第123話: 魔王との交渉【後編】
俺は人族と魔族との衝突を回避する為に魔王の元を訪れていた。
「却下じゃ」
ですよねー。
今俺は魔王に無理な願いをお願いしている。
「魔王である妾をこのように封印した人族を許せと申すか?」
「許して欲しいとは言いません。だから停戦協定なんです。でも将来的には同盟が結べたらと思ってます」
「ふむ。見返りは?停戦する代わりに其方ら人族は何を妾達魔族にもたらしてくれるんじゃ?」
「まず、魔王様の無条件解放です」
「ハハハっ、笑わせるの。そんなのは交渉材料には成り得ぬことは其方には分かっておるじゃろ?」
そう。魔族側に魔王の封印場所がバレている以上、人族側が抵抗しても解放されるのは時間の問題だろう。
それだけに魔族と人族との戦力差は大きい。
何か俺が知らない秘密兵器的な物や人がいれば別だけどね。
「停戦協定を結べば、大事な同族が血を流すことはありません」
「面白い事を言うな其方は。妾達魔族はむしろ戦闘を好む者が多い。被害を出したくないなどと言った理由で停戦などありえぬな」
そうですよね。そんなに簡単にはいかないですよね。
ありきたりな説得はやめよう。
この俺の想いをぶつける。
どうせ、頭で考えていることは全て筒抜けなんだから。
「俺は・・・俺の理想は全種族との共存です。争いのない世界です。当然魔族とも仲良くなりたいと思っています」
「それは、其方の独りよがりのエゴじゃの。到底実現するとは思えぬがな」
「そうかもしれません。だけど、いつまでも争ってばかりじゃ前に進む事は出来ない!お互いが一歩でも歩み寄れば、互いの良い所だって見えるかもしれない!欠点だって補えるかもしれない!分かち合える部分だってあるかもしれない!」
その後も一方的に想いをぶつける。自分でも驚くくらい熱く語ってしまった気がする。
少し恥ずかしい。
「其方の言わんとする事は分かった。むしろ共感出来る部分も少なからずあるしな」
魔王は、今まで以上に真剣な眼差しで俺を直視する。
しかし、何故だかいつの間にか威圧を感じなくなっていた。
「じゃあ・・」
「妾からも一つ頼みがある。それを呑んでくれれば、人族と停戦協定を結んでやっても良いぞ」
!!
「頼みですか?俺にできる事でしたら」
嫌な予感しかしないが、停戦協定の為ならば・・。
「そう、身構えずとも良い。別にとって喰おうと言う訳じゃない」
しかし魔王は意味深なニヤリとした笑みをこぼす。
「妾は、其方に非常に興味が湧いた。魔王と対峙して物怖じしないその度胸。何より其方かなりの強者であろう?人族にしておくのが勿体無いくらいじゃ」
「えっと、つまりどういう・・?」
「其方が欲しい。妾が貰い受けようぞ」
はい??
いやいや、意味がわからない。
欲しいって何だ?
この世界には俺達二人しか居ないはずなのだが、第三者の声が聞こえてきた。
「だめです!!」
この声は・・
「それは認めませんよ!バルちゃん!」
「なんだメル、聞いていたのか」
俺達二人の前に現れたのは神メルウェルだった。
え?
相性で呼び合う程の仲なの?
「ユウは私が最初に目を付けたんだからね、いくらバルちゃんでも渡しません!」
「いいじゃないか、メルはずっと見守っていたんだろ?今度は妾の番じゃ」
「バルちゃんだって、分身体を通してユウの事を見ていたじゃない!」
えっと、うーんと。
魔王と神が俺を奪いあってるこの光景なに・・。
その後、二人の言い合いは30分以上も続いた。
俺は完全に蚊帳の外にされていたのは、言うまでもない。
だって、話の次元が違いすぎる。
渡さなければ、神の社を破壊するだとか、神の力で魔族は魔界から出れなくするだとか。。
物騒にも程がある。職権乱用もいい所だ。
どうみても俺は場違いだった。
「ところでメルウェル様は、魔王様とどう言った関係なんですか?」
言い争いもひと段落ついたようなので、疑問に思っていた事を尋ねる。
「え?そうね、んー強いて言えば、お友達かしら?」
「メルは、最も古い友人だな」
「えっと、その、神が魔王と友達って大丈夫なんですかね?」
俺の質問に対して二人は何言ってるの?って顔をしている。
「そんなの大丈夫な訳が無いでしょう。他の神に知られれば私は神の座から追放されてしまうわ。ただでさえ私は神の中でもはみ出し者呼ばわれされていますからね〜」
「その時は魔界へ来るがいい。妾の側近として歓迎するぞ」
「それも悪く無いわね〜」
いいのかよ!あんた神でしょ!
「ま、冗談はこれくらいにしておいて、結局バルちゃんはどうするの?停戦協定は承諾するの?あ、ユウは渡さないからね」
その後の話し合いで何とか決着がつき、俺は宿屋の私室へと戻ってきた。
数時間は神の社に行っていたはずなんだが、実際現実時間は5分も経っていなかった。
何処かの世界の修行部屋のように神の社では時間の経過するスピードが違うようだ。
一通り説明し終えたところでみんなから質問攻めにあう。
というかまず怒られてしまった。
魔王に単身で会いに行くなんて危険すぎると・・。
「その件に関しては、何の相談もなしで本当に悪かった。謝るよ」
「ユウ様にもしもの事があれば、いくら魔王様でも許しません!」
今回の魔王への訪問の目的は二つある。
まず一つは、メルシーやクロ、魔王の堕とし子を救う為に魔王の意思を確認した。
結果、魔王も贄は必要としていない事が分かった。
メルシーを救いたいと、俺の元を訪れていたイスも、その結果に安堵したのか、ホッと溜息をついていた。
「本当に良かった・・」
「まだ安心はしていられないぞ」
イスがどうして?という表情をしている。
「そうですね、魔王様の意思はユウ様から聞いて、少なくとも私達は理解しましたが、これを第三者にどう説明しますか?」
「どうって、そのまま伝えるだけだよ。魔王様は堕とし子の贄を必要としてないって」
「みんながみんな、物分りが良いとは思えませんね」
「ああ、そうなんだよ。俺の言葉なんて、魔族からすれば敵対している人族のものだし、ジラは魔族の元幹部でも今は離れちゃっているからな」
俺とジラは、イスの顔色を伺う。
「私も一応クオーツという身分の保障された幹部ではあるけれど、敵対行動しちゃってるし、現在進行形で魔界から逃げて来ちゃったしね・・何処まで私の事を信じてくれるか」
ある程度の地位があって、魔族の上層部にも顔がきくような人物がいればな。
「そういえば、フランさんは?」
フランさんは、メルシーの姉的存在であり、護衛役だった。
フランさんの強さは、魔族の中でもかなり上の方で、それなりに権力があったはずだ。
「フラン様はメルシー様と一緒に捕まってしまったわ」
「そうか・・」
他に俺の知ってる知り合いはいないしな・・
ジラが何かを決心をしたような目をして自分の考えを述べる。
「ユウ様、少しだけユウ様の元を離れる許可を頂けませんか?」
「ん、それはいいけど、何かいい策でもあるのか?」
「はい、私は魔族の中でも三大貴族の生まれです。ですので、一度魔界へ戻り、現当主である私の兄を説得してみます」
ジラは、ガーランド卿という名門貴族だと聞いていた。
「勝算は?」
「魔族を裏切り、外へと飛び出してしまった私の話を聞いてくれるかは分かりませんが、この身に変えても伝令役の任を務めてみせます!それに、停戦協定の話も事前にする必要がありますし」
魔王に会いに行ったもう一つの目的は、これから起ころうとしていた、第三次人魔対戦の阻止だった。
こちらは、半ば諦めムードだったが、途中から魔王の友達らしい神が交渉に参戦してくれて、条件付きだが人族との停戦に合意してくれた。
「確かにそうだけど、それだとジラの身が危険じゃないか?」
「私が全力でジラお姉様を守ります!」
力強い口調でイスが自身のペタンコの胸をポンと叩く。
「いやでも、やっぱり危険だ。そのまま捕らえられてしまうかもしれない」
「ですが、ユウ様には人族側の交渉があります。そちらは私だとお力添えする事が出来ません」
ユイが俺の袖を引っ張る。
「お兄ちゃん、きっと大丈夫だよ。ジラを信じてあげて。ね?」
確かに、俺が魔界へ同行しても、大して役には立てないだろう。それならば、仲間を、ジラを信じるしかない。
「分かった。頼んだぞジラ。だけど、自分の命を最優先にするんだ。任務を達成してもジラの身に万が一の事でも起きたら、俺は俺を許さない」
「ありがとうございます。必ず任務をやり遂げてみせます」
俺とジラは軽い抱擁を交わした。
連絡を取り合う為に、遠距離通話用の魔導具テレコンイヤリングと緊急時の為に透明化のマントをジラに手渡した。
「何かあったらすぐに連絡してくれ」
「分かりました」
ジラは深々とお辞儀をして、彼方へと飛び去っていった。
「やっぱりアンタって只者じゃないわよね。私が惚れ込んだだけの事はあるわ」
「いいからはやく行けって。ジラの事頼んだぞ」
「ええ、ジラお姉様は私の命にかえても守ってみせるわ」
「お前も死んだらジラ同様許さないからな」
イスが若干照れた素振りを見せつつ、同じように軽く抱擁を交わして、ジラの後を追い空の彼方へと飛び去って行った。
「さてと、俺達も行動を開始しようか」
まずは、聖女様の所へ行き、停戦協定の話をする。
「これ以降、クロは魔族側の襲撃の恐れがある為、いつも以上に注意してくれ。皆もクロの周囲には十分に警戒してくれ。後、一人での外出は禁止だからな」
「分かった」
念の為に、ブリックリングをクロに渡しておく。
これは、一度だけ装着者の致死性の攻撃を無効化してくれる優れものだ。
用心に越した事はない。
「というわけなんです。聖女様」
大聖堂を訪れ、聖女様に事の成り行きを説明した。
「ユウ様は、本当に凄いお方ですね」
「聖女様にもお願いしたい事があります」
「分かっています。人族側への停戦協定の持ちかけですね」
「はい、俺と一緒にお願い出来ますか?」
聖女様は席から立ちあがり、窓の方へと歩み寄る。
「私も争いは好みません。魔族との争いが無くなるのでしたら、精一杯尽力させて頂きます」
良かった。万が一にでも断られたらどうしようかと思っていた。
俺なんかが掛け合うよりもずっと身分の高い聖女様の声の方がよっぽど響き渡るだろう。
さて、こちらも行動開始だ。
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