第147話:吸血鬼族
「あっ、そこ・・お兄・・ちゃん・・」
「ユウさん、だめっ・・・やっ・・」
桃色の吐息を漏らす少女たち・・
頬を赤く染め、その表情は、何処か虚ろなようで、気持ち良さそうに身震いしていた。
ここは、宿泊している宿の大浴場の外にある一室、その名もマッサージルーム。
当然の事ながらマッサージ機なんてあるはずもなく、ましてや専属のマッサージ師なんて人もいない。
現在マッサージをしているのは、もちろん俺だ。
今、眼前には一糸纏わぬ姿の3人の少女達が高床のベットにうつ伏せになっている。
マッサージは肩から始まり、背中に至り、腰と段々と下の方へと下がって行く。
「なあ、もうこれくらいでいいだろ?」
「だーめ!お兄ちゃんが言ったんだよ。日頃頑張ってる私達に何かお礼がしたいって」
「だから、こうやってマッサージしてるんだろ」
「私達は、まだ満足してないもーん。だよね、シュリちゃん、ルーちゃん」
「マッサージ気持ちいい、もっとお願い」
「はい〜とっても気持ち良いです!私までやってもらってすみませんね」
いやまぁ、なんというか、この行為自体は嫌ではないというか、むしろラッキーというか、いやいや、正直これ以上こんな姿を見ていると理性が飛びそうなんだよ!
仲間達のことは、俺はルーも含めて妹だと思っている。
妹に欲情する兄貴なんて、漫画や小説の中だけの話だ。
実際に血が繋がっているわけではないが、法律的にマズいとか実際この世界には法律はないんだけど、つまり俺が言いたいのは、妹だとでも思わなければ、とっくの昔に手を出していたかもしれない。
俺は断じてロリコンではない!
ロリコンではないはずなのだが、なんというか、無防備すぎるユイ達を見ていると、こう奥底から込み上げてくるものがあるというか・・・
はぁ、だめだ無心にでもならなければ今回のこの試練を無傷で乗り越えることは出来ないかもしれない。
ただでさえ、温泉は混浴だったので、なるべく気にしないように振舞い、無事に温泉ターンが終了したかと思えば、まさかのマッパでのマッサージターンが始まろうとは、誰が予想出来たであろうか?
神はなぜ、このような過酷とも言える試練を我にお与えになるのか?
あ、神って、あの人だったな。
きっと何も考えていないに違いない。
うん、寧ろこの光景を見てニヤニヤ笑っているに違いない。
俺が一人葛藤しているとユイから無情の催促がかかる。
「お兄ちゃん早く!次はお尻だよ」
「私は何処でもいい」
「あ、あの、お尻は、優しくお願いします・・」
「だあああぁぁ、分かったよ!やればいいんだろ!やれば!」
半ばヤケになりながら、それでも雑にせず、適量で最適な力で揉みほぐしていく。
俺の動きに合わせて、更に甘い吐息が漏れる。
その後何とか理性を保ったまま、地獄であり天国のようでもあったマッサージターンは終わりを迎えた。
シュリはあまりに気持ちよかったのか途中から気を失っていた。
後の対応はユイとルーに任せて、役目を終えた俺は足早にその場を去る。
相変わらず、部屋は一部屋で巨大なベッドルームが一つだけ。
左隣はユイが右隣にはシュリが俺の腕を掴むような形で可愛らしい寝息を立てている。
いつもの光景だ。
しかし、いつもの光景じゃない反応を
まさかの近くで赤い反応があったのだ。
どうやらその場所は、ここのすぐ外からのようだ。
宿の窓から反応がある方へと視線を向ける。
「いないな・・・いや・・上かっ!」
遠視を使い遥か上空を見上げる。
夜の闇と溶け込んでいて非常に視認し辛い。
「・・・・・・あれか?」
蝙蝠のようなモンスターが明らかに帝国領内に入っている。
この世界に領空権なんてないだろうが、一応気が付いたからには排除させてもらう。
ブーストで効果時間を倍にした
高度200mくらいだろうか。
一瞬で相手との距離を詰める。
相手もこちらに気が付いたのか、かなり驚愕な表情を浮かべている。
「あるぇ?」
思わず変な声を出してしまった。
人型蝙蝠かと思っていたモンスターは、なんと蝙蝠のような羽を生やした少年だった。
しかも、外見はかなりボロボロだ。
所々怪我もしているようで、動揺してというよりも疲労からくる息使いの荒さが見受けられた。
イキナリ現れたことに対して警戒しているようだ。
名前:サテラ・リンベルク
レベル28
種族:
職種:呪術師
スキル:
え、吸血鬼?
少なくともこの世界に来てからは、初めて見るな。
モンスターなのか?それとも吸血鬼という種族なのか?
相手は、その場に停滞したまま動かない。
というより、驚いていてどうしたらいいのか決めあぐねているといった感じだろうか。
おっとヤバい・・
そろそろ
(アリス!悪い、助けてくれ)
(了解マスター)
宿で休んでいたアリスに念話で救援を送る。
アリスは、一瞬で俺の位置を把握し、駆けつけてくれた。
救援要請を送ってから3秒も経っていないだろう。
「相変わらず早いな・・でも助かったよ。ありがとう」
「マスターの為なら、例え火の中水の中空の上です」
駆けつけてくれたアリスの右手に掴まり、何とかその場を維持する。
吸血鬼の少年は相変わらずその場から動く素振りがない。
むしろ、人数が増えてより一層動揺しているようだ。
「マスター、目の前のターゲットを敵と認識しました。殲滅の許可を」
「いやいやいや、だめだ。まずは話を聞いてからだ」
今の俺達のやり取りを聞いて、若干涙目になってる気がするが気のせいだろう。
アンタ仮にもヴァンパイアなんだからもう少し威厳というか、俺の脳内イメージを崩さないで欲しい。
それにしても、外見はほとんど魔族と変わらないような気がするな。
違いがあるとすれば血の気の抜けた白色の肌と特徴的な牙がギラリと光っている程度だろうか。
このままではらちがあかない為、こちらから簡単に自己紹介をし、こんな真夜中にこの場所にいる理由を吸血鬼少年に尋ねた。
「ボクは・・怪しい者じゃない!・・・ちょっと夜の散歩をしていただけなんだ・・」
必死な形相だが、その表情を鑑みるに、どうやってこの場から逃げ出そうか考えてるといったところだろうか。
「じゃぁ、その後ろ手に持ってる短剣はなんだ?」
ごめんな。アリスのスキャン能力で背後だろうがバッチリ見えるんだよね。
先ほどアリスから念話で教えてもらったのだ。
「な、なんでバレたんだ・・。だけど、ここで捕まる訳にはいかない・・ボクにはやらなければならない事があるんだ!」
小声でブツブツと喋った後に覚悟を決めたような目になり、吸血鬼少年は真っすぐにこちらに向かってくる。
短剣を突き立て突進してくるが、俺には止まって見える速度だ。
あえて躱さずに短剣を素手で受け止めた。
そのまま、素早く首筋に手刀を当てて、気絶させる。
何者かは分からないけど、
でもこのまま倒しちゃうのは、流石にちょっと、駄目だろう。何か訳ありのようだし。
自分に対して敵対心があるかどうかで反応する色が変わるのだ。
敵対心があれば赤。モンスターは強制的に赤。
それ以外は白。
検索で探している人物の場合は青といった具合だ。
で、この吸血鬼少年は赤。
だけど何か訳ありっぽいので、このまま宿屋へと連れて帰ることにした。
他に部屋もないので、自分たちの泊まっている部屋のソファーに転がしておく。
もちろん凶器は没収し、念の為に拘束で縛っておく。
「さて、寝るか。アリスもありがとな」
「マスターの命令は絶対です。ではお休みなさいマスター」
しょうが無いのだろうが、もう少し砕けた感じにならないものかねぇ。
「ああ、お休み」
次の日の朝、何やら言い争いで目が覚める。
一番に起きるつもりだったのだが、どうやらグッスリ寝てしまっていたようだ。
「キミだーれ?」
「くそっ、ここは何処だよ!なんで身体が動かないんだよ!」
みんなもう起きてるのか。
「あ、お兄ちゃんおはよ!大変だよ、なんか知らない子が部屋の中にいるよ」
「おはようユイ。うん、昨日の夜にね、ちょっと事件があったんだ。あれ、ところでシュリは?」
部屋を見渡すが、シュリの姿が見えなかった。
そんな俺に気が付いた吸血鬼少年がくってかかる。
「あ、お前!よくもやってくれたな!ていうかなんで動けないんだよ!」
「シュリちゃん何かさっき外に出て行ったよ」
「ふむ。朝の訓練かな?そういえば、時々してるのを見るな」
「シュリちゃん真面目!」
「ユイも見習えよ」
「おい!お前ら!ボクを無視するなよ!」
何故だか吸血鬼少年がプンスカしている。
「ユウさん、この方は吸血鬼さんじゃないですか、珍しいですね」
「セリアはいつも気が付いたら肩の上にいるよな」
「私の指定席ですからね」
セリアに聞いて驚いたのだが、吸血鬼が住んでいるのはこの世界広しといえど、ここから北に行ったところにある吸血島だけらしい。
「吸血島以外で吸血鬼さんを見るのは珍しい事なんですよ」
ユイに昨夜の出来事を説明する。
「じゃ、この子は私達の敵なんだね!私が倒しちゃってもいい?」
「ひぃぃぃ」
はぁぁ、アリスにしてもユイにしても、俺の仲間たちは血の気が多い気がするんだよな。何処で教育を間違ってしまったのか・・。
「取り敢えずユイ、武器を仕舞おうか。まずは事情を聞いてみようぜ」
よほどユイが怖かったのか吸血鬼少年はガクブルしている。
吸血鬼少年にかけていた捕縛を解除した。
「じゃ、俺たちに話してくれるかい?」
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