第116話: モルトト
先程までの悔しさで涙を流していた表情が一転して、相手を睨みつける獅子の如く怒りの表情に変わっていた。
こうマジマジと見るとシュリは本当に人族と変わらない少女なんだけど尻尾が生えている。
外見年齢は、ユイよりも上だろうか。
「人族感謝。この恩忘れない」
「いや、あれは俺も許せなかったからな」
名前「シュリ・ザラミシア」
レベル51
種族:竜人族
職業:槍騎士
スキル:三連突Lv3、一閃Lv2、
「マルドゥーク!私と一騎打ちしてもらうぞ!」
今この場に立っているのは、シュリとマルドゥークと俺だけだ。
他のマルドゥーク猟団の者には悪いが眠ってもらった。
これでシュリが正々堂々一騎打ちが出来る。
「どんな手を使ったのかは知らんが、貴様のような人族の姿をして生まれてきた異形種に俺が負けるはずなどありえんわ!」
俺は、その場から離れる。
これは二人だけの決闘だ。舞台を整えるための手助けはしたが、これ以上の介入をするつもりはない。
シュリは仲間達の無念さを晴らすための闘いでもある。
その後壮絶な二人の闘いが繰り広げられたが、予想とは裏腹にシュリが優勢だった。
相手のレベルも同程度だった為、もう少し苦戦すると思ってたんだけど、怒りによる相乗効果もあったのかもしれない。
最後は、その長い槍でマルドゥークの首を一刀両断する。
仲間達を呼び、全員で丁重に死者達を弔った。
マルドゥーク猟団は長を失い、そのまま散り散りにバラけていった。
「シュリはこれからどうするんだ」
「仲間失っても私ザラミシア猟団の長。一人でも闘い続ける」
一人でも・・・か。
俺は皆の方へ振り向く。
どうやら俺の言いたい事が分かったようだ。
皆が頷き返す。
大事な事を決める時は全員の意見を求める約束だったからな。
「シュリ、俺達と一緒にこの世界を旅しないか?」
シュリは俺からの意外な発言に驚いていた。
そしてその頬を伝うものが流れた。
「何故涙出る。私おかしい・・・涙止まらない・・」
そのままシュリが下を向いてしまった。
すぐにジラが駆け寄り、優しくシュリを抱きしめる。
こういう時は、やっぱり女性じゃないとね。
ジラにGJのウインクして一緒に馬車に乗り込む。
そのままの勢いで港町ペリハーファの宿屋までシュリをお持ち帰りしてしまった。
お持ち帰りと言っても変な意味はない。
確かに外見は可愛い。
小柄なので若干の幼さを感じるが、顔立ちは非常に整っており大人びた印象も受ける。
唯一人族との違いは、尻尾が生えている点だろう。
シュリ曰く、両親は両方竜人族にも関わらず、突然変異か何かで人族に似た姿で生まれてきたそうだ。
セリアの推測だと、何世代か前に人族との交配があったんじゃないかって話なんだけど。別に理由なんて何だっていい。
「シュリちゃん、今日からお友達だよ!」
相変わらずのユイの世界はみんなお友達スキルは絶好調のようだ。
「シュリは竜人。人族友達なれる?」
「なれるよ!ユイだって
うん、悩み相談はユイに任せよう。
「少し出てくるよ。リン一緒に来てくれか?」
「はい、分かりました」
そうして向かった先は勇者の泊まっている場所。
昨日は居なかったが、今日は勇者がいた。というより、俺を待っていた。
部屋の中に入るなり、やはり強引に引っ張られて中に連れて行かれる。
「ユテルバさん、痛いです・・」
彼女は勇者パーティーの事務担当だ。
「よお、来たか!悪いな、ユテは少しばかり強引なところがあるんだ。でもま、仕事は出来るんだぜ?」
「こんにちは勇者」
「おう。待ってたぜ。ユテとその少年から話は聞いたが、俺達の不在中に急ぎの依頼を代わりに対応してもらったそうじゃないか」
「ええ、お伺いした方がいいかと思ったんですけど、内容が内容だったので、すみません」
「いやいや、怒ってるわけじゃなねえんだ。むしろ感謝してる。この街の危機を救ってくれたそうじゃねえか。この街を代表して礼を言うぜ」
確かに危機といえば、危機だったのかもしれないな。
結果的に俺が介入しなければ、マルドゥーク猟団がこの街を襲っていたかもしれない。
そうなった場合、勇者パーティだけでは危なかったかもしれない。
その後、何度も何度も仲間へのオファーが飛んできたが、全て丁重にお断りしておいた。
そして、明日この港町を出ることを告げ、俺達は勇者宿を後にする。
仲間達の待つ宿屋へと戻ると、何やら言い争いをしていた。
シュリとユイだった。
一触即発と言っても過言ではない。
「この状況、一体何があったんだ?」
「えっとですね、何というか食べる時の行儀?でもめています」
むむむ。
って、ああ、そういう事か。
テーブルの上の惨状を見たら何となく分かった。
「もう、何度も言ってるでしょ!ものを食べる時はちゃんと箸を使わないと駄目だよ!」
「竜人族食べる時道具使わない素手」
まぁ、確かに生活の違いはあるので、この辺りのイザコザは想定の範囲内だった。
二人の頭の上に手を乗せる。
「まぁ、ゆっくり覚えていけばいいさ。シュリだって初めてなんだから、ユイもそこのところは分かってあげないと駄目だぞ」
ユイが「むぅー」と唸っていた。
「ユウ・・さん、シュリ一緒旅したい。新しい目的見つかるまで」
「ああ歓迎だよ。改めてよろしくだなシュリ」
シュリと握手を交わした。
仲間が増えるのはいい事だな。
(それも、可愛い女の子ばかりね)
(人聞きの悪いことを言わないでくれセリア。これは不可抗力というか、別に俺自身が選んで仲間にしている訳じゃないだろ?)
(うふふ、冗談ですよ。たまたまなのは、ずっと一緒にいる私が一番良く分かってますから)
次の目的地はバーン帝国なんだけど、その道程はかなり険しい。
山越えを何度かしなければならないし、大運河を渡る必要もあるとか。
まず先立っては、ここから5日の距離にあるモルトトという都市だ。
気ままにグリムとの馬車旅だな。
事前にモルトトについてこの港町で情報を仕入れていたのだが、聞く人聞く人皆が口を揃えてこう言う。
「あそこの治安は最悪だから、旅人は立ち入らない方がいい」
ただの強盗ならば、万が一という事も俺達にとってはないとは思うけど。
立ち寄るのは最低限の物資の補給のみにしようと思う。
次の日の朝、港町ペリハーファを後にした。
「暫くフカフカのベッドとはお別れだね」
ユイがいつもの如くゴロゴロしながら馬車内を縦横無尽に動き回っている。
その楽しさをシュリに教えて一緒にゴロゴロしていた。
ジラは、クロの長い髪を櫛で溶いてあげている。
「クロちゃんの髪はキレイなんだから、ちゃんと小まめに手入れいないと駄目よ」
こう見ると本当に姉妹みたいだな。
リンは瞑想中だろうか。
アリスも似たようなものだが、基本的にアリスは馬車での移動中は、出力OFFモードになっている。
俺は特にする事もないので、このままボーッとみんなを眺めていよう。
決して変な意図はない。
道中は特に何も起こらず予定通り5日で目的地であるモルトトに到着した。
都市と聞いていただけあり、中々の大きさのようだ。
入国審査だろうか?入り口に大小様々な馬車による長蛇の列が見えた。
「あれ、並ばないとだめなのだろうか・・」
馬車の列だけで数百メートルはありそうだ。
「だとすれば、日が暮れますね」
「ユウ様の力でなんとか」
いや無理だろ。何処かの王族ならまだしも。
結局正門を通るのに5時間以上費やし、深夜になってしまった。
今日のところは適当に宿でも探して眠りに就こう。
手近な宿を見つけたので何時もの如く受付の交渉はユイ達に任せる。
次の日の朝、事件は起こった。
「おはよう。ってあれ、シュリは?」
「おふぁよーお兄ちゃん!」
「おはようございます。シュリちゃん、いないですね」
室内には見当たらない。
おいおい、迷子か?
仕方がない。外に探しに行くか。
寝巻きから外着に着替え下へと降りる。
下の階はバイキング形式の食堂になっているようだ。
「いたよ!」
シュリは、たくさんの食料を机の上の取り皿に盛っていた。
相向かいには、おじさんが座っている。
ん、おじさん?
「なんでい、あんたらは?」
「その子の仲間です」
おじさんは、バツが悪そうな顔をしていた。
「なんでい、野郎連れかよ。やめだやめ」
そう言うと、何処かへ去って行ってしまった。
シュリに話を聞くと、朝起きたら外からいい匂いがしたので、部屋の外に出ると、さっきのおじさんがいて、ここまで連れて来てもらったらしい。
一応、簡単にバイキングの作法を習ったとか。
危ない危ない。
大事な仲間が誘拐されるとこだった。
ま、正確には怪我をするのはあっちの方だったと思うけどね。
「いいか、シュリ。知らない人について行ったら駄目だぞ?」
「いい匂いするとこまで案内してくれた」
「うーん。ジラ、シュリの躾役に任命する」
面倒いから自分でしない訳では断じてない。
こういうのは、ジラとかリンとか皆の姉役的立場の二人が適任だと判断したのだ。
「分かりましたユウ様。必ずやユウ様好みの従順なユウ様以外の殿方には見向きもしない子に躾けて見せます!」
ん?なんか少し違う気がするけど!
じょ、冗談だよな?
その後皆でバイキングを美味しく頂き、街を出歩く事にする。
事前に治安が悪いと聞いていたので全員一緒に移動した方が良いだろう。
治安が悪いというだけあり、店屋が立ち並ぶ商店街と思われる場所は、全てシャッターが降りていて閑散と寂れている。
街行く人も少ないというか、ゴロツキ多いな。
もしかしたら、ここはハズレ街なのかもしれない。
宿に戻り、チェックアウトし、中央の活気のある方で再度宿を探す事にした。
そして再び街へと繰り出す。
来たよ。
おきまりのパターンだ。
ガラの悪い奴に絡まれた。
「よぉよぉ、にいちゃんよぉ?こんなに可愛娘ちゃんばっかし連れて歩きやがって、見せつけてんのか?ああ?」
リンが俺の前に出る。
「ああ?なんだねえちゃん?俺達と一緒に遊びたいってか?」
可哀想に。同情するよ。
俺達にはちょっかいかけない方がいいよ。
少し歩くと景色がガラッと変わった。
やはり、今までいた場所は、スラム街と呼ばれている、ゴロツキ共の吹き溜まりとなっている場所のようだ。
どうやら治安が悪いのは一部の地域限定のようだね。
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