第134話:妖魔族

「な、何故ユウさんが妖魔族の言葉を話せるんですか?」

「悪いけどそれは言えない」


俺達の会話の前に妖魔族の男が間に入る。


「そんな事はどうでもいい。秘密を知られたからには消えてもらうだけだ」

「ヤク!駄目よ!」


襲ってくるのかと思えば、ヤクと呼ばれた男は地面に吸い込まれるかのようにその場から忽然と消えた。

幻影にでもはまってしまったのかと思ったが、ステータスに異常は出ていない。


文字通り地面に潜ったのだ。


どういう訳か、地面に消えると範囲探索エリアサーチで感知することが出来ない。

イキナリ不意打ちでグサリは勘弁なので、手近な木の上へと移動した。


しかし、その事で安心したのか、決定的な隙を相手に与えてしまった。

潜れるのは地面だけだと勝手に決めつけていた。


そう、地面に接していればどこでも潜ることが出来るようだ。

太い木の幹を伝って、背後からナイフを突き立ててきた。


想像していない方向からの攻撃に確かに一瞬反応は遅れたが、元々のレベル差が大きい分、反射神経の差もそれに付随して大きい。

先手は取られたが、ナイフをギリギリで躱して、そのナイフを剥ぎ取る。

また潜られたら面倒なので、首に一撃を与えて、気絶させる。


ごめんね、元々のスペックが違いすぎるんだ。


俺はヤクを担いで木の上から降りてきた。


その光景を一部始終目の当たりにしていたリアは、またしても信じられないといった表情をしていた。


ヤクをそっと地面に降ろす。

さて、ここからは質問タイムだ。


と、この場に高速で近付く反応が一つ。

これは、たぶんアイツだな。


空から現れたのは俺の予想していた通りアリスだった。

戦闘の反応でも察知したのだろうか。


「マスターの危険を察知。要因を排除しますか?」


おっとまずい。このままだと、二人がアリスに一瞬の内に消されてしまう。


「あ、俺は大丈夫だから、その場で待機な」

「了解マスター」


その場でと言ってしまったからなのか、アリスは一向に降りて来ず空中から監視している。


「じゃ、リア全て話してもらうよ。記憶喪失ってのは嘘なんでしょ?」


リアは観念したのか、周りをキョロキョロした素振りをした後、徐に話し出した。


「ユウさん、騙していてごめんなさい。それに、ヤクが酷いことをしてごめんなさい」

「うん、その件はいいよ。俺も勝手に尾行とかしてたし、言葉が分からない振りもしていたしね」

「ありがとうございます。全て話します。でも、出来れば他言はしないと約束してくれますか?」

「分かった。何か契約の儀式でもする?」

「いえ、そこまでは・・ユウさんを信じますから」


周りにアリス以外誰もいないのは確認済みだけど、秘密にしたいというので、俺からの提案で妖魔族言語で話すことにした。


リアは自分が妖魔族の生き残りであること、ある儀式を行い、人間の姿に姿に転生したことなど、秘密を明かしてくれた。

非常に興味をそそられる内容だったが、その儀式というものが悲惨な内容だった。


妖魔族は、世間一般では約1200年程前に絶滅したと言われていた。

しかし、実際には20人程度の生き残りが今も存在していた。

妖魔族という一族を終わらせてはならないと、当時の族長が生き残りを引き連れて、誰も足を踏み入れない森の奥地へと住処を変えた。

以降1200年もの間、表舞台には立たず、ヒッソリと裏の舞台で生活していた。

最近になって、仲間の中に裏切り者が現れた。

その裏切り者は、質素な現状の暮らしに耐えきれずに妖魔族の住処を飛び出してしまった。

飛び出しただけならば、まだ良かった。

有ろう事か、そいつは仲間達の命を売ったのだ。


ドアーフたちに。


ドアーフは、別名森の妖精とも言われ、長寿で知られているエルフ族の次に長寿と言われている。


当然とうの昔に滅びたと言われていた妖魔族の事も知っていた。

裏切り者のそいつは、逃亡中にたまたま出逢ったドアーフたちに捕まってしまった。

仲間達の居場所を吐けば命は助けると脅されたようだ。


「そいつは、自分の命欲しさにアッサリと仲間の命を売ったのです。無数のトラップをかいくぐるようにして我々妖魔族の住処までドアーフを導きました。結果全員がドアーフに捕らえられてしまったのです」


「なんで、ドアーフたちは妖魔族を狙うんですか?」

「私達が持っている特別な力を狙っているのです。力というよりは、この身に流れている血なんですけど」

「血?」

「はい。この血には癒しの効果が含まれていて、飲めば治らないだろうと言われている病でさえも治してしまいます」


どこのエリクサーだよそれ・・

HPもMPも状態異常さえも完全回復します!みたいな。

恐らく治癒ヒールLv5相当の効力があるのだろう。


「それは噂とかではなく、実際本当の話しなんですか?」

「はい。少数とはいえ、私達妖魔族がこうして1300年もの間生きて来られたのは、この血のおかげなんです」


なるほど、この話が本当ならば、こぞって狙われるのは火を見るより明らかだ。

いつの世界も珍しいものは狙われ、乱獲される。

俺のいた世界でも、そうやって絶滅に追いやられた動物は数え切れない程いる。

少しばかり同情してしまう。


仲間達は、全員ドアーフに捕まり、数日が経過している今、恐らくもう殺されてしまったと言う。

生かしておく意味がないからだ。

欲しいのは妖魔族ではなく、その身体に流れている血なのだから。

そして後に残ったのは、リアとヤクの二人だけだった。


そりゃ、一族最後の二人になってしまっては、警戒するのは当たり前で、得体の知れない俺に襲いかかるのは当然かもしれない。

妖魔族の言葉が喋れるということは、その血のことも当然知っていて、それを狙っていると考えるのが妥当なのだから。


「私達は、一度は捕まりましたが、隙を見て運良く逃げることが出来ました。そして、ある計画を実行しました」

「それは、俺から話す」


ヤクは気が付いていたらしい。

実は少し前から意識が戻って俺達二人の話を聞いていたのは気付いてたけどね。

ここは知らんぷりしておく。


「このままドアーフの追っ手から逃げ切ることが出来ないと判断した我々は、一族伝来の禁術を用いた」

「最初にリアが言ってた、転生ってやつかい?」

「勘が鋭いな」

「まぁ、今までの話から推察しただけですよ。逃げるには妖魔族をやめるしかないとね」

「その禁術で、リア様は人族に転生する事が出来た。多大な犠牲を払ったがな」


その禁術を使用するには、50人程の生贄が必要だった。

だから、あの集落を生贄にしたらしい。


「あいつらは、我々を追ってきたドアーフの部隊だ。命を狙われている以上、こちらとて身を守る必要がある」


なるほど、ドアーフの集落だったのか、通りで建物とかが小さかった訳だ。


禁術の内容はこうだ。

地面に巨大な魔方陣を描き、その中に50人の贄を用意するだけ。


「住人達であるドアーフだけが忽然と姿を消したのはそう言う事だったのね」

「ああ。そうだ。その際リア様が何処かに飛ばされてしまう手違いはあったけどね」

「自らの種族を護るために形だけでも人族へと転生したのは分かるけど、それだと以降はどうやって仲間を増やしていくんですか?」

「姿形は違っても私には妖魔族としての血は流れていますので、男女がいれば一族の復興は可能です」


「俺達は秘密を話したんだ。今度はそっちの番だ」


ま、そうなるよね。


「聞きたいのは、なぜ妖魔族の言語が話せるのか?ですかね」

「いや違う。お前が何者なのか?だ」


おう、そう来たか。

ま、言語が喋れる理由を説明する為には、先ほどの質問に辿り着いていただろうから、別にいいんだけど。

元より話すつもりだったしね。

自分達だけが、他人に知られれば命を奪われる秘密を話してくれたんだ。

俺も相応の対価を払う必要がある。


「俺の話もここだけの話にしておいて欲しい。仲間達にすら話していないんだ」


二人が顔を見合わせ頷く。


「俺はこの世界の住人じゃないんだ」


最初は、コイツ何言ってるの?みたいな雰囲気だったが、途中から俺が嘘を付いていないのだと気が付くと信じてくれた。


「じゃ、ユウさんは元の世界に戻るための手掛かりを探して旅をしているんですね」

「そうだね」


本当は既に帰る方法は見つけてるんだけど、流石に神の話を出すわけにもいかないので、そこは黙っておいた。

「また、ど偉い人物に出逢ってしまったな」

「ううん、ヤク。違うわ。これは神様が私達の出逢いを導いて下さったのよ」


嫌な予感がする。こういう展開は過去に何度か体験済みなんだよな。


「ユウさんの力を見込んで、お願いがあります!」


そらきた。


「仲間達の救出ですか?」

「そうです。無事だと言う確証はありません。むしろ既に殺されてしまっている可能性の方が高いです。だけど、お願い・・出来ないでしょうか・・」

「相手の情報は掴んでいるんですか?何処に住んでるだとか、人数だとか」

「あいつらは、何処かに拠点を置くことはありません。移動して暮らしています。だから、今は何処にいるのか・・。人数は、ざっくり500人程度だと思います」


俺は悩んでいた。

確かに話を聞けば同情はするけど、依頼を受ける以上、こちらも命をかける必要がある。

それに、もし受けるなら仲間達は巻き込めないので、俺の単独になる。


と、30分程前は思っていた。


「お断りします」

「・・そう・・ですよね。こちらこそ急に無理なお願いをしてすみませんでした」

「いや、勘違いしないで下さい」

「えっと、どういうことですか?」

「既に独断で行動していますので、改めて受ける必要がないってだけです」


(マスター!ドアーフの拠点を発見。その場所から南西28kmの地点です。妖魔族と思われる集団も22名生存を確認)


意外と近かったな。


(了解だ。すぐ行くからその場で待機しててくれ)

(了解マスター)


実はこうなることは予想していたので、アリスに調査をさせていたのだ。


「攫われた仲間たちの人数は22人ですか?」

「え、あ、えっと、私達を除けば23人です」


ん、アリスの報告と一人合わない。アリスが人数を間違える訳はないから、既に死亡しているか、違う場所にいるのかのどちらかだろう。


「取り敢えず一度、馬車に戻っていて下さい。みんなにヤクさんの事を説明しておいて貰えますか?」

「それは、いいんですけど、ユウさんはどちらに?」

「私は少し寄るところがあります。今から内容を説明しますね。事態は一刻を争います」

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