第176話: 不死の王討伐4
少し遡る。
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「それにしても、さっきの奴は何だったんだ?」
スイは、自分の獲物を横取りされ苛立っていた。
「折角の僕の獲物を横取りしやがって・・今度見つけたら真っ先に始末してあげるよ。きっと、まだこの近くに居るだろうしね」
スイは誰もいない洞窟の奥へと舞い戻る。
洞窟の最奥には、広さ100m四方程のスペースがあり、そこには夥しい程の骨が山積みになっていた。
その骨の下には、ドス黒い線で描かれた魔法陣めいた物が伺える。
「さて、邪魔者も居なくなった事だし、始めるとするかな」
スイは、両手を地面につけ、呪文を唱える。
両手から発せられた黒い光が、描かれている魔法陣の線に沿って広がっていく。
全ての線に黒い光が宿り、魔法陣の中にあった大量の骨が黒い光で覆われ、やがて見えなくなった。
そして、黒い光の中から何かがソッと這い出てくる。
全身が骨だけの生物だった。
その形は様々で、人の形をしていたり、四足獣の形をしていたり、中には竜のような大型の形をしているなど、様々だった。
黒い光の中から現れたその生物は、まるで何かに操られているかのように一列をなして、洞窟の入り口を目指し、向かって行った。
その名の通り、骨を媒介にしてアンデットを生成する事が出来る。
そして、生成されたアンデットには一つだけ命令を与える事が出来る。
''自分たち以外の敵を殺せ''
それがスイの与えた命令だった。
こうして、瞬く間に夥しい数のアンデットの軍団が誕生した。
「ざっと5000体くらいか。手始めに手近なあそこを落とすくらいならばこの程度で十分だろう」
スイは、膨大な魔力を秘めていたが、流石に大量のアンデット生成で魔力が底をつきかけていた。
「最後に保険を掛けておくか」
レベル60以上のアンデットを生成する事が出来る。
ジェネラルアンデットは、複数の命令を与える事が出来る。
「お前には、下位アンデットたちの先導役を頼むよ」
体長30mを超える巨大な骨竜が颯爽と洞窟の外へと向かう。
魔力を使い果たしたスイは、その場に倒れた。
「ククク・・目が覚めた頃には、死の国となっているだろうな」
数日の間眠っていたスイが目を開けた。
スイは洞窟の入り口に、万が一の時の為に見張り役を忍ばせていた。
そして、そいつが仕留めたのであろう人族の亡骸が散乱していた。
スイは、それを気にも留めていないように
自分がけしかけたアンデットたちを追ったのだ。
「あれ?これはどう言う事?」
今、スイが見ている光景は、洞窟からマルガナ国までの丁度半分位の距離にあたる場所だ。
無残にも散らばっている自分がアンデット生成で作り上げたアンデット軍団の残骸だった。
「もしかして、全滅・・・か?」
辺りを散策するスイ。
時折、地面に手を当て何かを探っているそぶりを見せる。
「・・・この残留魔力は、あの時のあいつか。僕から獲物を攫った奴・・・またしても邪魔をするか・・」
その時だった。
スイのすぐ後ろから、2つの影が勢いよく飛び出し、そのままスイの首筋へと剣を突き立てる。
たまたま、偵察中に
不意打ちを狙ったにも関わらず、剣の方が溶けて折れてしまった。
もう1人は、同じように足を切り落とすべく剣を振るった。
しかし、同様に剣が溶けてしまい、傷一つ追わす事は叶わなかった。
スイは冒険者の気配には気が付いていたが、到底脅威とはなり得ぬと判断した為、これをあえて無視した。
そして恐ろしい事を考えていた。
「お前たち2人に命令を下す。この魔力の持ち主を見つけ出し、殺せ」
スイは、斬り掛かってきた相手の2人に対して、振り向きざまに洗脳を使用していた。
「今回の相手は、雑魚をいくら用意した所で、無意味なようだね。ククク、面白い・・・、待っていろ。お前には、絶望という名の快楽を与えてやる」
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ユウ視点
本日の討伐会議が終わり、宿に戻った俺は、ある異変に頭を悩まされていた。
「これは一体、何の騒ぎだ?」
宿屋の入り口に、おびただしい数の人の列が出来ていたのだ。
まるで、スキャンダルを起こした芸能人宅を取り囲んでいる報道記者のような感じだった。
俺は咄嗟に、透明化マントを羽織り、誰にも気付かれる事なく、部屋の中に入る事が出来た。
「あ、お兄ちゃん!お帰りなさい!外がね、大変だよ!」
「ああ、分かってるから、それともう少し小声で頼むよ。隠れて戻って来たのがバレちゃうから」
「一体、何をしたの?」
「知らん」
ルーがジト目で凝視してくるが、当然の事ながら、全く身に覚えが無かった。
「あるとすれば、取り囲んでいるのは、恐らく冒険者だ。アンデット軍団を討伐した俺たちに興味があるのかもしれない」
「追っ払いますか?マスター」
「そうだなぁ、、このまま居座られてもこっちも息がつまるしな」
ガツンと言ってやろうと、俺は意を決して入り口のドアを開ける。
すると、どういう事か、先程まで溢れかえっていた冒険者たちが誰一人として居なくなっていた。
「あれ、何処行った?」
後ろを振り向くと、先程までいた部屋ではなく断崖絶壁の崖上にいた。
流石にこれは異常だよな。
一体何が起こってる。
頭の中が整理できないまま、再度振り向くと、そこには懐かしき人物が立っていた。
ありえない・・
「母さんなのか・・?」
周りの景色も、いつの間にか記憶の中にある実家そのものの光景だった。
懐かしいな・・。
母親と瓜二つなその人物は、にっこりと笑顔のまま両手を広げていた。
これが夢だったならば、久し振りの元の世界を満喫するんだけどね・・。
「何がしたいんだいあんたは?それとも、
これは夢ではない。
何故かって?
それは、今までこっちの世界に来てから、一度たりとも元いた世界の夢を見た事がないらだ。
どんなに願っても見る事はなかった。
それを今更なんて事はありえない。
ならば、考えられるのは、幻術か何かの影響化にあるという事。
現状、俺に幻術なんかを仕掛けて来そうなのは、
「あら、どうして分かったの?」
「それは、こっちが聞きたいな。どうして俺の場所が分かったんだ?」
「そんなの簡単だよ。 キミを知ってる者を洗脳して、色々聞きだしたんだよ」
厄介な能力を持ってるようだ。
恐らく冒険者の誰かだとは思うけど、そいつを通して幻術を掛けていると見て間違いないだろう。
俺の推測が正しければ、
それだけは断言出来る。
俺が何の準備もせずに今に至っている訳じゃない。
いつ攻めて来てもいいように、幾つかの布石を張っていた。
ま、その布石すらも無効化する程の相手ならば、最初から俺たちに勝ち目はないだろう。
まずは、いつも使用している
一度でもその姿を視認していれば、ターゲットを指定してセット出来る。
あの時、一瞬だけとは言え、この目で見る事が出来たのは大きい。
視認する前は、
そしてもう一つ・・
「あんたは、陽の光の下には出れないんでしょ?」
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