第55話: 無実の罪
タタル少年に連れられて修道院を訪れていた。
無実の罪で裁かれようとしているシスターを助けて欲しいと依頼されたのだ。
修道院は、多種族の子供達、16名と老シスター、シスターシルキーの総勢18名が生活していた。
今俺は、窃盗の容疑をかけられているシスターシルキーと対面していた。
「初めまして、この修道院でシスターをしております。シルキーと申します。以後お見知り置きを」
シルキーは、修道服のスカートの裾に手をやり、お辞儀をする。
イメージは、高貴なお姫様という感じだった。
紺色の修道服を身にまとっているが、仮に色鮮やかなドレスだったら、誰が見てもお姫様だろう。
俺らも自己紹介をし、早速話を伺う事にする。
「全て私が悪いのです。でも、絶対にこの修道院を壊させたりさせません」
そもそもの発端は、ジーニアス卿の息子に縁談を迫られていたシルキーが、修道院の仕事を優先したいからと、縁談話を断ったのだ。
その腹いせの報復らしい。
なんともありがちだけど、同じ男としては、共感出来るはずもない。
「何か手はあるのですか?」
「この度はわざわざ私なんかの為に救いの手を差し伸べて頂きありがとうございました。この状況下となってしまっては、修道院を助けるためには私が縁談話を受ける以外方法はありません」
シルキーは、覚悟は決めましたという目をしている。
「シスターシルキー、貴方は勘違いをしています」
俺の問いかけにシルキーは、表情を少し崩していた。
「貴方が救いたいのは、この修道院なのですか?それともここで生活している子供達なのですか?」
「それは⋯」
シルキーは、言葉を詰まらせている。
悪いけど最後まで言わせてもらう。
「確かに貴方が縁談の話を受ければ、修道院は助かるかもしれない。しかし、貴族に嫁ぐという事は貴族邸で生活する事になるんじゃないですか?そうなれば、この修道院に戻ってこられない可能性だってある。貴女はそれが分かっていたから当初縁談話を断ったのですよね。子供達を悲しませるんですか?」
シルキーは下を向いてしまった。
少し言い過ぎたかもしれない。
「だったら、私はどうすればいいんですか⋯この身を犠牲にしたって、無力な私にはそれくらいしかもう⋯」
ドアの外に複数の反応がある。
恐らく子供達が会話を聞いていたのだろう。
ドアを勢いよく開けて、数人の子供たちが応接間になだれ込んできた。
「シスター!だめだよ!ずっとここに居て下さい」
「行かないでっ」
「住むところなんていらないから、いつまでもシスターと一緒に居たいよ!」
涙をそそられる光景だ。油断すると泣いてしまう。
歳を取ると涙腺が緩くなるという。歳は取りたくないね。
隣にいるユイが俺の服の袖をクイクイと引っ張る。
「私にはお兄ちゃんがいるから寂しくなんてないけど、あの子たちは⋯それがあのお姉ちゃんなんだよね⋯」
「ああ、少しやる気が出てきたな」
(ご主人様のお人好しスイッチが入りましたね)
セリアが何か言っているが、無視だ。
「シスターシルキー」
シルキーは子供達全員を抱きしめていた。
「⋯はい」
「もう一度お聞きします。ここの修道院の子供達に誓って、窃盗はしていないと誓えますか?」
シルキーは真剣な顔立へと変わっていた。
「はい、私が敬愛する神リュバスに誓って」
ならばこの依頼を正式に受ける事にしよう。
残された時間は、明日の衛兵がここを訪れる正午までだ。
それまでに窃盗の疑いを晴らす必要がある。
まずはジーニアス邸の偵察からだな。
ユイとクロは、もしもの時に備えて修道院に待機してもらう。
「動きがあればすぐにテレコンイヤリングで教えてくれ」
2人はラジャーのポーズで返事を返した。
ジーニアス邸までは、タタルが案内してくれた。
リンはタタルと屋敷から少し離れた所に待機してもらう。
「リン、怪しい人物がいたら尾行してくれ」
「分かりました」
俺は透明化のマントを使い、屋敷の中に侵入した。
さすがに王国貴族の屋敷だけあり、中は相当な広さだった。
天上が無駄に高い⋯どんな巨人族が住んでるのだか。
調べるべき人物は、ここの屋敷の持ち主である、ジーニアス卿本人と、シルキーに縁談を持ち掛けたウィランという人物だ。
しかし、どちらとも面識がない為、顔での判断は出来ない。
聞き耳スキルと
そうして調べていくと、この屋敷内の反応は、全部で8人だった。
執事とメイドを除けば、4人だ。
そして俺の聞き耳スキルが怪しげな会話に反応した。
「これで本当にシルは俺の元に来るんだろうな?」
「心配せずとも彼女に他の選択肢はない。絶対に縁談の話を戻してくるに決まっておる。それに先ほど、念には念を入れて手を打っておいたしな」
これは良い話が聞けた。
話している相手は
3時間以上隠れて粘っただけの事はある。
これで、やつらの目論見は分かったが、窃盗に関してはまだ分からないままだった。
このまま粘っても都合良く話してくれるだろうか?
もう一度事の
ペンダントが消えたその日に、この屋敷を訪れた客はシルキー1人だけ。
消えたその日に修道院のシルキーの寝室から見つかっている。
何か変だな⋯
やけに対応が早くないか?
元いた世界ならば、例えば家宅捜索する場合は、令状が必要だったりと、それなりに準備が必要なはずだ。
それとも、この国の衛兵は優秀なのか?
いや、もしかしたら⋯
衛兵とジーニアス卿がグルなんて事は考えれないだろうか?
例えば、衛兵の1人がジーニアス卿から渡されたペンダントを所持していて、シルキーの寝室を捜索中にワザと置いたとか。
どちらにしても、不自然な点が無かったかもう一度話を聞く必要がありそうだな。
(セリア、このままこの2人の監視を頼めるか?)
(しょうがないですね。ご主人様の命令では)
(俺はご主人様でも命令している訳でもないぞ?)
(冗談ですよ。分かりました。何か情報が掴めましたら連絡しますね)
(ありがとう、助かるよ)
セリアを残し、ジーニアス邸を後にする。
まずは、外にいるリンと合流だ。
長引きそうだったので、安全を確認した上でタタル少年を先に帰したらしい。
「屋敷の入り口を警戒中に衛兵が1人屋敷の前をウロウロしていました」
衛兵か⋯。
俺の推理があっていようが間違っていようが調べてみる価値はありそうだな。
「分かった、そっちは俺が調べるから、リンはもう一度シルキーの元に出向いて、寝室でペンダントが見つかった時に不自然な事が無かったか、聞いてみてくれないか」
「分かりました」
リンは忍者のように、立ち去っていく。
さてと。
(ユイ、聞こえるか?)
(あ、お兄ちゃん!聞こえるよ)
俺が何か変わった事が無かったかユイに聞こうとするよりも先にユイが喋る。
(お兄ちゃん大変だよ!シスターが居なくなっちゃったの!)
(なんだって⋯入り口を見張ってたんじゃないのか?)
(うん、あーちゃん達、あ、子供たちと一緒に見張ってたよ!でも、シスターは通ってないよ)
なんてことだ。次から次へと⋯
(もうすぐリンがそっちへ向かうから事情を説明してあげてくれ)
衛兵の調査は後回しだ。先にシルキーを探す必要がある。
いや、探すまでも無いかもしれない。
先程屋敷で盗聴した時にジーニアス卿が、意味深な発言をしていた。
手は打ったとかなんとか。
もしかしたらシルキーが縁談話の復活を持ち掛けるように何か仕掛けたのではないだろうか。
という事は、このままここで待っていれば、シルキーが姿を現すかもしれない。
30分程だろうか。
馬車による移動や変装を警戒して
メガネと帽子で軽く変装はしているが、
彼女は何のためらいもなく、ジーニアス邸に入っていった。
門番もスルーしている。
恐らく、事前に話を聞いていたのだろう。
俺はシルキーの後に続いて透明化のまま屋敷へと入る。
暫く進むとシルキーの前にジーニアス卿が現れた。
「これは、これは、シスター様、本日はどういったご用件でしょう?」
「白々しいですね。あんな脅迫文をよこしておいて」
「なんの事だか、皆目見当もつきませんね」
どうやら、ここにきた理由は脅迫文の仕業らしい。
「私を罠にはめたつもりですか!」
ジーニアス卿は余裕の表情をしている。
「はてさて、シスター様が何を言っておられるのか、分かりませんな。何か勘違いをしておられるのではないですか?」
「シラを切るつもりでしたら、それでも構いません。ですが、私は⋯貴方(⋯)の策略に乗りつもりはありません!本日はそれを言う為に参りました!」
ジーニアス卿の表情が少し罰が悪そうになっている。
やるじゃないかシスター。映画やドラマの女優だったら、ファンになりそうだ。
シルキーが「帰ります!」と後ろを振り向いた瞬間だった。
「このまま帰れると思っているのか?」
シルキーの行く手を阻むように立ち塞がったのは、シルキーに縁談話を断られたウィランだった。
「縁談話を断れると思っているのか?」
「嫌なものを嫌と言って何が悪いんですか?」
ウィランは、バツが悪そうな顔をする。
「ユリウス!話が違うじゃないか!」
自分の思い通りにならなければ駄々をこねる。見ていて、うんざりするのは俺だけだろうか?
「変な気を起こすなよ、ウィラン。どうせこの女は明日には犯罪者だ。奴隷落ちの可能性だってある。そうすれば、分かるだろう?」
「そんなの待てるか!」
「ここでお前が何か行動を起こすと、折角色々と裏で手を回してきたのが、無意味になってしまうではないか」
「あのペンダントは、やはり貴方達の仕業だったのね!」
「ふん。だからどうだと言うのだ。罪人の言う事など誰も信じぬわ!」
シルキーは身の危険を感じたのか、逃げるようにその場を離れようとする。
しかし、ウィランが邪魔をする。
俺はウィランを足を引っ掛けて倒す。
その隙に、シルキーは勢いよく駆け出し屋敷を後にする。
欲しい情報は、取れたのでもう十分だろう。
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