第18話: 王宮晩餐会

俺の意識は朦朧としていた。


目の前が⋯世界が⋯グルグル回っている。

だけど不思議と気分は悪くない。むしろ高揚さえしていた。


3時間程前の話。


俺達は、晩餐会の会場である王宮に来ていた。

王宮の入り口で、メイド服を着たエルフに連れられ晩餐会の会場に案内された。


この世界にもメイド服が存在することに心の中でガッツポーズをしていた。

もちろん2人には悟られていないはず。


晩餐会会場に到着した俺は、ユイの手をシッカリと掴んでいた。


というのもバイキング形式の晩餐会のようで、部屋の中央には長テーブルが配置されており、部屋の両サイドには、豪華な料理が並んでいた。

それを見つけたユイが、今にも料理に飛びかかりそうになっていたからだ。


エレナの親族だろうか?次々と会場入りしてくる。

俺とエレナは、会場の入り口に立ち、一人一人と握手を交わし、簡単な自己紹介を兼ねてエレナが紹介してくれている。


えっと、エレナの叔父さん、叔母さん、従兄弟いとこ再従兄弟はとこにお爺さん、お婆さん、曾祖父に曾祖母⋯


一体何人出てくるんだよ!


そもそもエルフは長寿なのだがら、爺さん婆さんは何代前までご健在なんだよ!考えただけで恐ろしい。


最後にエレナの父親と母親と母親と手を繋いでいる妹で全員揃った。


エレナの父親のロイドさんが晩餐会開始の挨拶をする。


「此度は、行方不明であった我が娘の無事の帰還祝いと、その我が娘を同胞であり、裏切り者の魔の手から幾度と無く救って下さった人族のユウ殿に多大なる感謝の意を込めて今晩餐会を開催したいと思う」


そして乾杯をして晩餐会は始まった。

料理はどれも美味しく、見た事が無いものばかりだった。

後から聞いた話だと、食材は全て自給自足だそうだ。野菜は畑から。肉や魚は狩りをして獲得している。


今俺の前には、乾杯を申し出る人たちの行列が出来ていた。


何しろ、この里にとって客人は、ここ何年もなく、ましてや人族の客人など、何十年振りという。

今回はエレナの件もあり、乾杯の時に皆、思い思いの会話を楽しんでいた。


俺以外は⋯


元の世界でも、決してお酒の強い方ではなかった。

こっちの世界に来て、肉体的には強くなってもそれは変わらなかった。

一方、エルフ族はお酒に非常に強く、酒に溺れるなんてことは滅多にないようで、この会場で溺れているのは俺だけだった。


ヤバいな⋯これ以上はさすがに意識が飛びそうだ⋯

すでに呂律ろれつも怪しい。


しかし、まだ列は続いている。

俺は隣にいるエレナに小声で救いの手を求めた。


「エレナ⋯しゃすがにそろそりょキツイんだけど⋯」


俺の救難信号にエレナがニコッとしている。

そして、耳元で話しかけてくる。


「ユウ様、大丈夫ですよ。酔い潰れてしまったら私が優しく介抱して差し上げますから」


いやいやいや、そういう問題じゃないんだけど⋯。

エレナは、尚もニコニコしている。


はぁ⋯


自分で言うしかない。

俺は勇気を振り絞り、目の前の人に声を発しようとした。

そう、たった一言だ。「もう飲めましぇん!」

しかしそのたった一言が目の前の人物を見た途端に口から出なかったのだ。


何てことだ⋯


目の前にいる人物は、それこそ絵に描いたような美しい人物だった。

端正な顔立ち⋯あぁ、何処となくエレナに似ている気もする。

酒の力に負けて、理性が飛び襲ってしまいそうな程に⋯


再び耳元でエレナが、囁く。


「私のお母様よ」


な、何だって!


どう見ても20代半ばにしか見えない。せめて、姉だったら分かるのだけど⋯。

やはり見た目で判断するのは難しいようだ。

エレナの母親が囁く。


「初めまして、エレナの母親のミリハ・ショコラ・ミルフィーユと言います。この度は本当に娘のエレナを救って頂き感謝しています。ありがとうございますね、ユウさん」


ミリハさんが、俺の耳元に顔を近付ける。


待って!近いから!


「ユウさんでしたら、私、襲われてもよろしくってよ」


!?


小声でなんてことを言うんだこの人は!

実にけしからん!


ミリハさんは、ニッコリしている。

隣にいるエレナが、「何を話してたの」とシツコク聞いてくるが、笑ってごまかす。


それにしてもいきなり過ぎる。もしかして心の中が読まれたのだろうか?

そんなまさかね⋯


そして、その後も結局断りきれずに俺は怒涛の乾杯ラッシュを続けていく。


そんなこんなで、今に至る訳なのだが⋯


ユイはというと、一心不乱に食べまくっていた。

一体、その小さな体のどこにそんなに入るのだろうか。不思議で仕方がない。


そして今、俺の目の前には、エレナの父親のロイドさんが立っている。


何かを喋っているのだが、すでに泥酔しきっている俺には、ほとんど聞こえていなかった。


そして、意識が途切れる。


気が付いたら、ベッドの上にいた。

晩餐会の途中から記憶がない⋯


俺、何もしてないだろうな⋯。

必死に思い出そうとするが、どうしても後半からの記憶が思い出せない。

頭が割れそうに痛い。


「これは完全に二日酔いだな」


ためしに、自分に治癒ヒールをしてみた。

すると、まさかの二日酔いが治ってしまったではないか。

即効性の頭痛薬も形無しだ。


それにしてもここは何処だろうか?

もちろんだが、俺は移動した記憶がない。

それに、ユイやクロも見当たらない。


しばらくそのまま辺りを観察していると、勢いよく扉が開かれた。

そして、ユイとクロが部屋の中に入ってきた。


「あ、お兄ちゃんおはよう!」


俺に抱き着いてくる。


頭を撫でてポーズを取ってきたので、俺は頭をクシャクシャに撫でてやった。特に耳を重点的にね。


そして、恐る恐る昨日の事を聞いてみた。


「ユイ、俺昨日どうしてた?途中から記憶がないんだけど」


内心ドキドキしていた。もし、何か失態でもしていたら、どうしようかと。

相手は家族でも、気の知れた友人でもない、エルフの王族なのだから。

失礼があったら簡単に首が飛ぶ。


ユイは、あごに人差し指を当てて考え込む。


「んーお兄ちゃん、途中からずっと寝てたよ」

「それだけ?」

「うん、それだけ」

「何かおかしな事を言ったり、やったりしなかったか?」

「うん、寝てただけ」


そうかそうか、とりあえず良かった。

寝てただけだったか。

ふぅ、とため息をつく。


部屋を出て、昨日の事を知っているエレナを探していた。


どうやら王宮の中らしく、テレビなんかで見たことがある感じの、西洋の洋館のような内装だった。


「それにしても、広すぎてこれは迷子になるぞ」


ユイと一緒にキョロキョロしながら、歩いていた。

どうやら、ユイとクロは、隣の部屋で寝ていたらしい。


先の方をエレナが歩いている姿が見えた。

エレナを呼び止めようとする。

しかし、エレナは振り向くと、顔を赤らめて走って行ってしまった。


「え、なにあの態度⋯」


理由が分からなかった。


何故と考えていると、侍女らしきメイド服の人物が歩み寄る。


「ユウ様、国王様がお待ちです。ご案内致しますので、謁見の間にお越し下さい」


そう言い、頭を下げる。


「分かりました」と返答し、侍女に付き従う。


目の前にとても立派な、それでもって大きな扉が見えている。

某アニメの殺し屋宅の3番目の門くらいのサイズがあるだろうか。

無駄にでかい。

こんなに天井を高くする意味があるのだろうか?

巨人族すら頭を下げずに入れるかもしれない。


「この中へお進み下さい」


どうやら侍女はここまでのようだ。


いきなり入るのは失礼と思い、一応扉の前で名乗っておくことにした。


「ユウです。ただ今参りました」

「うむ。入れ」


国王の声が聞こえてきた。


ゆっくりと扉を開ける。

あれだけ大きな扉だというのに、開けるために必要な力は極々僅かだった。どういう作りなのだろうか?


入って早々に中を見渡す。

中にいたのは、どうやら国王ただ1人だった。

まぁ、範囲探索エリアサーチで分かってた事だけど。


国王の前までゆっくり進み、跪いた。


「良い、面てを上げてくれ」


顔を上げて、国王の顔を見上げる。


「堅苦しい挨拶とかは無しだ。そなたは恩人なのだ、それにもうすぐ身内となるのだから対等の関係でいようではないか」


そう言い、国王は笑っていた。


ん?もうすぐ身内となるというのはどういう意味だろう?


「朝から呼びつけてしまったのは、そなたの家の事だ。ロムールの丘の見晴らしの良いところにある一軒家を提供しようと思っていてな」


そういえば、ここへ来る道中に、エレナが俺達の滞在中に一軒家があてがわれると言っていたな。


なんでもこの里には宿屋がない。というか、宿屋という概念がないのだ。


感謝の言葉を述べた。

国王は「エレナに案内をさせるので、しばし待て」と言うので、左右に並べてある高級そうなソファーに座って待つことになった。


なんて、ふかふかなソファーなのだろうか。全体重をかけてもたれてしまうと、どこまでもめり込んでしまいそうだ。

俺の馬車にも是非欲しい逸品だ。

隣のユイは、すでに遊んでいる。

というか、持たれているのにめり込んで上半身が見えない。


「凄い!ふかふかだよこれ!」


チラリと横目で国王を見るが、ニッコリしているので、ユイはそのままにしておこうと思う。


暫く待っていると、エレナが入ってきた。

いつものエレナだ。

さっきすれ違った時の仕草はなんだったのだろうか?

まだ若干頬を朱に染めてモジモジしている感じは見受けられる。


「ユウ様、行きましょう」


俺は国王に一礼し、謁見の間を出た。

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