第173話: 不死の王討伐1
「早く!早く!討伐隊を編成して下さい!!」
ここは、マルガナ国にある総合ギルド本部奥にある一室。
命からがら洞窟から帰還したミーチェとゴエールは、すぐにギールとオーグを助けに行きたいと討伐隊の編成を申し出ていた。
「すぐには無理です。あなた達の持ち帰った情報が本当ならば、これは最高レベルの案件となります。相応の準備と人員を集める為に時間が必要になります」
「そんな事は分かってるよ・・分かってるけど・・それだと、ギールやオー爺が・・・」
その場に泣き崩れるようにへたり込むミーチェ。
それを何と声を掛けていいのか分からず、後ろから見守る事しか出来ないゴエールがいた。
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ユウ視点
試練の洞窟から戻って来て数日が経過していた。
「私なんかを、一体どのような要件でしょうか?ムー王女」
俺は、朝一からムー王女のいる宮殿に呼ばれていた。
この間のように、極秘裏な寝室での密会ではなく、正式に入り口から入るように言われていた。
宮殿のある一室に通されたのだが、この部屋には俺とムー王女以外に、彼女の専属メイド、執事と、ムー王女の父親である国王様がいた。
という事もあり、取り敢えず慣れない敬語を使っているんだけど。
2人きりならタメ口なんだけどね。
「うむ。急な呼び出しすまんな。今日来てもらったのは、其方の腕を見込んで、頼み事を依頼したいからじゃ」
嫌な予感しかしない。
だが、無下に断ると簡単に俺の首が飛びそうだしなぁ・・。
取り敢えず、話だけでも聞いてみる事にする。
「何でしょうか?」
「確か、ユウと言ったな。娘から噂は聞いておる。なんでも名のある冒険者らしいじゃないか」
「初めまして、ご挨拶が遅れました。ユウと申します。この度は国王様にお会いする事が出来、大変・・」
「堅苦しい挨拶は結構じゃよ。貴殿には大いに期待しておるのじゃ。なにせ、我が
チラッとムー王女を見ると、妖艶な笑みを浮かべていた。
国王に一体どんな紹介をしたのやら・・。
ムー王女、国王様からの依頼はこうだった。
ここより西に4000km程行った先にあるマルガナ国からの緊急の依頼だそうで、何でも近隣の村が謎のモンスターの襲撃を受けて壊滅したらしい。
その調査にあたるべく、バーン帝国所属の勇者が先発隊として赴いているようだ。
今回、先に出発している勇者一行と合流し、共同でこの依頼を受けて欲しいというものだ。
そう、謎のモンスター討伐が今回の依頼だった。
という事もあり、既に現地へ向けて例の空飛ぶ絨毯で向かっている最中だった。
「楽しみだね、お兄ちゃん」
「今回は得体が知れないからな、何の情報もないし、何だか不安なんだよね」
「私がいれば万事大丈夫ですよぉ」
「一体その自信はどっから来るんだよ」
いつもの調子のルーに若干呆れつつも、適当にあしらう。
「賑やかなパーティですね」
微笑ましい笑顔を向けているのは、今回の討伐依頼に同行している聖職者のマリスティアさんだ。
冒険者ギルドから共に同行を依頼された。
彼女のレベルは51。
冒険者としては、英雄級の域に達する。
何でも、先行している勇者一行の中に盗賊職の人物がいるそうだが、その人はマリスティアさんの兄だと言う。
本当は一緒に向かうはずだったのだが、抱えている依頼を片付けるのに時間が掛かってしまったようだ。
「大凡いつもこんな感じですよ」
その光景を何かと重ねているのかもしれない。
何処か遠くを見ているような、儚げな顔に見える。
兄の身を案じているのかもしれない。
「お兄さんの事が心配ですか?」
「そうですね、だけど大丈夫です。兄と一緒にいるのは、勇者であるギール様にバーン帝国でも3本指に入る程の大魔術師オーグ様がいらっしゃいますから」
流石、勇者パーティ。きっとメンバーも錚々たる面々なのだろう。
こりゃ、もしかしたら俺たちの出番はないかもしれないな。
それならそれでこっちとしては願ったり叶ったりなんだけどね。
「このままのペースでいけば、あと4時間程で到着するよ」
それにしても、初めて乗った時はみんな空酔いをしていたんだけど、2回目ともなると慣れたようで、キョロキョロと景色を見る余裕すら見受けられた。
アリスは、相変わらず大人しい。
俺の後ろで袖をずっと掴んでいるので、きっと補充タイムなのだろう。
目的地付近へ到着する頃には、恐らく真夜中になっているだろう。
既に日が暮れ始めていた。
急いでいるマリスティアさんには悪いけど今日はこの辺りで野宿にする。
野宿と言っても、ストレージから馬車を取り出し、快適ライフなんだけどね。
だって、硬い地面で寝たくないよね。枕も欲しいし。
同じくストレージから取り出した、出来立てホヤホヤの料理を食べ、早々に床に就いた。
朝になり、まだ若干薄暗いが、移動を開始する。
既に目的地周辺まで来ていたので、上空からレーダーを頼りに洞窟を探す。
移動中に、先行している勇者一行からギルドに連絡があり、謎の生物と思われる存在が洞窟に向かったという情報を貰っていた。
仮に勇者一行がいるならば、レーダーの反応で探す事が出来る。
そして、レーダーに2人の反応を確認した。
勇者パーティは、5人だと聞いていたので、人数が合わない事に不安を感じる。
「あの辺りで人の反応を感じます」
アリスも俺同様、感じ取ったようだ。
すぐに洞窟の入り口を探す。
こんな山奥に無関係な人がいるとは考えられない。
まず間違いなく、勇者パーティだろう。
だけど、数が合わないという事は、そう言う事なんだろうか?
だとすれば、十分に警戒する必要がある。
事前に聞いていた勇者のレベルは62。
魔術師のレベルは68だった。
相当に高い。
そんな猛者達が仮に歯が立たないような相手だとすれば、いくら俺たちでさえ、勝つ事は難しいだろう。
その時は、すぐに転移で離脱するつもりだ。
絶対に仲間の命を危険に晒すわけにはいかない。
少し、迂回して、洞窟の入り口を発見した俺たちは、急いでレーダーの反応があった場所へと向かった。
急いでいる理由は、先程まで二つあった反応が一つになっていたからだ。
しかし、妙なのは相手の反応が見当たらないと言う事。
一体、勇者パーティは何と戦っているのだろうか。
もしかして、いや今更だけど、この反応は勇者パーティではないとか?
苛立ちと不安とか錯綜し、急ぎ進む。
かなりのスピードで走っているが、全員問題ないといった感じでついて来ていた。
「この通路を曲がった先だ!」
曲がり角で一度止まり、全員にブーストを施す。
陣形は予め打ち合わせ済みだ。
今回は相手の人数が不明な為、まずは様子見から入るつもりだった。
曲がった先は、広い広間となっていたが、戦闘の爪痕が色濃く残っていた。
中央付近に誰かがいる。
少年のような風貌の人物が似つかわしくない巨大な鎌を振り上げていた。
その前には、ちょうど今まさに巨大鎌を振り下ろされようとされているボロボロの甲冑を身に纏った騎士の姿があった。
どう考えても、あの少年が怪しすぎる。
レーダーにも反応してないし、と言うかこのままだとあの騎士が殺されてしまう。
迂闊な判断だったかもしれない。
だけど、目の前で殺されようとしている人物がいたとして、黙って見過ごせる訳がない。
「ここにいてくれ。すぐに戻る」
皆の返事も聞かないままに俺は転移の指輪を使い、少年と騎士の間に入り、騎士に触れるとそのまままた転移を使い、皆の場所まで戻った。
そのまま、一目散に一緒に逃げる。逃げるったら逃げる。
転移の指輪は、以前盗賊連中が持っていたのを拝借したものだ。
一日2回しか使えない制限がある。
結構な切り札なんだけど、開始早々まだ戦いが始まってもいないのに使ってしまった。
だけど、この騎士を救う事には成功した。
走りながら、恐る恐る後ろを振り返るが、少年の姿は見えない。
どうやら追ってまでは来ていないようだ。
洞窟の外まで出ると、アリスのレーダーに反応があった大きな都市まで逃げる事になった。
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