第165話: 修練の洞窟

仮面野郎の正体不明の攻撃を喰らい、意識を失ってしまった。

間一髪意識が途切れる前に治癒ヒールをしていたので、大事には至らなかったのだが、気を失っている最中に、この世界の神の一人であるメルウェル様が俺の意識の中に遊びに来た。

伝えておきたい事があったらしいのだが・・


それは、この世界全体を脅かすような危機がもうすぐ訪れようとしているって事。時期はまだ不明なんだけどね。

だから、今まで通り冒険を続けていればいいそうだ。


後、俺を気絶させた仮面野郎には気を付けろと忠告された。

あの仮面野郎は、何かと因縁のあった亡国の騎士のリーダーだったのだ。

今度見かけたら、絶対に仕返ししてやる・・。


意識が戻った俺は、それこそ皆を死ぬほど心配させてしまったようだ。

ルーは泣きわめくし、アリスは無言で何処と無く悲しそうな顔をしているし、それより一番意外だったのはユイだ。

ルー以上に泣きわめくのかと思っていたのに、一番冷静だったらしい。

「お兄ちゃんは寝てるだけ」とルーをあやしていた程に。

確かに目が覚めた時、心配そうな顔ではあったけど、すぐに笑顔になっていた。


大人になったなぁ、と少しだけ感慨深い気持ちになる。


目が覚めた時、そこに仮面野郎の姿はなかった。

勿論、仲間たちの姿もだ。

意識を失う直後、仮面野郎は仲間たちを連れて転移していったらしい。


次に会うときは何かしらの対策をしないと、魔術完全無効化なんてチートにも程がある。

ていうかどうやって闘えばいいんだ?

それに最後の攻撃に関しても全く見えなかったからな。奴だけのオリジナルスキルなのか?それとも俺が知らないスキルなのか・・

どちらにしても、色々と調べる必要がありそうだな。


自分の強さに慢心するなって事が今回の教訓だった。

決して慢心していたつもりはないんだけど、結局の所メルウェル様もそれが言いたかったんだと思う。



場所は変わって、俺たちはバーン帝国まで戻って来た。


当初は、吸血鬼兄妹を送り届けるだけの予定だったので3.4日程度で戻るはずだったのが、色々とあり結果1週間以上も費やしてしまった。

戻って来たのが夕方だった事もあるので、宿で食事だけ済まして、床に入る。


やっぱり、ふかふかベッドが一番だな・・。


次の日の朝は、各自自由行動とした。

俺は朝一からムー王女の元を訪れていた。


「遅くなって悪かったな」

「無事に妾の元に帰って来てくれただけでよい」


ん、妾の元?

訂正するのも面倒なので、スルーしておこう。


空飛ぶ絨毯をムー王女に返す。

非常に貴重な物らしいので、すぐに返したかった。


「そいつのおかげで大幅に時間短縮が出来たよ。ありがとう」

「今度は妾も乗してくれると嬉しいのじゃがな」

「え?ああ、それくらいならいつでもいいよ」


ムー王女は、フフと笑う。


「そうじゃ、ユウに見て欲しい物があったのじゃ」

「名前で呼ばれたのは初めてだな」

「フッ、ユウも名前で呼んでくれて良いのだぞ」

「それは、周りの目があるので頼まれても遠慮します。自分の為でもあるしね」


第三者がいるとこで、うっかりムー王女を呼び捨てにしようものなら、首が飛ぶらしいからね。

万が一にもそんな事は御免被りたい。

まだ死にたくない。


ムー王女は部屋の隅に置いてあった箱を此方へ持って来て、中から紙の束を取り出す。


「これは?」

「感謝状じゃ。それ以外にも近況報告や是非会ってお礼がしたいなど、様々じゃな」

「もしかして、奴隷たちからの?」

「ユウの考えた新しい奴隷制度は奴隷たちにとってはいい事づくしじゃからな」

「そうか、グワン氏が頑張ってくれたんだな」

「寝る間も惜しんでおったぞ。まぁ、生憎今は高熱を出して、寝ておるがな」

「それって大丈夫なのか・・」

「いつもの事じゃ。何かに没頭してしまうと、それが終わるまでは不眠不休をする輩じゃ。じゃから、それが終わると反動で倒れるんじゃ」


面と向かってお礼が言えないのが心苦しいが、心の中でグワン氏にお礼を述べておく。


「その中で一つ、気になる手紙を見つけてな」


そう言い、差し出された手紙の内容はこうだ。


''私は無の魔女。今回の奴隷制度改定について是非話したい事がある。修練の洞窟にて待つ''


「修練の洞窟って、ムー王女が行きたがっていた洞窟の事だよな?」

「ええ、驚くのはそこじゃないわ」


ムー王女は、指差す。


「無の魔女って言うのはじゃな、紀元の魔女の数ある呼び名の中の一つじゃ」

「本物なのか?」

「分からんな。じゃが、確かにこの手紙には魔女の魔力を感じる。紀元の魔女かは分からぬが、何処かの魔女であるのは確かなようじゃ。本人ならばいざ知らず、名を騙っているだけだとすれば、そんな不敬な輩は正統たる水の魔女である妾が粛清してくれようぞ」


今すぐにでも出発したいと言うので、今日はユイたちには自由行動と伝えていたし、約束でもあったので、それを了承する。


修練の洞窟は、ここバーン帝国から馬車で3日程の距離にあった。

往復で1週間とか話にならない。

ムー王女も乗りたいと言っていたので、早速空飛ぶ絨毯で向かう事になった。


「ほぉ、かなりのスピードをだしておるが、風の抵抗を感じないのは、結界か何かを発動させておるのか?」

「鋭いね。この絨毯の範囲に障壁を展開させてるよ。これがないと、最初に乗った時風圧で飛ばされかけたからな」


2人しか乗っていない為、絨毯はゆったり広々スペースだと言うのに何故だか、背中に密着してくるムー王女。


「近くないか?」

「気のせいじゃ」



そのまま、2時間程度で目的地である修練の洞窟へと辿り着いた。



「ここに来るのは久々じゃな」


目の前に見えるのは、何の変哲も無いただの洞窟だった。


「でもこれだと、誰でも入れるんじゃないか?」


魔女か魔女の弟子でないと入れないと言っていたからだ。


「目には見えない結界が張ってあるのじゃ。同時にそれは外から出てこないようにする為でもある」


ムー王女が、地面に落ちている小石を拾い上げると、徐にそれを洞窟の入口に向かって放り投げた。


小石は、見えない何かにぶつかり、「バチっ」と紫電が走ったように表面が黒く焦げて下へと落下した。


「心配せずともちゃんと結界は効いておる」

「・・・お、俺は入っても大丈夫なんだよな?」

「大丈夫じゃ。仮に弾かれてもたぶん死ぬ事はないから安心せえ」


今、たぶんって言ったよな!そんな不確定要素で命を失ってたまるかよ。


俺が不安がっているのが面白いのか、ムー王女がクスクスと笑っている。


先にムー王女が洞窟の中へと入る。


「うむ。入口には何もいないようじゃな」


俺が入るのを躊躇っていると、


「何をしておるのじゃ。案ずるな。仮に拒まれても骨くらいは拾ってやる」

「冗談に聞こえないからやめてくれ」


ムー王女は、ニヤニヤしている。

美女のニヤついた顔も悪くない。

いや、違うぞ騙されるな俺!


それにしても、こいつ絶対Sだな。いつか仕返ししてやる・・


はぁ・・とは言っても、このままでは本当の意味でも先に進めないので、覚悟を決めようか。


結界の前まで進み、右手の人差し指で触ってみる。


うん、分かってたよ。

だって、偉大なエスナ先生の弟子なんだから、入れるに決まってるじゃないか。

何の抵抗もなく、そのままするりと通り抜けた。


「いつまで笑ってるんだ?」


ムー王女は、クスクスと笑っている。


「いやな、意外と普通の人みたいな反応するんじゃなと思ってな」

「俺を化け物か何かと勘違いしてません?至って普通の人なんだけど」

「そういう事にしておくかの」

「そう言う事なんだよ!」


その後中へと進む。

次から次へと現れるモンスターをムー王女が、水の魔術でねじ伏せて行く。


「ユウは手を出すなよ。妾が一人でやるんじゃからな」

「危険だと判断したら手を出すからな」

「そんな局面があればな」


確かに言うだけある。

俺が持っていない水魔術を複数使っている。


そして観察するように見ていると魔術を覚えてしまった。


''アクアブリットを取得しました''


アクアブリットは、一度に複数の水玉を自身の周りに出現させる。

そして、超高速で発射された水玉は、触れたものに風穴を開けていく。

数量は、使い手の魔力と実力に依存するらしい。

ちなみにムー王女は、一度に12個までが限界らしい。


後で俺も試してみよう。

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