第162話: 因縁の相手

俺たちは、アリスの感じたモンスター大量発生の現場に急行していた。


「何か変だぞ」


全員が此方へ顔を向ける。

モンスターの反応がレーダーからどんどん減っていたのだ。


「どうしたの?」


意味深な顔をしている俺を心配そうに覗き込むユイ。


「どうやらモンスターを討伐している連中がいるみただ」


モンスター反応と一緒に複数の別の反応が見える。

ただの冒険者ならば、そこまで驚きはしないのだが、

何と言うか、殲滅速度が速すぎる。


当初モンスターの反応は軽く300を超えていた。

しかし、5分も経たない内に半分近くまで減っている。

討伐していると思われるのは、僅かに5つの反応だった。


時折、地響きと大魔術らしい炎の柱が見え隠れしていた。

恐らく、勇者クラスの御一行様かもしれない。


「どうやら俺たちの出番は必要ないみたいだな」


だと言うのに、ここで引き返せば良かったと、後に後悔する事になる。

まさか、あんな事になるとは、一体誰が想像出来ただろうか。


俺たちは、現場の上空まで到着した。


モンスターの大量の死体が眼下に広がっている。


所々クレーターのようになっている箇所があった。

丁度、モンスターのリーダーと思われる大型のオークを2人で囲んでいる所だった。

トドメを刺そうとしているようだ。


身の丈程の長剣を肩に担いで、ゆっくりとオークキングに近付いている。

その際、時折挑発めいた行動を取っているが、それ程に腕に自信があるのだろう。


モンスターの大群は、どうやら俺たちが戦ったオーク軍団と同じなような感じだった。数も同等だろう。

偶然かどうかは不明だが、似たような場所にオークキングが2体存在し、それぞれがオークを率いて集まっていたなんて事が、本当に偶然なのだろうか?


などと考えに耽っていると、長剣を携えた女剣士が、オークキングを一刀両断にしていた。


「あのオークキング、レベル63なんだけどな・・。それをいとも簡単に倒すなんてね」


動きからするに、ユイと同等程度だろうか。

ユイは、食い入るように真剣な眼差しで、その戦況を見つめていた。


''鑑定が阻害されました''


女剣士に鑑定アナライズを使用した時だった。


おいおい、また阻害かよ。

という事は、あっちも鑑定アナライズ持ちって事になる。

エスナ先生の話だと、鑑定アナライズ持ちは滅多に居ないって話しなんだけどな・・。


このまま過ぎ去っても良かったのだが、何故だか眼下にいる者たちの事が気になり、地上へと降りる事にした。


「あの女の人、強かったね」

「だな。その人だけじゃないと思うぞ。他の全員からも只ならない気配を感じるよ」


特にあの仮面野郎がね。


あの仮面野郎は、明らかに異質だった。

気のせいだろうか?仮面野郎の周りが黒いモヤモヤに囲まれている。


(気のせいじゃないです)

(セリアか)

(はい。あれは恐らく闇系統の魔術だと思います。確か効果は・・・)


セリアの会話の途中にいきなり、足元が光の絨毯に包まれたのだ。


油断していたと言えば油断していたのかもしれない。

しかし、避けようと思えば上空に退避する事も出来たのだが、それだと全員を抱えては無理だった事と、相手も光の絨毯の上にいた事から、攻撃系ではないと瞬時に判断し、その場に留まった。


足元に敷かれた光の絨毯は、広範囲に広がり、やがて上へと伸び、上空すらも覆っていた。


まさに光に包まれた部屋だった。

しかし、部屋と言うにはあまりにも大きい。

それに、光の壁に触れると、弾かれてしまった。

少しだけ手が痺れている。

まさか、結界か?


「全員、俺の背後に」


閉じ込めるとか、これは明らかな敵意だったからだ。


相手の数は5人。

対するこちらは4人。

相手は、人族が3人と、エルフぽいのが1人、狼人族ルーヴが1人。

こちらと同じ多種族構成か?


「勇者一行ですかね?」

「勇者にしては、禍々しい奴が1人いるけどな」


女剣士が真っ直ぐこちらに走ってくる。

やはり、一戦交える気のようだ。


ユイが武器を構えて俺の前へと出る。


「やめろフィー」



若い青年の声だった。

距離は離れているというのに、透き通っていて良く届く。

恐らく拡声スキルか何かだろう。

声の主は、あの仮面野郎だった。

やはり、あいつがリーダーか。


その声に反応して、女剣士の動きが止まる。


ユイとの距離は20m位だろうか?

両短剣をチラつかせて威嚇していた。

この2人ならこの程度の距離は一瞬で移動するだろう。


「ユイも剣を降ろしてくれ」

「で、でも・・」

「頼む」

「う、うん、分かった」


女剣士の元に仮面野郎が歩み寄ってきた。


「お前も剣を降ろせ」

「はーい」


仮面野郎は、女剣士の頭を撫でると、こちらへ視線をくべる。


「すまないね。別に争うつもりはないのだよ」


どうだかな。

あんたが一番異質なオーラを放ってるんだよね。


「俺たちは、ただの冒険者一行だ。たまたま通りかかっただけで、敵意も邪魔するつもりも勿論争うつもりもない。だから、この結界じみたものを解いてくれないか?」


さて、相手はどう出る。


「私は、ずっと会いたかったんだよキミに」


いやいや、流石にこの返しは想像していなかった。

背後に冷たいものが走る。勿論攻撃の類ではない。

悪いけど俺は男に興味はない。

仮面を被っているから顔は分からないけど、声色は明らかに男のものだった。


「初対面のはずだけど?」

「直接会うのはね」


きっと仮面の下では嘲笑っているのだろう。

「ふふふ」と言う声が聞こえてきそうだ。

何とも気味が悪い。

結界を強引にでも突破してみるか?


「冗談に付き合ってる暇はない」

「ならば、これを聞いたら少しは興味を持ってくれるだろうか?」


仮面野郎は、一方前に出る。


「私の名は海斗。そう、キミと同じ異世界からの来訪者さ」


な、なに・・?


異世界からの来訪者という事実にも確かに驚いたが、ルーのケースだってある。

しかし、この際それは関係ない。


問題は、なぜ奴は俺と同じだと述べたのか。

確かに俺は異世界から来たが、その事実を知っているのは、エスナ先生、エレナ、ルーの3人だけのはずだ。

しかも、転生者ではなく、来訪者と言うことは、本当に俺と同じように生きたまま、こっちの世界に連れて来られたとでも言うのか?

なぜ奴はそれを知っている?


考えたって答えは出ない。

どちらにしても油断ならない相手だという事だ。

俺のようにチート能力全開だった場合、正直勝てる気はしない。


「悪いが、何の事だか分からないな」


正直に答える通りはない。


「まあ、いいさ。単刀直入に言うよ。私がキミに会いたかったのはね、キミの何にある第五の石が欲しいんだ」


第五の石だって?

全くもって身に覚えがないな。


(ユウさん、恐らくエレメンタルストーンの事だと思います。一般的にはアクア、ファイア、ウインド、サンダーストーンの4つしか存在しないと言われていますが、5つ目の石が存在すると聞いた事があります)

(俺が持ってるらしいんだけど、そうなのか?)

(分かりません)


だよね。


「悪いけどそんな石は、持っていない。それより早く解放してくれないかな」

「そりゃ自覚はないだろうね。だって、それはキミの命そのものなのだから・・」


海斗は坦々と喋り出す。


「この世界は、今危機に直面しているのだよ。私は、その危機を回避するためにこの世界の神によって遣わされた神の御使なのだ。まもなく、この世界に恐るべき力を持った存在が誕生する。そう、キミの知り合いの魔王を遥かに凌駕する程にね。このままでは、私たちは圧倒的強者の前に一方的に搾取されるのを指を咥えて待っているだけしか出来ないんだよ。だから、その力に抗う術が必要なのさ」


言っている意味が分からない。魔王を遥かに凌駕だって?

仮にそれが本当ならば、この世界には誰も叶う奴などいないだろう。

この仮面野郎も俺と同じように神によって理不尽に連れて来られた存在で、ある使命を与えられているのだろうか。

メルウェル様は確かに言っていた。


''悪しき者からこの世界を救って欲しい''


お前も俺と同じなのか?


「仮にその話が本当だとして、お前の敵は俺たちではないだろう」

「さっきも言ったけど、この危機を脱する為には、五つの石が必要なのだよ。その最後の石が先日やっと見つかってね・・」


な、、、なんだ・・・視界が歪む・・

突然、凄まじい吐き気が俺を襲う・・

立っていられず、その場に膝をつく。


疲れているのだろうか?

いや、違う・・

攻撃を受けたのか・・?


目の前にメッセージが浮かび上がる。


''呪いを受けました''

''催眠を受けました''

''暗黒を受けました''

''混乱を受けました''

''猛毒を受けました''

''石化を受けました''

''

おいおい、なんだこのバッドステータスの嵐は・・


すぐに状態回復リフレッシュを使用する。


そして、視界が若干戻った次の瞬間だった。

20m程離れていた女剣士が一瞬にして間合いを詰め、俺の眼前でその大剣を振り下ろした。

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