第152話: 奴隷制度改定
「で、招待してくれたのは嬉しいんだけど、なんでここなの?」
「ここは妾以外は入って来ぬのでな。怪しい輩が潜んでいてもバレぬと言う訳じゃ」
「俺は怪しい奴扱いなのね・・」
「当然じゃ」
バーン帝国の城を訪れた際に城前でこの国の王女とバッタリ鉢合わせしてしまい、イキナリ戦いを挑まれた。
実際の所は、バッタリではなく待ち伏せされていたようだけどね。
で、勝負が終わった後に半ば強引にルー王女の寝室まで拉致されてしまった。
そもそも俺がここに来た理由も、このルー王女に会うためだったのだから都合はいいんだけど、でもなんで寝室なんだ?
「妾の父は凄く厳しくてな。特に男絡みとなれば、問答無用で首を切り捨てるじゃろうて」
「だからバレないように計らってくれてるのか?」
「うむ。感謝せい。と言いたい所じゃが、お主には以前助けてもらった借りがあったしな」
実は俺とルー王女とは、初対面ではない。
以前、ガゼッタ王国に滞在中に12カ国合同晩餐会に強引に参加させられた時に会っている。
あの時は、各国の代表者が一同に集結した所を狙って魔族に魔界に飛ばされ、結果襲われたのだが、同じ魔族であるイスやメルシーたちの協力の元なんとか脱出する事が出来た。
だが、流石にこの事が人族側に知られれば、今後の関係も悪化し、最悪即戦争なんて事も考えられた為、
魔族に襲われたという事実を俺以外の全員の記憶から消していたのだ。
しかし、以前助けた借りというのは・・まさかね?
「そんなに驚かずとも良い。妾は其方程ではないにしろ、少々特殊でな。記憶操作というものを無効化してしまったようじゃ」
「ってことは、全て覚えてるの?」
「ああそうじゃ。其方の勇士もしっかりとな」
まじか・・
この事が他に知られれば、折角魔族と停戦協定を結んだってのに反故にされる可能性だってある。
「其方が考えているような事はせぬよ。現にあの事は誰にも言うておらんしな」
「目的は何?」
「そう怖い顔をせずとも良い。別に弱みを握ってどうこうしようと言うつもりはないしの。それにさっきも言ったが、其方には大きな借りがある。けして無下にはせんと誓おうぞ」
そう言うと、ルー王女は立ち上がり、徐に来ていたチュニックのような装備を脱ぎ始める。
「ちょ・・」
見た目の装備に加えて、暗殺者がつけるようなマスクも被っていた為、ド忘れしていたが、ルー王女はとびきり妖艶な美女だった。
チュニックを乱雑に脱ぎ捨てると、ほぼ下着状態となっていた。
俺は極力平常心を心がけようと、なるべくそちらを見ないようにし、冷静さを装う。
「なんで、いきなり脱ぐの?」
「あれは、外行の服だからの。寝室での服に着替えたまでじゃ」
彼女はそう言い、イスの上にたたまれていた服に袖を通す。
その際、こっちに見せびらかすようにクネクネしながら服を着ている。しかもゆっくりとね。
実にエロい。実にけしからん。
そして、妖艶な笑みをしながらとんでもない事を言いやがった。
「見たいのなら、無理せずとも見ればいいじゃろ?妾は別に構わんしの」
「結構です」
フフフと笑っている。
照れ隠しがバレてしまったのだろうか。
帰ろうかとも思ったが、まだここへ来た目的を達成できていない為、グッとこらえてただ時が立つのを待っていた。
彼女は、着替え終わると俺の横に腰掛けてくる。
チラリとそちらを見ると、下着の上に黒ベースのネグリジェを1枚羽織っただけという恰好だった。
しかも透けて下着までバッチリ見えているという、俺を誘っているのかと言わんばかりの挑発的な恰好だった。
依然として口元の笑みは絶やしていない。
「で、話じゃったな。大方の予想はついておるが一応聞こうかの」
気持ちを切り替えて、彼女にここへ来た目的を告げる。
「ふむ。ならその奴隷商会の強引なやり方を止めたいと言うのじゃな」
「ああ、今回は強引に取り戻したから良かったけど、他にも同じようにして連れてこられた連中が絶対いるはずだからね。それに今後の事だってある」
「偽善者じゃの」
「え?」
「奴隷の何が悪いと言うのじゃ?奴隷はこの国には、いやこの世界には必要な存在じゃ。今や奴隷によってもたらされる労働力は必要不可欠となっておるのじゃ。中には貴族共に愛玩用として扱われている者もおるようじゃがの」
「奴隷の必要性について議論しにきたわけじゃないよ。そりゃ、俺は奴隷については反対だけど。ここまで根付いてしまった奴隷制を簡単に廃止出来るとは思っていない。俺がルー王女に頼みたいのは、奴隷にも最低限の守られるべきルールがあって然りだと思うんだ。所構わず問答無用で拉致してくるのには我慢出来ない」
ハハハハハッ。
「いや、すまんな。其方は面白い事を言うなと思ってな」
「面白い事を言ってるつもりはないんだけどね」
「まぁ、そう睨むでない。其方の言いたいことは良く分かった。それと、妾の事はルーで良い」
「一国の王女を呼び捨てには出来ないな」
「その一国の王女にため口をしているのは何処のどいつじゃろうな」
ぐっ・・。
図星なので返す言葉がない。
「つまりは、こういう事じゃろう。其方が助けた吸血鬼族の少女と同じ目に遭う輩を無くしたいと。最低限のルールを決めれば、それが解決出来ると。そう思っておるんじゃろ」
「ああ、そうだ」
「無理じゃな。仮にルールを決めたとして。そのルールを守ると思っておるのか?」
「それは・・」
「其方が言うておるのは、理想論じゃ。机上の空論に過ぎやせん」
「それでも、例えそうだとしても、何もせずに黙ってることは出来ない。そもそも行動を起こさないと何も始まらないし、解決しない」
それまで一定して口元をニヤつかせていたルー王女が、初めて真剣な表情へと変わった。
「本気で言うておるんじゃな」
「本気だ」
そして俺の熱意が伝わったのかと思った矢先、またしても盛大にルー王女は笑いだしてしまった。
「今のは其方の発言が、想いが可笑しくて笑ったのではないぞ。其方があまりにも妾が考えていた通りの人物だったからの。それが面白くて笑ったのじゃ」
「どんな理由だろうと笑われた方は、いい気がしないんだけど・・」
「だから、そう睨むなと言うておるじゃろ。協力してやるんじゃから」
「え?」
「じゃから、協力してやると言うておるんじゃ」
「じゃあ、この国の王に掛け合ってくれるのか?」
「ふん、その必要はないぞ」
俺がルー王女にお願いしたのは、単純に言うと、奴隷制のルール決めを行う事だ。
つまり、この国の法律に追加してもらう事なのだが、それを王に言う必要がないとはどういう事なのだろうか?
「それってどういう事なんだ?」
「父は、妾に対して絶対服従なのじゃ。妾が右と言えば右を向くし、奴隷制に対してルールを設けると言えば二つ返事じゃろて」
「てことは、実質この国を牛耳ってるのは、ルー王女なのか?」
「ま、考えようによってはそうじゃな」
おいおい、この国大丈夫かよ・・。
「今、へんな事考えたじゃろ?」
「いや、途端にルー王女が頼もしく見えるなって」
「ふん、どうじゃかな。ああ、それと頼みを聞く代わりに妾からも願い事を一つ聞いてはくれぬか?」
「内容によるな」
「妾のものとなれ」
「断る」
「即答じゃな。流石の妾でも少し傷つくぞ」
「そう簡単に自分自身を渡せるかよ。それこそ奴隷じゃあるまいし」
「まぁ、この件は後日ゆっくり話そうぞ。まだ当面この国にはおるのじゃろ?」
「ああ、追い出されない限りは当面滞在する予定だ」
「其方のお仲間にも会ってみたいしの」
「どこまで俺の情報を知ってるんだ・・?」
「フフフ、もう其方は妾から離れる事は出来んと思え!」
「冗談に聞こえないから怖いよな」
「当り前じゃ、冗談で言うておらんからな」
無視だ無視。こんなのに付き合ってられない。
この後、ルー王女と一緒に、奴隷制に関して、以下のルールを決めた。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
Ⅰ.今後、奴隷として成立するのは、敵国の捕虜や戦利品で勝ち取った者、身売りする、身売りされた者のみとする。これを破れば、莫大な賠償金、最悪の場合は、打ち首と処す。
Ⅱ.奴隷には身分証を発行する。
身分証には、出身地、年齢、種族、奴隷となった理由を明記するものとする。
Ⅲ.期間を設ける。
奴隷本人と相談し、最長で10年とする。
期間を満了した奴隷は、晴れて奴隷の身から解放され、居食住の最低限の保証を国から援助する。故郷へ帰る場合は、移動費も国が保証する。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「これは、流石にやりすぎではないか・・」
「いや、これでも少ないくらいだ・・っていうか!お前が大分削ったんだろうが・・」
本当は、10項目以上あったのだが、「流石に無理じゃ」と3項目まで減らされてしまった。
いつの間にか、ルー王女との距離が狭まった気がしたが、気のせいだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます