第45話: 魔族に占拠された街
車の牽引用としてグリムを仲間にした俺達は、スーランへと戻ってきていた。
戻って早々に隷拝塔へと向かった。
モンスターをテイムした後は、ここで隷属契約を結ぶ事になっていた。
その間ユイ達には、預け屋から馬車を取ってきてもらっている。
「これで契約は終了です。それにしてもこのモンスターは、牽引用として最上級ですよ。私も長年この仕事をしていますが、グリムホースを連れてこられたのは貴方で2例目ですね。余程名の知れたモンスターテイマーの方とお見受けします」
笑って誤魔化す。
いえ、こないだ転職したばかりなんです。
なんて言えないな。
馬車を引っ張ってきたユイと合流し、早速グリムと馬車を連結する。
グリム自体にも乗れるように器具を取り付ける。
その為に必要な手綱や
グリム用の大型サイズは探すのに苦労したが、流石は行商の街と言うだけあり、品数の豊富さに助けられた。
こうして、晴れて俺は念願である自馬車を獲得した。
今後の旅の必需品となる事間違いなしだ。
「ユウ様、御者は私がやらせて頂きますね」
「経験があるのか?」
「はい、乗馬は勇者の里での必修科目です。馬車の扱いはその延長ですね」
「流石だな。俺も出来るから、取り敢えず道中は交代しながら周わしていこうか」
俺とグリムとの親密度が上がれば、操縦しなくても念じるだけで指示が伝わるようになるらしい。
今から楽しみだな。
それこそが、テイマーされた馬車馬の利点なのだが、親密な間柄になるのに一体どれくらいの日数が必要なのかは皆目見当がつかない。
この街での目的も果たしたので、次の街に向かおうと思っている。
しかし、後々必要な物があればこの街は便利なので、一応、ポータルにメモしておく。
ポータルは便利なのだが、最大で4つまでしか登録しておけないので、整理しておく。
1.クラウさんの小屋
2.エルフの里 エレナの寝室
3.アクアリウムの宿屋の前
4.行商の街スーラン
出発は明日の朝だな。
今後道中は馬車の中で寝る事になるので、それなりの設備を揃えておく必要があるのだが、元々大型の馬車は、ノーマルの状態で生活に必要な設備は整っている。ましてや、俺が購入したのは、一番高額な馬車だった為、そのままでも十分生活出来るくらいには整っていた。
「今夜は馬車の中で寝ようか」
なぜか、2人は喜んでいる。
ただの野宿と変わらない。宿のフカフカのベッドの方が良いだろうに、子供の気持ちは分からない。
分からないでもない気はするが、分からない。
その日の深夜、皆が寝静まったのを確認し、エレナに会いにいった。
最低でも週一で報告に行かないと、俺自身の身の危険がある。
以前もクギを刺されたしな⋯
エレナの寝室直通なので、色々と問題はあるんだけど、当の本人がそれで良いと言うので問題提起はしないでおく。
案の定、ベッドですやすやと寝ていた。
暫く寝顔を眺めながら起こすのを躊躇っていると、気配に気が付いたエレナが目を覚ました。
「ん⋯ユウ様⋯?」
「あ、悪い。起こしちゃったか」
エレナはベッドから身体を起こすと、手櫛で髪を整えると横を向き、口元を手で覆い、あくびをした後に、再度こちらへ向き直る。
「会いに来て下さるのは、いつも深夜なんですね」
「あっちにユイたちを置いてきちゃってるからね、兄貴としては心配な訳でして⋯ごめん」
「ま、いーですけどね、会いに来て下さるだけで。私は」
エレナの機嫌をなだめつつ、俺は新たに仲間が増えた事、明日から馬車での移動となる事などを話した。
最初こそ、リンが仲間になったと告げた時は、少し不機嫌な様子だっただが、俺の冒険譚に聞き入って、いつの間にか機嫌は直っていた。
一通り、エレナと話終わり、宿に戻ってきた時には、またしても朝方になっていた。
寝不足だが、仕方ない。
週一なんだし、我慢しよう⋯。
この街を出る前に、リーシャとシルには挨拶しておく。今度はいつ会えるのか分からないしね。
早朝にも関わらず、並んで露店をしていた。
リーシャ家は金物店を経営していてシル家は、鉱石の類を売っていた。
俺自身は、鉱石とはあまり縁がないのだが、武具を作ったりするのには必需品なのだそうで、需要は多いそうだ。
一部、錬金術の材料でもあるという。
せっかくなので聞いてみるか。
「錬金術に使えそうな良い鉱石はありますか?」
「ユウさんは錬金術師なのですね。それでしたら、こちらのクロム鉱石などは、煙幕やマーキング用の錬金術の材料になってますよ」
まだ俺の把握していない分野で良く分からないが、相場よりも半値まで安くしてくれたので購入しておく。
ついでに、ユイがキレイだと気に入った石があったで一緒に購入しておく。
リーシャの金物屋では、カップや鍋などの日用雑貨品をいくつか購入した。
「毎度ありがとうございます。本当にユウさんには、私ら家族共々命の恩人です。今後の旅の無事を祈っております」
リーシャやシルにも別れの挨拶をし、俺達はこの街を後にする。
次なる目的地はここから馬車で14日程南下した所にあるガゼッタ王国だ。
このグリニッジ連合国にある都市では2番目に大きな所なのだ。
さっきから、馬車窓から外を眺めていると、今まで乗ってきた馬車なんかとは比べ物にならないくらいの速度が出ている。恐らくグリムなら、半分くらいの日数で辿り着けるだろう。実に頼もしい限りだ。
時々はグリムとの親睦を深める為にコミュニケーションを取らないとな。
ちなみに御者はリンに任せていた。
最初は、グリムの大きさとスピードに手を焼いていたが、今では見事に扱っている。
リンは優秀なのだ。
行商の街スーランを出発してから早2日が経過がしていた。
今日の御者は俺の順番だった。
隣ではクロが俺にもたれかかっている。
ユイは、さっき昼食を取った時に、食べていたハンバーグが余程美味しかったのか、興奮して走り回っていた。
そのせいで、疲れたのだろう。今は寝てしまっている。
暫く進んでいると、道の先で馬車が立往生しているのが見えた。
俺の
すぐに警戒陣形モードを取る。
「みんな、周囲に賊がいるかもしれない。警戒を怠るなよ」
馬車の上にリンが立ち、前後にユイとクロだ。
リンが眼になり、2人に指示を出す役だ。
俺が出す場合もあるが、みんなには俺がいなくても問題に対処出来るようになってもらう必要があるので、いろいろと訓練をしていた。
俺はすぐに2人の容体を確認する。
外傷はないな。単に意識を失っているだけみたいだな。
外傷は見受けられないが、念の為に
すると、男性の方に反応があった。
「貴方は⋯」
「旅の者です。道中に停車している馬車を見つけたので、近寄ったところに貴方方が倒れているのが見えました。何があったのですか?」
理由を聞いている最中に女性の方も意識を取り戻した。
2人は夫婦だという。
男性の方が、タリスさんで女性の方はルクさんだ。
ソシャールという街から、この間まで滞在していた行商の街スーランに向かっている最中だそうだ。
「強い人を探しています」
第一声がこの言葉だった為、少し嫌な予感はしていたのだ。
詳しく話を聞いてみると、2人が生まれ育ったソシャールという街が、魔族によって制圧されてしまったという。
今は街は封鎖されてしまい、2人は運良く封鎖の前に抜け出す事が出来たそうだ。
「なぜ、助けを求めるのが、王国ではなく、行商の街なのですか?」
「時間がないんです!魔族は、1週間以内に街の住人を皆殺しにすると宣言しています。その時間では、王国まで行って帰ってくる時間がないのです」
なるほどね。
「魔族は、何か要求をしてきているのですか?」
「はい⋯それが、エレメンタルストーンなる石を差し出せと言っています」
当然、俺にはそれがどんな物なのか知る由もないのだが、博識のセリアが教えてくれた。
(エレメンタルストーンは、宝玉とも言われている貴重な石です。ファイアストーン、アクアストーン、サンダーストーン、ウインドストーンの4つがあります)
(なるほど。つまり凄く値打ちのある石って事か。だけど、魔族がなぜそんな物を欲しがるのだろうか⋯。因みにどこにあるんだ?)
(他の石は知りませんが、アクアストーンなら、水上都市アクアリウムにあります。前にアクティナから聞いた事があります)
タリスさん達も、この石の所在どころか名前すら聞いた事がなかったようだ。
とにかく、腕の立つ助っ人を捜していて着の身着のまま食料すら持たず、飛び出してしまった為に空腹で倒れてしまったようだ。
馬車の中にさっきの昼食の残りがあったので、2人に食べさせる。
相手が魔族だと人族の討伐隊を数人連れて行った所で意味をなさないだろう。統率の取れた軍隊レベル、もしくは勇者と呼ばれる者でも見つけないと、2人の街を救う事は叶わないだろう。
だが、このまま見捨てるわけにもいかない。
だが、俺1人で決断してもいい内容でもない。
「みんな、ちょっとこっちへ来てくれ」
馬車から離れた所にユイ、クロ、リンを呼び、事情を説明した。
誰か1人でも躊躇すれば、俺はこのまま力になれないと言い、去るつもりだった。
しかし、皆の返事は同じだった。
「助けよう!」
そういう回答が来る事は分かっていた。聞くまでもない事も。
しかし、命に関わるような大切な進路は、皆で決めようと決めていたのだ。
「俺のお人好しも大概だが、みんなも大概だな」
そうと決まれば、急ぐ必要がある。
すぐにタリスさんに俺達が討伐に協力する旨を伝え、ソシャールの街へ向けて出発した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一方その頃、水上都市アクアリウムで事件が起こっていた。
「ベルグド様!大変です!」
声の主は、ベルグドに仕えている騎士のアーレイだ。
「こんな朝早くから何事だ」
「姫様が寝室におりません!」
その都市の長の娘であるサナは、容姿も可愛らしい事から、街の人からも姫と呼ばれていた。
サナは、ユウと別れてから、何かやりたいと思い、剣術の稽古を毎日のように実施していた。
もちろんユウに感化されての事なのだが、今朝も騎士のアーレイが朝一の剣術の稽古の時間となり、寝室を訪れた所、返事がなく、侍女に確認してもらったところ、部屋には誰もいなかった。
誰もいないだけならば、外出しているだけとも思えるが、部屋のテーブルの上に意味深な書置きが残されていた。
”娘は誘拐した。返して欲しければ、アクアリウムの秘宝、ウォーターアミュレットを渡せ。我らはSKの使者”
「なんて事だ⋯」
事の顛末を聞いたベルグドは、頭を抱えて黙り込んでしまった。
ベルグドには、SKという文字に心当たりがあったのだ。
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