第12話: ダンジョン探索【最奥で待つ者】
魔族を倒し、俺達は二十階層まで戻ってきた。
まだ昼過ぎだったのだが、今日の狩りはここまでにする。
あの魔族は一体何だったのだろうか。システムバグか何かか? そんな訳ないか⋯
そういえば、黒犬を倒した際にアイテムをドロップしていたっけな。
しかし、魔族には注意が必要だと再認識させられた。今回は俺よりもレベルが低かったから良かったが、あのテレポートみたいなのは正直反則だろ。最悪の場合、無防備な所にグサリで終わってしまう。
セリアが久々に表に出てきた。
「もうお気付きとは思いますが、先程のは魔族です」
どうやら精霊には分かるらしい。
「しかし、魔族の目撃例は、ここ何十年と無かったはずですが、嫌な予感がしますね」
嫌な予感というのは言うまでもなく俺には見当が付いていたので、あえて聞かないでおく。ユイを怯えさせても仕方ないからだ。
昼食を取り、安全層を探検したいと言うユイに着いて行く事にした。
十分程歩いたが、端まで辿り着かない。中々に広いようだ。
更に十分程歩いて、ようやく安全層の端まで辿り着いた。
単純計算で二キロ程だろうか。それにしても、道中誰も見かけなかったが、誰もこの階層まで降りて来ていないのだろうか。
グルっと壁を添うように一周し、テントが張ってある場所まで戻ってきた。
これと言って目ぼしいものは何もなく、あったのは冒険者の残していった野営の
歩き回って分かった事は、安全層の至るところに妙な花が咲いてあった事だ。
サーキュレイトフラワーというその花は、俺には分からなかったが、モンスターの嫌いな匂いを常に発しているそうだ。ユイにもセリアにもそれは分からなかった。恐らくモンスターのみに分かる匂いなのだろう。
何かに使えるかもしれないので、掘り起こしていくつかストレージに放り込んでおくとする。
いつの間にか時間帯は夜になっていた。と言っても景色は変わらない為、今一実感は沸かない。
さて、そろそろ食事の準備をしないとな。
今夜の食事は、ブルーライギョの塩焼きとみんな大好き白飯だ。やっぱり一日一食は白飯を食べないとね。
隣のユイはバカ食いしていて俺の三倍は食べていた。
食べ終わって満足したのか、気が付けばユイはテントで寝てしまった。
そんな姿を微笑ましく見ながら、昼間の事をセリアに聞いてみる。
セリアが知っていた話はこうだ。
魔族の動きが活発化するのは、魔王の復活が近いからであること。魔王は約八十年程前に人族獣人族連合の勇者達に封印されたという。
その戦いは一ヶ月以上も続き、戦場となった大陸は見る影もなく、草木の生えない不毛な荒れ地へと変化していたそうだ。
今ではその大陸は、
封印されてからも魔王の抵抗は強く、その強さは年々増して来ている。封印自体も代々勇者と呼ばれる者達が、魔力を注ぎ維持していかねばすぐに破壊されてしまうそうだ。
現状、封印している事がギリギリの状況だった。
つまり、魔族には絶対に魔王の封印されている場所を知られてはならない。もし知られでもしたら、現存している魔族の軍勢に簡単に魔王を復活させられてしまうからだ。それだけ魔族の強さは圧倒的で、モンスターの非ではない。
今日出会った魔族もレベル五十五と非常に高い。いつかのキマイラと同等レベルだ。
そんな奴らがゾロゾロと大群となって攻めて来れば、人族側に為す術はないだろう。
しかし、セリアが言うには今日出会った魔族は、はぐれ魔族と呼ばれる類で、たまたま姿を見せただけだろうと言っている。
精霊達には、少しでも魔王の復活の兆候があれば、神からの神託が降りるのだという。
それはありがたい。少なくともセリアと居れば兆候の気があればすぐに分かるという事だ。
夜も更けてきたので、俺も寝る事にした。
そして次の日の朝になる。少し体が重い気がするが、気のせいだろうと思い、目を開ける。まず視界に入ってきたのはユイだった。
俺の上で器用に寝ているじゃないか。相変わらず寝相が悪いにも程がある。頭をグリグリして優しく起こしてあげた。
ユイが何故だか涙目になっている。
まぁ、朝だしね。寝起きだから仕方がない。
「よし、狩りの時間だな」
ハントは朝方が基本と誰かが言っていた。
ユイと一緒に二十一階層で無双の如く、モンスターを狩り始める。
昨日大量殺戮をした際は、モンスターの姿は消えていたけど、今日は復活している。
一体どこから湧いてくるのやら。
ゲームの世界のようにこの世界にもエンカウント率なるものがあったりするのだろうか?
ユイのレベルも既に三十五を超え、もはや二十一階層では俺の出る幕は無くなっていたので、俺達は二十二階層へと降りる事にした。
もはや恒例となっている、この新階層に降り立った際の初動作なのだが、この階層は弱点属性は火らしい。
さぁ、
ユイよ、やっておしまい!
一つの階層にだいたい五種類くらいのモンスターがいるのだが、さすがに二十一階層は見飽きてしまっていたので、新しいモンスターは新鮮で見栄えする。
しかし、油断はしない。初のモンスターに対しては、厄介なスキルを持っていないか、弱点となる部分はないかなどちゃんと分析している。初見殺しなんて言葉があるくらいだ。慎重過ぎるくらいで丁度いい。
この階層に降りて来て、三時間程狩をしただろうか。
今俺達の目の前に、一つの箱がある。
もしかすると、あれが噂に聞く宝箱だろうか?
それともダンジョンにありがちなトラップの類だろうか?
開けた瞬間、宝箱型モンスターが襲ってきたりするのだろうか。
ふんっ、あまいな。
俺には
名前:トレジャーボックス
説明:様々なアイテムが格納されている。ダンジョン産トレジャーボックス。
うーん、取り敢えずトラップの記載はないみたいだな。開けてみるか。
「私が開けていい?」
「モンスターが出てくるかもだから、注意しろよ」
少し意地悪してみる。
ユイがドキドキしながら、トレジャーボックスを開けていた。
中から出てきたのは、指輪のようだ。
名前:ポータルリング
説明:魔力を消費して一日に二度だけ、指定のエリアにワープする事が出来る。同時にワープ候補として保存しておける数は最大四ヶ所。
特殊効果:破壊不可
相場:金貨千枚
希少度:★★★★★☆
これはヤバいぞ。希少度5なんて初めて見た。しかもワープとはこれいかに。
「お兄ちゃん、凄いのこれー?」
ユイが興奮して聞いてくる。
「ああ、すごい⋯」
後でじっくりと使い方を検証してみるか。
場合によっては、ダンジョンに籠らなくても、宿屋からダンジョン最下層へ一瞬でワープ出来るかもしれない。想像に胸躍らせながらストレージに指輪をしまう。
狩の合間に昼食を済ませ、午後の狩を再開した。
階層の出入り口付近にはモンスターが出現しないのだ。
後で分かった事だが、その付近にも例の花が咲いていた。だから階層を
一階層に、ここのモンスターがいたら、それこそ大惨事になるしな。
この階層のモンスターを狩り終えたのか、周りにモンスターが見当たらなくなったので、今日はここまでとする。
二十階層のベースキャンプに戻ってきた俺達の目の前には冒険者の団体がいた。
そういえば、テントを張りっぱなしにしていたっけな。
中には枕とか布団の類しか置いていない。
もちろん貴重品の類なんて置いてはいない。取られて困るものは置いてないつもりなんだけど、どうやらその放置が良くなかったようだ。
「お、このテントはあんたらのかい?」
俺は、ついにこの世界のドアーフに出逢えた!と思っていたのだが⋯
名前:ゲヘルナ・マルコ
レベル:37
種族:人族
職種:剣士
スキル:
どうやら人族のようだ。
「ああ、そうだけど」
「随分と若造だが、あんたレベルは? それに隣にいるのは獣人族の女の子のようだが?」
質問は一つずつにして欲しい。
とりあえず、初見でユイの事を奴隷を言わなかったので、素直に質問に答える。
我ながら思う。実に上から目線だな、俺。
「レベル三十四の魔術師です。この子は俺の妹です」
本当のレベルは言えないので、差し支えないレベルを答えておく。
「ユイって言います。レベルは三十六です」
そうかそうかとドアーフもどきのおじさんは頷いている。
妹よりもレベルの低い兄ってどうなんだろうか。
「それにしてもたった二人でここで狩をするのは危険だぞ。と言おうと思ったが、嬢ちゃんがいるなら大丈夫だろうな」
ん? 何故大丈夫なのだろか。
色々と話を聞いてみると、どうやらこの間助けた青年のパーティーが街へ戻り、色々と噂をまいているそうだ。
とても強い
悪気はないんだろうが、あまり広めてもらっても困るんだけどね。
ドアーフもどき、もといマルコさんもその話を聞いていたそうだ。
冒険者同士これからも縁があるだろうと言い残し、マルコさん達は去っていった。
まぁ、どのみち地上に戻れば、すぐにこの街を出立するつもりなので、噂の類はあまり気にしなくてもいいか。
絡まれるのも面倒なので、今度から痕跡は残さないようにしないとな。
その後は特に何のイベントも発生する事なく三日が経過していた。下層へ降りては、狩をして戻っての繰り返しだ。
ベースキャンプを二十五階層へ移していた。今の狩のステージは、二十八階層になっている。
ここまで来るとモンスターのレベルも四十を超えていた。
今まで見てきた冒険者では、余程の者か集団でない限りは、ここまで来れないのではないだろうか?
二十六階層を超えてからは、モンスターの数は減っているようだった。
両より質という事なのだろう。
ユイの動きは相変わらずなのだが、さすがにモンスターのレベルも四十を超えると、そう簡単には倒されてくれないようで、間にスキル攻撃による大ダメージを混ぜながら何発も攻撃を入れて、やっと倒せている感じだった。
危なげなさはないのだが、やはりモンスターのHPが高すぎる。
俺の魔術でも数発入れてやっと倒せている感じだ。
どうせここまで来たのなら、せめて三十階層までは行きたいな。
しかし、明日でダンジョンに潜ってから期限としていた一週間が経過してしまう。
実質の下層への探索は今日までだろう。
明日からは戻る事を考えないといけない。道中のモンスターを無視し、戻る事だけに専念すれば一日あれば十分戻れるだろうとの計算だ。
俺達は朝一から目標三十階層を目指して進む事にした。
各階層の広さは、普通に直進して三十分程度だ。勿論モンスターとの戦闘もあるのでもう少し時間は必要だが、走ればもっと早く下層への階段へ辿り着ける。
今回は俺も積極的に戦闘に参加していた。
そして、やっとの事で二十九階層まで辿り着いていた。
この階層に到着した途端、妙な違和感を感じていた。
いつかのケースもあるので、
三十分程直進したが、結局モンスターと遭遇する事は無かった。
目の前にあるのは、何かの卵のような物体だ。
またしても嫌な予感しかしないのだが、このまま無視して通るのも、せっかく準備してくれた人物に何か悪い気がするし、調べてみる事にした。
直径一メートルくらいはありそうな白い卵だな。
名前:何かの卵
説明:????
ユイが卵をペタペタと触っている。
「これだけ大きかったら、目玉焼き何個作れるかな?」
こんな得体の知れないものを食べるのか、流石だ。
俺が卵に触った瞬間、魔力が卵に流れている感覚に苛まれた。流れているというより、むしろ吸い取られていると言っても過言ではない。
勿論俺は何もしていない。
慌ててすぐに卵から手を放してしまった。
そして卵がヒビ割れていく。
さて、鬼が出るか蛇が出るか⋯
バリバリッと音を響かせ、卵が砕け散った。
中から出てきたのは、真っ黒な子犬のような生物だった。
名前:????
レベル:1
種族:魔族
弱点属性:なし
スキル:なし
また魔族か。しかしレベルが低すぎる。
あの時倒した魔族の子供だろうか?
だが、このレベルなら、もしかしてなんて事もまずないだろう。近付いてみる。
子犬は俺の顔を凝視していた。
顔立ちはなんとも愛らしいというか、普通に子犬みたいで可愛いのだが。
でも、種族が魔族には変わりはない。何か害があるのだろうか? 一概に魔族だからと言って敵対はしたくない。
この世界にも普通に犬は存在していた。現に王都でも街中にはちらほらと野良犬を見かけたし、ペットとして飼っている人にも出くわした事はある。
外見はただの子犬なのだ。ただ一つ種族を除いては。
俺のような
そういえば、ギルドに入った際の水晶に触れば、たしか種族はバレるんだったな。
俺はなぜこんな事を考えているのかと言うと、この子犬をお持ち帰りしようと思っていたのだ。
というのも、さっきから俺にじゃれている。
まるで初めて見た生き物を自分の親だと思ってしまう、刷り込みのような感じだろうか?
そんな事を思っていると、セリアが出てきた。
「ユウさん、そいつは魔族です」
「ああ、知ってるよ」
「危険です。例え未熟な魔族であろうと、成長すれば大きな災いとなります。今のうちに倒しましょう」
言うと思ったよ。
しかし、いくら魔族と知っていても、こんなに子犬にしか見えない、しかも俺に懐いている子犬を果たして倒すなんて事出来るだろうか?
俺には⋯無理だ。
いずれ、全種族との共存を目指している俺としては、魔族も例外ではなかった。魔族の中にだって、話せばわかる奴もいるかもしれない。
「セリア、この子を連れ帰っちゃだめだろうか?」
一応、セリアに聞いてみる。
セリアは少し考えてからその小さな口を開いた。
「ユウさんならそう言うと思いましたよ。本当は反対ですが、すぐに成長する事はないでしょうし、ユウさんは強いですから大丈夫でしょう。でも危険だと思った時は、
主従契約というのは、奴隷の契約とは違い、対モンスターと行う契約の事だ。
俺のように中にはモンスターをペットにして自慢している富裕層の連中がいるらしい。
どちらがより強いモンスターをペットにしているかで張り合っていた時代も過去にあったらしい。一種の富裕層のステータスだ。
それに主従契約はビーストテイマーが使う契約でもある。モンスターを使役させ、モンスターに戦闘を行ってもらうのだ。
街中を歩いていて、何人かビーストテイマーは見かけたことがあるが、モンスターの類は見た事がなかった。
何にしても、俺はセリアに了解と返事をする。
言葉が分かるのか分からないが、一応聞いてみる。
「俺と一緒に来るかい?」
『ワンワン!』と嬉しそうに尻尾をせわしなく振っている。
ほんと子犬にしか見えない。
その後は何も起こらず、というかやはりこの階層にはモンスターがいなかった。
とうとう下に降りる階段も見つけられなかった。
最奥には何かあると思っていたのだが、残念だ。
帰ろうと思ったその時だった。
「宝箱を見つけたよ!」
ユイの盗賊スキルで宝箱を見つけたようだ。
ユイに連れられて、その場所へと向かう。
「このあたりだよ」
ユイが指差している場所を掘ると、本当にトレジャーボックスが出て来た。
また魔導具だろうか?
ユイがトレジャーボックスを開ける。
中から出てきたのは、紅い色をした拳大ほどの結晶だった。
名前:バイゼルダンジョン最深部到達者の証
説明:世界に点在する二十四個のダンジョンの内の一つバイゼルダンジョンの最深部に到達した者に贈られる証。全二十四種集めると何かが起こる。
特殊効果:破壊不可
これはまたなんというか。コンプガチャの類だろうか。ツッコミたい部分はあるが、そのままストレージに放り込む。
そして、二十五階層のベースキャンプまで戻って来ていた。
今日はここまでにして、明日は地上へ戻ろう。
急げば一日で戻れるはずだ。かなり急げばね。
黒犬も俺達にちゃんとついて来ている。おとなしいものだ。
そういえば、いつまでも黒犬なんて呼ぶのも良くないな。
なんという名前にしようか。
よし、クロにしよう。
名前の由来? 黒いからに決まっている。
相変わらず俺のネーミングセンスは、ないな⋯と自分で思う。餌は何を食べるだろうか?
ストレージから、適当に食材を並べてみた。
しかしクロは反応しない。
「お前は一体何を食べるんだ?」
ダメもとで聞いてみた。
すると、どうだろうか。クロは俺の所に寄って来て、俺の肩に乗ってきた。
そして、俺の腕にガブリとかぶりつき、俺から魔力を吸っているではないか。
卵に触った時もそうだったが、もしかするとクロの餌は魔力なのかもしれない。
少ししたら、クロは俺の肩から降りて、満腹になり満足したのか、その場で寝てしまった。
すぐにMPゲージを確認したが、まったく減っていない。
吸われた分は極少量なのだろう。
そして次の日の朝を迎えた。
今日はダンジョン探索に入ってから一週間目だ。
「さて、帰ろうか」
ユイが元気よく返事をする。
セリアの反応はない。というかどこにいるのか見えない。
クロは喋らない。
道中は少し駆け足で、ユイと二人でモンスターを殲滅し、階層を駆け上がった。今日中に帰るのが目的なので少し急ぐ。
早朝に出発して、休憩を何度か挟み、俺達は地上へと戻ってきた。外は夕方だろうか、二つの太陽が沈みそうになっていた。
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