第80話: 人質救出作戦【前編】
偶然見つけた魔族の少女を保護した俺は、セリアと一緒に意識を失った少女を宿屋へと運んだ。
目が覚めた時に見知らぬ男が居たんじゃ、色々と問題があるしね。申し訳ないけどセリアに看病してもらう事となった。
勿論、実体化している精霊は、ひ弱な人族と何ら変わらない。
色々と危険が伴う為、悪いとは思いつつも少女を捕縛で動けないようにしている。
ドアの外で少女の眼が覚めるのを待っているのだが、何とも他人から見たら、妻に部屋から追い出された夫にしか見えないだろう。
何度か通行人に2度見されてしまった。
しかし、いつ眼が覚めるとも限らない。少女と言っても魔族である事には変わらない訳で。
なんて事を考えているとセリアから念話が届いた。
(ユウさん、彼女が目覚めました)
「誰よ、あんた!」
(あ、うん。声が聞こえたよ)
部屋の中に入る。少女は俺を見るなり、暴言を吐いてくる。
「何か動けないと思ったら、やっぱりあんたね! 私が気を失ってるのをいい事に、あんな事や、こんな事をしてたんでしょ! このゲス! 悪魔! 変態! さては、勇者っていうのも嘘ね!」
おいおい、酷い言われようだな。魔族に悪魔って言われたぞ。
「その点に関しては、私がずっと監視していましたので、保証人になります。彼は何もしていませんよ」
「どうだか、変態の仲間は同族の集いって言うしね、あなたもグルなんじゃないの。信用ならないわ」
「まぁ、俺の事はどうでもいいんだ。だけど、一つだけ訂正しておく。悪かった、俺は勇者じゃない。ただの冒険者だ」
「やっぱり、私を見せ物にする為に捕縛して、売り飛ばすつもりなんでしょ」
だからなんでそうなるのか。取り敢えず、構ってられない。
「君の今の立場を理解した上で、さっき街中でやろうとしていた任務とやらを話してくれないか」
「それは出来ないわ。いいから殺すなら早く殺しなさいよ。どのみち一度死んだ命、醜態を晒すくらいなら、悔いは⋯⋯無いわ」
やっぱりダメか。
「魔族は、決して他種族と交わることはないの。捕まった時点で死を覚悟してるわ。こんな拘束が無ければ、とっくに自害してる所よ」
なんと、危うく自殺される所だったのか。危ない危ない。
「一緒に旅をしている仲間には、君と同じ魔族もいるよ」
「な、そんな訳ないでしょ。魔族は人族となんてつるまないわ」
「それは、本当の話ですよ」
セリアが間に入り弁護を始める。
「少なくとも他の連中と違って俺は魔族だからって理由で君を一方的に倒そうなんてこれっぽっちも思っていないよ。その点は信じて貰いたい」
俺は続ける。
「だけど、良からぬ行為を働こうとしているのが分かった以上、君を見過ごす事は悪いけど出来ない」
「うるさい! アンタなんかに関係ないでしょ! 戦うつもりがないなら解放してよ! 私は、早く任務を遂行して、お姉ちゃんのとこに行かなければならないの!」
ダメか。
(ユウ、私が手を貸して上げようか?)
俺の中に宿っているもう1人の精霊である、ノアからの念話だった。そういえば、ノアには探し物を見つけるだとか、嘘を見抜けるだとか、色んな能力を持っていたっけ。
(ああ、頼む)
俺の声に反応して、ノアが現れる。
「私は相手が話したくない、隠している事を知る事が出来る精霊よ」
なんて素晴らしい能力なんだろう。
でもそんな能力を持ってるだなんて知らなかったぞ。
魔族の少女はヤバい。という顔をしていた。どうやらこの子は隠し事が下手のようだ。
横目でノアを見ると、こちらに向かいウインクをしていた。
なるほど、ノアの魂胆が分かったぞ。
「じゃ、始めようかなぁ〜。可愛い君は、一体何を隠してるのかなぁ〜?」
キャラ変わってますよ、ノアさん。
魔族の少女は、大粒の汗を流して、かなり焦っているのが伺える。
「ノアに洗いざらい全てを知られる前に、素直に質問だけを答えた方がいいんじゃないのか?」
「なになに、お姉ちゃんが⋯ふむふむ、なるほどなるほど〜」
「わ、分かったわよ! 話すから、すぐにこの精霊を引っ込めてよ!」
どうやら作戦成功のようだ。ノアとハイタッチでも決めたい気分だったが、それでは作戦だった事がバレてしまうので、グッと堪えた。
「ノアありがと」
「はいはい〜。ご利用は計画的にね」
「セリアも、もう大丈夫だから戻ってくれて構わないよ」
「何かあったら呼んでくださいね」
(ノア、彼女が嘘を言ったら教えてくれ)
(おっけー)
何だか少女を騙すようで悪いが、許して貰おう。
「じゃ、何を企んでいたのか話してもらうよ」
嫌そうな顔をしながらも観念したのか、少女は話してくれた。
魔族の少女であるメルシーは、プラーク王国の王家の秘宝である太陽の涙を奪う為に王国に潜入していた。
2日程前にメルシーとメルシーの姉は、突如竜族に襲われたそうだ。
応戦も虚しく、2人は竜族に捕らえられてしまった。相手の強さは強大で、ただ一方的に搾取されるのを待つ程だったようだ。奴らはあえて条件を提示してきた。
姉を助けたくば、プラーク王国の秘宝である太陽の涙を奪ってこいと言うものだった。
(嘘は言ってないね)
「だから、私はこんな所で遊んでる暇はないの。一刻も早く太陽の涙を奪って奴らのアジトに持って行かないとダメなの。殺す気がないのならさっさと解放してよ⋯お願いだから⋯」
「じゃあ聞くけど、何処に目当ての物があるのか知ってるの?」
「知らないけど、王族の誰か1人を締め上げて、吐かすつもりよ」
「じゃあ、少し脅したり物取りするだけで、人族に危害を加えるつもりはないんだな?」
「当たり前でしょ。そもそも私は攻撃魔術を持っていないわ。武器もないしね」
最初出会った時に、殺すとか言われた気がしたが、きっと気のせいだったのだろう。
(ユウさん、貴方もしかして)
「俺が手伝ってやるよ」
(はぁ、やっぱり)
「はぁぁ? あんたバカじゃないの。あ、そうやって私を騙すつもりね!」
「騙してなんの得があるんだよ。魔族だからってだけで騎士隊に突き出すなら、寝ているうちにしてるさ。まぁ、なんて言うか、困ってる子は見過ごせなくてね」
(ユウさんは、いつもいつも、やっぱり小さい子がいいんですね。そうなんですね)
(違うわぁぁ!)
全力で否定しておく。
「セリア、ノア、悪いけどもう一度出て来てくれ。あと、メルシー、もう捕縛は解除してるよ」
「い、いつの間に」
全員を椅子に座るように促す。
「じゃ、全員揃った事だし早速作戦を立てようか」
「あんた本気で言ってんの?」
「君もしつこいね。ユウは嘘つかないよ。この際もう、騙されたと思ってついてきたら?」
メルシーの敵対心が変わらないので、少しノアがイライラしているようだ。気持ちは分かるけど、頼むから仲良くして欲しいものだ。
「少しだけ静かにしてくれるかな。今いい作戦が浮かびそうなんだ」
手伝うとは言ったけど、俺は別に悪行に加担するつもりはない。そんな事をすれば悪人になってしまう。
「よし、作戦は決まった!」
「流石、ユウ!」
「早いですね。ユイさんたちは呼ばなくても平気ですか?」
「ユイたちは、なるべく巻き込みたくはないんだ。竜族と一戦交えるとかになった場合は別だけど。なるべくそうならないように事を運ぶつもりだしね」
俺は視界の端に何かの違和感を感じた。
そこに映っていたのは、メルシーがなんと頭を下げていたのだ。
「ど、どうした? 何か悪いものでも喰ったのか?」
「違うわよ! 馬鹿っ!」
顔を覗き込むと、何処となく、頬が赤かった。
「ありがとう⋯」
小さな声でモゴモゴとお礼を言っている。
少し意地悪して聞き取れなかった振りをしてみた。
「え、何?」
「だから、ありがとうって言ってんの! もう2度と言わないんだから!」
からかい甲斐がある。俺自身も礼を言うよ。勿論心の中でだけどね。
心を通わせれば、他種族とだって魔族とだって分かり合えるんだ。最初は否定的だったメルシーだって、結局俺らと何も違わない。
「ユウさん、何をニヤニヤしてるんですか」
おっと顔に出ていたようだ。
「ちょっと、今見た光景忘れなさいよね!」
メルシーの顔が沸騰しそうな程、赤く茹で上がっている。
「なるべく努力するよ」
俺は皆に作戦を伝えた。
「この作戦って、殆ど出たとこ勝負ですよね」
「まぁ、何とかなるさ」
「わ、私は何をしたらいいのよ」
「ここで留守番しててくれ。って、ただ待ってればいい訳じゃないぞ。ノアと一緒に竜族の情報を集めて欲しい。俺は全くと言っていい程、竜族について知らないからね」
「竜族について調査して、知り得た情報を後でユウに教えればいいのね」
「うん、頼むよ。ノア、メルシー」
ここからは別行動だ。
俺とセリアは、太陽の涙を獲得する為に、宿屋を後にし、王宮を目指す。
王宮のある貴族街に行く為には、通行証が必要なのだが、前回ここを立ち寄った際に通行証をゲットしていたので、何の問題もなく、俺とセリアは王宮の前まで辿り着く事が出来た。
セリアは精霊の姿のまま俺の肩にちょこんと座っている。
まずは、普通に交渉してみるつもりだ。
それでダメなら、実力行使しかない。
門番に国王に会いたい旨を伝えたのだが、約束がないからと、素性が知れない相手との謁見など認めれないという理由から門前払されてしまった。
しかし、まだ諦めないぞ。
ユウと言う自分の名前を出し、国王に伝えて貰うようにお願いした。
以前立ち寄った際に既に国王とは面識がある。
あの時は、エレナが無実の罪で処刑されそうになっていた窮地を国王に救って貰った。
俺は俺で、この国の水面下の悪事を未然に防いだので、ギブアンドテイクなんだけどね。
「ユウ殿とやら、先程の無礼をお許し下さい。国王様から謁見の許可が降りましたので、どうぞこちらへ」
どうやら上手くいったようだ。まずは、第1関門突破だな。
案内された部屋は、豪華な内装で部屋全体が金銀装飾により眩しいくらいに光り輝いていた。
天井までの高さなんて、3メートルはあるだろうか。シャンデリアに至っては、手を広げても抱えれないサイズだ。
暫く待っていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「入るぞ」
入ってきた人物は以前にも会った事があるので間違いない。プラーク王国国王本人だった。1年前に会った時と何も変わっていない。いや、少し老けたように見えるかもしれない。国王も苦労が絶えないのだろう。
「ご無沙汰しております」
俺は頭を下げた。
「うむ。久しぶりじゃな」
「その節は、ありがとうございました」
「おお、そうであったな、あの時のエルフの王女は元気かな?」
「はい、時々会っていますが、元気過ぎて会う度に小言を言われてますね」
「はははっ、それは大変じゃな」
その後も俺は国王と思い出話もとい、世間話をした後に、本題を切り出した。
「国王様、本日は折り入ってお願いがあり、参りました」
「ふむ。何でも言うがいい。そなたには王国を救って貰った大恩がある」
魔族が関わっている事は敢えて触れずに、人質の救出が目的である事。交換条件として、太陽の涙が必要な事を話した。
国王は、俺が話している間中、そして今も険しい顔をしていた。
「誰かおらぬか!」
いきなり国王が大声で、外の衛兵を呼んでいる。
あれ、俺何かマズい事を言っただろうか?
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