第67話: リュミナール
俺たちは、無事にハイエルフの里に到着していた。
その場所が、あまりにも幻想的な為、俺を含め皆がその光景に見惚れていた。
「このまま真っ直ぐに進んで下さい」
案内役の人が先導してくれる。
指示に従い暫く進むと、大自然の中に人工物が見えてきた。
どうやら集落のようだ。
来訪者が珍しいのか、皆が此方を喰い入るように見ている。
場所が場所だけに、客人なんて恐らく皆無なのだろう。
そのまま集落地帯を抜けると、次に見えてきたのは、見事なまでの華やかな城だった。
王国にある王宮と比べると圧倒的に小さいが、充分に立派と呼べる代物だった。
寂れていた集落との地域差が激しい気がするが、里の都合にとやかく言う筋合いはない。
城の前まで案内されると、案内人はどうやらここまでのようで、中に入るように促された。
どうやら馬車は、ここまでのようだ。
通行の妨げとならないように、隅のほうに馬車を停車させる。
「グリム、悪いけど少し待っていてくれないか」
ああ、さっさと行ってきな。とグリムが言っているであろうと勝手に推測する。
グリムはいつでもクールなのだ。
城の正面扉を開けると、高級感溢れる内装の整った城内が広がっていた。
恐らく出迎えであろう。
目の前には3人の人物が立っている。正確に言えば、見えているのは3人。姿を隠している奴が1人いる。
一人はレベル49のガタイの良い屈強そうな戦士の格好をしている男ハイエルフだ。もう一人はレベル52のいかにも魔術師の格好をしている男ハイエルフだ。
その二人に挟まれる形になっているのは、エレナにも勝るとも劣らないほどの美少女だった。
しかし、何処だか違和感を感じる。
久しぶりの対面で恐らく両者話したいことが山程あるだろうが、取り敢えず自己紹介が始まった。
「よくぞ参った人族と⋯⋯エルフの同胞よ。我が名は、テュナ・ミルキー。此処ハイエルフの里リュミナールで長を務めている者だ」
「私は、シャロン・ウォルナート・フィゼルです。ガゼッタ王国の第一王女です」
「私は、エレナです。父はロイド。エルフの里プラメルの王です」
俺たちには、そんな大層な肩書きはないので、護衛という事にしておこう。実際そうなのだから。
「私はシャロン王女の護衛の1人でユウと申します」
「ユイです」
「クロ」
「リンと申します。以後お見知り置きを」
「ジラです。この度は御目通り出来、嬉しく思います」
テュナはどうか知らないが、シャロンは恐らく感動の再会を抱き合って喜びたいのだろうが、さすがにお互いの立場と視線があるので、この場でその行動は出来ないと我慢しているのだろう。
「シャロンと言ったわね、貴女と2人きりで話がしたいわ。着いてきて頂けるかしら。護衛の方々は、この場でお待ち下さい」
もしかして、テュナは幼い頃に一緒に暮らしたシャロンだと気が付いていないんじゃないだろうか。
何処か余所余所しい感じがする。
どちらにしてもマズいな、シャロンを1人で行かせるのは危険な気がする。
何もないとは思うが、さっきから何か腑に落ちない。
姿を隠している奴も気に掛かるしね。
ジラが俺にしか聞こえない声量で話し掛けてくる。
「何か変ですね。用心して下さい」
俺は、了解を頷きで返事をする。
シャロンが此方を振り向く。
「皆さん、行ってきますね」
一応、シャロンには致命傷を一度だけ身代わりに受けてくれる指輪を持たせている。
こんな局面になるなら、遠距離通話の魔導具も持たせておくんだった。
さすがにこの場で渡すのは、違和感を持たせるだろう。
警戒しすぎだろうか?
俺の思い過ごしならいいが⋯。
(私が彼女の側についていますね。離れていてもある程度の距離ならユウさんとも心話が通じますので)
(頼んだぞセリア。何かあれば知らせてくれ)
テュナとシャロンが奥へと進んでいく。
そして、二人の姿が見えなくなった直後にそれは起こった。
俺たちの周りに黄色い靄のようなものが薄っすらと立ち込めてきた。
”
なんだ?
何かの魔術を取得したかと思ったら、後ろのみんなが地面に膝をついた。
「グッ⋯麻痺か⋯」
その声は、リンだった。
どうやら、俺たちは、麻痺の魔術を掛けられたようだ。
皆のステータスを確認したので間違いない。
俺には、何故だか全く効果が現れていないが、一応効いている振りをする。
ジラにも効いていないようだ。
「何の真似だ?」
わざとらしく聞いてみる。
「折角そちらから人質になりにきてくれたのだ。歓迎の挨拶のつもりなのだがな」
この声は、目の前の二人ではない。
「そろそろ姿を現したらどうだ?」
”
おいおい、今度は催眠か。
どうあっても姿を晒す気はないようだな。
「マスター、どうしますか?」
やはりジラも効いていないようだ。
俺にだけ聞こえる微かな声で指示を待っている。
このまま術中にハマった振りを続けてもいいが、シャロンが心配だ。
「ここは俺に任せて、シャロンを保護してくれ。テュナが襲ってきても危害は加えずに気絶させるように」
「御意」
ジラは、俺たちを飛び越え、シャロンを追った。
「何だと⋯私の魔術が効かないとは」
すかさず目の前の二人に捕縛を掛ける。
姿の見えないやつも
「グヌヌ⋯」
俺はすぐに皆に^
姿の見えなかった奴も透明化を維持できなくなったのか、姿を見せていた。
黒ローブを羽織って仮面を被っていた。
重力に耐えきれずに地面に伏せている。
「貴様、何者だ⋯」
「それは、こっちのセリフだ。正体を明かすなら命は助けるけど?」
「リン、クロ、ユイ、すぐにあの3人をこの縄で拘束してくれ」
しかし、俺の指示は遅かった。
「
黒ローブの男は、
すぐに
あの魔術、以前も見た事がある。
確か、今は失われた魔術で、
あれが使えるのは、現状一つしか俺は知らない。
そう、亡国の騎士の奴らだ。
奴らは確か、エレメンタルストーンを狙っていた。
もしかしたら、この場所にそれがあるのかも知れない。
「みんな、この場を頼む」
すぐにシャロンとジラの後を追う。
廊下を曲がった先に、ジラを見つけた。
ジラは、テュナを抱き抱えていた。
その前には、シャロンの姿が見える。
俺が近付くと、二人が振り向く。
「私が近付くと、急に彼女が倒れたました」
「恐らく洗脳か何かが解けたのだろうか」
状態を確認するが、特に異変はなさそうだな。
「事情は後で説明するから、ジラとシャロンさんは、このままこの部屋で彼女の看病を頼みます」
ジラがテュナをベッドへと寝かせる。
「分かりました」
「後で絶対説明して下さいね」
「うん、あとジラ、隠れている奴がまだ何処かに潜んでいるかもしれない。だから扉は閉めておいてくれ」
「御意」
俺は急ぎ皆の場所へ戻る。
「あ、お兄ちゃん! ハイエルフのお兄ちゃんが目を覚ましたよ」
意識が戻ったようだ。
という事は、テュナさんも起きたのかな。
「ここは、一体⋯なぜ縛られているのだ。御前たちは誰だ?」
ハイエルフの二人が拘束に抗おうと抵抗している。
操られていた記憶もないのか、これはちょっと面倒だな。
取り敢えず、テュナさんの意識が戻ったら全員をこの広間に集めようか。
「俺たちは、怪しい者じゃありません」
「怪しい奴に限って怪しいですとは言わないものだ」
まあ、そうなんだけど。
「ユイ、二人の拘束を外してあげて。俺は、もう一度ジラの所へ行ってくる」
再びジラの元へ戻るとシャロンとテュナが涙を流して抱き合っている。
そうそう、これが本来のあるべき姿。本当の久しぶりの再会というやつだ。
邪魔しても悪いので、ジラに伝えて貰おう。
「二人が落ち着いたらでいいから、下の広間に連れて来てくれ」
「分かりました」
さてと、では行きますか。
この城内には、まだ反応が幾つかあったのだ。
恐らく地下だろう。
階段を下まで降りていく。
つきあたりの部屋の中に複数の反応があるのが分かった。
恐る恐る扉を開ける。
扉は鍵が掛かっていたが、壊すのは得意なのだ。
中へ入った。ここはどうやら牢獄のようだ。
幾つもの牢が並んでいる。
見つけた!
格好から察するにこの城で働く執事さんやメイドさんだろう。
皆意識はあるが、衰弱しきっている感じだ。
俺は全員を牢から出し、回復と食料を渡す。
「貴方は、どなたですか⋯」
「助けにきました」
一方、テュナさんを含めた3人は、ユイ達と合流していた。
護衛の2人は、テュナさんの無事な姿を見て安堵していた。
少し遅れて、牢獄に捕らえられていた人達と一緒に皆の元へとユウが戻ってきた。
ここにいる全員に話を聞いた所、どうやら2日前からの記憶が全くないそうだ。
恐らく何者かに操られていたのだろう。
一方、城外に居た、此処へ案内してくれた人は記憶を失っていなかった。
彼の話だと、2日前に黒フードを纏った3人の人族が訪れて来たそうだ。
以降姿を見ないので不思議には思っていたそうだが。
待てよ、3人か⋯
俺達が見たのは、1人だけだった。
なら、他の2人は何処にいるのだろうか。
その時だった。
城の何処かで爆発が起こった。
「地下だ!」
俺達は、すぐに地下へと向かう。
牢獄とは、反対側の部屋の壁に爆発で出来たと思われる穴が開いていた。
この場所に何があったのかは、定かではないが、
一体何処へ消えたのか。
もしも、亡国の騎士の連中だとしたら、以前は、テレポートのような魔術を使っていた。
あれで逃げられたら追う手立てがない。
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