第164話: 第五の石
なんて、温かいのだろうか・・・
気分は・・悪くない。
身体全体がぬるま湯に浸かっているような感覚だ。
そういえば、得体の知れない仮面野郎の可笑しな攻撃で腹に穴を開けられたんだったな。
もしかして、死んだのか?
いやいや、俺はまだ死ねないぞ・・
大事な仲間を放っぽり出して1人で勝手に死ねるかよ。
いや、待てよ・・この感覚俺は覚えがある。
ああ、そうだ思い出した。
あれは、確か夢の中で・・・
「お久しぶりですね、ユウ」
そうそう、こんな感じで神と対話している時の感覚に近い。
「いつまで寝惚けているのですか?」
「へ?」
いつの間にか、仰向けで寝ている俺を見下ろすように、この世界の神の一人であるメルウェル様が立っていた。
「お仲間達が心配していますよ」
「メルウェル様、お久しぶりです」
「はい、お久しぶりです」
「なんで、こんな所に?それに会うためには、神珠を消費するんじゃなかったんですか?」
「ええ、ユウが睡眠以外で意識を失っている時は、神珠を消費せずに会いに来れるんです。それに暇だったから、意識の中に遊びに来てみました」
「そうですか、それはご苦労様です」
「少しはツッコミしてくれてもいいのですよ?」
相変わらずの神様のようだ。
「それで、何か伝えたい事があったから来たんじゃないんですか?」
「流石はユウ!鋭いですね。実はね、そうなんです」
「あの仮面野郎の事ですか?」
「ええ。ユウは、彼の事をどう思いました?」
「そうですね、自分と似た境遇で連れて来られたいわば、先輩みたいな感じですかね。決して相容れない存在ですけどね」
「その理解で正しいと思います。彼は、ユウ、貴方の前にこの世界に送り込まれた存在・・」
メルウェル様は、仮面野郎について話してくれた。
あの仮面野郎は、なんと亡国の騎士のリーダーだったのだ。
「というか、実際に対峙して気が付かなかったの?」
「気が付くも何も初対面ですし・・」
「魔術が効かなかったでしょ?」
「え・・」
「何その変な顔は・・もしかして、本当に気が付かなかったの?」
「確かに、そう思うと合点がいく部分が・・あるな。なるほど、だから、あの時涼しい顔して攻撃してこれたのか・・」
メルウェル様が呆れている。
「良く生き残れましたね」
「生き残ったんですよね?死にかけて意識が遠のいて、気が付いたのが今なんですけど」
「大丈夫です。生きていますよ。かろうじて」
やけに含みを帯びた言い方だが、表情を見るとビビらせてやろう感がヒシヒシと伝わってくるので、冗談なのだろう。
冗談だよな?
「そういえば、エレメンタルストーンが俺の身体の中にあったのは何故なんですか?」
「うーん、、私でさえも把握してませんでしたので、正直驚いています。恐らくユウをこちらの世界に呼ぶ際に何らかの形で入ってしまったのでしょう。エレメンタルストーン第五の石、無の石。何千年も前に消息不明となっていた石です。今この時代に再び現れた所を見ると、因果を感じますね」
うんうんと頷いている。
「1人納得しないで下さい。俺には何の事なのかさっぱり何ですから」
「うふふ、ごめんなさい。では順を追って説明しますね」
エレメンタルストーンは、この世界に全部で5つ存在する。
この世界が生まれた時に一緒に生まれた別名、紀元の石とも言われている。
それぞれにも別名があり、その眩いばかりの輝きを放つ石を装飾品として、ブローチにしたり、王冠にしたりと、過去何度かその姿を変えているようだ。
ファイアストーン。別名:火の涙。プラーク王国の王宮の宝物庫の中にある。
ウォーターストーン。別名:ウォーターアミュレット。
水上都市アクアリウムが保管していた物を、亡国の騎士に奪われてしまった。
サンダーストーン。別名:雷神の矛。
ハイエルフの里にあった物が、同じく亡国の騎士に奪われてしまっている。
ウインドストーン。別名:風の王冠。
遥か東の島国の何処かにあるとされている。
ゼロストーン。別名:無の石。
その所在は約2000程前に忽然と姿を消した。
エレメンタルストーンには、言い伝えがある。
5つ全てを揃えると、とてつもない出来事が起こると。
「ちなみに迷信ではなく、本当に何かが起こります」
人差し指をピンっと突き立て、ドヤ顔で説明するメルウェル様。
伊達メガネを掛けているような錯覚がするのは、気のせいだろうか。
「何が起こるんですか?」
「分かりません」
「え、神様が分からない事があるんですか?」
「神だって、全能じゃないんですからね!ですが、ある程度は推察出来ます」
推察じゃ意味がないんだけどな・・。
「皆が心配していますので、そろそろ戻ります」
「あ、待って下さい。まだ肝心な事を言っていませんでした」
無理やり目を覚まそうとしている俺を慌てて引き止める神様。
「事態が進展します」
その一言から、俺は以前メルウェル様にこの世界に連れて来られた理由を思い出していた。
''この世界を救って欲しい''
''近いうちに、この世界に大きな災をもたらす存在が現れます。単独種族の力では歯が立たないでしょう。各種族が共に手を取り合い、その大いなる災を退けて下さい''
俺をこの世界に連れて来た理由として、以前メルウェル様は、その種族間の橋渡し役を頼みたいと言っていた。
正直、この世界に降り立った当初ならば「そんなの知るか!」と断固拒否していただろう。
だけど、この世界に降り立ち、幾分かの歳月が経過し、守りたい仲間も出来た。
知り合いもたくさん出来た。
そんな人達を放っぽり出して、自分1人元の世界に逃げ帰る事がどうして出来るだろう。
それに、メルウェル様は約束してくれた。
この事態が解決した暁には、元の世界に戻してくれると。
本当は、すぐにでも帰してくれると言っていたのだけど、その選択の自由を委ねられて、迷わず「やってやる!この世界に訪れる危機を救ってやる!」と答えてた。
心からの本心だった。
そんな事もあり、その時が迫っているのだと言う。
「ですが、時期はまだ不明です」
進展はしたが、不明なのか・・
「ですが、亡国の騎士を名乗る連中、いえ、海斗という人物には十分注意して下さい」
「あの仮面野郎は一体何者なのですか?俺と同じ異世界からの来訪者だと言ってましたけど」
「ええ、その通りです。ユウと同じ、異世界から召喚されたこの世界に変革をもたらす者です」
「じゃあ、仮面野郎もメルウェル様が?」
「私ではありません。ギリギリ言えるのはそこまでです」
他の神がらみだと、言えないみたいだな。
ちょっと確かめて見るか。
「そういえば、他の神様の事なんですが」
「いくらお喋りな私でも他の神の事に関しては一切喋れません」
やはり、そう言う決まりなのね。
興味本位で聞いただけだったので、別にいいんだけど。
「そういえば、何だか腕が痺れて来たような気が」
「おっと、そろそろ時間のようですね」
「時間?」
「はい。強制的にユウの意識の中に介入してしまったので、この辺りが限度でしょう。当たり前の事ですが、本来自我の中に意識は一つしか存在しません。今現在二つある状態ですので、このままだとユウが目覚める事はありません。仮に強引に目覚めようとすれば、何処かに悪影響を及ぼす恐れがあります。長時間意識が二つあるのも問題です。手足の痺れはその初期症状ですね」
「しれっと怖い事言ってますけど、最初暇潰しで来た!って言ってましたよね!俺ってひょっとして今危険な状態なんじゃないんですか!」
「大丈夫です。神に間違いはありませんから」
口に手を当てて可愛らしく「オホホ」と言っているが、何故だか目が泳いでいる。
「あ、お兄ちゃんが目を覚ました!!」
「ユウさーん。。心配しましたよおおお」
「マスター、ご無事ですか?」
3人に見降ろされる形で俺は目覚めた。
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