第81話: 人質救出作戦【中編】

国王との謁見が許された俺は、人質解放の為の交換条件として、国宝である太陽の涙を貸して欲しい旨を伝えた所、急に国王が大声で衛兵を呼びよせる。


「はっ!ここにおります!」


国王に呼ばれ部屋の中に入ってきたのは、まだ出しの雰囲気を醸し出している若造と、ベテランこの道40年以上のオジさんだった。


「宝物庫にいるアルディに伝えてくれ」


てっきり俺が粗相粗相をしてしまい、連行されてしまうと一瞬脳裏を過ぎったのだが、どうやら違うようだ。


「そなたには大恩がある。国宝一つなどで良ければ持っていくが良い」


正直に話してみるものだ。


「ありがとうございます。人質が無事に解放されれば、隙を見て太陽の涙を回収するつもりです」

「その必要はない。そなたや人質に危険が及ぶような事はしないで欲しい」


国民からも30年以上という長きに渡り慕われている人柄が滲み出ているようだ。


元の世界では、僅か数年の任期でも人気に影が掛かり、姿を見なくなった知事や市長などはザラだが、長く続けられるというのは、それだけで凄い事なのだろう。


俺は国王と固い握手を交わし、必ずや人質を救出すると約束し、別れた。

人手が必要ならば、騎士隊を提供すると申し出てくれたが、相手が魔族や竜族だなどと言える訳も無く、巻き込むつもりも毛頭ないので、丁重にお断りした。


俺はメルシーが待つ宿屋へと戻る。

メルシー一人だと何かと不安だった為、ノアと一緒に留守番して貰っていたのだが、最初こそ微妙な雰囲気だった二人は、今では大分打ち解けあっていた。

互いの地元の世間話をしている最中だった。

精霊と魔族の地元話しとか、普通に興味があるのだけど、人質の生命が掛かっている為、今回は我慢しよう。


「太陽の涙を借りて来たよ」


!?

メルシーが驚いている。


「盗んだの?」

「まさか。国王に事情を説明して借りて来たんだ。国王は、返却する必要はないと言っていたけど、国宝だしね。リスクが無ければ人質交換の時に隙を見て奪い返すつもりだよ」

「あんた何者なのよ・・普通国宝をそんなに簡単に貸してくれる訳ないじゃない・・」

「まぁ、話すと長くなるんだけど、国王と俺はそういう間柄って事だよ」

「・・・」


さて、問題はここからだ。

人質との交換になるが、果たして素直に事が運ぶのだろうか?

そもそも竜族のようなこの世界の生態系のトップに君臨するような種族が、何故太陽の涙を欲したのか、理由が分からない。

予め理由を知っていれば作戦も立て易いだろうと、リンと遠距離通信でコンタクトを取り、太陽の涙について調査してもらっていた。

リンはすぐに図書館で調べてくれたようで、リンが調べてくれた情報は・・


太陽の涙とは・・・遥か昔、竜族のリーダーだったサンの右の眼だそうだ。

正式名称は、もっと長かったのだが、覚えられなかった。

その事実を裏付けるかのように、実際に現物を目の当たりにしてみて、実感が湧いた。

形こそは、眼の形にも見えなくは無いが、感触は硬質化していてすごく硬い。

何より、持って見て初めて分かるのだが、膨大な魔力を秘めている。

俺自身、触れていると逆に魔力を吸われてしまう感覚に苛まれる。

という事もあり、コイツが危険な代物である事は間違いない。


別名、いにしえエンシェントドラゴンと呼ばれているこの眼の持ち主が今も現存しているのかは不明だが、この眼が未だに魔力を蓄えている事を考えると、まだ生存していると考えるのが妥当なのかも知れないが、結局この太陽の涙を今更竜族が欲する理由は見当がつかなかった。


「その太陽の涙を渡しなさい!」


俺が一人考え込んでいると、いきなりメルシーが大声を出したかと思うと、俺に向かい睨みを利かせてきた。


「さもないと、今度は本気で幻惑に掛けて私の虜にするわよ!」


やれるものなら、是非やってみてくれと言いたい所だったが、協力すると言った手前、これは一体どういう了見なんだ?


「渡すも何もメルシーの姉さんを助けるのに俺達は協力するつもりだよ」

「私一人で助ける!人族や精霊の手は借りない!」


ノアから念話が届く。


(少しの間、この子と接していて、根は優しい良い子だよ。たぶん、私達を巻き込みたくないんだと思う。普通なら竜族に会いに行くなんて自殺行為だしね)


なるほど、そういう事か。

なんとも水臭いじゃないか。

まぁ、俺の実力をメルシーは知らないから仕方がないんだけど。

自身過剰な訳ではないが、余程の事でない限りは乗り切れる自身がある。


「断る!こいつは渡せないな」


メルシーは、一瞬驚いた表情を見せ、同時に困った表情も見せていた。


「心配しなくても、姉さんは必ず助け出してみせるから」

「メルちゃん、ユウはそこいらの勇者なんかより全然強いから安心して」

「そうですね、ユウさんが今までピンチに陥ったのを見た事がないですね」

「二人とも、あまり持ち上げないでくれ。まぁ、あれだ。姉さんが心配なのは分かるけど、俺達の事信じてくれないかな?」

「なんでよ・・・なんで、魔族の私を・・命を懸けてまで助けてくれるのよ・・・」


メルシーは目に涙を浮かべている。

その横でノアが、頭を撫でていた。

先程もあだ名で呼んでいたのをかんがみるに、二人っきりの時にかなり仲良くなったのだろう。


ちなみに、俺もなでなでしたかったのは、内緒だ。

魔族の頭を撫でる機会なんて滅多にないしね。

ジラ?

ジラはね、なんというか、お姉さんみたいな立ち位置の存在なんだよね。それを撫でるってのは何か違う気がするんだよね。

撫でるなら妹だろうと変な持論を掲げてみる。


「今全然変な事を考えていますが、ユウさんはそういう人なんです。困ってる人ならば、きっと魔王でも幽霊でも助けちゃうと思います」


「・・・・・えっと、いや、さすがに時と場合によるぞ?こう見えても怖いのは苦手なんだよ」


まぁ、時間は掛かったが、互いのわだかまりも解けた事だし、メルシーの姉さんを助けに行きますかね。


「ノア、メルシー、なんでもいいから竜族の情報を教えてくれ」


「えっとね、まず、メルちゃんのお姉さんとの受け渡し指定場所は、ここから山を五つ越えた先のマラグ火山ってとこなんだけど、ここからが本題」


マラグ火山は、竜族の中ではかなり有名な竜の縄張りだそうだ。

現存している竜族の中では、その強さは間違いなく5本指に入り、手下にも複数の屈強な竜族が控えているそうだ。


「おいおい、そんなヤバい奴らなのかよ」


いつだか死に掛けた竜王と同レベルくらいだろうか・・。


「でもね、竜族には大きな弱点があるよ!」

「本当か!」

「うん!」


まさか、最強の種族に弱点があるとは。年の功とはこう言う事を言うのだろう。


「あまり知られていないと思うんだけど、私のいた頃にドラゴンキラーって言う勇者に教えて貰った事があってね」


ノアは魔王の魔術により、異空間に1000年以上も閉じ込められていた経歴を持っている。

ドラゴンキラーとは、嘸かし大量の竜族をほふってきたのだろう。


「それはね・・・自分達よりも大きな生物だよ!」

「な、なんだって!・・・・・・っておい!竜よりも大きな生物なんて、超型のモンスターくらいしかいないだろうが!」

「そうなんだよね。この事を教えてくれたドラゴンキラーも、偶然その場に居合わせただけで、実際に竜を倒した事はないって言ってたかな」


期待して損したよ。


ん、ちょっと待てよ。

そう言えば露店を散策している時に魔術書を購入していたが、その中に幻影ってのがあったのを思い出した。


俺は、ストレージを漁る。


あった、これか。


■幻影

自身の魔力を消費して、想像した生物に変身する事が出来る。鮮明なイメージが必要。込める魔力に比例してサイズ調整可能。

参考取得必要年数:50年


もしかしたら、これ使えるんじゃないだろうか。

たったの銀貨5枚だったのだが、取得年数が馬鹿げているうえに、ネタでしか使えないと店員さんが言っていたのを思い出した。


これは作戦に大きく影響しそうなので、後で実験する事にしよう。


その夜、俺は人気のいない場所まで赴き、幻影を試してみた。

最初こそは、失敗の連続だった。

やはりイメージが重要らしい。

イメージが浅いと、絵に描いたような変な姿になってしまうのだ。

そして、結局その夜は徹夜になってしまった。


明け方頃になり、やっとそれらしい形になっていた。


「完璧だ。サイズも申し分ないだろう。誰がどう見たって、あれにしか見えない。


しかし、さすがに幻影中は他の魔術は使えないようだ。

新たな魔術は使えないが、既に事前に発動させている魔術ならば、効力が残る事が確認出来たので、組み合わせ次第では幻影中に戦闘する事も可能かもしれない。

もっと特訓すればだけどね。


皆の元へと戻った俺は、早速マラグ火山へと向かう。


「本当に上手くいくの?」


心配そうなメルシーが俺に問いを投げ掛けてきた。


既に作戦は伝えていたのだが、どうにも成功する気がしないのか、さっきからブツブツと唸っている。


「まぁ、何とかなるだろう」


何の根拠もない適当な事を言ってしまったが、何故だが上手くいくような気がしていた。

だって、徹夜で頑張ったしね。

元いた世界で、テストの前の日に必死に徹夜で勉強したら、次の日のテストが待ち遠しいなんて事が実際俺自身もあったし、きっとそれと似たようなものなんだろうと、勝手に解釈した。


半日程費やし、目的地であるマラグ火山の近くまでやって来た。


それにしても、なんて暑さだ。

体感温度は、50度は超えているだろう。

レベルの高さ故の暑さに対する耐性がなければ、熱中症で倒れていたかもしれない。


「ちょっと私、もう無理・・」

「私も・・ユウさん、ゴメンなさい」

「ああ、二人共戻っててくれ」


事前に聞いてはいたが、暑すぎるのだ。

メルシーは、種族故の耐性か、単に暑さに耐性があるのか、ケロッとしていた。


「よし、この辺りでいいだろう」


俺は、メルシーと自分自身に身体強化一式を施した。


「じゃ、俺はこれから姿を隠して行動するから、合図をしたら作戦通りに演技してくれ」

「う、うん分かったわ」


太陽の涙をメルシーに手渡した。



やがて、人質の受け渡し場所へと辿り着いた。

周りには、竜の姿は見えない。


「約束通り、持ってきたわよ!姿を現しなさい!」


メルシーの声に反応して、一体の竜が俺達の前に現れた。

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