第13話 :捕らわれのエルフ
ダンジョン探索から戻って来たその足で、俺達はある場所へ向かっていた。
そう、主従契約を行う、
セリアが『今日中に主従契約を済ませちゃいましょう』なんて言うので、疲れてはいたが仕方なしに目的地へ向かっている。
まぁ、約束したからな。
この隷拝塔は、北側城壁入口付近に立っていた。
外からモンスターを連れ、そこで主従契約を結ぶケースが多いので、入口から近い方が良いのだろう。早速隷拝塔の中へ足を運ぶ。
石造りの立派な外装とは裏腹に何とも殺風景な内装に言葉が何も出ない。というか何もない。
建設直後で壁紙や家具などが何もない感じに近いだろうか。
奥へ進むと中央に台座が見える。台座の横に神官服を着た青年が立っていた。
「本日は、どのようなご用件でしょうか?」
神官青年は仰々しくお辞儀し、スマイルで問う。
「えっと、この子と主従契約を結びたいんだけど」
神官青年がクロに目をやる。顎に手を当て何か考えているようだ。
無言の時間が少しの間だけ流れる。
「見たことのないモンスターですね。ですが、大人しいので大丈夫でしょう」
そう言い、台座を指差す。
「では、その子をこの台座の上に乗せて下さい。すぐに主従契約の儀を執り行います」
主従契約の儀というのは、五分くらいのものだそうだ。神官青年が本に記されている主従契約の
実に簡単だな。それなら俺にでも出来そうだ。
念の為に最後に本人に聞いておこう。
「クロ、本当に俺と主従契約を結んでも良いか?」
「ワンワン!」
元気よく尻尾を振っていた。
クロ了承も取れたことだし、俺は台座の上までクロを運ぶ。
そして、すぐに主従契約の儀が行われた。
神官青年が小難しい言葉を喋っている。言葉は理解出来るが、何を言ってるのかさっぱり分からない。
お経を割と高い声で唱えている感じに近いだろうか。
最初に言われた通り、五分くらい唱えていた後、神官青年が俺にナイフを手渡す。
これで指を切り、血を一滴流すという事だろう。
俺はナイフで自分の指を切った。
チクッとしたが、そのままその指をクロの口元に運ぶ。
クロは、まるで理解しているかのように血が出ている指をペロペロと舐めていた。
「これで主従契約の儀は終わりです。以降、主人の命令は絶対服従ですし、親密度が上がればどこにいても互いの居場所が感じ取れるようになります」
なるほど、それは便利だ。迷子なんてなったらどうしようと思っていたが、どうやらその心配はなさそうだな。それにコミュニケーションを取り続ければ、念話でお互い話す事が可能になるようだ。
普通は、何年も掛かるらしいけどね。気長に待っていよう。
それと最後に怖いことを言っていた。
主人が死ねば、主従契約している子も一緒に死んでしまう。
また、一度主従契約を結べば解除する事が出来ない。普通それって、契約を結ぶ前に最初に教える事なんじゃないだろうか。
まぁ、終わってしまったものは仕方ないけど。
さっきから、足取りがおぼつかないユイが『疲れた~』と言って、持たれ掛かってくるので、早々に宿屋へ帰る事にした。
宿屋は勿論ホリーさんの営む宿屋だ。一度チェックアウトしてしまったので、再び申請をする必要がある。すぐに次の街を目指すつもりだけど、支度とかその他諸々あるので一週間滞在することになった。そのまま部屋に上がり、ベッドに吸い込まれるようにユイと一緒に倒れこんだ。
そういえば、夕食を食べていなかった気もするが、まぶたの重力の前に抗うことが出来なかった。
朝になり、陽の光を浴びて目を覚ます。
まず目に飛び込んできたのはクロだった。俺の顔をペロペロ舐めている。寝転んだままクロを両手で持ち上げ、高い高いをして遊んでいた。
隣を見ると『スゥ~スゥ~』と可愛らしい寝息をたてて、ユイが気持ち良さそうに寝ている。
あまりにも無防備なので、ついついイタズラしたくなる衝動にかられる。
俺はクロを抱えたままベッドから降りた。
すると、その衝撃でユイが目を覚ます。
アクビをしながら眠そうに目をこすっている。
「おふぁよぉ~」
「まだ眠そうだな。おはよ」
一週間も狩りの連続だったからな、今日はフリータイムにしよう。
ユイはまだ寝足りなさそうなので部屋に居てもらう事になった。
俺はというと、旅支度とストレージの整理をしようと思っている。やたら滅多ら今までストレージに放り込んできたからね。たまには整理しないといい加減収集がつかなくなっていた。
まずは、モンスターの死骸の仕分けだな。
あまりの量に買取屋は目が点になっていたな。ストレージの半分以上がモンスターの死骸だった為、だいぶ身軽になった気がする。実際は重さを感じないんだけどね。
変わりに製薬の為の材料を購入していく。
なぜ製薬なのかというと、単純に錬金術に興味があったからだ。自分の手でポーションとか作ってみたいじゃないか。どうせ旅をするなら、商売なんてのも悪くない。将来的には自分の店を持つのも良いだろう。もちろん固定ではなく移動式の店舗を考えている。
思い立ったが吉日という言葉がある。早速錬金術師ギルドへと足を運ぶ。
受付嬢にギルドに入りたい旨を伝えたところ、ギルドに入るには『お金が必要です!』と言われた。
魔術師ギルドや盗賊ギルドはお金なんていらなかったのだが、戦闘職じゃない分勝手が違うのだろうか?
まぁ、お金と言っても銀貨五枚だったんだけどね。
受付嬢にお金を払い、錬金術師としてのギルドカードを作成してもらった。
名前:ユウ
レベル:80(魔術師)
レベル:1(錬金術師)
職種:魔術師/錬金術師
スキル:
称号:異世界人、竜王を討伐せし者、精霊の宿主、ダンジョンを踏破せし者
特殊効果:精霊の加護
二職同時に出来るのか半信半疑だったけど、どうやら成功のようだ。
称号とスキルが増えている。
受付嬢から錬金術師の手引きを貰った。
基本は、この本を読んで己の道を歩んでいくらしい。
先生がいるわけでも、ましてや教えてくれるわけでもない。戦闘職とは、まるで待遇が違う。
錬金術師ギルドでもいくつか触媒となる材料や、すり鉢、すりこ木、
よし、材料は揃ったな。後で実際に宿屋でやってみる事にしよう。
錬金術師ギルドを出て、街をブラブラと散策していた。
前方の広場で何やら人だかりが出来ている。側にいる人の話を聞くに、どうやら騎士団が犯罪人を連行して連れ帰った所らしいのだが、人が多くて何も見えない。群衆を押しのけて、前に出てみる。
俺の目に映ったのは、鎖で繋がれて引っ張られている
ケガを負っているのか、着ている服は血で塗れていた。
こんな年端もいかない少女が犯罪人なんて⋯ん?
顔をよく見ると、耳が尖がっている。
もしかして、耳の長い種族といえば、あれか? あれなのか?
俺の中でこの世界で会いたかった種族の三本指に入る、あのエルフじゃないだろうか?
名前:エレナ・フォンデュ・ミルフィーユ
レベル:13
種族:エルフ
職種:なし
スキル:なし
やはりエルフだ。
これと言ってスキルも持っていないし、犯罪人には見えないな。
周りの人に聞いてみる。
皆。詳しくは知らないらしいが、なんでもエルフ族がこの国を襲撃する計画を立てていて、彼女がその首謀者だと言う。
本当だろうか?
これは調べてみる必要がありそうだな。
あんな幼気な少女がそんな大それたことをやってのけるとは到底思えない。
直接本人に聞いてみるのが何より手っ取り早い。だけど、クロが居ては尾行が出来ないか。時間をロスするけど、まずクロを宿屋にいるユイに預けてからだな。
俺は全速力で宿屋までダッシュし、クロをユイに預けて、再度エルフが居た場所まで戻る。
良かった。まださっきの場所にいるようだ。
どうやら、中心街へと連行されようとしている。あの中に入られたら厄介だな。今の俺だと正面から入れない。
(私が追跡してみましょうか?)
声をかけてきたのはセリアだ。
そうか、姿の見えないセリアなら彼女がどこに運ばれたか気付かれずに把握する事が出来る。
(危険だけど頼めるか?)
(ご主人様の命令とあらば⋯なんてね、一度でいいから言ってみたかったの、ふふふ)
セリアは笑っていた。
俺は宿主にはなったが、ご主人様になった覚えはないんだけど⋯。
陽が沈み真っ暗になれば、侵入のチャンスはいくらでもあるだろう。
時間と合流する場所を決めて、セリアと別れる。
追いながら群衆の言葉を盗み聞きしていたのだが、このプラーク王国はエルフ族と現在敵対しているそうだ。
あのエルフと敵対なんて、この国の王様は頭がおかしいんじゃないだろうか?
敵対しているエルフの
急いだ方がいいな。
騎士団員に連行されたエルフは、中心街もとい貴族街の中へと消えていった。
まさか堂々と入る訳にも行かないし、先生から貰った証を使うのもどうかと思う。
やはり陽が沈まないと中へは入れない。
日没までまだ三時間以上はある。
俺は中心街の塀の周りを一周して侵入出来そうな場所を探していた。
そんな俺を観察していたのか、一人の人物が近付いて来る。
「そこの若いの」
振り返った先にいたのは、平民の服を着ているが、どこか気品溢れる初老の男性だった。
「俺のことですか?」
初老の男性は小さく頷く。
「うむ。見たところ、この中に入りたいようじゃが?」
ヤバいな、怪しまれたようだ。
どうやって誤魔化そうかと考えていると⋯
「良い良い、別に衛兵に突き出そうなんて思っとらんわい。ワシは目を見れば、大抵の素性と人柄が分かる。お主は良い目をしておるな」
どうやら、騒動にならずに済みそうだ。
「何か訳ありなんじゃろ?」
「はい、どうしても中に入りたくて」
「ならばついてくるのじゃ」
そう言い、初老の男性は何処かへ歩いて行く。
細い路地を通り、暫く進んでいく。
「ここじゃ」
どうやらここが目的地らしい。
指差している先を見ると、そこには地下へと続く階段があった。
ダンジョンに通じていそうな雰囲気だな。
「ここを下って道なりに進み、また階段を上がれば、お前さんの行きたがっていた場所へ行けるぞ」
初老の男性もといフリージアさんは、昔は中心街で暮らしていたそうだ。この抜け道もその時に発見したそうで、この道を知っているのは、今ではフリージアさんだけだと言う。
礼をいい、一旦この場を離れる。
今行ってもすぐ見つかってしまう。それに隠密行動に相応しい
この場所を
ユイに事情を説明する。一緒に来たがっていたが、今回はお留守番してもらうことにした。
最初はダダをこねていたユイだったが『お兄ちゃん命令だぞ』の一言で、あっさりと言う事を聞いてくれた。
お兄ちゃん命令恐るべし。
俺は今、真っ黒なコートを羽織り、フードを深々と被っていた。ユイを保護した時の恰好だ。
今回は念入りに顔に仮面までつけている。昼間に買っておいた代物で何かに使えるだろうと思っていたけど、まさかこんなに早く使う羽目になるとは思わなかった。
よし、準備万端だ。あとは夜になるのを待つだけだな。
暫くしてセリアが戻ってきた。
エルフ嬢の場所をバッチリ偵察して来てくれた。
「戦闘では役に立ちませんので、それ以外の面で役に立ちませんとね」
俺とセリアは中心街に向かって走っていた。セリアは俺の中に入っている。
道中、セリアが見聞きした事を話してくれた。
どうやら、敵国の破壊工作というのは嘘らしい。
たまたま、行商人の一行がエルフを発見したので、それを捉えた事を騎士団に連絡し、騎士団が嘘偽りをでっち上げたそうだ。
まったく、この国は腐ってるな。この間の奴隷商人ならいざ知らず、王国直属の騎士団がそんな事をしていいはずがない。
救えないな。
そして、抜け道の下穴まで辿り着いた。フリージアさんの話では、この先が中心街に通じているそうだ。階段を下り、通路を少し道なりに進み、そしてまた階段を上がる。上がった先は、どこかの倉庫だろうか。荷物がびっしり置かれていた。
幸い誰も見えない。
念の為にセリアが透明化で偵察に行ってくれている。俺にだけ見えている状態だ。
(こっちよ)
セリアのおかげで、誰とも出くわす事もなく、中心街を進む事が出来た。どうやらこの中心街も、夜になると外を出歩く人はほとんどいないようだ。
目的の建物が視界に入ってきた。
(あの中よ。でもさすがに見張りがいるようね)
ストレージから、得意の小石を取り出そうとしたら、セリアが『私がやるわ』と言ってきた。
(私が話しかけたら全員なぜか寝ちゃうのよね)
そういえばその手があったな。
「姿を見せるんだから、気を付けるんだぞ」
次の瞬間セリアは、初めて会った時とはまた違ったいかにも高貴な身なりをした令嬢風な装いに変わっていた。
そのまま見張りへと近付いていく。
見張りは、遠目でセリアを見て、最初は怪しがっていたが、近付いてその風貌が見えるにつれて、怪しさなんて何処吹く風。今は鼻の下が伸びている。
「道に迷ったのですけど、ここが何処なのか教えて下さらないかしら?」
見張り二人が口を開けて答えようとした瞬間、バタバタと二人共倒れてしまった。
相変わらず、すごい即効性だな。見張りの二人を路地裏に運び目立たないようにしておく。
中へ入り、階段を上がる。
誰にも察知される事なく、俺達はエルフの少女が捕らわれている牢屋のすぐ近くまで辿り着いた。
さすがにこの先は、戦闘になるだろう。
牢屋というか、どうやら小部屋のようだった。
小部屋の前に見張りが二人、中に三人いる。
さすがにセリアで睡眠作戦だと、怪しまれすぎるので、俺は小石をソッとストレージから取り出した。
素早く腹部目がけて投石し、見張りの二人が倒れこむ前に受け止める。
ふぅ、間に合った。
倒れ込んだ際の音を防ぐ為だ。
聞き耳スキルで中の音を聞いてみる。
「おい、大切な人質なんだから、あんまり痛めつけるなよ」
「分かってるって、おらおらっ!」
「うっ⋯ぅぅ⋯」
バタンッ!
俺が扉を開ける音だった。
機会を伺おうと思っていたのだが、中の声を聞いた途端待つ事なんて出来なくなってしまった。
しかし、冷静さは失っていない。
すぐに小石を敵と思われる二人に向けて投石した。
相手が喋る前にKOさせる。
「ぅぅ⋯ひっく⋯ううっ⋯」
彼女が泣いているのだろう。俺は仮面を取り、すぐに彼女に駆け寄り、
彼女の状態から察するに、殴る蹴るの暴行を振るわれていたようだ。
「ごめん。誤って許して貰えるとは到底思わない。許して欲しいなんて言わない。だけど⋯ごめんな」
俺は手をついて彼女に誤った。
「どうか、人族みんなを嫌いにならないで欲しい」
俺が尚も頭を下げていると彼女が、優しく俺の頭の上に手を置く。
「どなたが存じませんが、助けて頂きありがとうございました。どうか顔をお上げになって下さい。人族の中にもあなたのような優しい方がいる事は存じております」
顔をあげて彼女を見た。
彼女は微笑んでいる。
さっきまで、あんな仕打ちに遭わされていたのに、強い子だ。それに優しい子だな。
「助けに来ました。詳しい話は後で。すぐにここから逃げます。失礼しますね」
そう言い、仮面を被り、彼女をお姫様抱っこする。
「飛び降りますので、しっかり掴んでおいて下さい」
彼女が頷いて、俺にしがみつく。
俺は窓の外から飛び降りる。もちろん外から誰も見ていない事を事前にセリアに確認してもらっている。
そして一目散にその場を後にした。
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