第141話: 転生者の少女

いつまでもあの場所にはいられない為、近くにある、ルーが拠点にしている場所があるというので、案内して貰う。


掘っ建て小屋のような外観とは裏腹に、中は意外と小綺麗にしてあった。

それでも苦労して生活をしている感は否めない。


「じゃ、全て話して貰うよ」


何故竜の背に乗り、傭兵相手に戦闘していたのか。理由次第によっては、俺は傭兵の仇を打たなくてはならない。

そして、転生者とはどう言う意味なのか。


おぼつかない口調でルーが喋り出した。


「え、えと・・わ、私の名前はルルシアって言います。竜さんの背にいたのは・・・洞窟で竜さんを見かけたので、そしたら怪我を負っていて可哀想だったから・・治療してあげたら懐いて・・背に乗せて貰いました。すると、いきなり攻撃されて・・竜さんが怒っちゃって・・なんとか宥めようと思ったんですけどぉ・・」


断片的で掻い摘んだ話だったので、理解するのに少し時間がかかったが、つまりは正当防衛だったと。


「ルー、そんなんじゃ、半分も伝わらないぞ」

「えーだって・・・話すの苦手なんだもん!」


見兼ねた精霊のクロウが会話に割って入る。


「ルーのスキルの一つに洗脳めいたものがあるんだ。それで竜に近付いても攻撃対象にならなかった。だけど、ようへいを見つけるとその闘争本能を抑える事が出来ずに見ているしかなかった。信じてもらえるか分からないが、ルーは争いを止めたかったんだよ」

「うん、信じるよ。それと、あの雷撃はルーの魔法か?」


俺があっさり答えたことにルーとクロウは少し意外そうにしていた。

ルーは、慌ててアリスの方へ身体を向ける。


「あわわぁ、ごめんなさい・・・その、竜さんが可哀想だったから、反撃・・しちゃいました・・ほんとにほんとにごめんなさいです」


深々とお辞儀をするルー。


先に攻撃をしたのは傭兵達みたいなので、ルーからすれば、確かに正当防衛に値する。


「別に文句を言ってる訳じゃないよ。攻撃に加わった時点で俺達も攻撃対象に含まれるのは承知しているしね。アリスも無事だったし」


竜の事は分かった。

実は元々追求するつもりもなかったので次にいく。


「ユイ、シュリにアリス悪いけど外で誰かが近付いてこないか見張っててくれないか?」

「うん、いいよー」


三人が外に出て言った後にユイだけが戻って来て、俺に耳打ちする。


「今はいいけど、いつか話してね、お兄ちゃん」


ニコッと微笑み、そのまま走り去る。

バレてたか。

そうだな、仲間達にはいつは話さないとダメだよな。


「差し支えなければ、さっきの転生者って言うのを教えて貰えないか?」

「私が代わりに話そう」


話し下手なルーに代わって影の精霊クロウが詳しく説明してくれる。


ルーは、前世の記憶を持ってこの世界に生まれて来た。

前世はこことは全然違う世界だったらしい。

ルーは、乳飲み子の頃から言葉を理解し話したり、前世の記憶を活かしてか、両親すら知り得ない知識を話すので、周りからも気味悪がられ、そして挙げ句の果てに捨てられてしまった。

まだ6歳だったルーは、行く当てもなく彷徨い歩き、やがて力尽き意識を失った。


それを見つけたのが影の精霊クロウだった。


その日からクロウは、ルーの親代わりをしていたようだ。

ルーの生い立ちを知り、不憫に思い一緒に生活しているのだと言う。

ちなみに、それは今から10年前の話だった。


以降、なるべく人と関わらないように生活してきた為、ルーはコミュニケーションを取るのが苦手みたいだ。


「ユウ。キミもルーと同じ転生者なのか?」

「なんで、そう思った?」

「キミが規格外のスペックの持ち主だからさ」

「俺の強さが分かるの?」

「うん、あの戦い方を見ていたら分かるよ。他の三人の少女達も中々のものだったけど、キミは明らかに規格外だよ」


単純な強さだけなら、他のみんなと大差ないんだけどね。むしろ俺が一番弱いかもしれない。


実際に鑑定アナライズされた訳ではないなら、俺の中の何かに気が付いたのかもしれない。俺すら分からない何かに・・


「俺は転生者ではないよ。生まれ変わりではなく、生きたままこっちの世界に連れて来られたんだ」


終始無表情だったルーが口を大きく開けて驚いていた。


「わ、私はザークスって星から来たの!」


あれ、地球じゃないのか・・。

てっきり、違う世界だというので、俺と同じ地球だとばっかり・・・ルーは、また俺とは違う世界の星からこっちに転生したようだ。


「俺は地球という星から来たよ」


俺の回答を聞くと、ルーは下を向いてしまった。

自分と同じところから来た存在と期待していたのかもしれない。

それは俺も同じなんだけどね。


「ルーはここに一人で住んでるの?」

「うん・・でも寂しくはないですよぉ?私には・・・クーちゃんがいましたしね」


俺は悩んでいた。

初めて出会ったこの世界とは別の世界からきた転生者であるルー。

このまま別れるか、はたまた仲間として迎え入れて一緒に旅をするか。

この旅の目的は神に命じられて了承した俺の独りよがりの旅だ。他人をそれに巻き込んだらダメな気がする。


「ルーは、元の世界に帰りたい?」


ルーは即答した。

顔を左右にフリフリしている。


「私、あっちの世界でも一人ぼっちだったから・・こっちはクーちゃんいるから・・帰りたいとは思わないよ。それに死んでこっちに来たから、どのみち帰れないと思うし」

「そうか」


しばしの沈黙が続く。


「やりたい事とかないの?」


コミュニケーション力がないと言っていたが、話すに連れて違和感を感じなくなっていく。


「ないです!このまま平穏に暮らせたらいいなって、贅沢言うならぁ、前世では叶わなかったお友達をたくさん作りたいなって・・」


俺は意を決して話す。


「俺達は冒険者をしている。各地を巡り、来るべき時に備えて・・」


簡単に旅の目的と、今後の動向についてルーとクロウに説明した。


「私も連れて行って下さい!!」


今までで一番ハッキリとそれでいて大きな声でルーが答えた。

言って、ルーはクロウの顔色を伺っている。


「私に同意を求める必要はないよ。ルーの人生だ。好きに生きればいい。そんなルーが死ぬまで一緒にいるって誓ったんだからね」


ルーは、目に涙を浮かべてクロウを抱きしめた。

小さい精霊をそんなに力任せに抱きしめて、大丈夫なのだろうか・・。


ルーが落ち着くのを待ってから話し掛ける。


「ルーの今のレベルは?」

「私は62です」


やっぱり高いな。


この世界に生を受けた時から既にレベルは50だったそうだ。

赤子で50ってどんだけだよ・・

親に捨てられ、クロウと出会い、クロウの指南もありモンスターとの戦闘で力をつけたらしい。


狐人ルナールのユイちゃんだっけ?たぶん、ルーと良い勝負すると思うよ」


何故だか、自分の子を自慢する母親のようにペタンコの胸を精一杯張っているクロウ。

まぁ、確かにクロウからすれば、ルーは自慢の娘みたいなものなのだろう。

鑑定アナライズって持ってるかい?」

「あ、はい、あんまし使わないけど持ってます。ユウさんも持ってますよね?対峙した時に阻害しちゃったので」


やはりか。

俺にも似たような経験があった。


''何者かが鑑定をして来たので、阻害します''


と、表示した事があったのだ。

恐らく、鑑定アナライズを持った者同士は、阻害されステータスを読み取る事が出来なくなっているのだろう。

少し実験をしてみるか。


「もう一度鑑定アナライズを使うから、今度は阻害せずに受け入れるとイメージしてみてくれないか」

「うん、分かった」


鑑定アナライズ


名前:ルルシア・シーペント

レベル62

種族:人族

職種:精霊術師

スキル:鑑定アナライズ、召喚、ダブル召喚、トリプル召喚、精霊ブースト、スキリング、洗脳Lv5、

称号:異世界からの転生者


「お、どうやら成功したみたいだな」


ということは、本人の許可を得れば鑑定アナライズ持ち同士でも使用することは可能ってことか。


「今度は阻害も何にも表示されませんでしたねぇ」

「お返しにこっちも許可を出すから鑑定アナライズしてみて」

「うん」


恐らく鑑定アナライズに成功したであろうルーが固まっている。

そして、悲鳴に近い声を上げた。


「ひぇぇぇぇええ!」

「どうしたルー?」

「いや、えっとぉ、えっとぉ、ユウさんのレベルが見たこともない数値だしスキルもすごい数で・・」

確かに80越なんて数値は、モンスターを除けば先生以外で俺ですら会った事はない。

人族勇者で最強と言われている人物でさえ確か72だったしね。

でもレベルに見合うほど俺は強くない。

ユイ達を見ていると自分の実力の無さを痛感する。

実戦経験がまだまだ俺には足らない。


「いくつだったんだ?」


ルーが俺の了承を求めるように伺って来たので自分から話す。


「えっ84? それは確かに規格外にも程がある。魔王クラスじゃないのか」

「魔王クラスなのか・・直に対面した時の魔王は俺よりも何倍も凄みを感じたんだけど」

「魔王と会った事があるの?」

「人族と魔族の停戦協定の立役者は、何を隠そう、このユウさん何ですよ〜」


イキナリ俺の中から出て来たセリアが会話に割って入る。


「こいつは驚いたな。今までで1000年生きてて一番驚いたかもしれないよ」

「ユウさん・・凄い人なんですね・・」

「俺一人の力じゃないさ。仲間がいたから魔族との話も上手くいったんだよ。それより、まだ答えてなかったね」


俺はルーに握手を求めた。


ボーッとしていたルーだったが、すぐに握手に応じた。

「これからよろしくね」

「はい、よろしくお願いします!」

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