第125話: 軍騎会

入る前から部屋の中にいる人数は分かっていた。

この中には25人の反応がある。


軍騎会は、各国の王族や勇者達の集まりと聞いている。

驚いたのは、彼らの中に獣人族の姿があった事だ。

ここにいるという事は、相当に身分が高いのだろう。

また、見知った顔がいくつかある。


プラーク王国の王様や水上都市アクアリウムの長であるベルグドさんだ。


ユイ、クロ、アリス、シュリ、ミミには、城外で待機してもらっている。

クロを身近に置いておきたかったが、身分証がないので入れなかった。

魔族もまさか敵陣の本拠地に攻め込んできたりはしないだろう。

その兆候があれば分かるしね。


「貴女は確かモルトトの聖女ですかな?」


この軍騎会の代表者と思われる人物が話しかけてきた。

当然俺にではなく聖女様にだけど。

俺なんて全く眼中にないといった感じだ。


「はい、軍騎会の皆様、お初にお目にかかります。モルトト国で聖女を務めております、サーシャと申します。本日は軍騎会の皆様に重要なお話があって参りました」


聖女様が、俺の方へ振り向き、軽くウインクをする。


俺一人だけでは恐らくこの場にすら来る事は出来なかっただろう。聖女様に感謝だな。


これから話す内容次第では、即刻処刑なんて事もありえる。慎重に事を運ばなければならないだろう。

慎重にと言っても話す内容は変わらないんだけどね。

ただ一つだけ。堂々とする事だけを心掛けるつもりだ。


「初めまして。私は、冒険者をしております、ユウと申します」


まずは深く一礼する。


「本日は、お願いがあって参りました」


俺の発言に対して軍騎会の何人かは険しい顔をしている。


「それは、今この場でやらねばならんのかね?我々は来たる魔族との戦争の作戦会議で忙しいのだが」

「はい、その戦争を止めるべく、本日は参りました」


ざわついていた議場が一瞬のうちに静かになった。


「止めるとは?」

「はい、魔族と停戦協定を結んで頂けないでしょうか?」


俺の発言に対して、皆がありえないという顔付きをし、互いが顔を見合っている。


「ははっ、キミは何をバカな事を言っておるんだね?」「そんな事出来るはずがないだろう」「魔族は倒すべき敵だ!停戦などありえん!」


「面白い事を言うな少年。仮にだ。仮にこちら側がその意思があったとして、魔族側が同意するとは到底思えんがな」


まずまずの反応かな。

さて、ここからが正念場だ。


「まず、先立って行動してしまった事に対して、深くお詫び致します」


もう一度深く一礼する。


今度は何のことだ?と言わんばかりの表情だが、気にせず話を続けた。


「私は直接魔族のリーダーである魔王と既に会談してきました。そして、人族との停戦協定を受け入れてくれると約束をしてくれました」

「は、何だって?」「魔王だと?」「貴様、嘘も大概にしろ!」「それは、我々人族に対する反逆行為だぞ!」


「皆の者、静粛に!」


軍騎会のリーダー格と思われる人物の一言に議場が再び静けさを取り戻した。


「ユウ殿と言ったか。先ほどの話は本当の事なのか?」

「はい、全て本当の事です」

「フィリス皇帝陛下!」


後ろにいた聖女様が俺の横に立ち、割って入る。


「私が保証人になります。彼の言っている事は全て事実です」


どうやら助け舟を出してくれたようだ。


「そうか・・」


フィリス皇帝陛下は、何やら考え込んでいる。


「ならば、キミを反逆者として捉えなければならない」


!?


「衛兵!今すぐ彼を地下の牢獄へ連行してくれ」


フィリス皇帝陛下に呼ばれ、ドアの所に待機していた衛兵2名が俺の両腕を拘束する。


「待って下さい!私は、戦争を止めたい一心で行動しました!戦争によって大勢の人が亡くなるのを阻止したいという思いからーー」

「それが反逆行為だと言っているのが分からんのか?我々人族は、古くから魔族と対立しているのだ。今更停戦協定など結べるはずもないであろう?」


まともにしゃべらせてくれないか・・。

ならば、これだけは言わせてもらう。


「では皆様に一つお尋ねします」


周りから野次が飛ぶがそんなのは無視だ。


「我々の祖先はなぜ魔族と対立したのか、その原因をここにいる皆様はご存知でしょうか?」

「そんなの知るわけないだろう!」「種族が違うんだ!元々分かり合えるはずもないぜ!」


「皆の者は黙っておれ!!」


フィリス皇帝陛下は、外野の野次を叱咤する。


「我々人族と魔族との言い伝えは、約5000年前からと聞いている。祖先がなぜ対立の道を選んだのかは不明だが、そんな事はどうでもよい。大切なのは、祖先達の意思を組み続ける事。今まで魔族の犠牲となった者達の為にも魔族は必ずや根絶やしにせねばならん」

「間違っています!本当に大切なのは、これ以上犠牲を出さない事!今この世界に生きている人を守る事じゃないんですか?確かに今までに魔族の犠牲となった人族の数は計り知れません。ですが、魔族を根絶やしに出来たとしても亡くなった者達は戻ってこない!だからーー」

「衛兵!早くこの者を連行しないか!」


両腕を抱えられ、部屋の外へと連れて行かれる。


「フィリス皇帝陛下!どうか彼の話を最後までーー」


聖女様も食い下がるので、身振りでそれを諌めた。

このままでは聖女様まで退場させられてしまうと思ったからだ。


衛兵を払い飛ばすのは簡単だ。

しかし、そんな事をすればより印象を悪くしてしまう。

悔しいがここは、一旦出直すしかないだろう。

すれ違いざまに聖女様の顔色を伺う。


「すみません・・・私の力及ばずです・・」


議会場の外へと連れ出され、そのまま地下の牢獄へと連れて行かれた。


「お前には反逆罪の容疑が掛かっている!追って処罰が決定するまでこの中で大人しくしてるんだな」


衛兵の二人はそう告げると元来た道を引き返していく。


「さて、どうしたものかな・・」

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軍騎会の集結する議会場にて

(聖女様視点)


「一体先程のやつは何者だったのだ?」

「ただの人族が魔族と、ましてや魔王と会談など、魔王はまだ封印されているというのに、もう少しましな嘘はつけんのか」

「我々を動揺させようとしている魔族側の刺客かもしれませんな」


皆様がユウ様の事を批判しているこの状況に少しばかり憤りを覚える。

私は聖女という立場にありながら何もお役に立てない事が歯痒くて、本当に情けない。

私など御構い無しと言わんばかりに、再び元の会議の続きが始まった。


「皆の者、静粛に。作戦会議の続きを行う」


自分の無力さに涙が出て来そうになるのをグッとこらえる。

ユウ様はここにはいない。私がやらないと。大勢の人達が死んでしまう。そんなのは嫌。私がやらないと!私しかいない!

それを何度も何度も自分に言い聞かせる。


「待って下さい!」


勢い余ってかなりの大声になってしまった。

言った手前、自分でも少しばかり驚いてしまった。

私ってこんなに大声出るんだ。


全員が私の方へと振り向く。


私は深く深呼吸をして心を落ち着かせる。


「皆様は人族の代表者の方です。ならなぜ戦争を回避出来る可能性があるというのにその話を議論なされないのですか?戦争がしたいのですか?」

「聖女よ、場をわきまえなさい。貴女にも退場してもらう事になりますよ?」

「いえ、出て行きません!皆様が私の話をちゃんと最後まで聞いてくれるまで私はこの議場から出て行きません!ユウ様がどのような思いで、この場に赴いたかお分かりですか?死を覚悟して魔王の元へ訪れたのをご存知ですか?」


そんな私の問いに対して、煩わしいと言った表情のフィリス皇帝陛下。


「聖女よ、3度目はないぞ。黙りたまえ。これ以上騒ぎ立てると聖女としての任を解くことも辞さなくなる」


権力なんかに屈したらダメ!


「黙りませんし、聖女も辞めません!私は、たくさんの血が流れる戦争は大嫌いです!だからお願いしますーー」

「ええい、衛兵、聖女も連れて行け!」


ユウ様を牢獄へと収監し戻ってきた衛兵が私の方へ近付いてくる。


ここまでなの・・・結局、私は何にも出来ないの?


その言葉に待ったを掛けた人物が二人、席を立ち私の前へ歩み寄る。


「フィリス皇帝陛下、聖女の話を最後まで聞いてみませんか?」

「ベルグド卿!何を申すか!」

「ワシは先程の者の知人でしてね、まぁ、今はそんな事は関係ないのですが、二人の話に非常に興味をそそられましてね。ベルグド卿と同じで是非とも話を聞いてみたいと思うのですが、許可をいただけませんか?」

「コンラッド王まで何を!」

「た、確かに戦争が回避、ましてや魔族と停戦が結べるのなら、魔族に怯えて暮らすことも無くなるのだよな」


ここへきて軍騎会の他のメンバーからも賛同者が現れ始める。

フィリス皇帝陛下は、周りの軍騎会のメンバーの顔色を伺い、深く溜息をついた。


観念したのかフィリス皇帝陛下が私に話をするように促した。


最後のチャンス。絶対に説得して見せますユウ様!


「フィリス皇帝陛下、並びに軍騎会の皆様、機会を頂きありがとうございます」


私はユウ様から聞いていた内容を軍騎会の皆様に説明した。


「そのユウなる人物は一体何者なのだ?ただの人族が魔王と意識の中での対話など、実に信じがたい」


話さなければならない事は全て話した。

やはり、現実離れした内容に中々信じてもらえていない。


「私は、信じましょう」


先程一番に賛同してくれた水上都市アクアリウムのベルグド卿だった。


「実は彼には賊に捕まった娘を救って頂いた事がありましてな、その実力も勇者と比較しても遜色ない程だ。私が彼の保証人となりましょう」

「先を越されてしまったな。ワシの国でも似たように救って頂いた大恩がある。それに嘘をつくような人物でない事はワシも保証しよう」


私は深々と頭を下げた。


「皆様、本当にありがとうございます・・」


少し涙で目が霞んでしまった。


フィリス皇帝陛下は、真っ直ぐ私の目を見る。

恐らく真意を確かめてるんだ。

サッと涙を拭う。

動揺するな私、堂々としてなさい!

自分に言い聞かせた。


「良かろう。そこまで言うのならば今は信じようではないか」


ここへきて議題の内容が変更になった。


「魔族と停戦協定を結ぶかどうかについて意見を出して欲しい」

「聖女よ、魔族側からの要求としては、魔王の解放だけと言っていたね?」

「はい、それだけと伺っています」

「ふむ。衛兵、先程の者を連れて参れ」


程なくして、ユウ様が議場に戻って来た。

私とすれ違いざまに、小声で話しかける。


「聖女様ありがとうございます。助かりました」


第2回戦のスタートです!

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