第177話 :不死の王討伐5

「へぇ、隠してたつもりだったんだけど、何処で知ったのかな?」


俺は、丸一日、国立図書館に通い不死の王ノーライフキングについて書かれている書物を読み漁っていた。

その中で、あるおかしな点に気が付いた。


「記録に残されてるあんたの活動時間は、殆どが陽が落ちてからなんだよね。たまに日中に活動してカモフラージュしていたようだけど、それは光を遮断する魔術か何かを使っていたんじゃないかと思ってね」

「褒めてあげるよ。よく分析出来てるじゃない。だけど、その光遮断を今も使っていて本当にキミの側にいるのだとしたら?」

「それはないな。だって、まだ復活してから本調子じゃないんじゃない?噂や文献程の力を未だに感じないからね」


「ハハハハハッ・・面白いねキミ。それにあれだけの大群を打ち倒す力も持ってるし、ボクの世界征服の野望の前にまずキミを倒さないといけないって事がよく分かったよ」


そう語った直後、景色が一変する。


俺の大切な仲間たちだ。

ユイ、ルー、アリスの姿が目の前に現れた。


今度は一体何をするつもりかしらないけど、悪趣味には付き合えないな。


「ボクの幻術で作った夢幻ワールドへようこそ〜。難しい事は何もなし。ここで起こったことは全て現実のキミへ跳ね返る。ここで傷付けば、本物の肉体も傷付くし、ここで死ねば、現実世界のキミも死んじゃうから、気を付けてね」

「笑えないな」


って、冗談だよな・・?

目の前の3人が武器を手にして、突然襲いかかってきた。


ユイの剣撃を短剣で受け止める。

アリスの鉄拳を左手で受け止める。

ルーの召喚した精霊の斬撃を後ろに飛び、回避する。


「いくらなんでも3vs1はダメだと思うぞ!」


1vs1でも危ういってのに・・


取り敢えず今は逃げるしかない。


アリスのレーザービームが的確に放たれる。

ギリギリでそれを躱すが、あんなの喰らったら、火傷なんかでは済まされない。

それにしても、ユイの攻撃が速すぎる。

こっちはブーストを使用しているにも関わらず、その速さはユイの方が上だった。


そして以外にも厄介なのは、ルーだったりする。

3体の精霊を同時召喚だけならまだ良いのだが、組み合わせが嫌らしすぎる。


物理火力に特化したゴーレムに、その遅さを補う為に身体強化補助に特化した精霊に、数多の属性魔術を行使する精霊ときてやがる。

流石に躱しきれずに、ゴーレムの重たい一撃を背後から喰らう。

意識が飛ぶ程ではないが、それでも少なくないダメージを負っている。


早いとこ、幻術から逃れる術を探さないと冗談抜きでヤバいな。


リフレッシュ《状態回復》では何度やっても治らないのは、最初に確認済みだった。


まずいな・・他に手があるとすれば、ロストマジックでもある、魔術の効果を無効にする魔術くらいだろうか。


ディスペルマジック。


俺は、一度その魔術を実際に見ている。

俺のチート仕様ならば、後は原理さえハッキリと頭の中でイメージ出来れば、きっと使えるようになるはずだ。


しかし、そんな事に集中させてくれる程、相手はあまくはなかった。


「ユイ、それはまずいから!避けれないから!!」


ユイが必殺スキルのモーションに入っていた。


俺は咄嗟に石壁ストーンウォールを使い、ユイの四方を囲って閉じ込めた。


これで時間稼ぎ程度にはなるだろう。

続いて突撃してきたアリスに捕縛を使い、動きを封じる。

残りはルーの精霊だが、精霊はそれぞれが意思を持っている。遠隔操作ではないので、術者のルーの動きを止めても意味が無い。


障壁に篭ってやり過ごす?

一時的には凌げるだろうが、無駄に魔力を消費する障壁はあまり使いたくない。

その場に足止めもされるしね。


という事で、精霊さんには悪いけど、エレメンタルボムで消えてもらう。


ゴーレム型の精霊を一撃で粉砕する事に成功し、魔術型の精霊も同様に沈める。

補助特化の精霊は、単体では脅威にならないので無視してもいいだろう。

無防備になったルーには、催眠で眠ってもらう。


それにしても、ルーは少し無防備過ぎだよな。

意識が戻ったら少し注意しておこう。


幻術だとは分かっていても、仲間たちに直接手を下すのは、躊躇いがある。


さて、これで少し集中する時間が稼げ・・って、もう出てきたの?

一応、石壁(ストーンウォール)は念の為、3重貼りしてたんだけどユイさん・・


俺は内心イラっとしていた。


どうせさ、どうせ幻術を掛けるならさ、せめてもう少しユイたちを優しい表情にしてくれないか?

訓練じゃなくて、まるで本当に敵対しているみたいで、見るのでさえ辛いんだけどさ?

いや、敵対はしてるのかもだけどね、睨まれるのって辛いよ?心が痛いよ?


「って!はやっ!」


ユイは、一瞬の内に俺との間合いを零距離につめ十字の斬撃を放つ。

以前、一度だけ見せて貰ったユイの必殺技''瞬十字ソニッククロス''だろう。

そんなの喰らったら怪我じゃ済まないから!!


転移!


ポータルリングは使えなかったが、転移の指輪は使用する事が出来た。


今のは流石に危なかった。

避けたり、防ぐのは無理じゃないかあれ?


短距離転移だったが、ともあれ、ユイたちと距離を置く事が出来た。


俺は思考をフル回転させ、ディスペルマジックのイメージを脳内で考える。


全ての魔術による効果を打ち消す・・打ち消す・・・。


ダメだ、いまいちイメージが沸かない。


発想の転換だ。


打ち消すのではなく、無を上書きすると考えるのはどうだろうか?


過程は違えど、結果は一緒のはず。

前方を見ると、ユイとアリス、ルーがこちらに迫って来ていた。


上書き・・・塗り替える・・・。


''ディスペルマジックを取得しました''


よっしゃ!


思わずガッツポーズしてしまった。


3人との距離は、もう10mもなかった。

本当にギリギリだった。

躱す暇はない。

もしこれが成功しなければ、攻撃をモロに受けるだろう。


「ディスペルマジック」


発動した瞬間、景色が一変する。


長い夢から覚めるように、頭が少しボーッとしてくる。


ここは何処だろうか?


俺は道端のベンチに横になっていた。

誰かに膝枕されている。

何だ、この展開?


ああ、そうだ思い出した。

宿屋に帰る道中に、急な眠気に襲われて、そのまま近くのベンチに倒れ込んだ気がする。

しかし、膝枕とはこれいかに。


身体を触ってみるが、最悪な事態にはなっていないようでホッとする。

最悪というのは、勿論致命傷を負わされていないかという事。


「ユウさん、心配しましたよ!!」


膝枕の正体は、セリアだった。

よく見ると、後ろには同じく精霊のノアが立っていた。

2人とも、擬人化モードになっている。


「ごめん、どうやら敵の幻術にハマってしまってたみたいなんだ」

「もう!何度呼びかけても返事はないし、本当にどうなる事かと思いましたよ!」

「セリアちゃん心配のあまり、ずっとユウさんを抱き抱えて守ってくれてたんだよ」

「ちょっとノア!それは言わない約束ですよ!」


セリアが赤面してしまった。


「ありがとうセリア、それにノア。2人が居なかったらと思うと、ぞっとするよ。本当にありがとう」

「そーですよ、いっぱい感謝して下さいね」

「ユウが眠っているあいだ、2人の冒険者が襲って来たんだよ、セリアちゃんが眠らせなかったら、ヤバかったよ?」

「もしかして、その冒険者、誰かに操られている感じだったか?」

「そう言われてみれば、確かに挙動がおかしかった気もしますね」


不死の王ノーライフキングに操られ、俺に幻術を掛けた冒険者だろうか?


「そいつらは、今何処に?」


ノアが指差す方向を見ると、大木に括り付けられている2人の冒険者の姿が見えた。

どうやら眠っているようだ。

セリアの催眠は強力だからな。


2人の状態を確認したが、洗脳めいた状態にはなっていなかった。

取り敢えず、状態回復リフレッシュとディスペルマジックを掛けておく。

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