第114話: ジラの決意
俺は二人の後を追った。
先程まで
どうやら高速で何処かに移動しているようだ。
もしくは転移か?
(ノア頼む)
俺の中にいる精霊のノアは探し物を見つける特技がある。
(特技じゃなくて、能力だよ!)
そう、厄介なことに精霊と俺とはリンクしており、心の中で思った事は精霊に筒抜けだ。全く、プライバシーもあったもんじゃない。
(変なこと考えてもすぐに分かるよ!)
(こらノア!ユウさんを困らせないで下さい)
まぁ、そういう事。変な妄想をしないように日々気を付けている。
ノアがジラとクロを探してくれている間、最後に反応を確認した場所まで移動する。
(見つけたわ。郊外みたいね。恐らく誰かと戦ってるみたい)
すぐにノアのナビゲートに従い俺は郊外へとやってきた。
「なんだ、あれは・・」
巨大なドーム型の反透明な膜のような物が眼前に広がっていた。
どうやらジラ達の反応はあのドームの中のようだ。
(結界ですかね?)
透明といっても、中は薄暗く様子を伺う事が出来ない。
ジラやクロにこんな芸当は出来ない。
それに、この中には3つの反応がある。
耳をすませば戦闘をしているような衝撃音が微かに聞こえる。
俺の聞き耳スキルでやっと聞こえる程度という事は、この結界は、防音効果も備えているようだ。
嫌な予感がするな・・。
これほどの規模の結界となれば、相手の実力は相当なものだろう。
結界を張ったという事は、誰にも邪魔をされたくないという事になる。
俺は結界を壊す為、ありったけの魔力を込めてエレメンタルボムを使用する。
俺が現在使用する事の出来る最も強い魔術だ。
これで結界が壊れなければ現状俺に破る術はない。
一発放っただけでは、効果があるのかないのか分からなかった。
MPの消費は、もはや気にしてはいられない。
何発も何発も繰り返す。
数分続けた所で結界にヒビが入る。
このまま続ければいけるな!
ストレージからMP回復ポーションを取り出し、一気に飲み干す。
そして、繰り返すうちに何とか人一人が通れる程の穴を開ける事に成功した。
この結界、自動修復機能なんてものがついているようで、ヒビ入った先から見る見るうちに修復していく。
もはや時間との戦いだった。
もっと効率良く破壊する方法があるのかもしれないが、他に方法が思い付かない。
結界の中に入ると、徐々に入り口が狭くなり、やがて閉じた。
まず目に入ったのは、地面に広がっている魔法陣だった。
俺はその魔法陣に見覚えがあった。
前にジラに見せてもらった新しく覚えたと言う魔術だ。
確か効果の程は、範囲内のターゲットに致死性の猛毒効果を付与するというものだった。
魔法陣の中に二人の姿が見える。
一人はジラのようだ。
倒れ込んだまま微動だにしていない。
いつの間にか
一人は魔法陣の中と離れた場所にいるクロだ。
クロは気を失っているだけだろう。
問題なのはジラだ。
魔法陣の効果がまだ残っているが、そんな事はどうでもいい、俺はすぐにジラの元へと駆け寄る。
抱き抱えるが、ジラはグッタリとしていてピクリとも動かない。
「き、貴様は誰だ・・」
魔法陣の中にいるもう一人の人物だった。
ジラはコイツを倒す為、自らの命を
経緯は分からない。
だが、これだけは分かる。
「お前の敵だ」
「はは、なるほど・・な、貴様が・・ジラを奪った人族か・・どうやって結界を破ったのかは・・知らんが、少し遅かったな・・ジラは先程死んだよ・・」
この魔術をくらって生きてるとはタフな奴だな。
「状況は分からないが、ジラはお前から守ったんだよ。大切な仲間を」
「いい奴だったよ・・・そんなあいつを・・奪ったお前が・・憎い・・」
責任転嫁も甚だしいな。
敵意を向けられても戦意は沸かない。
だって、お前はもう・・
バルトレイも既に反応がなかった。
俺のHPも徐々にだが、減りつつある。
俺には、かなりの毒耐性があるはずなんだけど、やはり相当強い魔術のようだ。
パリンという、ガラスが砕けるような音が聞こえた。
結界が消滅した音が辺りに鳴り響く。
恐らく術者が息絶えたからだろう。
いつのまにか魔法陣も消えていた。
エスナ先生・・
あの秘術を使用します。
ジラ、ごめんな。すぐに駆けつけてあげられなくて。
そして今からする事に対して、もう一度誤るよ。
ごめんな・・。
悪いけど、死なせないよ。
恨んでくれても構わない。
だけど俺にはジラが必要だ。
俺はエスナ先生に教えてもらった秘術を思い出していた。
1.対象者は、死亡してから1時間以内である事。
2.使用するには、術者の全魔力を消費する。
3.使用された者は、直前の記憶が無くなる。
4.同じ相手には2度使えない。
5.1日1回の使用制限がある。
使用条件は満たしているはずだ。
直前の記憶が無くなるというのが気になるが、使わない選択肢はない。
俺は抱き抱えていたジラを優しく地面に寝かした。
そして目を閉じ、ジラに向かって
ヤバい・・意識が遠退く・・。
予想外だったのは、発動直後俺は意識を失ってしまった事だ。
恐らくMPが0になってしまった為、一時的に意識喪失してしまったものと思われる。
目を覚まし、辺りを見渡す。
どの程度気を失っていたのかは不明だが、気を失う前と何ら景色は変わっていない。
俺はジラを抱えて、クロはユイを呼んでおぶってもらい宿屋へと戻った。
それから数日が経過する。
ジラは丸一日眠っていた。
俺も数日は、脱力感、無気力感に苛まれていた。
早々使う機会があるとは思えないが、強制で意識を失うのはかなりヤバい。
使う時は十分に周りに配慮する必要がある。
ジラにも変化があった。
ジラの記憶は、前日の夜までしかなかったのだ。
こちらも
つまり次の日の出来事である魔族との戦闘の記憶はない。
その時の事は、クロから聞いている。
あの魔族の目的がクロを連れ去る為だった事、それをジラが命を賭してそれを阻止した事。
俺はジラに話すかどうか迷った。
ジラが目を覚ますまで、それこそ丸一日以上だ。
”1回死んだんだけど、生き返ったから大丈夫だよ”
そんな事言えるわけがない。
結論は半分話して半分は時を見て話す事にした。
死んでしまった事、それを俺が生き返らせた事以外を説明する事にしたのだ。
今は、敵の攻撃によるダメージで記憶を無くしてしまったと説明している。
流石にクロの意識を失う前の事象と俺の状況把握だけでは、バルトレイがクロを連れ去ろうとした目的は分からなかった。
ジラにバルトレイが死んだ事を告げると顔色は変わらなかったが、若干悲しそうな表情に見てとれた。
それと、暫くの間はクロの単独行動は禁止にした。
必ず、リンかジラが同行する事を原則とする。
念の為、宿も別の場所に変えている。
どうやって俺達の居所がバレたのかは不明だが、無駄かもしれないが別の宿にする。
もちろん、一番広い部屋だ。それだけはユイが譲らなかったからなんだけどね。
この数日は、外出は極力控えていたので、皆のウズウズ感が半端ない。
ユイは、ミミを弄って遊んでいたので一人楽しそうだったけどね。
魔族に狙われているからという訳ではないが、明日にでもこの街を出ようと思っている。
ここは港町というだけあり、それ以外の物が何もないのだ。ギルドすらない。もちろんダンジョンもね。
俺はここを出てバーン帝国に行こうと思っていた。
アルゴート共和国並びにこの世界の最大の国でもある。
個人的には、ムー王女とも話してみたいしね。
そうと決まれば早速みんなに説明し、明日の朝一に出発する事にする。
黙って出て行くのは流石にどうかと思ったので、勇者一行にだけは、出発の挨拶をしておこうと思い、事前に聞いていた宿へと向かった。
クロに限らず、一人行動は避けるようにしている。
それは俺も例外ではない。
今回はアリスについて来てもらう。
俺達の中で一番強いのって、たぶんアリスなんだよね。
魔力という限界活動制限時間はあるが、魔力が続く限りは終始無双状態だ。
俺とアリスは宿の勇者一行の部屋の前までたどり着いた。
扉には、あからさまに勇者への依頼はこちらなんて貼り紙がしてある。
扉をノックした。
「すみません、ユウです。エルレインさんはいらっしゃいますか?」
中から物音がして見知らぬ女性が出てきた。
「入って」
手を引っ張られ、半ば強引に部屋の中へと引きずり込まれる。
「えっと、エルレインさんに挨拶をしに来たんですけど」
「彼はいないわ。他のみんなもね」
任務でも受けているのだろうか。
「伝言を頼んでもいいですか?」
「モンスター討伐の依頼?それともワタシ?」
いやいやどっちも意味が分からない。
「えっと、明日この街を発つんで、その前に挨拶をと・・」
「なんだ、仕事の依頼じゃないのね」
彼女の名前はユテルバさん。勇者一行の事務担当なのだそうだ。
勇者は現在依頼を受けて、隣町に行って今日は戻らないらしい。
仕方がないので、来た事だけ伝えてもらう事にし、勇者部屋を後にしようとした時だった。
ドタドタドタと慌ただしく誰かが部屋の前まで来て、扉が勢いよく開かれた。
「勇者様!助けてくれよ!」
まだ若い10台前半あたりの少年だった。
相当に息を切らしている。余程急いでいたのだろう。
「勇者は明日まで戻らないわ」
少年はショックのあまり、その場に倒れ込む。
「どうしよう・・こんなの勇者様にしか頼めないってのに・・」
しょうがない。手助けしてあげるか。
「ちなみにどんな内容なんだい?俺は勇者ではないけど、力になれる事なら協力するけど」
少年は俺の方を振り向き品定めするかのように下から上へと視線を巡らす。
「にいちゃんみたいな弱そうなのには無理だよ」
少しイラッとしたが、相手はまだ子供だ。
ここは大人の余裕の態度ってのを見せないとね。
「一応話だけでも教えてくれないかな?」
少年は渋々と言った感じで話してくれた。
少年は行商人の子供だと言う。
隣町への行商の帰路でモンスターの大群を見たそうだ。
全員が同じ種族のモンスターで、モンスターを先導している者が居たそうだ。
姿は離れていた為、よくは見えなかったようだが、人族のような姿をしていたという。
「進行方向からしたら、絶対この港町に向かってるんだよ!大人たちに話しても誰も信じてくれないしさ!」
この話が本当ならば確かに妙な話だな。
大量のモンスターを使役しているモンスターテイマーの仕業か?
少年の話だと、モンスターの数は100体を超えていたそうだし、さすがにそれはないか。
(どうだノア?)
(うーん、嘘はついていないと思うよ)
精霊のノアには、嘘を見破る能力も持っている。
ノアがそう言うなら仕方ない。
「信じるよ。場所を教えてくれないか?」
「にいちゃんが行っても死ぬだけだぜ」
「俺一人じゃないさ。それにこう見えても結構強いんだよ?」
最初は信じていなかったが、魔術を見せると簡単に信じてくれた。
その時、少年は口をぽかーんと開けて数秒フリーズしていた。
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