第57話: 王立武道大会
第57話: 王立武道大会
修道院の一件から数日が経過していた。
その間も俺達は、ほぼ毎日修道院を訪れていた。
というのも、ユイとクロが行きたい行きたいと連呼するからなのだが⋯
今、とある催しにみんなで参加している。
正確には、俺は見てるだけで、俺以外と言った方が正しい。
今日は、この国の一番の強者を決める祭典が執り行われていた。
3年に1回の頻度で、不定期開催尚且つ、開催告知は2日前という悪条件の為、普段からこの国で生活している者ならいざ知らず、他国の者が参加するには中々に厳しい条件だった。
あまりこういう事に興味がないのだが、優勝者に贈られる魔導具というのが、素晴らしい逸品なので仕方なくだった。
名前:オーバーシールド
説明:供給した魔力に応じて、絶対遮断の全方位防御壁を展開出来る。
特殊効果:オーバーシールド使用可能
相場:金貨1000枚
希少度:★★★★☆☆
俺の障壁と同じ効果だと思うが、俺以外が使えるようになれば、安全面が大幅にアップする。
今後も旅を続けていく上で、仲間の安全性が上がるならば、いくら大金をつぎ込んでもいいと考えていた。
しかし今回は大会の景品なので半ば諦めて
なんでも、いつも頑張っているお兄ちゃんへのプレゼントなのだとか。
出来た妹を持つと兄として誇らしい!誰かに自慢してやりたい。
とまぁ、こんな形で武道大会会場に来ている訳なのだが⋯
さっきから、リンが囲まれている。
いわゆるファンというやつだろう。
何時だかの喧嘩の仲裁が巷では、ちょっとした噂になっているようだ。
「リンさんも出られるんですね!私絶対応援しますね!」
男女問わず人気があるとは、さすが俺の脳内ジャンヌだ。
この武道大会は、賭け試合にもなっているそうだ。
なるほど、そうやって大金をたんまり稼ぐ成金野郎達がいる訳だな。
どおりで明らかに大会参加者ではない、目付きの悪い輩がたくさんいると思った。
武道大会は、A〜Dまでの全4ブロックに別れている。
各ブロック毎に20人がトーナメント形式で競っていく。
ルールは武器、魔術の使用はOKで、殺しはなしという単純明快なものだった。
Bブロックにユイとリン、Cブロックにクロという組み合わせだ。
さすがにブロックが4つだと被ってもしかたがない。
しかし、2人が対戦するとしたらブロックの決勝だった。
恐らく物凄い戦いになるだろう。
一度実際に見ているが、2人ともあの時よりも成長しているしね。
場内アナウンスが聞こえてきた。
「大会に参加される方は、速やかに各ブロック受付窓口まで集合して下さい」
「お、そろそろ時間みたいだな。みんな、結果は二の次だ。楽しんでくるんだぞ」
「うん、がんばるね!」
「負けない」
「簡単に負けるつもりはありません」
俺は観客席へと移動する。
コロッセオのような会場で、中央には各ブロック毎に4つのリングがある。
「第一試合、開始!!」
場内アナウンスと共に武道大会が幕を開けた。
どの程度のものかと思っていたが、なかなかにレベルが高い。
ざっと見る限り、参加者のレベルは皆30以上だった。
これは、みんなも勝ち上がるのは簡単じゃないかもしれないな。
俺の不安とは他所に、3人とも危なげなく順調に勝ち進んでいった。
その強さと可憐な容姿も相まって、勝ち進むに連れて、場内アナウンスでは、二つ名で呼ばれていた。
「各ブロックもいよいよ大詰めです。Bブロック決勝、その動きは閃光の如く、圧倒的な速さで他の追従を許さない!閃撃のリン・シャーロット!!対するは、若干12歳の
なんともカッコイイ二つ名だ。実に羨ましい。
俺は2人の試合を食い入るように見ていた。
2人の武器がぶつかり合う音が会場に響き渡る。
ユイは、無双連撃というスキルを使用していた。
瞬く間に放たれた連撃の数は24にも昇る。
しかし、その全てをリンの持つ魔刀フラムジャイルが弾いていた。
観客から、2人の戦いにどよめきが走る。
いつまでも続くと思われる程に2人の戦いは拮抗していた。
しかし、決着はついた。
2人はまだ
2人が互いに健闘を讃え、握手している。
再び会場から溢れんばかりの歓声と拍手が相手に贈られていた。
実にいい試合だった。
どっちが勝ってもおかしくない名勝負だったよ。戻ってきたら労ってあげないとね。
さて、次はクロの番だ。
「続きまして、Cブロック決勝!皆さんご存知、全大会準優勝者、八刀流の魚人族!クラスター・ジム!!対するは、若干10歳にして、驚異の身体能力で危なげなくここまで勝ち上がって来ました!謎のクールビューティー!クロー!!試合開始!!」
そういえば、10歳という設定にしてたんだったな。
本当の事を言えば、まだ赤ん坊になってしまう。
相手はタコの魚人だ。その8本の腕を巧みに使い、相手の逃げ場すら奪い、攻撃している。
対するクロの武器は、自身の爪だった。
5本爪×2のトータル10本の研ぎ澄まされた爪だった。
数だけなら、クロの方が優っている。
爪と言っても侮れない。
以前、魔剣を持ったリンと剣を交えていたが、クロの爪は一歩も引けを取らなかったのだ。
予想通り、クロの爪が相手の剣を根こそぎ叩き折っていく。
勝敗が決まるまで、それ程の時間は掛からなかった。
クロが相手の全ての剣を折った所で、相手が自ら負けを宣言したのだ。
ちょうどその頃、勝負を終えたユイが戻って来た。
「お疲れ、ユイ」
俺は飛び込んでくるユイの頭をいつもより多く撫でる。
「負けちゃった!やっぱしリンは強いや!」
負けても後悔していないようだ。
「楽しかったか?」
「うん!とっても!」
俺の妹達は、皆体育会系の為、体を動かす事が好きだった。
今のユイ達が本気を出さなければならない相手はそうはいない。
だから、今日は本気で体を動かせて楽しかっただろう。
「じゃ、一緒に2人の応援をしようか」
「うん!」
場内アナウンスが流れる。
「これより、各ブロック1位の方、今大会の準決勝を執り行ないます!」
さて、A-Bブロックは、リンと人族の剣士か?
見たところ、明らかに勇者やってますって感じだな。
俺の聞き耳スキルが、リング上の2人の会話を拾ってきた。
「久しぶりだな、リン」
「!?」
「兜を被っていても、その動きを見ていたら分かるさ」
相手も兜を被っている。しかし、リンには声で相手の事が分かったようだ。
「ザッツ⋯なの?」
「まさか、里を出たお前が、ここまで腕を上げてるとはね。どうだ、俺が口利きしてやるから里に戻って来ないか?」
「⋯今は、試合に集中したい」
「俺が勝ったら、考えといてくれよ」
話から察するに、どうやら、リンのいた勇者の里の者らしい。
口振りからすると、本物の勇者か。
俺のいない所で勝手に仲間を引き抜かれても困る。
「それでは準決勝第一試合!皆さん知っての通り、現在王立武道大会2連覇中の光の勇者!ザッツ・ドゥーイン!!対するは、閃撃のリン・シャーロット!!勇者相手に何処まで食らいつけるか!それでは試合開始!!」
リンの試合が始まった。
俺が確認した相手のレベルは69。確かに強い。
今のリンが61だから、レベルだけで見るならば勝ち目はないだろう。
しかし、俺は何故かリンが負ける気がしなかったのだ。
リンは、レベル差を感じさせず、互角の戦いが繰り広げられた。
「まさか、ここまで腕を上げていたとはな!益々もって俺はお前が欲しい!」
「⋯」
目で追うのがやっとな感じだ。
あの場に俺がいたとして、果たして勝てるだろうか?
レベルで優ってはいても、戦闘技術では遥かに劣っている。
戦いを見ていて、相手が光の勇者と呼ばれている
とにかく派手なのだ。
光属性魔術を多様している。
どれも見た事がないものばかりだ。
若干、リンが押されてきたか?
2人の斬撃でリングがどんどん破壊されていく。
「あっ!」
隣のユイが思わず声を出した。
一瞬の隙を突き、リンの剣が弾き飛ばされてしまった。
リンの負けだった。
「惜しかったな」
「うん。でも凄い試合だったよ!」
観客は大歓声を2人に贈っている。
俺も拍手で2人を労う。
次の試合はクロの番だった。
「えっと、対戦相手は⋯・え?」
「どうしたのお兄ちゃん?」
今、リング上でクロと相対している相手を確認する。
名前:ジラ・ガーランド
レベル73
種族:魔族
職種:魔術師
スキル:
まさか、クロ以外に魔族がいるとはな。
レベルもクロより遥かに高い。
「続きまして、準決勝第二試合、前大会準優勝者を圧倒的な速さで倒した謎のクールビューティー!クロー!!対するは、こちらも謎の妖艶フードコート呪術師!ジラー!!、試合開始!!」
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