第153話: 吸血島
早速、ルー王女によって父であるこの国の王へ2人で勝手に決めた奴隷に対しての決め事を説明してもらった。
「と言うわけじゃ、父様。早速国民に対して御触れを出して明日からでも新しいルールで運用してもらうのじゃ」
「幾ら何でも急だな・・・それに奴隷になどに興味があったのか?」
「うむ。前々から虐げられていた奴隷たちを不憫に思っておったのじゃ」
「そういえば、昔からお前は奴隷に対しても、分け隔てなく接しておったからなぁ」
2人以外に、この場には、この国の政治に関しての一切を任されているグワン氏がいる。
「姫様。奴隷に対しての制定など不要に思います。彼奴らは、自ら進んで奴隷落ちした者が大半。奴隷に対して有利な制定など、国民が黙っていないでしょう」
「じゃから、其方を呼んだんじゃよ」
その言葉に、グワン氏は全てを察したように、大きな溜息を吐く。
グワン氏は優秀なのだ。
「無理難題の方が燃えるじゃろ?」
ムー王女は妖艶な笑みをグワン氏に向ける。
「姫様には勝てませんよ。分かりました。騒ぎが起こらないように配慮します」
「うむ。頼りにしておるぞ」
グワン氏は、ニヤニヤしながら「あー忙しくなる」と独り言をブツブツと言いながら、広間を後にする。
その表情と言動が一致していなかったのは実に奇妙な光景だ。
「それにしても、いつになく機嫌がいいのぉ。ないとは思うが、男が出来たのではないか?」
「妾に男?ある訳ないじゃろ」
「ならば良いが・・」
その後、ムー王女は寝室へと戻ってきた。
「さて、其方の望みは叶えたぞ」
「助かったよ」
「それとな、一戦交えたというグラナダ奴隷商会じゃが国の方から圧力をかけておく様に言っておいた。報復される事はなかろうて」
「それは助かるよ。居辛くなったら面倒だったんだ」
「そうじゃそうじゃ、もっと妾に感謝するが良いぞ」
「うん、感謝してるよ」
「そう、素直に言われると少し照れるな。まぁ、良い。今度は妾の願いを聞いてもらうぞ」
「ムー王女の物にはならないからな」
「あはははっ、あれは半分冗談じゃ」
「半分は本当なのかよ・・」
何となく、今までと空気が変わった。
「さて、ここからは冗談なしじゃ」
そして一呼吸を置く。
俺は、生唾をゴクリと飲む。
「其方は一体何者なんじゃ?その桁違いの強さは、もはや人族の域を軽く超えておるじゃろ」
こう言われる事はある程度予想はしていた。
だから、答えも事前に決めていた。
咄嗟に言われれば、誤解を生むようなボロが出たかもしれない。ある程度は話せても、流石に全てを話す事はできない。
「俺は、樹海の魔女の弟子なんだ」
しかし、言った後に少し後悔してしまった。
ムー王女が口をポカーンと開けて、その美貌を台無しにしていた。
「それは、本当なのか?樹海の魔女と言えば、妾たち魔女の中で最強と言われている5本指に入る魔女じゃぞ。それにあの人は弟子は取らないと言われておる」
言うより証拠を見せた方が早いだろう。
俺はストレージから樹海の魔女の弟子である首飾りを取り出して、ムー王女に見せる。
その首飾りが発する神妙な気配をムー王女は感じ取ったのだろう。
「どうやら本物のようじゃな。成る程な、それなら其方の規格外の強さも頷ける」
俺の規格外をエスナ先生のせいという事にしてしまった事を心の中で謝っておく。
でも、半分いやそれ以上は間違っていないはずだ。
「ならば、ここからが本題じゃ」
深妙な顔付きになった事に俺はゴクリと生唾を飲む。
ムー王女は、ある依頼を俺に頼みたいと言う。
その内容は、一緒にある洞窟を訪れて欲しいというもの。
しかし、そこはただの洞窟ではなく、魔女だけが入る事を許された場所で、主に魔女の鍛錬をする場として使用されている。
現在このバーン帝国には、認知されている魔女と呼ばれる存在はムー王女を含めて3人いる。
水の魔女であるムー王女
そのムー王女の師匠とされている流水の魔女メアトリーゼ様。
帝国の魔導師団の師団長を務めている雷の魔女ランデル様。
俺は、引き受けるのを条件に魔女になる方法をムー王女に聞いた。
以前エスナ先生にも聞いたのだが、はぐらかされてしまった事があった。
その時はあまり興味は無かったので、深追いはしなかったけど、折角だから知っておきたい。
ムー王女も、別に口外は禁止されている訳ではないと言っていたのもある。
魔女になる為には、ある条件を満たす必要がある。
それは、全ての魔女たちの頂点である存在。
呼ばれ方は様々だが、一番知られている通り名は、紀元の魔女。
その歳を知る者はおらず、何千年も前からいるのではないかと言われている創世の魔女だ。
条件というのは単純で、紀元の魔女に認められる事。
認められれば、魔女としての名を紀元の魔女から命名される。
ムー王女も10歳の時に、紀元の魔女の元を訪れて、認められ水の魔女の名を授けられたと言う。
ちなみに同じ魔女の名は一人として存在しない。
しかし、その名を持つ魔女が亡くなると、再び授けられる。
紀元の魔女がどうやって、魔女の生死を把握しているのかは疑問だが、全ての魔女の根源たる紀元の魔女は、全ての魔女に崇拝されている。
「ちなみに、その紀元の魔女は何処にいるの?」
「知らぬ」
「ん、でも居場所が分かってたから魔女になれたんじゃ」
「紀元の魔女は、神出鬼没じゃ。今何処で何をしているのかは誰も知らんのじゃ。それこそ神のみぞ知るというやつじゃ。妾の場合は、たまたま逢えたのじゃ。これから行こうとしている洞窟でな」
「よし、行こうか」
「そんなに其方は魔女になりたいのか?」
「な訳あるか!そんなにすごい人物なら、是非会って友達になりたいじゃないか」
「あはははっ、つくづく面白いやつじゃな」
「ちなみに、その洞窟へ行く目的は?」
「鍛錬じゃ」
「それだけ?」
「それだけじゃ」
「なんで、俺なんだ?」
「妾が其方を気に入ったからじゃ」
「その其方って言うのは、何だかむず痒いのでユウでいいよ」
「分かった」
「ああ、そうだ。仲間たちも同伴でいいか?」
「駄目じゃ。そもそもその洞窟へは、魔女もしくは、魔女の弟子でなければ、入れんのじゃ」
「じゃあ、俺が樹海の魔女の弟子じゃなかったらどうするつもりだったんだ?」
「そんなの簡単じゃ。妾の弟子にするだけじゃ」
「なるほど・・」
また留守番か、ユイたち怒るかもしれないな。
「取り敢えず、一緒に洞窟に行く事は了承したよ。だけど、さっきの話の吸血鬼の兄妹を送り届けてからでもいいか?」
「うむ。そちらの都合に合わせようぞ」
その後、他愛ない世間話をした後に俺たちは別れた。
皆の待つ宿へ戻ると、案の定「遅いよ!」とユイに迫られてしまった。
しかし、俺には奥の手がある。
食い意地のはっているユイは、食べ物系に弱い。
今まではお土産を持って帰ればたいていの機嫌はそれで直っていたのだが、最近は「そんなのじゃ、騙されないよ!ユイはもう大人だもん!」と、誤魔化されなくなってしまった。
そして次に考えたのは、お兄ちゃん振りを最大限に発揮する事。
おもいっきり抱きしめて、頭を撫でるのだ。
それだけで、ユイは「エヘヘ」とデレてくる。
実にチョロい。
まだまだ大人にはなれないなと、心の中で呟く。
リュイの調子が戻るのを待って、吸血島へ送り届ける事になった。
しかし、まともに歩いて行っても何ヶ月も掛かるだろう。
そこで俺はムー王女から預かった魔導具を取り出す。
「なーに、その大きな布は?」
「も、もしかして空飛ぶ
「お、ルーは知ってたか。そうなんだ。実はな・・この絨毯は空を飛ぶんだよ!」
年甲斐もなくはしゃいでしまった。
魔法の世界ならば誰しも一度は想像する事だろう。
俺を信用してくれて、高価な魔導具である空飛ぶ絨毯を貸してくれた。
俺をというより、樹海の魔女の弟子である証を持っている俺をだとは思うけど。
それから3日後、吸血島へ向けて出発した。
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