第142話:雪女
新しく俺たちの仲間にルーが加わってから1週間が経過していた。
当初コミュニケーション下手と語っていたルーは、今では見違えるように、ていうかルーはよく喋る。
恐らくずっと友達を欲しがっていたので嬉しかったんだと思う。
今まで堪えていたのを発散するかの如く。
「私、生まれてからこんなに遠くまで来たの初めてですぅ」
「あんまし、はしゃいで落ちるなよ」
「分かってますよぉ」
馬車のお立ち台で俺の横にルーは座り、見るもの全てが新鮮なのかいちいち反応していた。
それにしても、華奢な身体だな。
ユイやシュリも背格好的には似たようなものだけど、前衛で動き回っている分、肉付きは良い方だ。
だけど、ルーは違う。
精霊術師という職業柄、あまり体を使って動かないのだろう。
そういえば、精霊術師の戦い方って、実はマジマジと見たことがないんだよね。
ここまでの道中、まだ戦闘らしい戦闘はなかった。
前にダークエルフの里で少しだけ見せてもらった事があったけど、その人のレベルは50だったから、ルーはきっともっと凄いんだと思う。
あの時の凄まじい雷も精霊のなせる技だそうだ。
俺よりも高威力と思わせることから、精霊もなかなかやるようだ。
ちなみに、精霊術師が召喚する精霊は、セリアやノア、クロウのような最上級精霊ではなく、下級精霊と呼ばれる部類に属する。
セリアたちは、戦えないしね。
暫く進むと遠目に巨大な山々が連なって見えて来た。
「あの山を越えたら、目指してたバーン帝国までもう少しだぞ」
しかし、その山が最大の難所だった。
その山々は、大雪山連峰と呼ばれていた。
そう、険しい雪山だった。
なんの備えも情報もなしに雪山登山は危険極まりない。
雪山の麓には、幸いにも町があった。
まだ正午過ぎだけど、今日は雪山越えの装備を整えて明日の朝に出発しようということになった。
この町も種族間の隔たりはないようで町に入るための検問もなかった。
やっぱり誰でもウェルカムじゃないとね。
「まずは宿屋を探そうか」
「大きいお部屋のとこね!」
「いやいや、ルーもいるし、皆と俺は別の部屋だぞ」
「あまいよお兄ちゃん!ルーの許可はもう取ってるんだからね!」
な、なんだと・・
ルーの方を振り向くと頬を赤らめて何らやモジモジしていた。
「私は別にぃ・・その、ユウさんとぉ・・同じ部屋で寝ることになっても・・・気にしません・・頑張りますから、、えと、優しく・・・して下さいねぇ?」
ルーは両手で自らの顔を覆い隠す。
「いや、それ何か勘違いしてないかな!」
先行き不安だよ、全く・・。
結局諦めていつものように一部屋の大部屋を借りることになった。
その際、せっかくなので宿屋の主人に雪山の情報を聞いておく。
「悪いこと言わねえから、この時期の雪山越えはやめときな」
「怖いモンスターが出るの?」
「いやいやお嬢ちゃん。モンスターじゃなくて、雪さ。視界ゼロ、気温-30度の極寒の世界なんだぜ。この時期は日中でも吹雪いてやがるからここいらの人でもこの時期の山越えはしねえのさ」
「安全に山越え出来るようになるのは何時頃になりそうなんですか?」
「そうさな、だいたい後2ヶ月も待てば越えれるようにはだろうさ」
2ヶ月か、これは困ったな。
待ちぼうけを食らうとは思ってなかった。
別に急ぐ旅ではないんだけど、その、なんていうか暇になると暴れ出すやつがいるからなぁ、、
今後の動向を確認する為、作戦会議をすることになった。
と言っても、ユイやシュリやアリスに聞いたところで「任せるよ!」とか「ユウについていく」とか「マスターの命じるままに」と返ってくるのが関の山。
ほんっと、リンやジラが恋しいね。
「私、噂で聞いた事があるよぉ」
そうだ、塞ぎ込むのはまだ早かった!俺たちにはまだ新しく仲間になったルーがいるじゃないか!
「噂?」
「うん。雪女の噂なんだけどねぇ、その人がいれば吹雪が止むんだって聞いたことがあるよぉ」
雪女だと・・
雪女といえば、確か俺のいた世界では、その白く美しい容姿で旅人を言葉巧みに騙し、山奥へと連れ込み喰らうという恐ろしい存在だったはず。
あまり良い噂では無かった気はする。
一目見てみたい気もするが、こっちの世界でも同様とは限らない。
それに、あくまでも物語の人物だったしね。実話じゃないはずだし。
「その人を探せれたらこの時期でも山越え出来ると思うよぉ」
「でも噂なんだよな?どこにいるかも分からないし」
「ふふふ、どうやら私の出番のようね!」
そうか、その手があったな。
「人探しなら私にお任せ!王様だろうが、地底人だろうが誰でも探し出しちゃうよー」
「そういえば、そんな能力持ってたな」
「ひどいな!最近出番が無かったからって、私の有能な能力を忘れてもらっちゃ困るよ?」
精霊は、皆が何かしらの特殊能力を兼ね備えている。
ノアは、人を探す事が出来る。
セリアは、瞬時に周りの生物を眠らせる事が出来る。
前に俺で実験したが、見事に効果ありだったので、よっぽど強力な睡眠なのだ。
「そういえば、クロウはどんな特殊能力を持っているだ?」
「悪いけどそれは言えないや。でも使うべき時が来たらちゃんと話すよ」
(本来、精霊の能力というのは仲間にも誰にも教えません。同じ精霊同士であっても)
(そういうものなのか、何かごめん。次から気をつけるよ)
(最終判断はその精霊自身ですからユウさんは気にされなくてもいいですよ)
(ありがとうセリア)
元々精霊は、神に近い存在なのだから隠し事の一つや二つはそりゃあるよな。
「ちなみに、雪女の外見とか名前を教えて。流石に総称だけじゃ探せないよ」
「ごめん、私も詳しいことはぁ・・」
「なら、町で聞き込みしようか。噂になってるなら誰かしら知ってる人がいるかもしれない」
早速3チームに別れて聞き込みを開始した。
俺は一人でユイ、アリスチームにシュリ、ルーチームだ。
さてと、情報収集ならば酒場と相場が決まっている。
早速、この町に一つしかない酒場へと足を運ぶ。
そこまで広い町ではないので、すぐに目当ての場所へと到着した。
その途端、俺の横に超絶美人の女性が現れた。
「なんで、出て来たんだよ。しかも人型で・・」
現れたのは、人型状態のセリアだった。
「キレイな女性がいた方が有用な情報が聞けると思いますよ」
ふふふっと、俺の腕を掴むセリア。
情報を聞く前に''リア充死ね!''って、後ろから刺されそうだけどな・・。
酒場の中へ入ると、真昼間だと言うのに酒に溺れているガタイの良い男たちが盛り上がっていた。
独特なこの男臭にセリアが露骨に嫌そうな顔をしていた。
だから、やめとけば良かったのに・・。
何とか平静を装い、奥のカウンターまで進み、酒場のマスターに聞き込みをする。
「うお、アンタすげえベッピンさんを連れてるな」
「羨ましいぜ、全く!」
まぁ、当然の反応だと思う。
口上だけで終わればいいんだけど。
「マスターさん、人を探してるんだけど」
言葉を遮るようにマスターは、俺の顔の前に人差し指を突き立てた。
「話は、注文してからにしてくんな」
あ、そういうことね。
カウンター横のメニューをサッと確認して、ショレアを二つ注文する。
梨味のココの実の果実酒にアルコールを混ぜたリキュールだ。度数はほぼないに等しいのでアルコールが駄目な人でも比較的飲みやすいので、広く親しまれている。
すぐにショレアが運ばれてきた。
それをグイッと一気に飲み干す。
昔、地元で飲んだ梨ジュースを思い出す・・って、今はシミジミしている場合じゃなかった。
「で、さっきの話しの続きなんだけど人を探してるんだ。何か知っていたら教えて欲しい」
俺が雪女の文言を出すと、盛り上がっていた場が整然と静まり返った。
え?俺なんかマズい事言っただろうか・・。
そして、盛大に笑い出した。
「ハッハッハッ、まさか雪女の伝説なんて信じてるのかよ!」
「おいおい、マジかよ!なんだ、雪女様を仲間にしようってのか?」
「こいつはいい酒の肴だぜ!」
酷い言われようだった。
別に侮辱されるのはどうでもいいのだが、これでは情報収集どころじゃない。別の場所に行こうかと席を立つと、隣から、只ならぬオーラというか、殺気のようなものを感じる。
え、ちょっとセリアさん?落ち着こうね?
「ユウさんを馬鹿にするなんて・・・」
ヤバい、この場にいる連中を全員眠らせるつもりか!
駄目だ、俺ですらその強力催眠には抗えないんだから!
「セリア落ち着くんだ、俺は気にしていないから、大丈夫だから!頼むから落ち着いてくれ!」
何とかセリアをなだめる事に成功し、ここでは情報が集まらないと判断した為、お代を払い店を出ようとした時だった。
店の奥のテーブルに座っていたフードを被っていた人物が、ついて来てと一言。
酒場を出てその人に先導され路地裏に入る。
一応は警戒して、セリアを俺の後ろ手にしている。
「この辺りでいいかしら」
以外にも発せられた声色は、妙齢の女性のものだった。
頭をスッポリとフードで覆っていたので気が付かなかった。
酒場では周りがうるさくて、よく聞き取れなかったし。
目の前の人物がフードを取り、その姿を露わにする。
一瞬だけ、その鮮やかな銀髪に釘付けになってしまった。
なんて綺麗な髪なんだろうか・・・。
肌も透き通るような白で、その表情も何処か妖艶さを彷彿とさせていて、引き込まれそうになってしまった。
物語の雪女という人物が実在すれば、きっとこんな感じの人なんだろうな。
俺が見惚れているのを察したのか、セリアが背後から冷たい突き刺さるような視線を送って来た。
コホンと一つ咳払いをしてごまかしておく。
「えっと、あなたは?」
「貴方がお探しの雪女?と呼ばれていた存在です」
え、うそん・・。
こんな出来過ぎた話があるだろうか。
最初に探しに入った酒場で、周りの客の話だと伝説だと馬鹿にされる始末だったにも関わらず、ましてやその客の中に探している雪女がいたなんて事が本当にあるのだろうか。
だけど、俺には嘘は通じないよ。
ということで、早速に
自称雪女と名乗るこの人は、とんでもない人物だった・・
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