第79話: メルシーとの出会い
エスナ先生と樹海の古ぼけた小屋へと戻って来た。
「もう2人とも遅いよ!」
ドアの前でプクッと頬を膨らましていたのは、ミリーだった。その隣にはククの姿も見える。
「すまんな。久しぶりに弟子の成長が見たかったんじゃ」
「ごめんごめん。それより、ククとの離れ離れだった距離は、お互い縮められたのか?」
最初は泣きながら抱き合っていた2人だったが、今はどこにでもいる姉妹のように接していた。
「勿論だよ! ユウありがとね。本当にククを探してきてくれるなんて、私びっくりしちゃった!」
「姉弟子の頼みだったしな」
「えへへ、お姉ちゃんは良い弟を持ったよ!」
そういえば、ミリーは物凄くプラス思考の明るい性格だったな。後、すぐ調子に乗る。
対する妹のククは口数こそは少ないが、冷静沈着で頭が良い。外見がなければ、どっちが姉なのかは言うまでもないだろう。
「ミリー、食事の準備をするんじゃ」
「ふふーん! そうくると思ったから、ククと2人で作っちゃった」
「お、流石だな。丁度お腹ペコペコだったんだ」
久しぶりにミリーの絶品キノコ理由が食べられるな。
「それにしても驚いたよ。クク、料理作るの上手いんだから!」
「いつもノイズ様のご飯を作っていますので、戦闘訓練と同じくらい料理の勉強もしました」
「ユウよりも全然上手だよ」
「お、俺だって旅をして少しは料理の腕も成長してるはずだ」
「お楽しみのところ悪いんじゃが」
突然エスナ先生の顔付きが変わった。若干殺気じみたものすら感じる。
「そろそろ姿を見せたらどうじゃ、ノイズ」
ミリーとククが辺りをキョロキョロしている。
俺には、
ていうか、何処にいるんだ?
「その子の中からこちらを見ているのじゃろ」
その時だった。
エスナ先生の声に反応したのか、ククの身体から突然紫色の光が溢れ出し、やがてククを包み込んでしまった。
「ちょっと、クク! 大丈夫なの!」
光が晴れると、ククが席から立ち上がったまま下を向いた。
その様は、まるで誰かに操られているように見える。
「お久しぶりですね、エスナ
ククから発せられた声は、ククのものではなく、ノイズの声まさにそのものだった。
これも、魔術なのか。
「彼女の見聞きしたものを彼女を通して水晶か何かで見ていたのじゃろう」
「ふふふ」
ククの中のノイズは、不敵な笑みを浮かべている。
依然として、ククの身体は禍々しいオーラを発している。その状態のまま、ゆっくりとエスナ先生の元へと歩み寄っていく。
まさかとは思うが、このまま戦闘になったりはしないだろうな⋯。一応はすぐに動けるように警戒だけはしておく。
一方、エスナ先生は、無反応のようだが。
ノイズによって意識を奪われているククは、両手を広げた。そしてそのまま勢いをつけるとエスナ先生に抱きついたではないか。
「エスナお姉様、会いたかったです」
あれ?
この展開はさすがに予想していなかった。心なしか口調も変わっている気がする。
俺には先程のミリーとククの姿がデジャビュって見える。
「ええい、離れんか」
嫌がるエスナ先生はククの姿のノイズを引き剥がそうとする。
「相変わらず、変わらんの。お主は」
確か2人は、共通の師の元で凌ぎあった仲だと聞いていたんだけど、てっきり仲が悪いものだと。
「だって50年振りの再会なんですよ。姿はあの当時のままなのでそんな気はしないんですけどねえ」
「そんな事より、この半世紀で随分と悪さをしているようだの。あまり魔女の品格を損なう真似をしたら許さぬぞ」
「全てはエスナお姉様の為です」
ノイズはエスナ先生に会いたい一心で、今までわざと悪さをし、逆に探して貰おうとしていたらしい。
まったく、困った話だ。外見年齢は子供だが、精神年齢も十分子供のようだ。
「お主がノイズ本人だったら、脳天に拳を入れておったぞ」
ノイズはエスナ先生に擦り寄り、まるで仔猫のように
これがあのノイズなのか⋯
あの世界が恐れる絶界の魔女の姿なのか⋯
「取り敢えず、ミリーが心配しているから元の彼女に戻ってもらうぞ」
「す、すぐに会いに行きますから!」
パリンッ。
ククの中から鏡のような何かが砕ける音がした。
その途端ククが周りをキョロキョロしている。
「あ、あれ、私なにを?」
「彼女の中から、奴の気配が消えたようじゃ」
「あれも魔術の類なのですか?」
「うむ。魔女が使う魔術7式の内の一つじゃな」
「魔術7式とは?」
「それは、魔女の称号を持つ者以外には使えぬ技じゃ。知る必要はない」
非常に気にはなるけど、先生にそう言われたら諦めるしかないか。
その後俺たちは、ミリーとククが作ってくれた絶品キノコフルコースを堪能していた。
「やっぱり、ミリーの作ったキノコ料理は美味しいな」
「私も一緒に作ったんですけどね!」
ククが冷たい目で俺を睨んでいる。
俺は食事をしながら、ここを出てからの冒険譚を掻い摘んで皆に話した。
「仲間がいっぱいいるんだね。ね、今度来る時、紹介してよ」
「ああ、そうだな。機会があれば一緒に連れてくるよ」
「約束だからね」
お土産としてキノコを大量に受け取り、ストレージへ放り込む。
「じゃ、俺はそろそろ戻るけど、ククはどうする?」
「私は⋯」
ククがミリーの方をチラチラと見ている。
「数日もすればノイズが迎えに来るじゃろう。それまでここに居るといい」
「本当ですか!」
「やったね! じゃ、暫くは一緒だね!」
ミリーも嬉しそうだった。
俺ももう暫く居たかったが、皆にはすぐ戻ると伝えていたし、何より心配だからね。それに、また来ればいい。
「無茶せず、元気でな」
「エスナ先生も。また会いましょう」
「今度来るときはお土産忘れないでね〜」
「ああ、覚えてたらな」
「ユウさん、ありがとうございました」
「ククもまた会おう。あとノイズ様によろしくね」
俺は、再会時の余韻がまだ残る中、樹海の古ぼけた小屋を後にした。
プラーク王国へと戻り、空艦の出発まで時間があったので、皆のお土産を買うべく露店散策をしていた。
えっと、ユイには取り敢えず肉だよな。ジラには、裁縫に使えそうな綿とか布がいいだろう。クロは、最近オシャレに興味が出てきたみたいだからアクセサリの類にしようと考えている。
それもこれも、ガゼッタ王国の王女シャロンの影響だったりするのだが、元々美少女だったクロがオシャレ装備を身に付けると一体どうなるのだろうか。
リンは全く何も欲しがらない。仲間になってからも趣味というか、修行以外をしている様を見た事がない。時間があれば、鍛錬に励んでいる。
そんなこんなでブラブラと街中を歩いている途中に、巷で掘り出し物があるという噂を聞いたので、俺は武具屋へ足を運んでいた。
「こ、これは!」
目の前にあったのは、銀色に輝く戦乙女が着ていそうな見事なまでのフルプレートアーマーだった。
なんて優雅なのだろうか。リンに凄く似合うと思う。
しかし、見た目だけの装備じゃ意味がない。
すぐに性能を確認する。
名前:戦乙女のシルバーレッグ
説明:かつて1000を超える魔族の群勢にたった1人で立ち向かった女勇者が着ていた戦闘鎧。軽量な割にダイヤモンドコーティングされている為、斬撃に対して非常に強い。
特殊効果:防御力向上(超大)、移動速度向上(極大)、自己修復機能付き
相場:金貨2000枚
希少度:★★★★★☆
申し分のない性能だ。迷わず購入した。
相場よりも実際に売られていた金額は、金貨500枚だった。どちらにしても高級品には変わりないので、買える人などまず居ないだろう。
金持ち貴族がこんな鎧必要とするとは思えないし。
皆の土産も買った俺は、空艦乗場まで向かっていたのだが、その道中に気になる気配を感じていた。
名前:リーシュタット・メルシー
レベル:42
種族:魔族
弱点属性:なし
スキル:転移、幻惑Lv4、サーペントアイLv3、
やはり魔族か。
ここは王都だ。正体がバレるのを覚悟で、こんな場所に来る理由が分からない。敵か味方かは不明だが、放っておく事は出来ない。
俺は彼女の前に立ち、話し掛ける。
「こんにちは、俺の名前はユウ。少し話をしたいんだけどいいかな?」
彼女は、真っ直ぐに俺を睨んでいる。
「死にたくなければ消えて」
なんとも好戦的な発言だ。
だが、はい分かりました。と逃げるわけにはいかない。
「君、魔族だよね。周りの人に危害を加えるつもりならば見過ごせないな」
彼女は少しだけ驚いた表情を見せたが、すぐにこちらを睨み返す。目力だけで殺されてしまいそうなくらい睨まれている。ちょっと怖い。
彼女の目が光った。
恐らく幻惑を使用してきたのだろうが、今まで効いた事がないので、効果の程は分からない。
案の定、身体に何の変化も感じられない。
しかし、周りには通行人もいる為、場所を変えないと色々とマズい。
取り敢えず、幻惑に掛かった振りをして、脱力した振りをしてみる。
「あっけないわね。しかし、コイツ私の正体に気が付いていた。何処かで始末しないと後々面倒ね」
どうやら上手く騙されてくれたようだ。
そしてこのままでは俺は殺されてしまうようだ。
「ついて来い」
彼女に従う事にする。
案内された場所は、案の定人気のない暗い路地裏だった。
「ここなら、貴方を殺しても目立たないわね。任務を遂行するまで目立つわけには行かないの。本当にごめんなさい」
「良かったら任務ってのを教えてくれないかな?」
「もう私の幻惑が解けたの! くそっ、もう一度!」
「実は効いていた振りをしていただけなんだよね」
危険な香りしかしないが、素直に情報を教えてくれるとは思えないので、少しだけ脅しをかけてみよう。
「リーシュタット・メルシー。魔族でレベルは42」
「な、何故私の名を! 貴方何者なの!」
「俺は勇者だ。君を倒す事は造作もないんだけど、理由を話してくれたら考えないでもないよ」
そう言い、すぐに捕縛の魔術を発動させる。
「あ、脚が動かない!」
「君の動きを封じた。これで話す気になったかい?」
「だ、誰が勇者なんかに!」
まだ足りないようだ。
続いて
勿論最大限に手加減している。
「グッ⋯」
辛そうだ。側から見たら、幼気な少女を苛めている悪党にしか見えないだろう。
たまには、悪者になるのも悪くない。 って冗談だぞ?
「このまま君を押し潰して終わりにしてもいいんだけど?」
「くそっ、なんで、なんで計画実行前に勇者に出会ってしまうのよ⋯姉ちゃん、ゴメン⋯ゴメンね⋯」
魔族の少女は、目に涙を浮かべていた。流石に可哀想になって来た。
しかし、これ以上やっても何も喋ってくれないだろう。
すぐに
しかし、魔族の少女は解除した事に気が付いていない、というより気を失ってしまったようだ。
こんな所に放っておけないし、困ったな。
「ユウさん、また女の子を泣かしましたね」
俺の中に宿っている精霊のセリアがいつの間にやら定位置である肩にちょこんと座っている。
「取り敢えず、このままにはしておけないから、セリア頼む」
「はぁ、全く、世話の焼けるご主人様ですね」
「だからご主人様じゃないって」
俺が1人でお姫様抱っこして移動するよりも周りに女性が居た方が目立たなくて、自然なのだ。
セリアに実体化して、人型サイズになってもらう。
しかし、人型サイズに実体化したセリアは、超が付く程に美人さんなので、逆に目立ちそうな気がするが、この際致し方ない。
「取り敢えず、宿屋に運ぼうか」
皆の所に戻るのが、遅れそうだな。
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