第163話:謎の一団との死闘

目の前で血飛沫が飛び散っている。


俺の血か・・・?


いや違うな・・何故なら痛みを感じないからだ。


くそ・・見えない・・視界がまだボヤけているのか・・

一気に視力が0.1になった気分だ。

しかし、意外と頭の中は冷静でいる気がする。


先程の喰らった状態異常は解除はしたが、その影響化でまだ意識が朦朧としていた。


「お兄ちゃ・・・」


目の前でドサリと倒れ込む人影。

視界は最悪だったが、吸い寄せられるように倒れ込む人物を受け止めていた。


ユイだった。


「あああああ!」


俺は自分の頭に掌底を当てて、強引に意識を回復させた。

多少クラクラするが、これで意識はハッキリした。


まず目に飛び込んで来たのは、この腕に抱えられた状態で血を流して倒れているユイ。

その前には、アリスが大鎌を構えて、女剣士と戦闘を繰り広げていた。

ルーは、背後で倒れていた。

恐らく、俺に向けられた状態異常攻撃の余波を喰らって眠っているのだろう。


くそ!俺が意識を失ってる間に一体何が起きたってんだよ!



「目からレーザーって、貴女、本当に生物なの?」

「答える必要ない」

「ふーん、でも当たらなければ、なんてことは無いわね」


アリスが、女剣士と対峙している。


すまないアリス。持ち堪えてくれ!


すぐにユイの状態を確認する。

背中をバッサリ斬られていたが、存外深くなはい。

だが、大量の血液を流している為、このまま放置しておくと、死んでしまうだろう。


ユイに治癒ヒールを施す。


「俺を庇ったんだな・・・絶対助けるからな。辛抱しろよ」


傷口は段々と閉じて行き、やがて綺麗さっぱりと塞がった。

やはり、血を流しすぎている為か意識は戻らない。

治癒ヒールだけでは、傷は治せても失われた血を戻す事は出来ない。

ある程度の時間が必要だった。

故にこの戦闘中にユイが意識を取り戻す事はないだろう。


今度は、すぐにルーに状態回復リフレッシュを使い叩き起こす。


「ふにゃ・・ぁ?あるぇ、朝ですか?」

「寝ぼけてる場合じゃない。ふざけてると、死ぬぞ!」

「は、はい!!」

「ユイを頼む。後、自分の身を守る為の精霊を召喚してくれ。俺はアリスの元に行く」


駆け出そうとした時だった。


「ユウさん!その子を連れてって下さい!ユウさんを守るように命令してます!私の一番の切り札です!」


シルフに似たような人型の精霊だった。


「助かるよ。なるべく、そっちには近付けさせないようにするから」

「分かりました!ユイさんは私が死守します!」

「お前が死ぬのも俺は許さないからな、全員無事な方法で頼むぞ」


自身にブーストをかける。

装備も魔術攻撃特化に換装する。


「反撃開始だ。よくもやってくれたな・・」


俺の動きに察知して、狼人族ルーヴのモンクが突進してくる。


「遅い」


重力グラビティを突進してきた相手の足元に展開する。


「最大レベル」


鈍い音を立て、狼人族ルーヴがただの肉塊と化したのに要した時間はわずか2秒程だった。


悪いが手加減はしない。先に仕掛けたお前らが悪い。


自分でも分かる。

いつになく怒ってるよな、俺。

だけど、理性を失くしているわけじゃない。

むしろいつも以上に冷静かもしれない。


俺の背後から、突然ナイフを手にしたエルフの男が現れた。

恐らく、こいつの職業はユイと同じ盗賊だろう。


目の前から消えたように錯覚させ、一瞬にして相手の

背後に回り込む技。


精霊が反応して、強靭な盾を背後に生成していた。

相手のレベルが分からない以上、迂闊に攻撃を喰らうのは危険な為、守ってくれた精霊に感謝しつつ、まさか防がれるとは思っていなかったのか、間抜け面をしていた盗賊に捕縛を使用する。

盗賊はナイフを掲げたまま、身動きが取れずにいた。


「な、身体が動か・・」


喋る間すら与えない。俺はすぐに持っていた剣で盗賊の首を切断した。


これで残る相手は3人だ。

アリスと対峙している女剣士と、恐らく結界を張っているであろう聖職者の女。そして、仮面野郎だ。


面倒だな、まとめて倒す。


「アリス、こっちへ来い!!」


俺の声に反応して、すぐにアリスが戻ってくる。

追撃しようと、女剣士が追従してくるが、少しでも距離があればそれで良かった。


杖を正面へと向ける。


「悪いけど容赦はしない。本気でやらせてもらう。全範囲雷撃ライトニングレイン!」


事前にありったけの魔力を溜めておいた為、速射された数多の雷が残った3人を襲う。


その光景はまさに地獄絵図だろう。

遥かな虚空からの雷撃ではなく、杖先から放たれた雷撃が3人を襲っていく。

恐らく常人ならば、掠っただけでも意識を失うだろう。

これは、命のやり取りだ。加減はしない。

ここで手を抜いて仲間の誰かがやられるなんて事になれば、俺は俺を一生許さないだろう。


レーダーから生存反応が消えるまで撃ち続けるつもりだった。

しかし、離れていた反応の一つが、一瞬にして俺の前に現れた。


仮面野郎だ。


ありえない・・あの雷撃の嵐をすり抜けて辿り着くなんて不可能だ。

ならば、転移系の魔術か何かだろうか?


仮面野郎は、黒い闇に覆われた自身の拳で殴りかかってきた。


悪いけど、転移が使えるのはお前だけじゃない。

すぐに仕込んでいた転移の指輪の能力を発動させて、仮面野郎の背後へと回り込み、捕縛を使用する。


!?


確かに捕縛は命中したはずだった。

だが、仮面野郎は平然と動き、今度は回し蹴りを繰り出した。

流石に捕縛が効かないとは予想出来なかった為、もろに蹴りを受けた俺は、後方へと飛ばされてしまった。


飛ばされたのを利用し、近くにいた聖職者の元へと妖精の羽フェアリーウィングを駆使しつつ近付く。


体制が悪く、魔術を使う事が出来なかった為、いつも袖に仕込んでいるナイフを取り出して、それを突き立てようとしたが、術者を守る結界らしきものに弾かれてしまった。

俺の不意打ち程度の物理力では、傷一つつかなかった。


このまま指を咥えて見ているつもりはないよ。悪いけど結界破壊なら得意なんでね。


そのまま、後ろへ飛び退いて杖を構えた。

相手もかなりの手練れなのだろう。

おれが後ろへ飛び退く一瞬の間にサッカーボール台の光の玉を飛ばしてきた。

避けなければ着弾してしまうのだが、そんなものは関係ない。

光の玉諸共結界をブチ破るだけだ。


「エレメンタルボム!」


最大レベルで放ったエレメンタルボムが光の玉を巻き込み、搔き消す。そしてそのまま結界へとブチ当たり、相殺してしまった。

俺の単発最高火力で相殺とは、中々高位な結界だったようだ。

結界の破壊された凄まじい衝撃波が俺たちを襲う。

聖職者は、後方に飛ばされつつも、何とか体制を取ろうと杖を地面に突き立て、飛ばされそうになった体の動きを止めた。


「遅い」


俺は素早くその聖職者の背後に回り込み、首元に手刀を一撃を喰らわせ、意識を奪う。


これで残りは2人・・いや、1人だった。

女剣士は、先程の全範囲雷撃ライトニングレインをもろに受けたのか、気を失って倒れていた。


すぐに起き上がってくる事はないだろう。


残るは仮面野郎1人だけとなった。


「ククク、こいつは、驚いたな」


気でも狂ったのだろうか?

圧倒的不利なこの状況で仮面野郎は笑っていた。


「まさか、熾天使たちがこうもアッサリとやられるとは思わなかったな。だが、おかげで目的は達成された」


なに・・?

確か、奴の目的は俺の命だったはず。


グッ・・。


突然腹部に生暖かさを感じた。


手を当ててみると、その手が真っ赤な鮮血に染まる。

気が付けば、足元にもおびただしい量の血溜まりが出来ていた。


「おいおい、これ俺の血かよ・・」


何をされたんだ・・だめだ、思考が働かない・・。

ヤバい・・意識が掠れる・・すぐに治癒ヒールしないと・・。


そのまま俺は、気を失う。

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