第44話: 古城で馬探し
現在俺は薄暗い古城内を探索していた。
隣にはユイしかおらず、リンとクロの姿は見えない。
「完全にみんなとはぐれてしまったな⋯」
「みんな大丈夫かなぁ⋯」
2人のレベルなら心配ないとは思うが、離れ離れになると不安になるんだよな。
ここは古城とは名ばかりの旧世代の遺跡跡だった。
それにしてもなんて広大なダンジョンなのだろうか。
いつだかのツガール帝国を彷彿とさせる。
違いがあるとすれば、今回はあくまでも室内である事。室内と言っても天井は、遥か上の方にある。
これを建築するのに一体どれくらいの歳月と費用が必要なのだろうか。
考えていても到底答えなど出てくるはずもなく、取り敢えず北へ向かって俺達は進んでいた。
奥へ行けば行くほどモンスターのレベルが上がっている。
さっきからユイが1人で楽しそうに戦っているが、モンスターのレベルは既に30を超えている。
早くみんなを探さないと危険だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時は2時間程前に遡る。
俺達は古城の前まで辿り着いていた。
「ここが目的地のこじょー?」
「ああ、そのはずだ」
外観は、物凄く巨大な城だった。
古城と言われるだけあり、今にも朽ち果てそうな感じだ。
お化け屋敷という方が正しい気もする。
「入ってみようか」
「頑張ってお馬さん探そうね」
「ん、頑張る」
「皆さんには指一本触れさせません」
皆やる気があって実に宜しい。
そもそも俺達がここに来た目的は、荷馬車を牽引してくれる馬を探す為だった。
普通の馬ならば売っていたが、欲しいのはただの馬じゃない。雑魚モンスターを威圧してくれる程の強者の馬型モンスターだ。
中は若干薄暗かった為、
視認できるだけで、モンスターが数体いる。
「お兄ちゃんは手出し無用だよ!私とクロとお姉ちゃんだけで倒すからね!」
クロとリンが頷く。
頼もしい妹たちにお兄ちゃんは満足だ。
ん、リンは妹には含まれないか?いや、みんな可愛い俺の妹達だ。
「馬型のやつがいたら倒さないでくれよ」
「おっけー」
さっきから楽しげにエンカウントしたモンスターを瞬殺していく妹達。
頼むから本来の趣旨を忘れないでくれよ⋯
そして、古城に籠もること1時間弱。
未だに馬型モンスターが現れない。
「だだっ広いダンジョンだな。はぐれて迷子になるなよ。もし仮にはぐれたら、入り口に集合する事」
「はーい!」「うん」「分かりました」
万が一と言う事もあるからな、これではぐれても大丈夫だろう。
その後もモンスターを狩り続ける。
改めてリンの動きを見ているが、素人の俺でも分かる実に無駄のない洗練された動きだった。
神器と俺のブーストも加わり、以前戦った時よりも凄みを増している。
この分だと前にも増して、俺の出番はないな。
暫く進み、小部屋が見えたので、中で少し休憩する事にした。
「ねえお兄ちゃん、ここにね、なんかスイッチみたいなのあるよ!」
唐突にユイが変な物を見つけやがった。
嫌な予感しかしない。
「何が起こるか分からないから押すなよ。絶対な」
某芸人の押すな押すな⋯ではなく、絶対に押したらダメなやつだ。
なぜか、ユイが下を向いて変な顔をしている。
もしかして⋯
「この部屋に最初に入った時に⋯その、押しちゃった!」
「おい!」
その時だった。
何やら床に青白く光る魔方陣が出現した。
そして、その光がどんどんと濃くなっていく。
幾何学模様で編み込まれたような魔法陣は、見る者を魅了するかの如く、その存在感を十二分に露わにし、広がっていく。
ヤバい!
「みんな!手をつな⋯」
一瞬の出来事だった為、錯覚かとも思われたが、視界が暗転して飛ばされた先は、先程の小部屋とは別の景色の所だった。
暗転する前に手を握っていたユイだけが、俺の隣にいた。
強制転移の魔術でも発動したのだろうか。
かなり広範囲に飛ばされたようだ。
そんなこんなで、冒頭へと話が戻るのだが⋯
目印がない為、今現在出口へ向かっているのか、奥に進んでいるのか、まったく分からない。
だが、前へ進むしかない。
進むに連れてモンスターの数も増えてきた為、俺も戦闘に加わる。
かれこれ何時間歩いただろうか。
進めど進めど一向に出口が見えてこない。
変わり映えしない風景に若干苛立ちすら感じてきた。
「ユイ、少し休憩しようか」
さっきから自分と同レベル程度のモンスターとの連戦で、さすがのユイも疲れているようだ。
少し強引な手で行くしかないな。天井を壊し、外に出たら何か分からないだろううかと。
成功するかどうかは不明だが、思いつく手段は全て試してみたい。
「ユイ、少し俺から離れてるんだ」
天に杖をかざし、エレメンタルボムを撃った。
ほどなくして、天井に命中し、轟音が辺りに鳴り響く。
陽の光が差し込む事を期待したのだが、何も変わらない。
確認しようと、この間取得した延長を重複使用し、
着弾した箇所を確認するが、全く損傷した形跡がない。
さすがにこれはおかしい。ありえない。
何か特殊な結界でも施されているのだろうか。
俺はユイの場所まで戻り、次の手を考える。
!?
ははっ、失念していたな。
「クロ、聞こえるか!」
「!?⋯聞こえる」
そう、遠距離連絡可能な魔導具をクロに渡したままだった。
「良かった!繋がった。こっちはユイと一緒だ。クロは無事か?」
「大丈夫」
どうやらクロとリンは一緒に行動していたようだ。
2人とも無事なようで、ひとまず俺は安堵する。
こちらと同じく出口が分からず彷徨い歩いているそうだ。
だが、お互い連絡が取り合えるのは、一歩前進だった。
「まず、この近くにいるか確認しようか。今から天井に向かって
「分かった」
天井に向かい
最大出力で行った為、目が開けれない程の輝きだったが、
「何も見えない」
駄目か。やはり、この近くではないようだ。
「方位はどっちに向かって歩いてる?」
応答までに少し時間が掛かった。
「北です。私達は北入り口からこの古城に入ったので、北に向かって歩いてはいるのですが、ここまで広いと⋯」
リンの声だった。
「了解。俺達も北に向かって歩いている。時々
「分かりました」
その後も小まめに連絡を取りつつ、北へ向かって歩いていく。
俺達の眼前に巨大な壁がそびえ立っている。
天井まで伸びており、天井と同じく攻撃不可の術式が施されているようだった。
「ここまで来てまさかの行き止まりか」
暫くどうするか考えていると、クロから連絡がきた。
「目の前に巨大な壁が見える」
「何、俺達もだ。てことは、同じ直線上にいるのかもな」
壁の向こう側じゃない事を祈るしかないな。
やはり、
天井に向けて
「一瞬遠くで何かが光った」
「よし、このまま続けるから、クロ達は光が見えた方に向かってきてくれ」
「分かった」
暫くして、無事にクロ達と合流する事が出来た。
「2人とも無事で良かった」
しかし、安心していられない。出口が見つかった訳ではないからだ。
目の前の壁は、どうあっても壊す事が出来ない。
このまま諦めて帰るという手があるにはあるんだけどな。
ポータルを使えば、登録している場所へワープする事が出来るからだ。
「お兄ちゃん、何かの気配を感じる!」
ユイが、何かを感じ取ったようだ。
「モンスターか?」
「ううん、違う。なんだろ、人の気配?」
ユイが指し示す方向へ目をやるが、やはり俺の
ユイに案内され、気配を感じる所まで進んで行く。
暫く歩くと、人型サイズの人形が視界に入ってきた。
「なんだこれは⋯」
人形らしき物が置いてある。場所が場所なだけに、なんとも薄気味悪い。
ロシア人形みたいな少女の人形だった。
ブロンズの髪に蒼く澄んだ瞳、本当に今にも動き出しそうな程に精巧に作られている。
「ユイが感じた気配は、この人形か?」
「たぶんそうだと思う」
どこからどう見てもただの人形なのだが、
「帰り・たい⋯か?」
!?
辺りを見渡す。
「今、誰か喋ったか?」
全員が首を横に振っている。
てことは、この場に誰かがいるという事になる。
勘弁してくれ⋯ホラーの類は、あんまし得意じゃないんだけどな。
しかし、声が聞こえた事は置いておくとして、喋っていた内容は無視出来ない。
聞き間違いならそれでいい。
と、取り敢えず、答えてみるだけなら大丈夫だろう。
「帰りたい」
俺が答えたその瞬間だった。
人形が急に光り出した。
すぐさま視界が暗転し、見た事がある小部屋に転移していた。
「戻ってきたのか?」
周りを見渡すが、今度は全員ちゃんと揃っている。
一体何だったのか、あの人形の事もそうだが、古城自体も非常に気になる。
広大な古城全体に何か不思議な力でも働いていたような気がする。
「ユイ、今度はスイッチには絶対触るなよ」
申し訳なさそうに了解のポーズを取っている。
無事に戻れたのは良いが、あそこは何処で、あの声の主は誰だったのか。
結局分からずじまいだった。
そのまま入り口に向かい、歩き出す。
するとそこにモンスターが1匹だけ目の前に現れた。
眼を凝らすと、うっすらと光っているような気がするが、気のせいだろうか?
更に良く見ると、それが探し求めていた馬型のモンスターだったのだ。
自分で言っときながらここへ来た目的を忘れていた。
名前:グリムホース
レベル48
種族:馬族
弱点属性:火
スキル:激震、突進Lv5、レーザービームLv3、超音波、威嚇
やけにレベルが高いな。
モンスターテイマーがモンスターを手懐けるには、主人が強い事を示す必要がある。
幸いにも強さだけには自信があるので、恐らく大丈夫だろう。
まずはHPをギリギリまで削る。
相手の動きを封じ、HPバーを見ながら徐々に減らしていく。
相手も時々攻撃してくるが、俺には届かない。
ある程度HPを削った所で、テイマーのスキルを使用する。
「テイミング!」
もちろん、事前に
発動すると、グリムホースの足元が光り始める。
当初は暴れていたが、次第に動きを止めていく。
そして俺の目の前に文字が現れた。
”グリムホースをテイミングする事に成功しました”
実に簡単だな。
実際はこんなに簡単にはいかないはずだけど。
そう、レベルアップだ。
久しぶりの感覚だな。
高レベルモンスターの
たった1回の成功で錬金術師を抜いたのか。
戦闘職じゃない為かあんましレベルが上がった実感がない。
手懐けたグリムホースのHPを回復させる。
「さすがお兄ちゃん!これ、近付いても大丈夫?」
「ああ、こいつは今から一緒に冒険する俺達の新しい仲間だ。名前は、そうだな⋯グリムだな」
我ながら安直だが、覚えやすいに越した事はない。
「ヨロシクねーグリム~」
グリムは、普通の馬と比べて2倍くらいのサイズがある。
こいつならば、俺たちの馬車も1匹で牽引する事が可能だろう。
その後、街へ帰る道中にユイがグリムに乗ったりして遊んでいた。
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