第133話 : 消えた住人
俺達は、謎の集落跡地を前にしていた。
数時間前まで人が生活していたような痕跡はあるのに誰もいない。
数人規模ならば話は早い。
狩か何かで、たまたま外に出ている可能性だってありえるからだ。
しかし、この集落跡の規模はだいたい50人。
不可解なのは周りに散乱している品を見るに、衣類の類が小さめなのだ。
子供だけの集落?
流石にそれはないか。
そう言われてみれば、建物の天井もやけに低い気がする。
俺でも入り口は屈まないと入れないしね。
散乱品の中には銀細工の調度品や青銅の剣など、売れば結構なお金になりそうな品まで見受けられる。
そんなものを残してまで、全員居なくなる理由がない。
可能性としてあるのは、この場所から一刻も早く離れなければならなかったくらいだろうか。
高価なものを捨ててまでも一刻も早く・・
そんな事を考えていると、無性に寒気を感じてきた。
厄介なウイルスとか、はたまたどう猛なモンスターが襲って来たとかね。
「みんな、体に少しでも違和感があればすぐに教えてくれ」
二人が、なんでー?と不思議そうな顔をしている。
集落跡が荒されてないので盗賊とかの類ではない。
「アリス、この辺り一帯の生物探知を頼む」
「マスターの命令を受諾。検索します」
俺が把握出来るのは周囲半径1kmまでだけど、アリスに至っては最大で周囲半径10kmまで把握することが可能だ。
「検索終了。私たちを除く体長1m以上でソートを実行しましたが。該当25件。内モンスター24件、人族反応1件です」
この近くには町などはないはずだから、人族の反応が気になるな。
この場にいてもこれ以上何も情報は掴めないだろう。
「人族の反応のする場所まで案内してくれ」
こんな偏狭な場所で人族がしかも一人でいるなんて、あまり考えられない。
シュリはアリスが抱え、俺はユイを抱えて空を渡り、アリスの見つけた人族反応の場所まで移動した。
遠目から見て怪しそうな人物ならば警戒するつもりだったが、一目でその必要はないと判断した。
誰かが倒れ込む形で小道を塞いでいる。
すぐに駆け寄って状態を確認した。
見た目10代半ば頃の少女だった。
酷く痩せこけていて、着ている白のワンピースもボロボロになっている。
すぐに
命に別状は無さそうだが、ボロボロになった服までは直せない。
「お兄ちゃん、どう?大丈夫そう?」
「ああ、気を失っているだけだと思う」
「私と同い年くらいかな?」
「そうだな」
先程から違和感を感じている。
少女の容態を確認するために
鑑定阻害を受けているわけでもない。
「こんな場所に放置する事も出来ないな、馬車の中に運ぼう」
下手にこの場から移動する訳にもいかないので、少女の意識が戻るのを待つ事にした。
既に日も暮れかけていたので、今日はこの場で野宿となった。
夕食は、俺特性何でもぶっ込みシチューだ。
ぶっ込みと言っても手抜きでもなく、栄養のバランスはちゃんと考えてある。
何より、量がこんもりなのだ。
仲間は減ったけど、育ち盛りの一番良く食べていた二人がいる為、作る量はそんなに前と大差ない事に正直驚いた。
「今日は俺が起きて見張ってるよ」
いつ眼を覚ますか分からないからね、誰かが見ていないと、気が付くと知らない人が横で寝てるなんて光景は俺でも怖い。
その場合は、すぐに説明しないと色々とマズい。
仮に、敵だという可能性もゼロではないしね。
朝日が眩しい。
何事も無く、朝を迎えてしまったようだ。
少女も眼を覚ます事なく。
「お兄ちゃん、シュリと朝の運動してくるね」
「ああ、あんまし遠くに行くなよ」
「行って来ます」
朝食を食べた二人は、体を動かしたくて仕方がないのだろう。
モルトトを出発してからは、毎朝こんな感じだ。
二人が追いかけっこをしている様子を微笑ましく馬車の中から眺めていると、背後から視線を感じた。
振り向くと、そこには気を失っていた少女がムクッと起き上がっていた。
「おはよう。俺は冒険者のユウ。偶然道端で気を失っているキミを見つけたから手当てをしたんだけど、身体は特に異常はないかい?」
「・・・」
無反応だった。
気が付けば、知らない場所で見ず知らずの人物が目の前にいれば動揺して喋れなくなったのか?とも思ったが、何となく違う気がする。
目の前の俺の事を警戒しているわけでもなく、辺りをキョロキョロするわけでもなく、寧ろ自分自身の身体を確かめるようにペタペタと触っている。
「・・えっと、キミ大丈夫?」
「リア」
「え?」
「私の名前はリアって言います」
良かった。
どうやら普通の子のようだ。
喋らないとかだったら少し面倒くなっていたところだった。
暫くすると朝の特訓から二人が戻ってきた。
自己紹介から始まり、リアについての話を聞いたのだが、困ったことに、この子は名前以外のことを全く何も覚えていないと言う。
俗に言う記憶喪失ってやつだろうか。
バッドステータス的な何かなら俺の
というか、相変わらずステータス見えないから確かめようがない。
こんな少女が一人でいる理由が分からない。
可能性があるとすれば、一番近い場所にあった、あの集落跡の住人なんだけど。
記憶がないんじゃ、推測の域を出ない。
一応念の為に、集落跡まで戻ってリアに見てもらうが、何も分からないの一点張り。
地図上に載っているこの辺りの一番近い場所までは、グリムを飛ばしても3日は必要な距離だ。
取り敢えず一番近い町でリアの事を知っている人がいないか探してみるしかない。
でも何か変なんだよな。
このリアって子、普通のしかも年相応の感じがない。
無邪気な感じで振舞ってはいるけど、ワザとらしいというか。
いや、うん、きっと考えすぎだとは思うけど。
無邪気さのお陰か、ユイやシュリとはすぐに打ち解けていた。
そして、その日の夜に事件は起こった。
皆がぐっすり寝静まっている時刻。
俺は何故だか寝付けなくて起きていた。
すると突然リアが立ち上がり、辺りをキョロキョロすると、なるべく物音を立てないように一人馬車の外に出て行ってしまった。
トイレだったら申し訳ないけど、気になるので姿を消して後を追う。
リアは、真っ暗な雑木林を迷い無く進んで行く。
俺には暗視があるから問題ないけど、この辺月明かりすら差し込んで来ないから普通なら見えないはずなんだけどな。
5分くらいだろうか?
暫く進むとリアの足が止まった。
辺りをキョロキョロしている。
リアが声を発した。
確かに発したはずなのだが、俺には聞こえない。
口をモゴモゴしている。
魔術の類ではない。
モスキートーン的な何かだろうか?
リアの声に反応するかのように、一人の人物がイキナリ、リアの目の前に現れた。
現れるまで
獣人族のようなその容姿にすかさず俺は
名前「ヤク」
レベル45
種族:妖魔族
スキル:幻影Lv2、影入Lv3、
妖魔族?聞いたことがない種族だな。
獣人のような耳も生えているこの妖魔族とは一体・・
(え、妖魔族?これはまた珍しい獣人族が出てきたわね)
やはり獣人族のようだ。
流石困った時の物知りセリアだ。
(1000年以上前に絶滅したと言われている種族よ)
(てことは、絶滅から免れた希少種ってことか)
(たぶんね。妖魔族は他族にはない特殊な能力を持っていたから妬まれたり、悪事に利用されたりで、ついには絶滅してしまったと聞いています)
''妖魔族言語を取得しました''
聞き取れなかった二人の会話が聞こえてきた。
「正体がバレる前に消すか?」
「ダメよ!あの人たちは、凄く良い人たちだから襲わないで」
いやに物騒な話をしているようだ。
妖魔族については、後でじっくりセリアに聞くとする。
というより、今はそんな時間がない。
どうやら隠れているのがバレたようだ。
「そこに居るのは誰だ!」
姿を消していたはずなんだけどね。
察知能力を見くびっていたようだ。
バレたのなら仕方がないので、素直を出て行くことにする。
両手を挙げて、木陰から二人の元へと近付いた。
「ユウさん・・」
「さっきの連中か?見られたから始末するぞ?」
「ダメ!会話の内容は聞こえないはずよ。私が話をつけるから手は出さないで」
えっと、妖魔族言語での会話なんだろうけど、バッチリ聞こえちゃってるんだよね。
でも聞こえるのもおかしな話で、少しだけとぼけたフリをしてみるか。
レベル差もあるし、襲われてもたぶん大丈夫何とかなるだろう。
「何だか寝付けなくって、気分転換に散歩していたら、獣人族さんに会っちゃって少しお話していたんです。だけど、言葉が通じなくて・・」
「そうなんだね。俺は夜中出て行くリアが心配だったから尾行するような事になっちゃってごめん」
「いえいえ、もう少しだけお話にチャレンジしてから、戻りますからユウさんは先に戻っていて下さい」
うーん、どうしたものかな。
あの妖魔族さんさっきから俺に向かってずっと殺気を飛ばしてるんだよね。
リアの仲間?だと思うから少なくともリアは安全だと思うけど、このまま引き返していいものだろうか。
揉め事はしたくないけど、リアの幾つかの不可解な点も気になる訳で・・。
でもここは素直に引き下がる事にする。
「じゃ、馬車に戻ってるね」
後ろを振り返ろうとした瞬間だった。
「お前、俺達の言語を理解してるだろ」
ですよね、やっぱりバレてますよね。
だって、最初に(誰だ!)の言葉で反応して茂みから出て来たからね、マズったなぁ。
「そんなはずないわ。
「馬鹿っ!」
リアは、すぐに口を手で塞ぐ。
今、私達って言ったよな?
てことは、リアもまた妖魔族なのだろうか。
「あの人族は十中八九、俺達の言葉を少なからずは理解している。それにリアの秘密を知られた以上やはり生かしてはおけん。止めるなよ。
「・・・ダメよ、殺しはもう嫌。それにユウさんには、3人の妹さんがいるの。ユウさんが居なくなったらユイさん達が・・」
話がなんとなく見えてきそうで見えてこないが、一つ言えることは、リアは俺のことを庇ってくれているってこと。
まずは謝ることにする。
「嘘ついて悪かった。話の内容は最初から聞こえていたよ」
リアが、嘘!?っという驚いた表情をしていた。
だって今俺は妖魔族の言語で話しているのだから。
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