第155話: 謎の巨大生物討伐【後編】

アリスと共に空飛ぶ絨毯に乗っている。


ユイ、シュリ、ルーは吸血島でお留守番してもらっている。


吸血鬼族のリーダーであるデレシーナさんの依頼で、ここ吸血島近海に現れた謎の巨大生物の討伐任務を遂行中だった。


今回は、海上での戦闘がメインで、足場に使える船もない事から、自力で空を飛ぶ術を持たないメンバーは、留守番という事になった。

ユイは物凄くゴネていたが、お土産と必殺のムギュッから始まる頭撫ででイチコロだった。


とは言っても、俺も絨毯を制御しつつ、戦闘を行えるのかは聊か不安があった。


この空飛ぶ絨毯は、実は制御がかなり難しい。

微弱ながら、常に一定の量の魔力を供給し続けなければ上に、右へ曲がるときは、右側の魔力供給部の方へ込める魔力を左側よりも若干多めに。逆に左に曲がりたい場合は、右よりも若干多めに左側の魔力供給部に魔力を注がなければならない。

つまり、常に左右にある魔力供給部に触れておく必要があるのだ。

前進の場合は不要なんだけど、後進の場合もどちらかに反転する必要がある為、中々に忙しい。

しかし、飛ぶに連れて段々と慣れてきて、今では手で触れていなくてもある程度の操作が可能になっていた。


そう、足を使うのだ。

魔術師たる者、足からでも魔力を発せられて当然!

故に足で操作が出来ないかと思いチャレンジしてみると、案外簡単に成功した。

これで戦闘中に動きながら魔術を行使する事が出来る。

流石に、足から魔術を使ったんじゃ、何とも締まらないしね。

ていうか、カッコ悪い。



例の謎の巨大生物が目撃された場所に到着して、周りををウロウロと探してみるが、レーダーに反応はない。


「流石にそう簡単には会えないか・・」


諦めて引き返そうかと思った瞬間だった。


「マスター!下から高速で近付く反応!」

「え?」


変だな。こっちのレーダーには何の反応もない。しかし、アリスの言う通りに上空へと退避した。


その瞬間、真下の海面から何かが飛び出してきた。

一つではなく、無数の細長いものが、俺たち目掛けて真っ直ぐと伸びてくる。


「嘘だろ・・海面から軽く100mは離れてるってのに、あの触手が届きそうだったぞ・・」


危険を感じ更に高度を倍に上げていなければ、迫り来る触手を回避する事が出来なかっただろう。


流石に届かないと思ったのか、追撃を諦めて、触手が海の中へと戻っていく。


「逃すかっ!アリス!あの謎生物を倒すぞ」

「了解マスター」


まだ触手しか見えていない為、鑑定アナライズが使用出来ない。

しかし、むざむざ逃すつもりはない。


アリスが颯爽と絨毯から飛び出し、人差し指から放たれるレーザービームを触手目掛けてお見舞いした。

焼き切られるかの如く、太さ5mはありそうな触手の1本をスパンと断ち切る。


ちぎれた触手が海面に激突し、豪快な波飛沫を上げていた。


出やがった・・


触手を切られて頭にでもきたのか、謎の生物の巨大な頭が海面に現れた。


それは、予想通りのフォルムだった。


俺たちよりも大きな漆黒の瞳でこちらを睨みつけている。


名前「クラーケン」

レベル82

種族:烏賊

弱点属性:雷

スキル:怪音波Lv4、電撃Lv5、麻痺Lv4、自己再生Lv3、黒炎弾Lv4、金剛Lv4、渦潮Lv4



予想以上だったのは、相手のレベルだ。

80越えなんて、早々出会えるレベルじゃない。

国の危険指定種で最高レベルに値する強さだ。

人族最強の猛者たちを集めて討伐するようなモンスターだった。


果たして、俺たち2人で勝てるのだろうか。


アリスは、先程から容赦なしにクラーケンにレーザービームをお見舞いしている。

本体を狙っているが、それを無数の触手が阻んでいる。

相手の攻撃が届かないのならこのままアリスだけで押し切れるかもしれない。

それにしても、開戦当初こそはなす術なくアリスによって切り落とされていた触手だったが、急にその硬度を増したのか、一撃で焼き切れなくなっていた。

それどころか、切り落としたはずの触手が再生している。


当初10本あった触手が6本まで減っていたのだが、今では8本まで再生していた。


これでは、押し切るどころか、こちら側が無駄な体力を浪費するだけだった。


「アリス、少し下がってくれ」

ここからだと距離があるが、最大Lvで撃てば少しは効くだろう。


「ライトニングレイン!」


凄まじい雷鳴が辺りに轟く。

幾多もの雷撃がクラーケンに吸い寄せられるように撃ち放たれていく。

悪いけど、1本足りとも無駄撃ちはしないよ。

特訓により、雷撃の落ちる場所を正確にコントロール出来るようになった俺は、相手が人並サイズならば難しいが、クラーケンのような巨大生物ならば全雷当てることは容易だった。


弱点属性だけあり、かなり効果抜群なようだ。

アリスもレーザービームで追撃していた。


見る見るうちにクラーケンのHPが削り取られていく。


このまま終わりを迎えると思った矢先だった。

クラーケンは、その巨大な口を開くと、真っ黒な弾を俺たち目掛けて放つ。

サイズは、俺の背丈の倍以上。しかも、かなりの速度で迫ってくる。これだけ離れているにも関わらず、ギリギリで避けるのがやっとだった。


アリスにも放たれていたが、それをやすやすと交わし、レーザービームをお見舞いする。


少し冷やっとしたが、クラーケンの抵抗もここまでだった。

HPゲージが0になると、力なく海面へその巨体をダランと晒していた。


本当に倒した事を何度か確認し、アリスを回収してから海面へと向かう。


「こ、これは相当デカイな・・」


触手を伸ばしたら、100m以上あるんじゃないのか?


アリスが後ろでグッタリとしていた。

恐らくストックしているMPを殆ど使い切ったのだろう。


「マスター、補給の許可を下さい」

「おう」


アリスの首筋にある魔導回路に俺の魔力を注ぎ込む。


さて、クラーケンは回収しておこう。

こんな巨大生物、ストレージに入るのか心配だったけど、問題なしで吸い込まれていった。



吸血島に戻った俺とアリスは、大勢の吸血鬼族に出迎えられていた。

事前にユイに、討伐が終わったから戻るという連絡を入れていたからでもある。


「お兄ちゃん!お帰りなさい!」


ユイが飛び付いてくる。


口には出していないが、表情と雰囲気から察するに、俺たちの事を心配していたのだろう。

優しく、ユイの頭を撫でる。


「ユイ、お土産だぞ」


俺は、ストレージから先程討伐したクラーケンを海岸の波打ち際に取り出した。


これに驚いたのは、身内以外。

吸血鬼族は総出で、ギャグアニメのように口をあんぐり開けて、目が飛び出そうな程見開いていた。


「うわー!!美味しそう!!これ焼いたら食べれるよね!」


これを見ても驚かないのは、異世界広しといえど、ユイくらいのものだろう。


シュリは無表情だったが、ルーもユイ同様に「イカ焼き、イカ刺、スルメに・・」などと怪しい言動を喋っていた。


お前もか・・。


「こ、これが近海の主なの・・」

「何だよあの化け物は・・あいつが倒したのか?」

「ていうか、あんなデカイのどこから出したんだよ」


群集の間から、デレシーナさんがやってくる。


「まさか、本当に仕留めてしまうとはな・・流石に驚いたぞ」

「強敵でしたよ。地の利がなければ、逆にやられていたのはこっちでした」

「強敵で済んでいるのだから、お主たちがいかに規格外だという事がよく分かった」

「褒め言葉として受け取っておきますね」



「何はともあれ、吸血鬼族を代表して礼を言うぞ。これで、商船を運航する事ができるだろう。まずは、破損個所の修理からだがな」


クラーケンの太い足にかじりついているユイの姿が視界の端に見えた気がするが、きっと疲れて幻覚でも見たのだろう。



その後、吸血鬼族主催の晩餐会に招待された。

例外を除いては、同族以外との交流がないと聞いていたので、少し心配だったのだけど、以外と皆がフレンドリーだった事が嬉しかった。


ルーは、こっちの世界では成人に達しているそうなので、ルーだけ酒の席に連れて行かれた。正確には拒んだ俺の代役で連れて行かれたのだが、ルー。君の犠牲は無駄にはしないよ。

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