第175話: 不死の王討伐3
「す、凄い数だね・・・やっぱり帰ろ?」
「出発前のあの自信は何処にいったんだよ。それと袖を引っ張るな!」
ルーが涙目になりながら下を向いてビクビクと震えながら、俺の袖を引っ張る。
眼下に広がるのは、アンデットの大群だった。
そう、
その数は、数えるのも面倒な程だった。
100や200ではなく、軽く5000体はいるだろうか。
しかし、レベルは大したことはない。
平均30と言ったところか。
「どうやってやっつけるの?」
「このまま上から攻撃する。爆撃機の爆弾投下みたいな感じだな」
ユイが、頭に疑問符を浮かべていた。
「ユイは悪いけど、何か異変が起こらないかの監視役を頼む。アリスとルーは、俺と一緒に遠距離で真下で進軍中のアンデットに攻撃を仕掛けてくれ」
一つ不可解なのは、肝心のターゲットの姿が見えない。
少なくともこのアンデットの大群の中にはいない。
俺の指示で、ルーが3体の遠距離型攻撃型精霊を召喚する。
アリスは、レーザービームとフレアのような火の玉を投下していく。
高度200m辺りからの攻撃に、地を歩くしかないアンデット供は、成す術なく駆逐されていく。
俺も最大火力の
数は多かったが、俺たちの圧倒的な火力を前にアンデット供は次第にその数を減らしていった。
ユイがある方向を指差す。
「あっちの方から何かが近付いてくるよ!」
ユイに言われるまで気が付かなかった。
指し示す方向へ視界を向けると、一際大きいそいつは、俺たちよりも高度からすぐそこまで迫って来ていた。
名前「サウザンド・ボーン・ドラゴン」
レベル:75
種族:骸骨
弱点属性:聖
スキル:呪怨Lv3、疾風咆哮Lv5、火焔咆哮Lv5、氷結咆哮Lv5、瞬撃Lv3、地割れLv5、石化咆哮Lv3
強いな。
というか、見覚えがある。
以前に戦ったことがある相手だ。
確か、アリスを見つけた古代迷宮にも同種のモンスターがいたよな。
あの時は、ジラやリンが居たから余裕を持って倒せたんだけどね。
だけど、俺たちだってあの時から成長している。
「な、なんですかぁあれはぁぁぁ!」
ルーが恐怖の悲鳴を上げる。
「近付く前に落とすぞ」
俺は絨毯の高度を迫り来る骨竜と同程度まで上昇させる。
「全範囲火撃『インフェルノレイン》」「レーザービーム」「メテオ」「旋風」「水閃」
各々が放つ攻撃が、骨竜に少なくないダメージを与える。
しかし、相手もレベル75ともなると、そう簡単にやられてはくれないようだ。
あれだけの連続攻撃を喰らって尚、飛距離があるにも関わらず、骨竜は灰色のブレスを放った。
触れたものを瞬時に石化させる死のブレスだ。
「ルー、あのブレスがこちらに来ないように風の精霊に頼んで、吹き飛ばしてくれ」
「オッケー!と言うわけで、風子ちゃん!お願いね!」
風の精霊、シルフが放つ突風が迫っていたブレスを骨竜の元へと押し返す。
突風に押されて、骨竜自身もこちらに近付けずにいる。ない羽をバタバタと羽ばたかせていた。
竜は竜でもその身体は骨でしかないんだからね、浮力は生み出せても推進力は弱いようだ。
そのまま近付けさせる事なく、骨竜を撃墜する事に成功した。
その後、数時間ほど掛けて、残りのアンデットを処理し終えた。
「はぁ・・・はぁ・・・流石に疲れましたぁ・・」
「うー!!私、何にもしてない!」
絨毯の上でへたりこんでいるルーに、出番が無かったと駄々をこねているユイに、魔力補給で俺の袖を掴んで離さないアリス。
一応頑張ってくれたルーの頭を撫でると、例の如く調子に乗ってきたので頭を揉みクシャにする。
「流石に俺も疲れたな・・」
「お疲れ様ですよユウさん」
いつの間にか現れた精霊のセリアが肩にチョコンと座っていた。
「出てくるのは久々だな」
ふふふ。と可愛らしく笑うセリア。
「
「ああ、何処にも見当たらないんだよね」
例の洞窟にまだいるんだろうか?
「あの者と一戦交えるのでしたら、ロストマジックについて学んだ方がいいと思います。それに、封印方法についてもです」
「今の時代には存在しない魔術の使い手なんだっけな」
「はい。ロストマジックの殆どは危険すぎる力の為に時代から消えていったものが多いと聞きます。知らずに挑んで全滅なんて事にもなりかねません」
セリアが言うのも最もだ。
以前、亡国の騎士の連中が使っていた全ての魔術の効果を打ち消すディスペルマジック。
あれもロストマジックだったはずだ。
つまり、効果持続系の魔術は全て消されてしまう恐れがある。
相手の動きを封じる捕縛などは使えないという事になる。
他にも俺が知らないだけで、強力なロストマジックがたくさんあるかもしれない。
今回のアンデットの大群を討伐した事で、幾分か時間が稼げたはずだ。
俺たちは、一度マルガナ国に戻り、王立図書館で勉強する事にした。
他の皆は、借りている宿で待機して貰う。
図書館なんて行っても暇だろうしね。
ほぼ丸一日図書館に篭り、ロストマジックと
失念していた。
ギルドに報告を忘れていた。
まさか、国中でこんなにも騒ぎになっているとは思ってもみなかった。
騒ぎの発端は俺たちがアンデット軍団をあっという間に全滅させてしまったからなんだけど、それが神の身技だとか、奇跡だとか凄い言われようだった。
案の定、すぐにギルド本部まで呼び出しを喰らった訳だが・・。
「どういう事か説明して頂きたい!」
この場には、今回の討伐隊の有力パーティーの代表者たちと各ギルドの長が集められていた。
意識が回復したのだろう、勇者の姿もあった。
下手にごまかしても隠しつ通せるとは当然思えない。
「偵察のつもりだったんですけど、思いの外、進軍も遅くて、隙だらけだったので、上空から攻撃を繰り返しただけです・・」
皆の突き刺さるような視線が痛い。
「目撃者の話では、大地の地形を変えてしまえる程の高火力魔術まで展開していたそうじゃないか!」
ありえない!何者だ貴様!などと、酷い言われようだった。
「待って下さい」
唯、その中で救いの手を差し伸べてくれる者がいた。
勇者だった。
「彼は、この国を救ってくれた恩人ですよ?なぜ、責められなければならないのですか?彼は、我がバーン帝国国王からの特任を受けて駆けつけてくれています。それなりの実力を持っているのは当然では?それに、俺の命まで救ってくれているんです。感謝されはしても、責められるいわれはないと思いますが?」
恐らくこの場で最も発言力のある勇者からの言葉に、今度は一転して皆が黙り込んでしまった。
「すまなかったユウ殿で良かったかな?」
「はい、こちらこそありがとうございます」
「いやいや礼を言うのはこちらの方ですよ。話はマリスティアから聞かせてもらいました。助けてくれた事、感謝します」
勇者が頭を下げる。
「もう身体は大丈夫なんですか?」
「ああ、少し無茶をした分の後遺症はまだ残ってるけど、概ね問題ないかな」
議題がいつの間にか、俺への尋問から、今後の動向を決める方向へと変わって行った。
追及もなくなり、俺たちがアンデット軍団を討伐した事も、勇者の計らいで、この場にいる者だけの秘匿情報という事になり口外厳禁となった。
後でまた御礼を言わないとだな。
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