第42話: リン・シャーロット

リーシャとシルの両親を無事に救い出す事に成功し、街まで戻ってきていた。


すでにリーシャ達とは別れ、盗賊の用心棒をしていたリンと揉めている最中だ。


「という事で、あまり女性の詮索はしたくないんだけど、リンの生い立ちを教えてくれるか?」


彼女はコクリと頷き自分の生い立ちを説明する。


彼女の名前は、リン・シャーロット

年齢は19歳。

生まれた時から剣術の訓練を受けさせられたそうだ。

驚いたのは、彼女は勇者の里の出身と言う。

勇者の里があるという事自体が驚きなのだが、勇者の里は、その名の通り、勇者を養成する為の里で、里ぐるみで勇者になる為の英才教育を受けさせているそうだ。

現在の勇者も、この里が出身だとか。

ちなみに勇者の里の事は、他言無用という掟があるそうで、勿論場所についても絶対に教えてはならない。

既に俺たちに存在自体を説明しちゃっているんだけど、いいのだろうか。


どおりで強い訳だな。言わば、勇者の卵って事か。


「私には才能が無かったので、自ら里を出る決心をしました」


それがちょうど5年前だそうだ。

生きて行くた為には、お金が必要不可欠だ。

勇者にはなれなかったとはいえ、腕には少なからず自信があったので、傭兵稼業や用心棒のような仕事をし、自身の鍛錬と生きて行く為の生活費を稼いでいたと言う。


なかなか波乱万丈な暮らしをしてきたようだ。

そして俺たちと出会い、今に至っている。


リンは、里を出た時から強く決意していた事がある。

それは、もし自分が他の者に敗れた場合は、潔く死ぬと言うものだった。


だからあんなに、死に固執していたのか。


「まあ、大体の状況は分かったけど、それだとリンにはやらなければならない。果たさなければならない事があるんじゃないのか?」


「そ、それは⋯」


「分かってるはずだよ。俺が言うまでもないけど、君が里を飛び出したのは、勇者になる事を諦めていないからじゃないのかい?その為には現勇者を自分が超えるしかない。そう思い、この5年生きてきたんじゃないの?今のそのレベルになるには、並大抵の努力じゃ到底成しえないよ」


「なぜ、その事を⋯、ユウ様、実はエスパーですか」


いや、俺じゃなくても容易に想像は出来ると思うけどね。というか、エスパーって言葉がこの世界にあるの!?


「自信を持ったらいい。リンは強いよ。俺は本物の勇者には、出会った事はないけど、少なくとも今まで出会った中でリンは、トップクラスに強い」


俺自身の考えでは、恐らくリンは、既に勇者の域に到達している。もしかしたら、勇者を超えているかもしれない。


実力は、エルフで最強の部隊に属していたザンバドさんと同等か、それ以上だと思うからだ。


「ありがとうございます。ユウ様にそう言っていただけると嬉しいです。それで、その⋯同行の許可を頂けますでしょうか?」


ユイが潤んだ目で俺を上目使いしてくる。

ユイ、それ反則。

そんなにお姉ちゃんが欲しいのか!

少しだけ、お兄ちゃんは嫉妬しちゃうぞ!


クロが俺の袖を引っ張ってくる。

お前もか!


「はぁ⋯」


俺は2人の頭をなでなでしておく。

結局2人に頼まれるといつも断れないんだよな。

全世界の妹を持つお兄ちゃんは、大変だと思うよ。


「分かったよ」

「本当ですか!」


まぁ、悪い人ではなさそうだし。


「うん。仲間になるという事は、仲間に命を預けるって事だからな。そこのとこは勘違いしないように。ましてや、戦いに敗れたから死にます!なんて絶対ダメだからな」

「ありがとうございます!ご迷惑は掛けません!何でも言う事を聞きます!死ねと言われれば喜ん」


俺は、リンに得意のチョップをお見舞いした。


「今度、自分から死ぬとか、そういう行為を口に出したら本気で怒るからな」


「うぅ⋯ごめんなさい⋯」


既に日も暮れていた為、俺たちは以前泊まっていた宿屋へと向かう。

リンもいる為、俺は2部屋を要求したのだが、満室でまさかの1部屋しか取れなかった。

別の宿屋にしようと言ったのだが、2人に却下されてしまう。


陰謀だ!

今俺は、4人一緒に1つのベッドに寝ている。


どうしてこうなった⋯。

さすがに狭いんだけど。


全員が寝静まった頃だろうか。

俺は、変に緊張して、中々寝付けないでいた。


すると、リンがいきなりベッドから這い出て、俺の前に立っている。

何をするのかと思えば、イキナリ服を脱ぎだしたのだ。

「リン、何してるんだ⋯」

「起きていらっしゃったのですね。ご主人様の夜のお世話をさせて頂きたく、ご許可を頂けますか?」

「いやいやいや、夜のお世話とか、頼んでないから!必要ないから!取り敢えず早く服を着てくれ。それに俺はご主人様じゃない!」


というような出来事もあり、結局寝不足だった。


俺たちは、朝から店を巡っていた。

さすが、行商の街と言うだけあり、どこを見渡しても店しか見えない。

店のスタイルも建物ではなく、馬車からの直売りというスタイルが多く見られる。露店というらしい。

それにしても商品の種類は多種に渡っている。

日用雑貨品から、高価な貴金属の類まで。それに魔導具まで売っている馬車まである。

せっかくなので、色々と補充しておく事にする。


「みんなも欲しい物があったら買ってあげるよ」


ユイやクロの普段着や下着の類なども購入しておく。

リンは、遠慮しているのか、口を閉ざしていた。


「リンも遠慮せずに欲しい物があったら言ってね」


リンは、手荷物の類を一切持っていなかった。腰に長剣をぶら下げているだけ。

このまま一緒に居ても、きっと遠慮してリンは何も欲しがらないだろう。


「いいかユイ。リンと2人で買い物してくるんだ。着る物から、必需品、食料とかなんでもいいから、お前に任せる」


ユイは、ラジャーのポーズを取った。


ユイに委ねてみよう。

ショッピングが終われば、宿屋に集合という事になった。


俺は、クロと一緒に露店巡りの続きだ。

昼ご飯も別々に食べる事になった。


成り行きだが、久々にクロと2人っきりだ。

相変わらず、クロは終始クールな表情を崩さない。

俺はふざけて、クロの両ホッぺを両手で伸ばす。


「!?」

「クロ、たまにはこーやって笑ったりしていいんだぞ。前にユイから聞いたけど、笑った時のクロは凄く可愛かったってね。いつか俺にも見せて欲しいかな」


俺は、道中に錬金術に使える材料を幾つか購入した。


宿に戻ってきた俺とクロは、まだ帰って来ていないユイたちの方を待つ間、宿屋の主人と話をしていた。


さすがに4人一部屋は狭いので、宿屋の店主にもう一部屋ないかをクロには内緒で確認に行ったのだが、部屋は満室で空いておらず、チェンジならOKという事。


この宿屋一広い部屋との事だったので、今よりはましだろうと、俺は部屋をチェンジしてもらった。


ユイたちは部屋が変わった事を知らないので、宿屋の入り口で帰りを待つ事になった。


暫く待つと、両手に大きな袋を抱えた2人が戻ってきた。


「どれだけ買ったんだよ⋯」


みんなで、ルームチェンジした大部屋へと移動する。

この宿屋一と言うだけあり、今度は逆に広すぎじゃないだろうか。

ベッドはWベッド×3だが、10人位までならこの部屋で生活出来るかもしれない。


「そんなに大量に⋯一体、何を買ってきたんだ?」

「えっとねー」


ユイが買ってきた物を部屋の中に豪快にぶちまけていく。

その中には女性物の下着の類まで含まれていた。

サイズからして、ユイのではなく、リンの物だろう。

心なしか、リンの顔が赤い気がする。


確かにユイに任せるとは言ったが、ぬいぐるみやバケツまであるぞ。もはや何に使うのか分からない代物まであったりする訳で⋯。

まぁ、でもリンともだいぶ仲良くなれたみたいだし、良しとしよう。


「申し訳ありませんご主人様。ついつい色々と購入してしまいました」


リンが深々と頭を下げている。


「リン、気にしなくていいよ。これから一緒に旅をして行くんだ。余計な遠慮は不要だよ。後、ご主人様じゃないからな!」


何故にご主人様なのか⋯。

なんと言うかむず痒いんだよね。


「じゃ、晩飯でも食べに行くか」

「わーい!」


俺はクロと馬車散策していた時に、ちょっと高級な感じの飲食店を見つけていた。

その際、予約しておいたのだ。


内装からしてかなり豪華な場所だった。

支配人に案内されて奥の個室へと進む。

部屋の中央には、赤色に輝く丸テーブルが設置してある。

部屋の隅にはソファーが設置してあるのだが、テーブルの周りにはイスが見当たらない。

どうやら、立食スタイルのようだ。


支配人は「そちらのメニューから注文をお願いします。お決まりになりましたら、外におりますので、お呼び下さい」と言い残し、個室を後にする。


「今日は、リンの歓迎会も兼ねてるからね。みんな好きな物を頼んでくれ」


俺は、クロの頭を撫でながら、

「クロは、好きなだけ吸っていいからな」


クロがコクリと頷く。


自己紹介がまだだったので、注文して運ばれた料理を食べながら、各自が名乗っていく。

ユイに至っては、食べながら喋っているので、何を言っているのか全く聞き取れない。


「クロさんは、魔族なんですね」

「うん」


リンは、クロの事で一番驚いていたようだ。


「私は、皆さんに最初にお会いした時に、まず衝撃を受けました。それは、人族と獣人族とが一緒に行動を共にされていた事です。私は外の世界の事についてあまり詳しくないのですが、他種族でここまで仲良くされている事例は聞いたことがありませんでした」

「お兄ちゃんが特別なの!」

「いや、俺は至って普通だ」


全種族統合という壮大な野望は持っているけどね。


食事も終盤に差し掛かって来た頃、突如リンが涙をこぼし始めた。


その様を見て皆驚いた。


「ぐすっ、あ、す、すみません⋯。こういう温かい食事を食べるのは本当に久しぶりでしたので⋯」


(この子なら大丈夫そうね)

声の主はセリアだった。

(この子にも私たちの精霊の恩恵を授けるんでしょ?)

(ああ、セリアたちと相談してからで、すぐにとは考えていなかったけどね)

(私たちなりに、この子を観察していたんだけど、この子もまた、ユウさんと同じように清い心を持っていますので、大丈夫だと思います)


そういう事なら、2人を紹介しようか。

「リン、実は俺の仲間はもう2人いるんだ」

「え?そうなのですか?」


リンは、辺りをキョロキョロしている。


俺は、リンを精霊の加護の対象にするようにセリアとノアに頼んだ。


これで見えるはずだ。


「セリア、ノア、出て来てくれ」


俺の呼びかけに応えて、精霊の2人が俺の中から出てくる。

セリアは、いつもの定位置に腰掛けている。

ノアは、俺の横に立っていた。

リンが2人を見て、驚いた表情をしている。


「もしかして、精霊様でしょうか⋯」

「2人とも自己紹介してあげて」


リンは精霊を見るのは初めてだそうだ。

初めての人は大抵、皆同じようなリアクションなんだよね。


「やっぱりユウ様は、凄い人なのですね⋯」

「普通、精霊様にお会いするだけでも一生に一度あるかないかと言われています」


暫く談笑しながら、豪華なディナーを満喫する。


夜はどんどん更けていく。

流石の大食いのユイの手も止まっている。

「もう、食べられない〜」


食べ過ぎだよ⋯。


「さてと、みんな満足してくれただろうか」

「まんぞくー!」

「よし、じゃ帰ろうか」


食事の支払額が銀貨50枚って⋯どれだけ食べたんだよ。


今日も仲良く同じベッドで4人一緒だ。

何かおかしいな。同じ部屋にベッドは、もう一つあるはずなんだが。

いや、もう何も言うまい。

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