死身なのだ。
いくら攻撃しても、HPを削る事は出来ない。
本体であるスイを倒さない限り、分身体は消滅しない。
本体は、俺と一緒にスイの作った世界に閉じ込められていた為、その間、ユイたちは決して勝つことは戦いを強いられていた。
しかし、絶対に勝てないと知りつつも、諦めるものは誰一人としていなかった。
皆を先導し、立役者となっていたのは、ギールさんだ。
ギールさんは、これまで培ってきた経験から、俺の置かれている現状を推察し、的確な指示を皆へ送り、俺が戻るまでの辛抱だと。耐え続けるんだと、希望を捨てるなと、呼びかけ続けてくれていた。
結果、最後に意識すら無くなってしまったが、
丁度同じタイミングで、分身体が消えた為、
しかし、さっきから気になっている事がある。
レーダーにハッキリと映っていたからだ。
レーダー外に振り切れている為、この辺りではないにしろ、
この事実を今すぐに伝えるべきか迷っていた。
というのも、俺を含め皆が酷く疲弊していたのだ。
優秀な聖職者である、ミーチェさんやマリスティアさんのおかげで、直ちに命に別状のある者はいなかったのは幸いだろう。
しかし、失った体力や血は時間を置かないと回復しない。
「どれくらい気を失ってた?」
「うーん、30分くらいかな?」
魔力も対して回復していなかったので、その程度だろうとは思っていたが、30分か・・・まだ奴もそう遠くへは行っていないだろう。
追うなら、同じく疲弊しているであろう今がチャンスなのだろうか?
一眠りしたおかげか、頭はスッキリしている。
体力も魔力も減ってはいたが、それでも半分以上残っていた。
「ユウ殿!気が付きましたか!」
辺り一帯の巡回を終えたギールさんが戻って来る。
「はい、ご心配をお掛けしました」
「ありがとう!ユウ殿のおかげで、この世界が救われたよ。人族を代表して礼を言わせてくれ、本当にありがとう」
「ほぼ相打ちみたいな形で、気を失っていたんですけど、奴の姿は見ましたか?」
「いや、別次元?から戻って来たのは、ユウ殿だけだったよ。同時に奴の分身体が消滅したので、倒したのだと推測したんだ。だが、相手は
ギールさんにも俺と同じように離れた人との連絡手段を持っているようだ。
「どうでした?」
「まだ結果の連絡は来ていないよ。あ、ちょっと待ってくれ」
どうやら、今連絡が来たのかな?
「たった今、返事が来たよ。みんなも聞いてくれ!」
ギールさんの声に、皆が集まってくる。
「バーン帝国の巫女様に確認した確かな情報だ。
歓喜の声が挙がる。
しかし、その中に素直に喜べない人物が一人いた。
そう、俺だ。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「いや、うん、ちょっと考え事をしてただけだよ」
俺のレーダーには、確かにスイの反応がある。
しかし、巫女姫はスイは死んだと言っている。
一体どちらを信用すればいいのだろうか?
確かめないといけない。
歓喜に沸いているこの場で不確かな事は言えない。
「私たちは、集落に戻ります」
俺だけが知っている不確かな情報だけで、引き留めるのも申し訳ない。
確かめる必要がある。
「ユイ、みんなも聞いてくれ」
少しだけ離れた場所に、仲間たちを呼び寄せる。
「どうしたんですかぁ?ご飯ですかぁ?」
「な訳あるか。いいか、大声を出すなよ」
「
「分かるのか?」
ユイの野生の勘だろうか?
「何となくだけどね、戦った時に感じた嫌な感じをまだ感じるんだもん」
「ああ、俺も奴はまだ生きていると思う。だから、今からそれを確かめる。ついてきてくれるか?」
「勿論!」
「怖いですけど、私は強いですからね!ユウさんも居ますし」
「マスターの命令は絶対です」
スイは生きている。
だけど、今までとは何か違う気がする。
一瞥の不安を感じながら、反応のある場所まで向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます