第145話: 幻想花を求めて

蜥蜴野郎が悪足掻きと言わんばかりに雪崩を発生させてしまった。

突如としてけたたましい地響きと共に大量の雪が土砂のように在る物全てを薙ぎ倒し、飲み込み、眼前まで迫っていた。


バラバラに散らばっていた俺たちは、雪崩に察知した頃には、時既に遅かった。

間に合わないはずだった・・

俺一人の力では・・


しかし、次の瞬間俺の側には蜥蜴野郎と対峙していたアリスを含めて全員が集結していた。

刹那の瞬間のうちに、展開した障壁の中に全員が「あれえ?」「何が起こったの?」と皆一様に疑問を浮かべながらキョロキョロしていた。


障壁と雪崩が激突し、凄まじい衝撃音が全員を襲う。

視界も一瞬の内に白一色となった。

予想外の重圧に障壁が消えそうになるのを気を引き締めなおして維持する。

恐らく相当な雪に埋もれてしまっているのだろう。


未だに皆、何が起こったのか分からないと言った感じだった。

「いきなり、たくさんの雪が襲い掛かってきたかと思ったら、いつの間にかお兄ちゃんの後ろにいて、あるぇ?」

「さっきの敵が雪の魔術使ったの?」

「いや、あれは雪崩って言う、自然現象だよ。それと、レティシアさん、助かりましたありがとうございます」


雪崩が迫り来る中、俺の漏らした一言に背後にいたレティシアさんが反応した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「くそっ!距離が離れすぎてて障壁が届かない!」


「全員をこの場に呼べばいいかしら!」

「!?」

レティシアさんは何やら詠唱を始め、精霊を召喚した。

その精霊から白い紐のようなものがユイ達に向かって伸びていく。

その紐に触れた瞬間、その場にいたユイが消えて、俺の後ろに瞬間移動していた。


一瞬の内にシュリとルーとアリスも瞬間移動させたのを確認し、俺は障壁を展開した。

既に雪崩は、目前まで迫って来ていたので、まさに九死に一生だろう。危なかった・・。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

という、やり取りが先ほど行われていた。


「あれも精霊の特技なんですか?」

「ええ、射程100mと制限はあるけれど、術者の元に瞬時に移動することが出来るわ」

「えー!そんな精霊しらないよぉ!私持ってないしぃ・・」


何故だかシュンと項垂れるルー。

あまりにもガックシと肩を落としている姿が可哀想だったので、ルーの頭をポンポンと叩いてやる。


「これも雪の精霊と同じで特殊精霊と呼ばれる精霊よ」

「ぜ、是非会得方法を教えて下さいですぅ!」


通常の方法では同じ精霊術師でも取得することが出来ない特殊精霊。

雪の精霊は、ちょっと効果が限定的すぎて使用出来る場面が少ないかもしれないが、瞬間移動は何かと使える気がする。もし仲間が、ルーが覚えれたら今後の冒険に役立つに違いない。

「俺からもお願いします」

「まぁいいけど、相応の努力は必要よ?」

「はい、私頑張りますぅ!」


取り敢えず、リトルスノウの里に戻ったら、早速教えて貰える算段になったようだ。


「なんだか、この中って暖かいね」

「この障壁には暖房効果があるのですかぁ?」

「いやいや、かまくらと同じ作用なんじゃないか?雪の中には空気をたくさん含んでいるからそれが断熱作用を持ってるんだ。だから雪の中は暖かいんだぞ。暖かいって言っても外気に晒されるよりはって程度だけどな」

「ふうん、なるほどぉ」

「よく分かんないけど、寒くなったら雪の中に飛び込めばいいんだね!」

「いや、それは死亡フラグだぞ・・取り敢えず、この場所から脱出しないとな」


現在俺たちは雪に埋もれている状態だ。

相当深いのか、シュリが槍で突き刺しても光は入って来ない。

火系の魔術で溶かしたいところだが、生憎と障壁展開中は魔術の行使が出来ない。


結局、アリスがレーザービームを連射して穴を開け、拡張して何とか脱出することが出来た。


「一体、さっきのは何だったの?」

「ユイちゃん、あれはねぇ雪崩っていう、大量の雪が土砂崩れのように押し寄せてくることを言うんだよ。たぶん、あの蜥蜴さんが火を噴いてそこらじゅうの氷を溶かしちゃったから、崖奥の奥の方から発生したんだと思うよぉ」


そういえば、ルーは転生者でこことは違う別の場所から来たんだったね。だから雪崩のことを知っていたのだろう。

雪女と言われているレティシアさんですら知らなかったのだから。


アリスがキョロキョロと周りを観察している。


「この辺り一帯には生体反応はありません」


あの蜥蜴野郎に文句の一つも言ってやりたかったのだが、残念だ。

元々アリスに瀕死の重傷を負わされていたので、自らが発生させた雪崩によって命を落としたのかもしれない。最後の悪あがき的なやつだろうか。


「何はともあれ、討伐成功だな、ありがとよ」

今までどこに居たのか、急に現れたユーキさんが腕を組み、偉そうな態度ではあったが、褒め称えてくれていた。


そういえば、討伐は通過点に過ぎないんだった。

俺たちの本当の目的は幻想花を探しに来たのだ。

一瞬、雪崩によって幻想花が全滅したのかと思い、冷やっとしたが、奇跡的に無事だった。

奇跡的というか、作為的というか、神がかり的というか・・あきらかに幻想花の周りだけ雪が避けているのはなぜだろうか・・。


幻想花は、その名の由来通り幻想級にレアな花なので、毎年決まった数量しか咲くことがない。

しかし、一度咲くと決して枯れる事がなく咲き続けるらしい。


今俺たちは、あたり一面に咲いている幻想花に目を奪われていた。

想像を絶する綺麗さだった。

花自体の大きさは10cm程度なのだが、それが辺り一面ビッシリと誇張するように咲き誇っていた。

眩いほどのキラキラ感で思わず目を覆ってしまった。


女性陣もうっとりしていた。

「むぅ摘むのが勿体無いねぇ」

「あれで花飾りを作ってみたいねお兄ちゃん!」

「美味しそう」


ん、今なんか一人違うこと言った奴がいるが気にしない。

ほぼ3人同時に発せられた言葉だったから、聞き取れはしたが、誰のものかは分からなかった。分かりたくなかった。

顔色を伺うと、シュリが指を咥えて「じゅるり」していたが、見なかったことにする。


「でも、こんなに咲くんだねぇ。てっきり話に聞いていた限りだともっと少量なのかと思ったよぉ」

「いや、本来はこの10分の1程度だよ。たぶん、ここ何年もモンスターのせいで採取する事が出来なかったからね、溜まりに溜まった数年分だよ!それにしても驚いたな!」


一番興奮していたのはユーキさんだったかもしれない。

まだ彼の興奮冷めぬまま、全ての幻想花を採取し、持参した袋に入れて、帰路に就く。


「こいつはたまげたな・・」

里長のトモン老に、持ち帰った幻想花を見せるとユーキさん同様に驚いていた。


「流石は幻想花じゃな、枯れる事なく一番古いもので約10年と言う歳月を生き長らえるとは。聞いてはいたが、この目で確認すると納得がいくもんじゃ」


モンスター討伐と幻想花の採取のお礼として、仲間たち全員に法具を作ってくれると言う。

予想外に大量に幻想花が入手出来たこともあり、当初は1個だけと思っていたが、全員に貰えるそうなので、ラッキーだった。

しかも、それぞれの職に応じた能力向上を付与してくれるそうだ。

市場では滅多に出回らない逸品に胸踊る。


製作に数日の時間を要するとのことだったので、適当に時間を潰すことになった。

既に、ルーとレティシアさんは、精霊術師の修行とやらで、里の外に出ていた。

ユイとアリスとシュリは三人で探検してくると同じく里の外に行っている。

二人だけで行くと言っていたのでアリスはその護衛役を任命した。


俺はというと・・

何故だか、雪小人族リトルスノウたちに気に入られてしまい、今までの冒険譚などを酒の席で喋らされてしまった。勿論俺は飲んでいない。

あまり気乗りはしなかったけど、あくまでも友好を深める為なので、快く応じる。


そして、あっという間に5日が経過した。


「出来上がったぞい」


里長のトモン老に朝一呼ばれて、集まっていた。

この里での寝床は、馬車の中だった。

今いるこの一室を提供されてはいたけど、申し訳ないという思いもあり、馬車を里の中に運び入れる許可をもらい、寝る時は馬車の中だった。

いつもの寝床の方が気兼ねないしね。


ユイの法具

名前:俊敏のブレスレット

説明:装着者の敏捷性を飛躍的に上げてくれる伝説の妖精職人の至高の逸品。

特殊効果:敏捷性強化(極大)、破壊不可

相場:金貨1000枚

希少度:★★★★★☆


シュリの法具

名前:剛腕のアミュレット

説明:装着者の物理攻撃力を飛躍的に上げてくれる伝説の妖精職人の至高の逸品。

特殊効果:物理攻撃力強化(極大)、破壊不可

相場:金貨1000枚

希少度:★★★★★☆


ルーの法具

名前:時短のリング

説明:装着者の詠唱時間を大幅に短縮してくれる伝説の妖精職人の至高の逸品。

特殊効果:詠唱時間短縮(極大)、破壊不可

相場:金貨1000枚

希少度:★★★★★☆


ユウの法具

名前:魔神のチョーカー

説明:装着者の魔術攻撃力を飛躍的に上げてくれる伝説の妖精職人の至高の逸品。

特殊効果:魔術攻撃力強化(極大)、破壊不可

相場:金貨1000枚

希少度:★★★★★☆


レティシアさんは、事前に必要ないと言い製作を拒否していた。

アリスは、機械だから装備による補正は効かない。


「ありがとうおじいちゃん!大切にするね!」

「うむ。希少品の為、奪われることのないようにな」


無事に目的を果たした俺たちはリトルスノウの里を後にする。

その際、見送りとして、里のほぼ全住人が見送ってくれたことに驚いた。

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