第161話: オークの襲撃【後編】

俺とルーとで、1時間ほど費やし集落内のオークを殲滅する事に成功した。


「すぐに手当てをするから、怪我人をこっちに運んでくれ!」


戦闘中に兎人族ラビには、俺たちが仲間である旨は伝えていた。


俺には試してみたい魔術がある。

攻撃魔術で全範囲が出来るなら・・きっと出来るはずだ。

魔力を貯め、魔術をイメージし、行使する。


全範囲治癒エリアヒール


運ばれた怪我人約40人が、一瞬で治癒されていく。

うっかり治癒ヒールLv5だった為、部位欠損も綺麗さっぱり完治していた。


またしても、俺を酷い脱力感と倦怠感が襲う。

堪えきれずに膝をつく。

流石にこの数の人数に治癒ヒールLv5は、ヤバすぎた・・。


すぐにMP回復ポーションを1本飲み干した。


「相変わらず、凄まじい不味さだ・・。いや、今のは流石にヤバかった。危うくMPが底をつき掛けたぞ」


確か、MPが空になると意識を失うんだったな。気を付けないと。


「一体何が起きたんだ・・」

「あれ、私確か右足が切断されていたはずなのに」


兎人族ラビたちが、自らの怪我やキズ治った事で、驚きと歓喜に沸いている。


「ルーも休憩してていいぞ。俺はユイたちのフォローに行ってくる」

「ごめーん、お願いね」


精霊術師は、一定数の精霊を召喚し、行使した後は、極度の疲労で動けなくなってしまう。


ルーは強かった。

正直、俺が思っていた以上の強さだった。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


一方その頃ユイたちは、オークキングを守るオークたちに行く手を阻まれ、中々前に進めずにいた。

やっとの事で、ターゲットを視認できる距離まで来ていた。


「周りのオークは私が排除します。ユイはボスをお願いします」

「さっすがぁー!アリスちゃん分かってる〜!うん、任せて!」


ユイが挑発する。


「やーい親玉さん!私が相手だよー!」


そのまま、ユイが目にも止まらぬスピードで一瞬でオークキングとの間を詰めた。


オークキングは、その巨体を思わせない素早い動きをみせ、ユイの動きに反応し、その手の大斧をユイ目掛けて振り下ろす。


「グアァァァ!!」


しかし、ユイはその一振りが振り払われる前に攻撃を繰り出していた。


「遅いよ!そして、これが私の新しいスキルだよ!!」


最大で20mの飛距離を一瞬で移動し、強烈な十字切りを放つ。

高速移動と言うには生ぬるいだろう。

もはや、瞬間移動と言うのが正しいかもしれない。


''瞬十撃ソニッククロス''


その上、威力も現在ユイが取得している中では、最も強い部類だ。

別れ際にブーストを施してもらっていたのも相乗となり、結果として一撃でオークキングを絶命させる事に成功していた。


一番ビックリしていたのは、恐らく本人だろう。

まさか一撃で終わるとは思ってなかったのか、驚きと同時に「え、これで終わり?」と、物足りなさを沸々と発していた。


それまでは、統率された動きを見せていたオーク供だったが、指揮命令系統でもあったオークキングが倒された事により、統率性を失い、右往左往するだけの烏合の衆と成り果てていた。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「助太刀に来たぞ!」


烏合の衆と成り果てていた相手を倒すのは、至極簡単だった。

俺は全範囲火撃インフェルノレインで、次々と沈めて行く。


はたから見れば、恐るべき光景だろう。

俺の高速で飛び回る無数の巨大火の玉に、天から降り注がれるアリスのレーザー光線に、まさに光のような速さで斬跡だけを残して移動するユイ。


というか、ユイまた速くなったよな・・。

俺でさえ目で追うのがやっとなんだけど…。


「終わりだな」


レーダー反応で全て倒した事を確認した俺はユイたちと合流した。


「お疲れ。怪我とかは無かったか?」


2人とハイタッチする。


「擦り傷一つないよ〜」

「流石だな。アリスは、大丈夫か?」

「はい。問題ありません。少々魔力を消費してしまいましたので、後で魔力回復を要求します」

「分かった。取り敢えず兎人族ラビの集落に移動しようか」


一応、オークキングをストレージに回収しておく。


既に集落にいるルーと合流する。


「何故あいつは囲まれてるんだ?」


何故だか、ルーが兎人族ラビに囲まれていた。

険悪なムードという訳ではないので、放置しておいても大丈夫だろうけど、一応気になるので確認する。


「何があったんだ?」


30人程の兎人族ラビに囲まれている。


「お嬢さんは僕の命の恩人です!僕と結婚して下さい!」

「何言ってるの!お姉様は私だけのものよ!」

「俺は一目惚れしたんだ!他の誰にも渡さねえ!」


おいおい、一体何がどうなってるんだ・・。


「うわーん。。ユウさん、助けて下さーい」

「何で求婚されてるんだよ・・」

「知らないですよ!私はただ座って休憩していただけです!」


鑑定アナライズで確認すると、兎人族ラビたちに魅了の文字が見える。


「ルー、魅惑を使っただろ」

「ふぇぇ!」


ルーは「使ってないです!」とシラを切る。


それが本当だとすれば、無意識のうちに使用したのか。

「保護者として、謝るよ。ルーは、疲れると無意識の内に魅惑を使っちゃう癖があるんだよ」


ルーの親代わりでもある精霊クロウが、現れて謝罪している。

恐らく保護者としての責務なのだろう。


「無意識って、危険だよな・・」

「うむ。以前、四方八方手を尽くして治せないか試みた事があったんだが、無理だった。でも一番困ったのは、ルー自身に自覚がないって事だね」

「無意識無自覚で、魅惑はちょっと、ルー自身に対しても危険だよな・・」


クロウと一緒に腕を組み、何か良い解決方法がないか悩む。


「えへへ、無自覚で魔術が発動しちゃうって、やっぱし私って凄いのかな?」


「「凄くない!!」」


取り敢えず、状態が魅了となっている兎人族ラビは解除しておく。


しかし、場合によってはかなり危険な為、今後何かしらの対応策を考えておく必要があるな。


生存確認の為、兎人族ラビが一箇所に集まっていた。


「今回私たちが助かったのは、こちらにおられる窮地を救って頂いた4人の方々です」


この兎人族ラビの集落の長であるヒルュミュウさんが、俺たちを紹介をしてくれた。

彼等は兎人族ラビでも獣人族よりの容姿をしている為、まんま姿は兎なのだ。


獣人族は、同種族でも2種類存在し、人族よりの獣人族は、耳や尻尾だけがその種族の特徴を残している。


対する獣人族よりの獣人族は、全身がその種族固有の姿をしている。兎人族ラビなら兎の姿といった感じに。

狼人族ルーヴならば、狼の姿だ。


この兎人族ラビたちは後者で、まんま兎の姿をしていた。

特徴である背丈の半分ほどはある長い耳が何とも可愛らしい。

兎が喋っているという光景は何とも滑稽だが、ここではそれが普通なのだ。


是非お礼がしたいという事だったが、やるべき事があった為、丁重にお断りした。


というのも、アリスがここから少し離れた場所で多数のモンスターの反応を察知していたからだ。

幸いにもこちらとは別の方向に向かっているようだが、気になるので一応確認しておく。

この集落のように犠牲は出したくないしね。


以前にもあったが、本来モンスターが徒党を組み集落を襲うのは珍しい。

そういう場合は、指揮する者、リーダー的立場の者が必ず存在する。

今回の場合は、ユニーク個体であるオークキングだ。

オークキングが、オークの王でもあり、同種のオークを率いて、兎人族ラビの集落を襲った。


今回は運良く俺たちが駆けつける事が出来たが、こいつらオーク共に犠牲になった場所があるかもしれない。

ヒルュミュウさんの話しでは、未だかつてオークに襲撃されるなんて事はなかったそうだ。

当然警戒もしていないし、対策もしていない。

仮に何か対策をしていたとしても、相手の人数が20倍近く上の相手に出来る事は少ない。

戦術云々があったとしても、最後にモノを言うのはやはり数なのだ。


一騎当千のチート野郎は別だけどね。


と言うわけで、兎人族ラビの集落を離れて、アリスの見つけた反応へと急ぎ向かう。


「お兄ちゃん、またオークなの?」

「分からない。だけど、次も数は多いぞ」

「まぁ、同じ相手だったら問題ないけどね」

「まだ戦うと決まったわけじゃないけど、油断はするなよ。そういえば、ルーは回復したのか?」

「まだだめみたい〜」


そう言い、絨毯の上で仰向けで寛いでいる。


俺は絨毯を操りながら、アリスに魔力補給をしておく。


流石に連戦はキツイよな。

へっちゃらそうにしてるのは、ユイくらいか。


「あの山を越えた先に反応があります」


一体今度はどんな奴らなんだろうか。


しかし、山の向こう側には俺が想像もしていない光景が広がっていた。

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