第47話: ガゼッタ王国

魔族に占拠されてしまった街を解放すべく、戦いを繰り広げていた。



グルーガンの重力系魔術を喰らってしまったユイ、クロ、リンの3人を救うべく、意表を突き放った魔術により、グルーガンを後方へと飛ばす事に成功した。


さて、第二ラウンド開始だ。


グルーガンの防御力は桁違いに高い。

俺達のパーティーでさえ、物理攻撃で有効打を与えられなかった。


「ここからは、魔術主体で攻撃していくから、みんなは、俺に注意が向かないように、牽制や翻弄、隙を突いて撹乱してくれ」


3人が一定の間合いを取り、グルーガンとの距離を保っている。

間合いは、先ほどの重力系魔術の効果範囲を意識してだろう。

やはり3人は、戦い慣れしている。

ユイやクロは、天性のものだろうが、リンは今まで培ってきた圧倒的な経験則からだろう。

チート仕様で一気にレベルアップした中身スカスカの俺とは訳が違う。


3人が俺へ向けられる注意を削ぎつつ、俺は魔術をグルーガンに畳み掛けていく。


グルーガンのHPが半分を切る所まで削れたところで、グルーガンが今までにない行動を取ってくる。


「素早いだけで、いい気になるな!ゴミ共が!避けれるものなら避けてみろ!」


何かしてくるようだ。

口を大きく開けている。

逆にチャンスじゃないか。

体に当てるよりも口中を直接攻撃した方が何倍も威力が増すだろう。


俺がグルーガンの口を目がけて魔術を撃とうとした瞬間、先に動いたのはグルーガンだった。


口から発せられたのは、高密度のレーザーのような光線だ。


「ぐっ、速い⋯」


驚いたのは、そのスピードだった。

グルーガンとの距離は30m程あったにも関わらず、避ける余裕がなかった。

俺は、咄嗟に魔術書で覚えた障壁を自身に展開する。

障壁は俺の魔力が持続する限り、どんな魔術、物理攻撃をも防いでくれる結界だった。

自身を中心として、ドーム型に展開された。


グルーガンの放った光線が着弾する前に、障壁を張ることに成功した俺は、次の魔術をすでに発動していた。


「散!」


俺が3人と一緒に決めた合言葉の一つなのだが、散というのは、その名の通り「散れ」という事だが、今回の場合は、グルーガンから離れろという意味で使用した。


光線の着弾により、前方の視界が遮られていたが、範囲探索エリアサーチで全員が離れた事を確認した上で、

全範囲雷撃ライトニングレインを最大レベルで発動する。

もう容赦はしない。最初からしてなかったけど。


恐らく、俺の魔術が効いているのだろう、グルーガンの悲鳴が聞こえた後、光線が止まった。

だが、俺は手を休めない。

奴のHPを確認しつつ、次から次へと雷の雨を降らせていく。


どうやら、さすがの奴も動けないようだ。

ある程度HPを削った所で、攻撃を止め、捕縛の魔術を使用する。

実際に使うのは初めてで、どれくらいの効力があるのかは不明だった。


だが、奴は魔術のダメージも相まって動けないようだ。

勝負ありだな。


「観念するんだな」

「おのれ⋯貴様らなんぞに遅れを取るとわ⋯不覚」

「このまま大人しく退くならば見逃すよ」

「ユウ様、ダメです!魔族は根絶やしにせねばなりません!ましてや、コイツは幹部です。幹部1人の戦力がどれ程のものが、ユウ様なら分かるでしょ!」


コイツをここで逃がせば、必ずまたコイツらが下等種族と呼んでいる人族を襲い、何十、何百と言う命が失われる事になると俺を説得しようとするリン。


「確かにそうかもしれない。だけど、俺は魔族ってだけで、一方的に敵視してしまうのは、賛成出来ないな」


確かにリンの言うことも分かる。

リンは、勇者の里で物心つく前から魔族=倒すべき敵という教育を受けてきたのだ。

すなわち、他の人よりも魔族に対する反感は強い。


リンは、下を向いていた。


「みっともなく命乞いする気など更々ない!すぐに殺せ!」


潔いな。

そんなセリフ俺は、口が裂けても言わないけどね。だって死にたくないから。


前に先生と龍王退治の任務を受けた時に一度だけ死にかけた事があった。


死を本当に身近に感じた時だけに分かる感覚がある。

俺がその時に感じたのは、死んで楽になりたいとか、戦って名誉の戦死を遂げてやるなどではない。


死んでたまるか!生へしがみ付き、最後の1秒まで生の為に足掻いてやる!だった。


俺はグルーガンを逃してやるつもりだった。

そんな俺の思いとは裏腹に、とんでもない出来事が起こってしまった。


突如、グルーガンの真上から、先程グルーガンが口から放った高出力の光線のようなものが降り注いで来たのだ。


グルーガンは、声を発することなく、消し飛んでしまった。


俺の範囲探索エリアサーチ外からの攻撃に察知するのが遅れてしまった。


暫く上空を警戒していたが、その後の攻撃が来ることは無かった。

敵対勢力の奇襲か、はたまた同族の制裁だろうか?


(今のは、恐らく魔族にしか使えない、魔球まだんだと思います)


念話の主は、セリアだった。


(と言うことは、後者か)

(はい、恐らく)



この街を占拠していた魔族を結果倒した俺達は、その後住人を無事に解放し、タリスさん達と合流した。


「ユウさん、本当にありがとうございました。ユウさん達は、私たちの英雄です」


住人から感謝の旋風に巻き込まれたのは、言うまでもない。

今宵は街中の人を集め感謝の宴を催してくれるそうだ。特に断る理由も無かったので、快く参加する事にした。


しかし、気掛かりが一つあった。

グルーガンは一体何の目的でエレメンタルストーンを集めていたのだろうか?

拘束した時に聞こうと思っていたのに、まさかあんな展開になるとは思わなかった。



宴中に何度もこの街に残って欲しいと住人に頼まれていた。

中には、娘をやるからなどと言う親までいる始末だ。

酔った勢いで、なんて考えが及ばないようにお酒を飲むのは控えるようにしている。

いつだかの醜態しゅうたいを晒す恐れがあるので、エルフの里の一件以来、お酒は飲まないと決めていた。

ユイやクロは、未成年なのでお酒はもちろんダメなのだが、リンも飲んでいないようだった。

飲めないわけではないそうだが、控えているようだ。


この街には宿屋もないそうで、タリスさん宅に誘われたが、自馬車で十分だった為、丁重にお断りした。


次の日、朝一にソシャールの街を後にする。

もちろん、全街人からの見送りなんてイベントがあったとだけ添えておく。


しかし、今回の一件はなんとも後味が悪い結果となってしまった。

気持ちを切り替えないとな。


「さてと、寄り道してしまったけど、ガゼッタ王国に向かうか」

「王国なんて、楽しみだねお兄ちゃん」

「人多いの苦手」


不安そうなクロの頭をワサワサっと撫でる。


道中は平和そのもので、特にする事も無かった為、錬金術に時間を費やす事にした。


行商の街で錬金術に使える材料を大量購入していたのだ。

もちろん値引きをした上でね。

大量購入した甲斐もあり、個数で割ると一つあたり、半額近い金額で購入出来た。


俺は錬金術に必要な道具を取り出し、ポーションを大量製造していく。

最初は少し作るだけで止めるつもりだったのだが、作ってみると意外と楽しくて止まらない。

失敗しても、試行錯誤をし、独自のアレンジを加えて色々なポーションを生成した。


最初は1本ずつ生成していたのだけど、作っていくうちにレベルがあがり、一度に10本までの生成が可能なスキルを取得していた。

しかも錬金術師としてのレベルもいつのまにか35になっている。


この3日間で作った薬品をストレージに整理して入れておく。


HP回復ポーション(小)×200

HP回復ポーション(中)×100

HP回復ポーション(大)×50

MP回復ポーション(小)×100

MP回復ポーション(中)×80

MP回復ポーション(大)×50

毒消しポーション×100

麻痺治しポーション×100

火傷治し塗り薬×50


これだけ作っても、材料はまだまだあった。

ポーション管に至っては、5000個程購入していた。少し買いすぎな感は否めない。


まずは、相場の調査が必要だが、王国に到着したら、試験的に出店してみるのもいいかもしれない。

別にお金に困っているわけではないけど、なんというか商売というものに興味がある。



王国が視界に入ってくる。

まだかなりの距離があるのだが、王国の大きさが伺える。


「大きい~」


ユイの率直な感想だけど、俺もそう思う。

確かに大きいな。

同じ王国でも最初に立ち寄ったプラーク王国と比べても倍以上の大きさがありそうだ。

人口約22万人のガゼッタ王国は、このグリニッジ大陸では2番目に大きな国だ。

確かプラーク王国が人口10万人程度らしいので2倍以上だ。

今回こそは、王族などには関わらないように行動しようと心に誓う。


次第に王国に近付くにつれ、同じく入国者だろうか、

多数の馬車が確認出来た。それにしても凄い行列だ。

入国の門はまだ遥かに先なのだが、入国審査の列が出来ていた。1km以上あるんじゃないだろうか。


「これは、並ばないといけないのですよね」

「割り込みは出来ないよなぁ⋯」


行列の長さに少し疲れ切った表情を見せていたのは、リンだった。


「他国の王族から貰った証明書でも見せれば、すぐに通過出来そうだが、あまり目立ちたくないしね」


素直に並ぶしかないようだ。


「お兄ちゃん、みんなこっち見てるよ」

「そりゃ、ユイが可愛いからな。みんなが見てるんだよ」


半分冗談で、半分本気で言ってみたのだが、確かにみんなこっちを見てるな。見てるというより、警戒している感じだろうか。


(グリムちゃんが珍しいんじゃない?)


声の主はノアだった。


ノアがちゃん付けしているのは、外見からの判断ではない。外見はむしろ、勇ましく、可愛いというよりは、カッコイイという方がマッチする。

そう、俺は知らなかったのだが、モンスターにも性別が存在するらしい。

グリムは、メスという事だ。


俺は真面目に、どうやって判別するのか聞いたが、精霊の直感だと言われた。

聞いて損したな。


ノアの言う通り、皆の視線はグリムを見ていた。

見渡す限りの馬車は、普通の馬が牽引しているようだ。

行商の街では、さすがにグリムと同種のモンスターはいなかったが、モンスターが牽引していた馬車は、いくつかあったが、ここでは珍しいのだろうか?


近くを通りかかった商人が話しかけてきた。


「あんた、そいつはまさかグリムホースじゃないか?」

「はい、そうですけど?」


彼らの視線は、やはりグリムだった。

牽引モンスターとしては、グリムは最高峰の位置付けだと言う。確か行商の街でも似たような事を言われた気がする。


目立たないつもりだったのだが、門を潜る前から目立ってしまった。

入国審査を終える頃には、すっかり日が暮れていた。

馬車が停泊出来る宿屋を探す事にする。


王国に入り、まず驚いたのは人の多さもそうだが、獣人族の数だった。


このガゼッタ王国は、数少ない人族と獣人族が共存している場所なのだ。


「お兄ちゃん、私みたいな子がいっぱいいるよ!」

「滞在中に友達が出来るといいな」

「うん!」


ユイ自身、こんなにたくさんの獣人族を見るのは、ユイの生まれ故郷にいた時以来だそうだ。

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