第68話: 本当の再会

 俺達はハイエルフの里へと到着した。

 しかし、里の長含め、その側近は何者かに操られている状態だった。正体は不明だが、恐らく亡国の騎士じゃないかと睨んでいる。


 城の地下で爆発があった場所は宝物庫だった。そのまま何者かに金銀財宝の類や高価な魔導具まで根こそぎやられてしまった。その中に奴らのお目当であるエレメンタルストーンがあったのかは、まだ確認が取れていない。


 近くにいながら阻止出来なかった自分に少しだけ憤りを覚えていた。

 そんな俺を察したのか、エレナが優しい言葉を掛けてくれる。


「そんなに何でも自分一人で背負い込まないで下さいね。ユウ様はそうやっていつも周りの人の為に自分を犠牲にしています。でもそんなユウ様を私は尊敬もしていますけどね」

「ははっ、エレナは何でもお見通しだね」

「そうですよー。私に隠し事は出来ませんから」

「その心配はないよ。約束したからねエレナには隠し事はしないって」


 エレナはニコッと微笑んでいた。


 テュナさんは被害状況の確認と状況整理をする為に城内は俺達を含め立ち入り禁止となっていた。

 そんな最中、正式に客人として迎え入れる準備をしてくれているそうで、準備が整うまでの間、集落で提供された宿で待機する事となった。


 今は宿の大部屋でみんなと一緒に寛いでいる。ユイとクロはベランダで外の景色を眺めているし、リンは瞑想めいそうでもしているのか、目を瞑って精神統一していた。

 ジラに関しては意外だったのだが、裁縫が趣味だと言う新事実が発覚した。いつの間にか購入してストレージに入れておいた裁縫セットをプレゼントしたら、毎晩のように暇さえあれば裁縫に励んでいる。今は何やら人型のヌイグルミを製作中らしい。興味本位に何を作っているのか尋ねたけど、出来てからのお楽しみとの事だ。エレナは俺と一緒にソファーに腰掛けている。


「このままずっとユウ様と一緒に旅が出来たら、どんなに幸せか⋯」


 俺にしか聞こえない声量でボソリと呟く。エレナがそれを望むなら、俺は別に構わないと思っている。確かにエレナは戦闘は出来ない。モンスターとの争いになれば、全力でエレナを守る必要がある。でも、旅ってそういうものだと思うんだよね。誰かに守られて、誰かを守って⋯お互いを助け合って生きて行く。助けのいらない人なんて、この世界には、いや、どこの世界にも存在しない。エレナも自分にしか出来ないことを全力ですればいいんだ。


「そうですよね⋯」


 え?

 隣を見ると、エレナが若干涙目になっていた。


(ユウさん、今の声に出てましたよ)


 あるぇ?


「ユウ様、私ほんの少しだけですけど、今の言葉に感動しました。凄く共感が持てます」


 心の中で呟いたつもりが、後半から実際に声に出ていたようだ。これは、ヤバい恥ずかしい。


「悪い、今のは忘れてくれ。恥ずかしいから!」


 一転してエレナが、クスクスと笑いながら俺に持たれ掛かってきた。


「あーお兄ちゃん! ズルい!」


 ベランダから外を眺めていたユイとクロが部屋の中へと舞い戻ってきた。

 ユイが駆け寄って、強引に俺と右隣にいたエレナの間に割り込もうとする。


「お兄ちゃんにベタベタしていいのは、妹のユイだけだよ!」


 左にはいつの間にかクロがいる。ほんと、チャッカリしてるよな。


「私も妹」

「モテモテですね、マスター」

「いや、そんなのじゃないから」


 時間は過ぎて行き、いつの間にか外が暗くなっていた。


「お兄ちゃん、お腹すいた!」

「そうだな、この部屋は調理場完備だったから何か作ろうか」

「あ、ユウ様。私が作りますよ」

「いや、悪いよ」


 そう言い立ち上がった俺の肩を抑えて、ソファーに座らされてしまった。


「こう見えても私、料理得意なんですよ?」


 そういえば、エレナの手料理は食べた事がなかったな。本人もああ言ってる事だし、お言葉に甘えるとしよう。


「じゃあ、悪いけどお願いするよ。食材は準備するから」


 俺は調理場に行き、ストレージから一週間ほど前に買った|新鮮(⋯)な食材を取り出した。


「これだけあれば、色々と作れそうですね」

「俺も手伝おうか?」

「ジーー」


 エレナに声に出して睨まれてしまった。


「はい、大人しく待ってます」

「よろしい」


 その仕草を見てお互いが笑っていた。


 エレナの料理はどれも見事なお手前で、俺のような、ただ焼いたり、切ったり、煮たりしただけのお手軽料理ではなく、どれも手間暇かけて作られた品々だった。この出来なら、高級料亭に出しても恥ずかしくないレベルだろう。


「エレナ、どれも凄く美味しいよ」

「エレナお姉ちゃん、料理美味しいです! 毎日食べたい!」


 他のみんなも美味しそうにしている。


「クロはもう魔力はいいのか?」


 クロは俺の魔力さえあれば、みんなと同じように食事を必要としない。


 魔族はみんなそうだと思っていたのだが、ジラに聞く限りでは、普通に食事が必要だという。

 この違いは何だろうか。話を聞くに唯一、魔王だけは食事を必要とせず、他の魔族の魔力を糧としているようだ。


 魔王とクロは同じ食事事情なのだろうか。

 何だか、これ以上考えるのは怖いので、今は止めよう。



 この時はまだ想像すらしていなかった。今晩この部屋で壮絶な争いが繰り広げられる事を。



 そう、俺の隣で寝るのは誰かという事だ。


 結局はジラとクロがその権利を勝ち得ていた。どのような壮絶な争いだったのかは、思い出すのも恐ろしいので、また別の機会に話す事にする。

 そのせいもあってか、朝からエレナの機嫌が悪い。さっきから、どうせ私なんて⋯と連呼している。


 しょうがない、エレナの機嫌だけは治しておかないとな。


「エレナ」

「何ですか?」


 ジト目で睨まれてしまった。

 負けるな俺。


「えっと、一緒に外を観光しないか? 出るなとは言われてないんだし」

「そういう事ですか。いいですよ」


 エレナの表情が少し、ほぐれたような気がする。


 宿の外に出ると、ユイとクロも一緒に行きたいと言うので、エレナと4人でハイエルフの街並みを観光だ。と言っても、人口たかだか数百人の小さな町なので、5分も経たたないうちに端まで来てしまった。


 それにしても何もない⋯。


 お店の類が、全くと言っていい程に無い。商売の概念がなく、観光客などいるはずもない。全て、配給による生活をしているそうだ。


 すれ違うハイエルフも俺たちが珍しいのか、少し警戒されているようだった。

 しかし、俺はエレナのアイドル力に圧倒されていた。容姿もさる事ながら、持ち前の明るさや礼儀作法に至っても完璧である為か、すぐにハイエルフたちと打ち解け、今では囲まれている。


「私、エルフなんて20年振りくらいだわ」

「僕は100余年だな。だけど、それがつい昨日のように思い出されるよ」


 俺はハイエルフを見たのは生まれて初めてだ!


 エルフの里でもそうだったが、エレナには人を引き寄せる才能があるのだろう。

 俺も暫くハイエルフたちと世間話に興じていた。元々エルフとハイエルフは一つの種族だったそうだ。

 大昔、彼らの祖先の中に特殊な能力を持った男女2人が産まれた。まだ生まれて間も無いというのに言葉を喋ったと言い伝えられている。

 精霊との対話は勿論の事、この世界の神と会話する事も出来たという。

 やがて大人となった2人は契りを結び、子供が産まれた。その子供もまた、両親の力を受け継いでいたのだ。何時しか、同族だったエルフの仲間たちは、特殊能力をもつエルフの事をエルフの上位種、ハイエルフと呼んだそうだ。

 しかし、それ以降エルフの両親からハイエルフが産まれてくる事はなかった。

 両親の内、どちらか片方がハイエルフだったとしても産まれてくる子はエルフとなってしまう。

 ハイエルフ同士でしか産まれてこない種族として、いつしかエルフとは距離を置くようになってしまった。


「では、皆さんも先祖のお話に出てきた両親の子孫なのですか?」

「そういう事になりますね。それと、始祖様はまだご健在ですよ」


 え?


 確か最初にこの話は、5000年程前の話って事になってたはずだけど?


 何歳だよおい!

 彼らハイエルフの始祖は別の場所にいるらしい。本人達も会った事はないそうだが。

 そんな偉大な人物がまだ生きているならば、是非会ってみたいものだ。

 ハイエルフの里は、ここを含めこの世界には全部で3箇所しかないという。

 ちなみに、ここハイエルフの里の長はテュナがしている。元々はテュナの両親が長役をしていたのだが、10年前に不慮の事故で他界してしまった。あまりの急な出来事で皆ショックを受けていたそうだが、あまり詳細を聞くのも野暮なのでそれ以上の詳しい話は聞けずじまいだった。


 俺たちが世間話をしていると、テュナの遣いという人が俺たちの元へと訪れた。

 ようやく面会の許可が出たらしい。

 宿屋に戻り、全員揃って城へと向かう。門の所に、あきらかに執事を絵に描いたような人物が待っていた。


「ようこそ、おいで下さいました」

「忙しい時に申し訳ありません」


 シャロンが頭をペコリと下げる。俺も頭を下げる。それを見たユイも頭を下げた。さらにそれを見たクロが最後に頭を下げて、まるで時間差を狙ったかのような展開になってしまった。


「貴方方は我々の恩人です。姫様からも丁重におもてなしするように仰せつかっております」


 そう言い、執事もまた頭を下げている。


 全員が頭を下げたこの状況は、一体なんなんだ。誰か何か言ってくれないと、頭を上げることが出来ない⋯。

 隣のユイが頭を下げたまま俺の袖を引っ張る。

 大丈夫だユイ、俺もツライ。


「えと、テュナは中ですか?」

「はい、中でお待ちしております。どうぞお入り下さい」


 シャロン、ナイスだ。

 昨日来たばかりだったので、真新しさはなかったが、昨日とは違い、俺たちを出迎えてくれたのは、テュナただ一人だった。そして、入ってきた入り口の扉が閉じられた時だった。

 扉が閉まるのを待って、駆け出した2人がいた。

 シャロンとテュナだ。

 2人は、熱い抱擁を重ねている。


「昨日の続きね!」

「うん! ほんとに久しぶりねシャロン」

「久しぶりだね、テュナ」


 その後も人目を気にしないと言わんばかりに、2人の会話が盛り上がる。

 俺たちって、完全場違いだよな。などと考えていると、テュナと視線があった。


 小声で何やら話しているが、残念ながら地獄耳の俺には通用しないのだ。


「ねえ、あの人はシャロンの彼氏?」


 え?

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