第46話: グルーガンとの激闘

ガゼッタ王国に向かう道中、急遽魔族に占拠された街を救う事になった。


約1日を費やし、魔族に占拠されたソシャールの街へと辿り着いていた。

住人皆殺しの期日までは、まだ3日の猶予がある。

今俺達は街の入り口が伺える場所の物陰に隠れ、入り口の様子を伺っていた。


「出入り可能な入り口は、あそこだけです」


タリスさんが指差した先には、街全体が高さ3m位のレンガ塀で囲まれていた。

入り口には2人の見張りがいる。


レベルは⋯そんなに高くないな。

魔族というから、イスみたいな奴らかと思ったけど今門の前にいるのは、どちらもレベル35のガーゴイルのような風貌をした魔族だった。


(セリア、俺の透明化は魔族にバレるか?)

(どうでしょう。幹部ならまだしも、下っ端なら大丈夫だと思います)

(私が偵察してこようか?)

(この声は、ノアか?いつの間に念話を)

(私とユウさんとの仲が深まったって事かな)


なぜだろう、セリアの姿は見えないはずなのに、僅かに殺気を感じたような⋯。

恐らく気のせいだとは思うが。


精霊も魔族の幹部以上ならば、その存在に気付ける者もいるだろうが、実体化していない限りは精霊に攻撃する事は不可能な為、安全なのだそうだ。


話し合いの結果、ノアとセリアが偵察に行く事になった。

セリアが「私も行く!」と言ったからなのだが、2人が安全というので、大丈夫だろう。


1時間程が経過し、偵察を終えた2人が戻って来た。

2人の偵察から知り得た情報は、魔族の人数は10人。ほとんどが入り口を見張っているガーゴイルの風貌を持った奴らだ。

その中に幹部と思われる魔族が1人いる。


住人はこの街で最も大きな建物である、東の教会の中に幽閉されていた。人数は100人程度。

皆縄で縛られており、衰弱している様子から考えるに、恐らく食料や水分を与えられていないのか。

その教会の見張りは、外に2人しかいない。


一刻も早く救出しないと本当に取り返しがつかなくなるぞ。

たが、幹部が厄介か。

相当な手練れだろう。


幹部に気付かれないように、まずは教会に囚われている住人を救出する事が最優先事項だ。


タリスさんと、ルクさんには、馬車と一緒に隠れていてもらう事になった。


「グリム、2人を守ってくれよ」


返事はないが「俺に任せときな」と言っている気がする。

並みのモンスターでは、グリムに叶う奴はいないだろう。


「さて、行こうか」


透明化の状態で、全員手を繋ぎ、堂々と街中への進入に成功する。

外壁を壁伝いに歩き、目的地である教会の近くまで辿り着いた。


流石に見張りは倒さないと中へは入れないな。


「音を立てない方がいいでしょう。私がやります」


見張りの真横まで、透明化で歩み寄り、リンが一瞬の内に見張りの2人を倒してしまった。倒れる音を出さないように、クロとユイがしっかりと受け止めていた。

実に見事な連携だ。

というか、いつの間に打ち合わせしたんだ?


リンの動きはまさに電光石火の如く、それでいて無音だった。

サイレントキルという言葉が相応しいかもしれない。

無音で迫られたら相手はたまったものじゃないだろう。

見張りは側の木陰に隠しておく。

正面のドアを開け、教会の中に入へと入った。


セリアの報告通り、皆が憔悴しょうすいしきっている。

外から入って来た俺達を見て、表情だけは驚いていたが、声を出す元気すらないようだった。

逆に騒がれれば外にいる魔族にバレる恐れがある為、幸いだった。


4人で手分けして衰弱している住人に水を飲ませていく。

状態の思わしくない人や怪我をしている人には俺が治癒ヒールをかける。


「助かりました。しかし、貴方方は一体?」

「タリスさんとルクさんから救援の依頼を受けた冒険者です」

「な!2人は無事なのですか!?」


どうやら、2人の身を案じていたようだ。


さすがにこの人数を連れて、気付かれずに脱出するのは厳しいな。

占拠している魔族をどうにかする必要がある。

つまり、やるべき事は一つしかない。


「俺達は、この街を占拠している魔族を倒してきます。皆さんは、もう少しこの場に留まって下さい。絶対に外に出ないで下さい」

「外には、皆様以外に大部隊が控えているのですか?」

「いえ、ここにいる4人だけです」

「そ、それでは危険すぎる!魔族の強さは圧倒的なのですよ」

「確かにそうですね、だけど、やってみないと分からない事もありますよ」


どうやら、大規模討伐隊で助けに来てくれたと思っているようだ。

まぁ、魔族が10体もいれば当然と言えば当然かもしれない。


皆がどよめき出す。

おいおい、外の連中に気付かれたらどうするのか⋯


いくつかの食料をマジックバックから取り出し、住人に手渡す。


「先に子供たちに食べさせてあげて下さい」


(ノア、悪いけどこの場に残ってくれるか?もし魔族げ攻めてきたら、念話で知らせてくれ)

(おっけー)


俺達が戻るまで絶対に外に出ないように再度念押ししておく。


教会から出ると、本格的に行動を開始した。

敵の居場所は把握しているので、1体ずつ確実に倒していく。


街の入り口を見張っていた2体も再起不能にしておく。

やはり、幹部クラスじゃないと、ユイやクロの相手にすらならない。


残りは、幹部とそれ以外に2体の反応がある。

同じ位置に反応があるな。

しかし、さっきから動く素振りがない。


どうやらあそこに見える小屋の中にいるようだな。

さて、どうしたものか。


いっその事、小屋ごと破壊を⋯いや、ダメだな。

周りに被害を出したら元も子もない。


確か、魔族の幹部は会話が出来たっけな。

話し合いの余地があるかもしれない。

よし、成功法に馬鹿正直に行ってみようじゃないか。


「お前達は包囲されている!今すぐおとなしく出て来い!」


こんな感じだろうか?

少し上から目線だったかもしれない。

恐る恐る隣のユイとリンに目をやる。


よし、変な顔はしてないな。

むしろ、流石です!みたいなキラキラした顔をしているのは何故だろうか。


まさかこんな台詞を一生に一度でも言う事になるとはね。人生というのは、何が起こるか分からない。


俺の声に反応して奴らの立て篭っている小屋に動きがあった。

ズシン、ズシンと足音らしき音が聞こえる。

やけに音がデカイのが気になるんだけど。


小屋のドアをブチ破って中から魔族が姿を現す。



⋯・。


おいおい、やけにデカイな。

流石に範囲探索エリアサーチだと点での表示の為、サイズまでは分からない。

体長は優に3mはあるだろうか。

物凄い形相で目下俺達を睨みつけている。

そんな怖い顔したって、ビ、ビビらないんだからな!

少し怖いのは認めるけど。うん、少しだけね。


「小虫の羽音がするかと思えば、人族風情が、見張りがいたはずだが、どうやって此処まで来た!」

「いや、人族だけではないな、獣人族と⋯貴様は、魔族か?」


クロの風貌は獣人族なのだが、やはり同族には分かるらしい。


「なぜ、人族なんかと行動を共にしているのだ!答えろ!」


クロの前に立ち、奴の視界からクロを遮る。

俺には奴のレベルが見えていた。


名前:グルーガン・ライジン

レベル:58

種族:魔族

弱点属性:なし

スキル:レーザービームLv2、地雷波Lv4、リッパーグラビティLv3、転移、速度増強Lv3、トルネードLv3、剛雷Lv2、無Lv3、魔球まだんLv3


確かにレベル58は高いが、今の俺には何故か負ける気がしない。


舐められないように、このまま強気で行こう。


「質問しているのはこっちだ。見張りは、ここにいる者以外は全て倒した。今すぐここを去るならば、あんたは見逃してやるぞ?」

「フハハハハハッー笑わせてくれるわ!雑魚を倒した程度で調子に乗るな!人族が!!」


間髪入れずに、グルーガンは右拳を地面に叩きつけた。

凄まじい轟音と共に、振り下ろされた拳により、発生した地割れが俺たちの方向へと襲う。

今更この程度で遅れを取る者は、誰一人としていない。

皆、素早く左右に躱し、各々が攻撃を開始する。

前衛系の3人が連携された攻撃を展開していく。

あれだけの巨体だ、動きは鈍く、3人の比ではない。

予想通り、攻撃を躱せる訳もなく全て命中していく。


思惑と違ったのは、グルーガンの圧倒的な防御力の高さだった。

3人の攻撃がまるで効いていない。

唯一、リンの攻撃がギリギリダメージを与えている程度だった。

しかし、ダメージは皆無だろう。


俺はチャンスが訪れる隙を待ちつつ、その間魔力をチャージしていた。

致命的なダメージにはならないまでも、3人の猛攻で徐々にグルーガンのHPゲージが減っていく。


「こざかしいわっ!!」


そう叫んだ瞬間、グルーガンの両拳が光に覆われた。


攻撃するのかと思いきや、両の拳同士をつき合わせて、何やら唱えている。


突如、グルーガンの足元から直径10m程の範囲に魔法陣が展開されたいた。


誰もが物理攻撃スキルだと思っていた為、僅かながら飛びのく反応が遅れてしまった。


「やばい!何か来るぞ!」


しかし、奴自身も範囲内にいるのだ。


「みんな!すぐに魔法陣の中から出るんだ!」


俺の叫びも虚しく、3人がその場に伏せてしまった。


恐らく、重力系の魔術だろう。

俺も似たような魔術を持っているが、俺の重力グラビティは、術者もその範囲に入っている場合、同じ効果を受けてしまう。

しかし、グルーガンの使っている魔術は、本人は対象外のようだ。

伏せている3人に対して、グルーガンは、余裕の表情を見せている。


そして不敵な笑みを浮かべていた。


「動けぬだろう。多少は素早いのは認めるが、これで身動き一つ取れまい」


リンが辛うじて、膝を付くことなく、なんとか耐えている感じだ。

しかし、攻撃を受けたら避けることは到底不可能だ。


マズいな。


至近距離に3人がいる為、周りに被害を及ぼす魔術は使えない。


だめだ、位置が悪い。


今の俺には、3人に攻撃を当てずに、3人の奥にいるターゲットに当てる事の出来る魔術に思い当たりはなかった。


次の瞬間、俺は走り出していた。

もちろん、3人とグルーガンに向かってだ。

遠距離が無理なら至近距離から撃てば良いだけの事。


ブーストによって身体能力までも向上している俺は、ユイやリン程ではないが、それなりのスピードだった。


グルーガンが重力系魔術を使用してから、まだ10秒程しか経過していない。


今、俺はグルーガンの目の前にいる。

もちろん、重力魔術範囲外ギリギリなのだが、ここまで近付けば、こっちのターンだ。

俺は、数ある魔術の中で最適と思われる魔術を選択する。


衝撃ショック


いつの間にか覚えていた魔術なのだが、衝撃系魔術で、これを受けた相手は後方に飛ばされてしまうのだ。

もちろん、俺のレベルで放てば、飛ばされるだけでは済まない。

致命的とまではいかないが、かなりのダメージを与える事が出来るのは確認済みだった。


咄嗟の行動により、グルーガンはなす術なく、そのまま後方へと飛ばされ、家一軒を破壊して、やがて止まった。

もちろん、家の中に誰もいない事は事前に確認している。


グルーガンが飛ばされた事により、3人が魔術から解放された。


さて、ここから仕切り直しだ。


「みんな油断せずに、行くぞ!」

「うん!頑張る!」

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