第115話: 部族間抗争
ひょんな事から少年の情報をもとにモンスターの大進行を調査する事になった。
少年からは場所を聞くだけのつもりだったが自分もついていくと聞かず、結局一緒に行く事になった。
宿へと戻り、皆に事情を説明する。
「そんなわけで、ミミ。ちゃんと少年を護るんだぞ」
「なんでボクがそんな事しないといけないのさ!」
拒否ってはいるが、俺の言う事には逆らえないようになっている。
それにミミは戦闘向きではなく、どちらかというと防衛向きなんだよね。
俺以外に回復が使えるのは非常に助かる。
「モンスターの大群を見た場所は、この港町から半日くらいの距離がある場所だよ」
「ご主人様、やはり少年を危険な場所に連れて行くのは、ちょっと・・ご両親も心配されると思いますし」
「なんだよ!オレを子供扱いするなよ!こう見えてもここにいる誰よりも年上だと思うけどな!」
いや、それはないだろ。どうみても10歳くらいにしか見えない。
「オレは、47だぜ!」
え?
(嘘はついてませんよ)
(調べるのはやいな。てかまじかよ)
って事は本当なの?
「子供の頃から何故だか容姿が変わらなくなったんだよね」
「残念!ボクはその10倍は年上だよ」
ミミがドヤ顔をしている。
少年が驚いていた。いや少年じゃないのか・・いや見た目少年だし、このままの呼び名でいいか。今更変えるのも面倒い。
「両親はとうの昔に死んじゃってるしさ」
「それは・・ごめんなさい」
リンが誤っている。
「気にしない気にしない!」
というわけで、結局少年も連れて目的地へと向かう。
当初、少年が自分の馬車を出すと行っていたが、何かあっても困るので俺の馬車を使う事にした。
出し入れ自由だしね。
久しぶりにグリムに頑張ってもらおう。
ストレージから馬車を取り出す。
そして、グリムが入っているカプセルを取り出し、グリムを召喚した。
召喚って響きは、なんだか悪くない。
今更ながらファンタジー感プンプンな言葉だ。
このカプセルはグラキール王国で購入したのだが、自分の使役しているモンスターを中に収納する事が出来る。
このカプセルの中がどうなっているのかグリムに直接聞いてみたが、一言でいうなら何もしなくていい場所なのだそうだ。
お腹も空かないし、する事もないので基本的には寝てるらしい。
後々使えるかもしれないので、かなりの高額だったが複数購入しておいた。
少年の言う場所に近付いてきた為、俺は遠視でその付近を確認していた。
少年の情報通り、確かにその場所にモンスターの大群が集結している。
少年が見た時からずっとその場から動かなかった事になる。
「リザードンマンの大群だな。レベルも40〜50と、かなり高めだ」
「流石の私達でも全員が相手となると真っ向勝負だと厳しいですね」
「策を練る必要がありますね」
「マスター命令を。その程度なら1人で殲滅可能」
「だめだよ!ユイも戦うんだから!アリスちゃんの独り占めは絶対ダメだからね!」
「クロも本気だす」
冷静なジラ、リンとは違いアリスとユイとクロは真正面からやる気満々だ。
頼もしいと言えば頼もしいんだけど。
戦闘民族にはなって欲しくないんだよね。
ていうか、そもそもなんで戦う事前提になってるんだよ!
「戦うかどうかは、あの指揮官っぽいやつに話を聞いてからだな」
人間の姿をした人物がリザードマンの中に一人だけいる。
「大勢で行って刺激しても嫌だからまずは俺一人で話をしてみるよ」
「それはだめです!危険すぎます!」
断固反対するリン。
リンは大げさなほど俺の身を案じてくれる。
自分が主人と認める人物の身を案じるのは当然と言えば当然だと思うけど、過剰すぎるのもね。
「大丈夫さ、いざとなればポータルリングから。何か様子がおかしかったら、すぐに助けを呼ぶからさ」
「ユウ様が遅れを取るとは思っていませんけど、十分に気を付けて下さいね」
「ああ、ありがとうジラ」
いきなり現れて驚かすのも悪いので、遠目からでも分かるようにストレージから取り出した白旗を振りながら近付く事にした。
しかし、これが失敗だった。
(確か、リザードマンは開戦時に白旗を振ってませんでしたっけ?)
(え?それまじ?)
普通一般的に白旗は、降参とか攻撃の意思はなく、非好戦的な場合に用いるんじゃないのかよ!
リザードマン達がこちらに気が付き、威嚇の視線を送ってきた。
あ、これはまずいやつだ・・。
(戦う意思がないって、どう表現するんだ?)
(分かりません・・)
痛い、視線が痛いよ・・
あんなに強そうな輩にあんなに大勢に殺気を含んだ視線を送られたら、流石に泣きたくなってくる。
というのは冗談として、言葉が通じるかは分からないが、言葉での解決を試みて見よう。
俺は両手を挙げたままリザードマン達に近付いていく。
「好戦の意思はありません!」
終始睨まれてはいたが、近付いても襲ってくる事はなかった。
人族にしか見えないリザードマンが先頭に立ち俺と相対している。
「俺は人族のユウ。キミ達と話がしたい」
果たして言葉が通じ、コミュニケーションをとる事が出来るのだろうか?
人型のリザードマンは、仲間達と何やら相談しあっている。
このまま敵と認識されて襲われたら流石に怖い。
そうなってもいいように色々と手は考えているんだけどね。
「私、名前シュリ・ザラミシア。竜人達の長している。私達何か用か?」
よっしゃ!
意思疎通が取れた事に心の中でガッツポーズをする。
人型のリザードマンのシュリさんは、獣の皮を頭から被っていた為、遠目からでは気が付かなかったが、整った顔立ち、小柄ながらも間違いなく美人と呼べるだろう。よく見ると尻尾が生えている。
「教えてくれないか?このような大部隊で何をしようとしているのかを」
シュリさんは、また振り返り、仲間達と話し合っている。
「私達竜人族、これから戦争する」
いやいやいやいや!
やはり最悪な方向なのか?と思ったが詳しく聞くとどうやら違うようだ。
簡単に言うと部族間抗争だった。
相手は同じ竜人族。
お互いが存続を賭けての抗争だ。
各地に散らばった竜人族達は、部族間の掟で必ず守らねばならない事があるそうだ。
”遭遇すれば、相手が降参するまで戦わなければならない”
勝った側は、負けた側から生殺与奪の権利が与えられ、勝った側の言う事を聞かなければならない。
事情はあるのだろうが、迷惑な話だ。
この場所は、港町から半日足らずの場所だった。
港町に影響が出ないとも限らない。
「私達絶対負けられない。私達負ける人族襲われる」
ん?今無視出来ないフレーズが。
「どういう意味ですか?」
「私達ザラミシア猟団、人族と争い好まない。でも相手マルドゥーク猟団、人族と好戦的」
うーん。
竜人族間同士の争いに人族が関わるべきではないと思っていたんだが・・。
この話が本当なら勝敗によってはマズいことになる。
(ノアどうだ?)
(嘘はついていないと思うわ)
(うん、ありがとう)
竜人族の後ろの方から罵声が浴びせられる。
シュリさんが、ビクッとそれに反応した。
「人族邪魔。早くこの場所離れる」
急に騒めき出し、物々しい雰囲気になっていたが、その答えはすぐに
この場所に近付く無数の反応だった。
俺は皆の元へと戻り、見聞きした内容を説明した。
「やはりこちら側の勢力を手助けするんですか?」
ジラが不安そうに質問する。
「うん、俺も最初はそう思っていたんだけど、静観することに決めたよ」
本来竜人族間の争いは神聖なものらしい。
だから第三者が邪魔するのも自然の理に反するんじゃないかと考えた。
どちらが勝ったとしても、人族側を攻めてくるならば俺達も動くという事だ。
今まさにこの場所で争いが始まろうとしていた。
「危険だから、離れるぞ!」
グリム馬車に乗り込み、すぐにこの場所を離れる。
だいたい5kmほど離れた所に馬車を止めた。
俺は遠視を使い、戦況を見守る。
出来る事ならば、シュリさんの勢力に勝って欲しいんだけどね。
そして、相手側勢力が到着し、互いの長が前に出て何やら話し込んでいた。
抗争のルールでも決めてるんだろうか?
何やらもめているようだ。
次の瞬間、俺は衝撃の光景を目の当たりにした。
抗争開始の合図はまだの筈だが、シュリの後ろにいた仲間達が既に取り囲まれている。
おかしい、まだ抗争は始まっていないはずだ。
!?
まさか、はめられたのか?
次々にシュリの仲間達が討ち取られていく。
お互い元々実力が拮抗していたはずなのだが、不意を突かれた事により、一方的にやられていた。
しかし、あんなのは反則だ。
何があったのかは分からないが、無性に腹が立ってきた。
「みんなは、ここに居てくれ」
みんなの制止を振り切った俺は
遅かった・・。
降り立った時には、既にザラミシア猟団の殆どが殺されてしまっていた。
シュリも背中に何本もの槍が刺さり地面に伏せっている。
それを見てマルドゥーク猟団の連中は笑っている。
そのままシュリの前へと降り立った。
なぜ空から!こんな所に人族が!と皆が驚いた表情をしている。
言葉が分からないのであくまでも推測だけど。
何やらこちらに向かい威圧的な言葉を発しているが言葉が分からない。
”竜人言語を取得しました”
ありがとう神様!
すぐに竜人言語レベルをMAXまで振った。
「なんだ貴様は!死にたくなければすぐにここから立ち去れ!」
「人族は皆殺しだ!」
前方の罵声に混じり、後ろからシュリの弱々しい声も聞こえた。
「何してる・・。早く逃げろ」
すぐにシュリの状態を確認する。
かなり傷付いてはいるが、まだ命の危険はないな。
やはり、人族と違って相当タフなようだ。
さてと・・。
マルドゥーク猟団の長の方へ向き直す。
「神聖なる部族間抗争を卑劣な手を使い汚したのか?」
またしても驚きの表情をされてしまった。
言葉が話せる事に対してだろう。
「なぜ下等種族の人族が我らの言葉が話せる!答えろ!」
「質問しているのはこっちだ!」
「お前何してる。殺される逃げろ・・」
自分が殺されそうだってのに相手の身を案じるシュリの事をどうやら俺は気に入ってしまったらしい。
「笑わせる・・。勝てばいいのだ!どんな手を使おうともな!そうやって我らは今まで勝って来たのだ!」
後ろからシュリの鳴き声が聞こえる。
自分の仲間達が全員死んだのだ。
名誉の戦死などではない。
姑息な手を使われ一方的に惨殺されたのだ。
「まあいい。貴様もそいつと一緒に殺してやる!」
マルドゥーク猟団が動いた。
奴らが襲って来る。
でも残念。
マルドゥーク猟団の数はおよそ60人。
そいつらがバタバタと倒れていく。
「な、な、何が起こっている!」
マルドゥーク猟団の長が俺から距離を取る。
悪いけど眠らせてやったよ。
俺は、シュリの元へと向かう。
「悔しいよな・・」
シュリは依然として泣いていた。
「シュリ。その悔しさをバネにあいつに目に物見せてやるんだ」
「ん、意味・・分からない」
俺はシュリの背中に刺さっている槍をゆっくりと引き抜く。
シュリは苦悶の表情を浮かべる。
そして
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