第156話: ルーの陰謀
「あるぇ?こーんな所に居たんですか〜ユウさん探しましたよぉ〜」
謎の巨大生物クラーケンの討伐を祝い、吸血鬼族の晩餐会に招待されていた。
あまり、こういう席が苦手な俺は、頃合いを見計らって、貴賓席から離脱していた。
夜風に当たりながら、岬の端で1人涼んでいた。
酒は飲まずとも、あの場の雰囲気に少しだけ酔ってしまったようだ。
そしてそこに現れたのは、ルーだった。
「ぜひ酒を飲み交わしたい」とせがまれた俺は、俺が飲めない代わりにルーを生贄にしたのだ。
「私が飲みますよぉ!」と言っていた事もあったのだが、どうやら失敗だったようだ。
「もぉ、ユウさんったら〜。そんなに私と2人っきりになりたかったの〜」
どうやら、ルーは酔うと絡んでくるようだ。
しかし、体をベタベタと触ったり引っ付けてくるのはやめろ・・。
離しても離しても寄ってくるので、脳天にチョップを叩き込んだ。
「プギャあ」という奇声をあげて、頭を抑えて転げ回っている。
なので、それでも良かったんだけど、痛みを伴ったお仕置きじゃないとね。
「ひどいですぅ〜」
「自業自得だ。それにだ、最近何かおバカキャラ枠に入っていないか?」
「あ、えへ。バレましたぁ?」
「まさか、酔ってるのも偽装か・・」
「私、前世からお酒には強いんですよぉ〜。そ・れ・に!何かでキャラ固定してないと、存在感無さそうだしぃ、元々おバカだしぃ、この際おバカ路線でいいかなぁなんて!てへ」
「ふぎゃぁ」
再び、脳天にチョップを叩き込んだ。
「むぅー痛ったいですぅ、なんで叩くんですかぁ!あれですか、もしかして、Mに目覚めるのを期待してるとかじゃ、、プギャぁ」
3度目のチョップをお見舞いすると、喋る余裕がなくなったのか、頭を抑えて縦横無尽に転げ回っている。
涙目になっている。少しやりすぎたかもしれない。
「あーすまん、少しやり過ぎたな」
「私、Mに目覚めました・・・」
この後、俺の4度目のチョップが炸裂したのは、言うまでもない。
蹲っているルーを肩に担いで、皆の所へと戻った俺は、ユイたちのいる方をチラッと覗くと、話しかけたそうにしている周りの連中の事など無視をして、食べる事に専念していた。
既に晩餐会が始まってから3時間近くが経過しているにも関わらず、相変わらず底なしの胃袋をお持ちのようだ。
シュリは、当初お酒は飲まないと言っていたが、今では若い男連中に囲まれて、乾杯の輪に入っている。
少し目を離すとこれだ。
シュリがお持ち帰りされないように目を光らせておかないとな。
アリスは、元々食事は必要ないと言っていたので、完全に待機モードに入っている。
誰が話し掛けても反応すらしていない。
そんな傍観している俺の元へ、デレシーナさんがやってくる。
「楽しんでるかい、若者よ」
「ええ、それなりには」
「アンタらなら信用に足る連中だと思っているので、心配しておらんのだが・・」
「この場所の事は、誰にも言いませんよ」
「そうか、なら安心だな」
折角なので、疑問に思っていた事を尋ねてみる」
「吸血鬼族は、このままどの種族とも関わりを持たずに生活して行くんですか?」
「鋭い質問だな。そうだな、関わった挙句、先先代が独立宣言して、出来たのがこの吸血島なのだ。人族に見つかれば奴隷にされ、他種族に見つかれば、狩られるだろう」
「でもそれは、見境なしに血を吸っていたのが原因だとか」
「確かにな。だが、我らとて最低限のルールを守ってやってきたのだ。血を吸うのだって、1人の者からは少量・・・いや、今する話ではなかったな・・」
そう呟くと明後日の方向を見て、黙ってしまった。
吸血鬼族か・・。
何とか、居場所を作ってやれないものだろうか。
このままどの種族とも交流を持たずに暮らし続けるのは非常にもったい無いと思うんだよね。
しかし、彼等自体が「この島を出たい」と思わない限り俺は何もしてやる事は出来ない。
少なくとも、今はまだその時ではないようだ。
一応、この場所はポータルでメモっておいたのでいつでもくる事は出来る。
程なくして、ユイとアリス、酔っているシュリを回収して、用意してもらった建屋へと向かう。
何も無い、ただ寝るだけの夜風が凌げるだけの簡素な造りだったけど、用意してくれた事に感謝しないとね。
そのまま、朝を迎えた。
外へ出ると、妙なくらい静かだった。
早朝と言うほどでもない。
しかし、人っ子一人見当たらない。
家の中にレーダーで反応があるので、みんなまだ寝ているのだろうか。
全員ではないにしろ、結構な人数が昨日の晩餐会に参加していた。
一体何時まで騒いでいたのか。
「兄ちゃん、おはよう。早起きだね」
吸血鬼兄妹の1人サテラだった。
「え?もう陽が出て結構経ってると思うけど」
「僕たち吸血鬼族は朝が弱いんだよ。ましてや、大人たちは夜遅くまで騒いでたんだろ?なら昼過ぎても起きてこないかもね」
どうやら吸血鬼族は朝が弱いようだ。
「本当にありがとな兄ちゃん。兄ちゃんに会わなければ、きっと僕も捕まって奴隷にされてたと思うんだ」
「偶然と言えば偶然かもだけど、もしかしたら遥かな天から見降ろしている誰かによる必然なのかもね」
サテラは、首をコテンと傾け、「どう言う意味?」という表情をしていた。
「いえ、私は何もコントロールしてないですからね!」と空耳が聞こえて来た気がしたが、ただの耳鳴りの間違いだろう。
さて、この吸血島での役割も終わったので、俺たちはそろそろ引き上げるかな。
「サテラ、リュイをちゃんと守ってあげるんだぞ?」
「なんだよイキナリ。そんなの言われなくたって当たり前だよ」
「ならいいよ。それとワガママ言って兄貴に迷惑掛けるなよ」
そう言って、クシャクシャとサテラの頭を撫でる。
「僕はもうそんなに子供じゃないやい!」
手を振り解こうとするサテラ。
「じゃ、俺たちは帰るからな」
背後から近づいて来る反応が一つ。
「また会える?」
リュイの声だった。
「おはようリュイ。そうだな。呼んでくれたら、また会えるかもな」
「うん!」
(またそうやって女の子を泣かすんですね)
(セリア、それはどう言う・・・)
(自覚がない子は、知りません!)
いや、でも、リュイはまだ8歳の子供だぞ・・
セリアが返事をしなくなったので、取り敢えず放置する。
その後、皆の元に戻った俺は、全員を起こした。
「もう帰るの?」
「ここでやる事ももうないしね」
「そだね、そろそろふかふかのベッドが恋しいねぇ」
「昨日、ボロ屋が懐かしいって言ってなかったか?」「あれはあれ、これはこれだよぉ」
「ユウ。バーン帝国に帰るの?」
「ああ、そのつもりだけど?」
「道中、寄り道したい」
「珍しいな、シュリ。来る時何かあったのか?」
「あった。上空からだったから判別難しかったけど、同族の気配感じた」
「分かった。本当はポータルで一瞬で帰るつもりだったけど、そういう事なら、また絨毯で移動しようか」
「ありがと」
「お兄ちゃん!ゆっくりだよ!ユイ、酔いたくないから!」
「ユイ、これも修行の一環だぞ」
ユイは、頭をフリフリしている。
「無理無理!酔うのは無理だよ!克服出来ないよ」
「まぁ、こればっかりは、慣れろとしか言いようがないな」
空飛ぶ絨毯に乗り、颯爽と飛び立つ。
来た時と同じ空路でバーン帝国へと戻る。
そして3時間程が経過した時、
「あの辺り」
シュリが前方斜め右辺りを指差している。
そちらへ視線をくべると、森が生い茂っている中に、意図的に切り開かれたと思われる中に簡素な集落を発見した。
「よし、降りるぞ」
集落の目の前で降り立ち、驚かしても良くないので、少し離れた場所へと降りる。
シュリは基本的には、普段から無口だった。
それは、俺たちに出会ってからも変わらない。
自分自身の事を話す事はない。
こちらから聞いてもはぐらかされるばかりなので、それを敢えて聞くような無粋な真似はしなかった。
しかし、吸血島を出発してから、自分の生い立ちめいた事をシュリ自身から話し出した。
何か心境の変化でも起きたのだろうか?
シュリは、竜人族だ。
本来、竜人族は人語は喋れない。
見た目も竜人の姿をしている。
しかし、シュリは特別だった。
当初は、突然変異だと聞かされていた。
しかし、本当のところは、母親が人族だったのだ。
竜人族と人族のハーフ。それが、シュリだった。
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