第69話: 天人様

 再びテュナに会うために城へと招待された。


 目の前で人の目など全く気にする事なく百合百合しているシャロンとテュナ。

 ジラとリンは良いが、ユイとクロには教育的に良くない気がする。そんな中、シャロンと目が合ってしまった。

 少しだけ気まずい空気が流れる⋯。


「ねえ、シャロン! あの人は彼氏さん?」


 今度はシャロンが振り向き、俺と目が合う。シャロンは恥ずかしいのか、すぐに目を逸らしてしまった。


「え! いや、違うよ。彼はここへ来るまでの護衛を引き受けてくれたの」


 テュナの声は小さかったが、シャロンが動揺して普通の声で話してしまった為、シャロン達の会話の内容をエレナが推理してしまった。

 さっきから、俺に向かって冷たい視線を送ってくる。


 俺は全く悪くないからな!


 これをきっかけに2人の会話に俺たちも参加し、いつしか話し込んでしまった。

 聞いておきたかった事を尋ねる。


「ハイエルフの開祖の方は、まだご健在という事でしたが、会った事はありますか?」

「はい、ありますよ」


 彼女はニコッと微笑みながら話を続ける。


「あれは、私がこの里に戻って来てすぐの事でした。里長となる為には、天人様の加護を受ける必要があるのです。あ、天人様というのは、貴方が言うハイエルフの開祖様の事です。我々は天人様と呼んでいます」

「何処に行けば会えますか?」


 テュナは眉を細めた。


「天人様に会えるのは極一部のハイエルフだけですので、申し訳ないですけど会えないと思います。もちろん、何処におられるのかも教える事は出来ないんです。ごめんなさい⋯」

「あ、少し興味があっただけですので気にしないで下さい」


 流石に簡単には会えないか。最初に天人の話を聞いた時にある妄想をしていた。

 彼等もまた、俺と同じように特別な力を持っていた事から、もしかしたら、俺と同じ境遇なのではないだろうかと。

 昼食をご馳走したいというので、お言葉に甘える事になった。


 今、この城にはテュナと執事のグランさん、後はお付きの侍女2人の計4人だ。

 俺はここでの料理というのに非常に興味があった。料理は全て執事であるグランさんが作っているそうで、侍女の2人がテキパキと厨房から出来あがった料理をテーブルに並べて行く。

 高級料亭のように、一品食べ終わる度に時間差で料理が運ばれてくるシステムになっているようだ。

 どれもここら一帯で自給自足した物だという。

 魚や肉のようなたぐいは一切なく、主に野菜を使ったサラダ系やスープ、そしてなんと言っても一番良かったのは白飯があったのだ。

 テュナさんに聞いたが、白飯はハイエルフの主食となっているようだ。

 実に素晴らしい!

 ユイに関しては好物の肉がないので、若干元気がないような気がする。


 いつか身を固める時が来た時の為に、麦の種を貰っておこうか。いや、時期尚早か?

 俺のストレージの完全保温機能を使えば、いつでも炊きたてが食べられる。


「ユウ様は白飯がほんとに好きですよね」

「あれ、好きだって言った事あったっけ?」

「そんなの見ていたら分かりますよ」


 何故だか、微笑ましい笑顔で見つめられてしまった。


「そういえば、エレナさんもエルフの里のお姫様なんですよね!」

「エレナでいいですよ。はい、小さな所ですけどね」

「じゃあ私の事もテュナでいいですよ。私、エルフのお友達が居ないんです。これも何かの縁ですので、身分は関係なく、良かったらお友達になって頂けませんか?」

「はい、私なんかで良ければ喜んで」


 2人がガッチリと握手していた。


 食事も終わり、グランさんが食後の紅茶のような物をテーブルに運ぶ。


「グランさん料理どれもとても美味しかったですよ」


 俺は率直な感想を述べておく。


「ありがとうございます」


 執事っていいよね。メイドも悪くないが、身の回りの世話をしてくれるのは、やっぱら執事がシックリくると思う。

 俺は気になっていた宝物庫の襲撃について聞いてみた。もしも亡国の騎士の仕業ならば、エレメンタルストーンが目当てのはずだ。

 テュナは宝物庫にあった物を把握していなかったが、執事のグランさんの話によると、エレメンタルストーンの一つであるサンダーストーンが宝物庫の中にあったそうだが、賊に根こそぎ奪われたそうだ。


 断定してよいだろう。賊の正体は、亡国の騎士で間違いない。一体奴らがそんな物を集めて何を企てようとしているのか不明だが、こっちの旅の邪魔をするなら、黙って見ているつもりもない。

 もし次に見かけたら、手加減は不要だ。両の腕をいででも、拘束してやる。容赦はしない。


 時々、自分でも思うが、こっちの世界に来てから、性格が少し変わったような気がする。元の世界では、そんな事考えすら浮かばなかっただろう。当たり前と言えば当たり前だけど⋯


 自分の変化に気が付きつつも、それを自分で実感出来ている内はまだ大丈夫だろう。だけどもし、実感すら出来なくなってしまったら、その時は⋯

 他力本願かもしれないが、誰かに止めてもらうしかない。俺には、こんなにも強くて素晴らしい仲間がたくさんいるのだから。


 食事が終わると、念の為見回りを兼ねて、奴らの痕跡でも探せればと、執事のグランさんに宝物庫があった場所を見させて貰った。シャロンはテュナと一緒に何処かへ行ってしまった。流石にもう大丈夫だろうとは思ったが、念の為に護衛役としてジラを同行させている。


 宝物庫へとやってきた俺達は亡国の騎士の痕跡を探していた。


(セリア、ノア、何か感じないか?)

(んー、私は特には。でも膨大な魔力によって放たれた魔術や変わった魔術を使えば、当面はその残滓ざんしが残ったりもしますが、何も感じませんね。ノアは、どうです?)

(私も何も感じないかな)


 残念だ。何か手掛かりがあればと思ったのだが。諦めて、グランさんに礼を言い、広間に戻る事にする。


 ここに滞在している間は、この城内で寝泊まりしても良いそうだ。恩人だからという事らしいが、昨日今日出会った俺達をそんなに簡単に信用してもいいのだろうか。

 なんというかハイエルフは、皆おおらかだと思う。

 そういう種族風習なのかもしれない。


 部屋に入って、まず最初に驚いたのは、部屋の半分がベッドという事だった。

 案の定、全員同じベッドで夜を明かした。ついでに付け加えると、まるで天日干しした後のように暖かく、フカフカだった。


 シャロンはテュナの部屋で寝たそうだ。こちらも仲が良くて実によろしい⋯のだろうか?


 朝になり、俺達は全員揃って朝食をご馳走になる。

 テュナは既に済ましたそうで、この場には居なかった。


「ユウさん、朝食を頂いたらガゼッタ王国に帰りましょうか」

「もういいの?」

「はい、ちゃんとあのとき伝えたかった内容は伝える事が出来ましたので。それに約束もしてくれましたし」


 約束とはなんだろうか。最後の方は小声だったので、何か思うところがあるのかもしれない。この場で聞くのは控えて後で聞いてみよう。まぁ、シャロンが満足したのならば、この場に留まる理由はない。俺は帰り支度を整えるように皆に指示をした。


 食堂を出た所で外にいたテュナに手招きされ、何処かの部屋に通された。


「突然ごめんなさい。他の人が居る中で面と向かって言えなかったものだから」

「どうかしましたか?」

「貴方の眼を見せて!」

「はい?」


 俺の困惑など御構い無しで、テュナはまじまじと俺の顔を覗き込む。正確には、眼をだが。


 両者の顔の距離は拳1個分もなかった。さすがに照れるのだが、最大限のポーカーフェイスで何とか乗り切る事にする。


「ふむふむ」


 何かを呟いている。


「えっと、俺の眼に何かついてますか?」


「あ、ごめんなさい!」


 テュナは今になって、互いの距離に気付いたのか、頬を紅く染めて後ずさりした。


「やっぱり同じ色だわ」

「目の色ですか?」

「はい、黒い瞳の人が珍しくて、私が知ってる人では、2人しか居なかったので、ちょっと確認させてもらいました」


 確かに、今まで気にも留めていなかったが、周りにも瞳が黒い人物はいなかった気がする。


「私が知っている2人というのは、天人様の事なの」


 天人様と言えば、自分と同じ境遇ではないかと疑っている相手だ。こうなると尚の事、会いたくなってきた。


「偶然じゃないかな」

「そうですよね、変な事してすみません」


 部屋を出た先で、エレナが待ち構えていた。

 うん、範囲探索エリアサーチに誰かの反応があったので、そうかなとは思ったよ。


「お二人で密会ですか?」


 笑顔で聞いてくる辺りが非常に怖いのだけどエレナさん。でも安心して何も無かったから。ただ至近距離で見つめ合っただけだから!


 本当に話をしていただけなので、それを精一杯伝えて、皆の所へ戻る。


 たったの1日という滞在期間だったが、ハイエルフの知り合いも出来たので、全種族統合という俺の夢にまた一歩近づけた事だろうと。


 俺達はハイエルフの里リュミナールを後にした。見送りとして、テュナを始め仲良くなった人達が集まってくれていた。


「いいとこだったね、お兄ちゃん」

「また行く」

「ああ、そうだな、機会があったらまた来よう」


 グリムの全力疾走で、ガゼッタ王国を目指す。

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