第54話: 孤児院のシスター
エレナに近況報告をする為に、エレナの寝室を訪れていた。
しかし、そこにエレナの姿はなかった。
少し待っていると見知らぬイケメンエルフがドアをノックもせずに入ってくる。
そして、少し遅れてエレナも登場する。
イケメンエルフが自分の寝室の中にいて、エレナ酷く驚いていた。
2人の会話を悪いとは思いつつも盗み聴きしていたら、驚きの情報を耳にしてしまった。
エレナには結婚を誓い合った許嫁がいたそうだ。
「私と貴方が許嫁だったのは、まだ私達が小さい頃の話しで、両親が勝手に決めた事よ。それに、過去に何度も両親交えてお断りしたはずですが?」
エレナはいつも俺に見せている優しい表情ではなかった。
少しムッとした、心の底から怒っているような感じなのだろう。
今のエレナの言葉を聞いてなお、イケメンエルフは余裕の表情を見せている。
「君が僕を拒むはずがないさ。だって僕は西エルフ里の王子なんだよ?お互いの里の益々の発展の為には、2人が結ばれる必要があるのは君も分かっているだろう」
「理由がどうであれ、私は好きでもない人と一緒になるつもりなんてありません」
エレナは、キッパリと答えた。
うーん、俺は隠れて聞いていていいのだろうか。
取り敢えず、エレナに許嫁がいると分かった時には正直驚いたが、今は違うという事を他でもないエレナ本人から直接聞けて、⋯あれ、俺はホッとしたのか?
この込み上げてくる感情はなんだろうか。
俺自身、エレナに告白された時は、正直戸惑いはあった。
俺の境遇が、異世界トリップなんてものでなければ、告白された時に即OKしていたかもしれない。
それだけにエレナは魅力的だった。
あれから随分と月日が経ってしまったが、俺はエレナの事をどう思っているのだろうか。
自問自答していると、2人に動きがあった。
「ま、すぐに君は僕の事しか考えれなくしてあげるよ」
イケメンエルフは尚も余裕の表情で、ゆっくりと寝室の入り口へと進み、ドアの鍵をロックした。
エレナが鋭い眼光を向ける。
「なぜ鍵を?」
イケメンエルフは、ニヤついた顔で懐から何かの小瓶を取り出した。
エレナは、その小瓶を見るな否や驚きの表情をしている。
「これは、催淫効果のある特殊な芳香剤でね、これを君に吹きかけて、君を僕の虜にするのさ。既成事実さえ作ってしまえば、後はどうとでもなるよ」
「そんな事をして、許されると思っているのですか!」
おいおい、可笑しな展開になってしまったぞ。
俺が姿を見せて、イケメンエルフを抑えようと思った瞬間、セリアが
(ユウさん、ああいった輩は言い逃れが出来ないように現行犯が良いと思います)
俺が未然に防ぐかどうか悩んでいると、パリンという音が辺りに木霊した。
どうやら小瓶が割れた音のようだ。
未然に防ぐことは叶わなかったが、これでセリアの言う通り、イケメンエルフに言い逃れが出来なくなっただろう。
イケメンエルフは、いつの間にか取り出したマスクを付けていた。
用意周到なヤツだ。
エレナが口元を抑えている。
どうやら、口元を抑える行動をさせる事で、大声を出されて助けを呼ばれる事も阻止したようだ。
色々と考えてやがる。
以前、魔族のイスに催淫魔術を掛けられたことがあったが、どういった訳か俺には効かなかった。
だがらと言う訳ではないが、今回も大丈夫だろう。
あんな奴に俺自身が魅了されるはずがない!
イケメンエルフが、エレナの手を掴もうとする。
「いやっ!」
我慢できずに姿を現して、エレナを守る形で、イケメンエルフとエレナとの間に入った。
「な、なんだお前は!一体どこから!」
「悪いけどエレナには、指一本触れさせないよ」
少し頭にきていたので、冷静になる為にも一生に一度は言ってみたかったセリフを口に出す。
エレナは驚いていた。
しかし、催淫効果の影響か、少し辛そうだったので、すぐに
セリアは俺の中から出て来て、人型となり、部屋の窓を開けていた。
「くそっ!」
イケメンエルフが振り返り、部屋から出て行こうとするので、俺は軽く正拳突きをお見舞いする。
イケメンエルフは、丁度ドアを開けた所で、俺の一撃を浴びて、廊下の先で気絶していた。
エレナが後ろから抱き付く。
「やっぱりユウ様は、私の王子様ですね⋯」
エレナさん恥ずかしいからやめて下さい⋯
前を振り返ると、エレナの頬がほんのり紅い。
まだ催淫効果が残っているのだろうか?
暫く見つめ合った後、俺の方がこの無言空間に耐えきれずに口を開く。
「えっと、ごめん⋯」
「なんでユウ様が謝るんですか?」
俺は、ここに来てからの事を全てエレナに話した。
相手が手札を切るまで、黙って見ていた事もだ。
「頭を下げたままの俺に、エレナは優しく俺の頭に手を乗せる」
「許します。私はいつでもユウ様を信じていますから」
廊下で気絶しているイケメンエルフを侍女が見つけたのか、女性の悲鳴が聞こえた。
「俺がここに居るのもちょっとマズいな」
近況報告は、また後日という事で、エレナと別れた俺はみんなの元へと戻った。
ユイ達は、ショッピングを終えて戻って来ていた。
部屋の中が、恐らく購入した物と思われる品々が散乱していた。もう何も言うまい。
次の日、ある施設の前に来ていた。
そう、孤児院だ。
30分程前、街をブラブラと散策中に、いつかの花売り少年と出くわしたのだ。
「あ、お兄さんだ!」
少年も俺を見つけるや否や、駆け寄ってくる。
「お兄さん、お願いがあります⋯」
なんだろうか、また花売りかと思ったが、手には何も持っていない。
少年は徐にポケットから銀貨を1枚手に取り、差し出してきた。
「このお金で、僕達を助けてもらえませんか」
「助ける?」
取り敢えず、話だけでも聞こうと、場所を変えて人通りが少ない場所へと移動する。
「詳しく話してくれるかい?」
少年はやはり孤児院で暮らしているようだ。
孤児院は身寄りのない子供達を集めて、共同生活を送っている施設で、種族間に問わず、様々な種族の子供達が一緒にいるそうだ。
「シスターを助けて下さい!お願いします!」
孤児院で子供達の世話をしているシスターが、無実の罪で、捕まりそうになっているそうだ。
明日にでも、シスターを捉えるべく、この街の警察にあたる、衛兵が孤児院を訪れる事になっている。
無実の罪というのが、窃盗の容疑だと言う。
詳しい事は少年は分からないようだが、絶対にシスターはそんな事しないと何度も断言していた。
しかし、助けて下さいと言われても、俺に何が出来るだろうか?
仮に無罪だとしてもそれを立証させる術が分からない。
(取り敢えず、話だけでも聞いてみましょう。ユウさんは、みんなの味方ですからね)
セリア、あんまり俺を持ち上げないでくれ⋯
「取り敢えず、シスターの所へ案内してくれるかい?」
という訳で、少年のタタルに案内され孤児院へと到着した。
孤児院の前には、多種族の子供達が入り口を固めていた。
「タタル、その人達は?」
「シスターを助けてくれる人を連れてきたんだ」
「大人は信用出来ない!」「そうだそうだ!」「大人はこの中に入れるな!」
酷い言われようだな。
元の世界では、成人済みの大人だが、こっちの世界では、若干若返った容姿から、17,8という設定にしている。それでもこの子達から見たら、十分大人の部類に入ってしまうようだ。
ユイが俺の前に立っている。
「お兄ちゃんはみんなの味方だよ!悪い人の敵なんだから!」
誤解を解いてくれようと頑張ってくれるのは、有難いが、ユイもあまり俺を持ち上げないでくれ。
まだ、この件に関して正式に受けるとは決めていないんだから。
するとクロも俺の前に出てきた。
「ユウは、ここのシスターと貴方達を助けにきた」
クロ、お前もか!
可愛い妹達に、こうまで言われたら、この話し受けない訳にはいかない。
自分で言ったら世話ないが、俺ってチョロいよな⋯
「みんなは、シスターの無実を信じているんだよね?」
再確認しておく。
「もちろんだろ!」「そうよ!シスターは、そんな事しないわ!」 「そうだそうだ!」
ここのシスターは、本当に子供達に慕われているらしい。
なんとか中へと通してもらった俺達は、修道院の中へと入っていく。
中に入ってすぐに、熟練修道士と思われる老婆が出迎えてくれた。
彼女が子供達の言っていたシスターだろうか?
「初めまして、どういったご用件でしょうか?」
タタルが、老シスターの元へと駆け寄る。
「シルキーを助けてくれる人を連れて来たんだ!」
老シスターは、驚いていた。
しかし、何やら悲しげな目をしている。
「えっと、初めまして。俺はユウ、でこっちが」
「ユイです!」
「クロ」
「リンと申します」
「この子に懇願されてしまいましてね、お話だけでもと思い立ち寄らせて貰いました。詳しくお話を伺っても宜しいですか?」
どうやら、窃盗容疑のかかっているシスターシルキーは、老シスターではなく、別の人物だそうだ。
俺達は、奥の応接間へと案内された。
俺達4人と老シスターだけだ。
老シスターから、窃盗について詳しく話を教えてもらった。
「シルキーは罠にハマったのです」
冒頭から意味深だったので、単純な案件ではないなとは思っていたが、案の定中々に奥が深そうな内容だった。
この修道院を取り壊したい連中が、ここの管理人であるシスターシルキーを罠にハメて、修道院から追い出す。そして管理人の失った修道院をすぐに取り壊す計画のようだ。
「そんな⋯ここの子供達は、どうなっちゃうの?」
ユイが涙目になっている。
「全員、路頭に迷う事になるでしょう。悔しいですが、私1人では、全員を養うだけのお金もありません。奴隷商の手に落ちれば、子供達に未来はありません。今は王国からの援助があり、なんとか養っているのです」
老シスターは、顔を両手で覆っている。
経緯は分かったので、次は窃盗についての話を伺う。
ある貴族の邸宅から宝石が散りばめられたペンダントが盗まれたのだ。
盗まれたその日、シスターシルキーは、この貴族の屋敷を訪れていた。その日に訪れた客は、シスターシルキーだけだったので、真っ先に疑われてしまった。
この修道院に衛兵が捜索に来て、シスターシルキーの寝室から、盗まれたペンダントが見つかったのだ。
被害に遭った貴族というのが、修道院の取り壊しを企んでいるジーニアス卿という人物だった。
少し話が出来すぎている気がする。
ドラマや小説とかならば分かるが現実にそういう事が起こるだろうか?
だが、大体の話は分かった。
話を聞く限りでは、やはり罠にハメられたとしか思えないが、やはりここは本人にも話を聞く必要がある。
老シスターにシスターシルキーを呼んでもらった。
暫く待つと、ドアをコンコンッと叩く音がした。
そして中に入ってきたのは、恐らく20代であろう、美人のシスターだった。
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