第5話: 竜王討伐戦

 朝陽の光が差し込み、目を覚ます。


「朝か⋯」


 大きく伸びをしてベッドから降りる。

 二人はすでに起きており、朝食を食べている最中だった。


「ユウおはよー。冷めないうちに食べちゃってね〜」


 今日も美味しくキノコのフルコースを朝からペロリと平らげる。


「ユウ、今日は二人で修行をするぞ」


 ん、何故二人なのか疑問に思ったが、俺が聞く前にエスナ先生が理由を説明する。


 なんでもギルドからの討伐依頼を受けたそうだ。時折、先生へ近隣の街にあるギルドから指名依頼が来るのだという。

 先生の実力を見越しての依頼だろうな。


「場所が場所じゃからな、今回はミリーは留守番を頼むぞ」

「ラジャー! お土産を期待してるね!」


 そう言って笑顔で俺達二人を送り出してくれた。


 今日は、走って移動している。距離がある為との事だが、目的地は教えてくれない。道中モンスターが何度か襲ってきたが、俺達の前にモンスター共は瞬殺だった。

 この近辺のモンスターのレベルは十〜二十程度で、全く相手にすらならなかった。

 いつの間にやら三時間程ほぼノンストップで動き続けている。

 流石に疲れたな⋯。

 そんな俺の顔色を感じ取ったのか、休憩する事となった。


「ユウ。魔力はどれくらい残っておる?」

「えっと、残り半分くらいですね」


 これを飲んでおけと、エスナ先生は俺にMP回復ポーションを三本手渡す。


「この先激戦になるじゃろう。ユウは強い。だから心配はしておらんが、魔力が枯渇した場合に使うんじゃ。この世界で生きていくからには、今後とも厳しい戦いに身をおく事もあるじゃろう。魔術師の火力は圧倒的じゃ。じゃがな、魔力がなくなればどんな職業よりも脆い。より長く戦えるよう魔力を温存する戦い方も学ぶ必要がある」


 先生はいつも以上に険しい表情で俺に説明してくれる。


「分かりました。今まで先生に習った事を全部ぶつけてやりますよ」


 ここへ来て先生が初めて今回の依頼内容を話してくれた。


 ギルドの依頼はこうだ。


 この樹海の奥にみそぎの祠という洞窟がある。その洞窟は、ここから一番近い町にある聖職者ギルドの巡礼地なのだそうだ。この近辺は普段ならばそこまで高レベルモンスターは生息していないが、あろう事かこの洞窟にドラゴンが生息してしまい、そのドラゴンの何らかの影響下で高レベルモンスターが周囲一帯に生息してしまっている。どの程度の相手なのかは実際に現地へ赴かないとエスナ先生も分からないのだとか。場合によっては、即退散なんて事もありえる。


 俺は先生と一つだけ約束した。


「もし儂が逃げろと言ったら、何をおいても何が見えても全速力でその場から退避するのじゃぞ」


 三十分程休憩し、移動を再開した。


 暫く進むと、みそぎの祠に近づいた影響か、モンスターのレベルも数もだんだんと増えてくる。

 それにしてもエスナ先生は凄い。魔術の腕は勿論だが、その身のこなしも素早いなんてものじゃない、動きに一切の無駄がない。俺も負けじとエスナ先生の動きを参考にしながらモンスターを潰していく。

 少しして、先生の足が止まった。俺も範囲探索エリアサーチで確認しているから分かるが、モンスターの数が尋常じゃない。数えるのも億劫な程だ。少なく見積もっても五百匹は下らないだろう。それも狭い範囲に密集している。レベルも四十前後と今の俺よりも若干高い。


「ユウ、儂が合図をしたら火嵐ファイアーストームを最大レベルであの集団目掛けて放つのじゃ」


 頷きでそれに応える。


 お互い魔力を溜める。フルチャージだ。そういえば、制限せずに本気の魔術を放った事はなかったな。一体どれほどの威力が出るのやら。


 エスナ先生はその鋭い視線をモンスターの集団に送っている。恐らく絶妙なタイミングを狙って機会を伺っているのだろう。


 そして唐突にその時が訪れる。


「今じゃ!」


 エスナ先生が叫ぶ。


 俺とエスナ先生は同時に、杖を集団に向けて振りかざした。


 《火嵐ファイアーストーム》&《雷嵐サンダーストーム


 凄まじい爆音と共に放たれた周辺は巨大な火柱に包まれる。そして天からは龍の形に見えなくもない、稲妻が何本も何本も火柱の辺り目掛けて降り注いでいた。

 まさにこの世のものとは思えない光景に術者の俺自身、若干引いてしまった。

 視界の範囲探索エリアサーチから赤い点が次々に消滅していく。それと同時に視界全体が点滅を繰り返していた。

 エスナ先生は放った魔術を器用にコントロールし、残ったモンスターを根こそぎ殲滅していく。


 五分位経過しただろうか、辺りは焼け野原となっていて、モンスターの焼けた匂いが充満していた。所々まだ燃えている。エスナ先生は素早く水撃アクアボルトを放ったかと覚えば、的確に燃えているところに命中させて消火していく。


 気が付くとレベルが一気に六十二になっていた。

 恐ろしい⋯今の戦闘でいったいどれ程の経験値を獲得したのやら。



「行けるか?」

「勿論」


 俺達は再びみそぎの祠目指して足を進める。


 先程のような集団に出くわす事はなく、各個撃破で進んでいく。


 そして一匹のモンスターが俺達の前に立ちはだかった。

 五mはあろうかという巨体に頭が3つある化け物だ。

 すぐさま鑑定アナライズを使用する。


 名前:キマイラ

 レベル:61

 種族:竜

 弱点属性:なし

 スキル:雷撃咆哮サンダーブレスLv4、焔撃咆哮ファイアーブレスLv4、氷撃咆哮コールドブレスLv4、衝撃波ソニックウェーブLv3、地震アースウェーブLv3、雄叫びLv2、猛毒咆哮ポイズンブレスLv2、毒尾針ポイズンテイルLv3


「ユウ。戦い方を見ておくのじゃ。儂がやる」


 エスナ先生はそう言い、俺を後ろに下げる。


 キマイラは三つの首を巧みに使い、頭はそれぞれが別に意志を持っているのか、別々の魔術を行使してくる。

 エスナ先生はまさに閃光のごとく、そのすべてを華麗に躱し、複数の魔術で頭を一つずつ確実に潰していく。

 僅かニ分程の出来事だった。


 すごい⋯


 瞬きも忘れてしまう程に、その様に見惚れてしまった。


 倒し終えたエスナ先生が俺の方へと戻って来る。


「驚いとるようじゃが、今のユウでもあの程度は可能じゃ」


 いやいやいや、無理だから!


 その後は何の問題もなく進み、ついに俺達はみそぎの祠の前へと辿り着く。

 外の物陰に隠れ暫く気配を伺う。

 そこまで深い洞窟ではない。その証拠に洞窟の再奥にいると思われるドラゴンは、俺の範囲探索エリアサーチにはっきりと映っていた。

 エスナ先生にそれを告げる。先生はドラゴンに動きがないか気配を探っているようだ。

 気配を殺し、暫く待っていると赤い点がゆっくりとこちらに近付いて来る。


 エスナ先生の指示で、一旦俺達は後ろへと下がる。正体が分かるまでは絶対に先に相手に気付かれてはならない。


 洞窟の入り口から百メートルは離れただろうか。俺の範囲探索エリアサーチが届くギリギリの範囲だ。そしてその姿が現れるのを待つ。


 赤い点の主がその姿を現した。


「流石にこれは大物じゃな⋯」


 隣にいたエスナ先生からそんな声が聞こえてくる。ドラゴンは体長五十メートルは優に超えている。あまりのサイズに一瞬思考が止まりそうになったが、すぐに鑑定アナライズで確認した。


 名前:グランドドラゴン

 レベル:95

 種族:竜

 弱点属性:なし

 スキル:????


 おいおい、レベルがヤバいぞ。

 それにスキルが????ってなんだよ。今までこんな表示は見た事がない。大した情報ではないが、知り得た情報をエスナ先生に伝える。


 エスナ先生は、その情報を聞くや否や、より一層険しい表情になってしまった。エスナ先生よりLvが高いからな⋯今回ばかりはいくらエスナ先生でも相手が悪すぎる。


「ユウ、逃げろ」


 元来た道を指差しながら、エスナ先生が俺に小声で発言した。


 ここに来る道中俺はエスナ先生と約束していた。

 逃げろと言ったら、何をおいても逃げろと。


 その時だった。突如ドラゴンがその大口を開け咆哮を上げたのだ。


「グアァァァァァァァ!」


 直後凄まじい風圧が俺達二人を襲う。石の壁を前にしていたが、まるでダンボールのように脆く崩れ散る。その壁は、エスナ先生が発動した石壁ロックウォールだろうが、いつの間に発動したのか全く気が付かなかった。

 ドラゴンの正面約百メートルが無残な姿へと変わり果てていた。

 木々はなぎ倒され、例えるならば竜巻が通り去った後のような光景となっていた。


 それにしても何故居場所がバレたんだ?


「早く逃げるんじゃ! あやつは別格じゃ。儂らが太刀打ち出来るような相手ではない!」

「ならエスナ先生も一緒に!」

「時間稼ぎする者がいないと無理じゃ!」

「だったら⋯⋯二人で倒しましょう」


 なぜ逃げ腰の俺がこの時、逃げずにこんな事を言ってしまったのだろう。だがしかし後悔はしていない。このまま俺だけ逃げて助かってもエスナ先生が助かるとは到底思えなかったからだ。

 そんな事になったら、俺はきっと死ぬほど後悔する。それだけは嫌だ絶対に。

 それなら二人で戦ってやられた方がまだましだと判断した。

 しかし俺に自殺願望がある訳じゃない。思考を巡らせ、役に立つか分からないが、昔やっていたゲームで巨大竜を倒すクエストがあったのを思い出す。


 その時の攻略手順はこうだ。

 1、絶対に竜の正面には立たない。

 2、先に狙うのは翼だ。

 3、竜の胴体は強固な為、狙うならば口の中だ。

 4、倒れ込んだ所で目を狙う。


 駄目元でやるしかない。

 俺は先生に作戦の説明をした。

 まず二人で左右の翼を風刃ウィンドカッターの連撃で引き裂く。

 そしてひとりが囮となってドラゴンの注意を引く。もう一人はドラゴンに近付き、至近距離からドラゴンの口の中目掛けて火撃ファイアーボルトをねじ込む!


「無理じゃ! 一撃でも喰らったらそれで終わりなんじゃぞ!」

「分かってます。だけど何故だが、上手く行く気がするんです」


 根拠なんてない。だが俺が少しでも不安を思わせるとエスナ先生は俺だけを逃がそうとするだろう。

 エスナ先生は俺が断固として意見を変えない事が分かったのか、渋々と言った感じで了承してくれた。


「まったく⋯儂の弟子は儂の言う事を聞かぬ連中ばかりじゃな」


 ばかりって事はミリーにもそんな事があったのだろうか?


 ため息をついたエスナ先生の横顔をチラリと見た。困った顔をしていると思ったが、笑っていた。

 ははっ、流石エスナ先生だ。俺は泣きそうだってのに。


 さてと余計な思考を巡らすのはここまでだ。


 作戦開始だ。


 囮役はエスナ先生に決まった。というより、絶対に儂がやると聞かなかったからなのだが⋯

 以降の連絡の取り合いは念話テレパシーを使う事になった。エスナ先生は速度増強アジリティアップの魔術を俺に発動し、そして自身にも発動した。


 よし、行動開始だ。


 俺達は左右に展開し、ドラゴンとの距離を縮めていく。

 ドラゴンは首を左右に振っている。どちらに攻撃しようか迷っているのだろうか。そんな事はお構い無しにドラゴンとの距離を縮めていく。


 移動だけで命懸けだった。

 なけなしの精神がどんどんと擦り減っていくのが分かる。

 よしっ、何とか風刃ウィンドカッターが届く位置まで到達したぞ。すかさず翼目掛けて風刃ウィンドカッターを発動させる。

 脆そうな翼と言えど、なかなかに硬い。流石に一回じゃ傷一つ付かないか。


 エスナ先生から念話テレパシーで連絡が入る。


「デタラメに撃つのではなく寸分の狂いもなく同じ箇所を狙うのじゃ」


 ははっ、魔術歴一ヶ月そこらの俺に無茶を言ってくれるぜ。しかし生き残る為にはやるしかない。


 俺はエスナ先生の指示通り、なるべく同じ箇所に攻撃を集中させる。無論、ドラゴンも黙って見ているわけはない。火炎放射であったり、地団駄によって発生した衝撃波であったりと多彩な攻撃手法を用いてくる。

 俺は最小限の動きでその攻撃を躱しながらひたすら風刃ウィンドカッターを放っていく。



 何発放っただろうか⋯。MP回復ポーションも既に使い切った。その甲斐もありドラゴンの翼をボロボロにする事に成功した。


 はぁ、はぁ、やったぞ。上手くいった!


 エスナ先生の方も成功したようだ。流石だ。作戦通り俺達は次の段階に進む。


 念話テレパシーで連絡を取りながら、エスナ先生は少しずつドラゴンから距離を置き、目立つように動き回っている。無駄に派手な魔術を使い注意を引こうとしている。そんなエスナ先生目掛けてドラゴンは凄まじい衝撃波ソニックウェーブを放つ。


 エスナ先生は咄嗟に石壁ロックウォールを三重に発動させ、攻撃を凌いでいた。

 ドラゴンまでの距離があったのと障害物があったが、エスナ先生は即座に三枚ないと防げないと判断したのだ。


 エスナ先生がドラゴンの注意を引いてる隙に俺はドラゴンのすぐ近くまで近付く事に成功していた。

 正面に回るのは攻撃する時だ。ドラゴンが方向を変えないようにエスナ先生もその場を動かず攻撃に耐え続けていた。


 その時だった。

 ドラゴンが翼をバタつかせ始めた。


 飛ぼうとしているのだろうが、既にその翼はボロボロの為、少し浮き上がった程度ですぐに地面に着地してしまった。

 衝撃で土煙が辺りを覆う。


 これは使えるな。


 俺はそのチャンスを逃すまいと、土煙に紛れて最後の攻撃をするべくドラゴンの正面に回った。この時の俺はこの行動が相手の策略だと気付かなかった。


 ドラゴンは俺が近付いていた事に気付いていたのだ。エスナ先生からの念話テレパシーが届く。


(罠じゃぁぁぁぁぁ!)


 しかし遅かった。土煙に隠れて正面に回ったはずだったが、ドラゴンは目にも留まらぬスピードでその巨大な口を広げたまま俺に近付いてきた。

 攻撃をする間も無く、いとも簡単に俺はドラゴンに喰われてしまった。


 エスナ先生が俺の名を叫ぶ声が微かに聞こえた気がした。


「ユウッッ!おのれドラゴン! 許さぬ! 許さぬぞっ!」



 俺は喰われて死んだのか⋯

 その割には意識は⋯ハッキリとしている。


 恐る恐る両手で身体を触ってみる。両手両足はちゃんとある。どうやらまだ生きているみたいだな。思惑通りになったようだ。喰われる瞬間あえて、奴の口の中に飛び込んだ。勿論頭がおかしくなったり、恐怖に耐えられなくなったわけではない。あえて飛び込む事により、喰いちぎられるのを回避するのが狙いだ。


 さぁ、次はこっちのターンだ。

 俺の魔力は残り少ない。エスナ先生から貰ったポーションは全て使用してしまった。

 魔術の無駄打ちは出来ない。どうする?


 俺は考えた。そして一つの魔法を使用する。


 《石壁ロックウォール


 なぜ攻撃魔術ではなく、防御に用いる魔術を使ったのか。答えは簡単だ。こんな密閉された空間で攻撃魔術を発動させればこっちもただでは済まない。もちろんそれだけが理由ではないのだが。


 ドラゴンの装甲は金属のように硬い。

 しかし内部はどうだろうか? きっと脆いに違いない。ならば内部から破壊するまでだ。


 これは賭けだった。


 残った魔力のほぼ全てを使い、石壁ロックウォールを連射した。


 エスナは、自分が傷つくのを恐れる事なく、ドラゴンと真っ向勝負していた。エスナ自身このまま戦っても勝てる見込みがない事は分かっていた。

 しかし、もはや逃げるという選択肢はなかった。大事な弟子をドラゴンに奪われてしまい、理性をなくしていた。徐々に、いや確実にダメージを追い、追い詰められていく。


 足が動かない。視界が霞む。ついに膝をついてしまった。ここまでか⋯。この光景を見ていれば誰もがそう思っただろう。


 ドラゴンはエスナがもう動けないと悟ったのか、口を開けてゆっくりと火炎放射のチャージをし始めた。

 最大火力で確実に仕留める為だった。


 その時だ。


 口を開けたままドラゴンが急に苦しみだす。そして次の瞬間、巨大な腹の中から無数の石柱が突き出してきた。


 突然の出来事にエスナは何が起こったのか分からないでいた。しかしその石柱がすぐに石壁ロックウォールである事に気が付いた先生は、ドラゴンがその大口を開けていたのも幸いし、口内目掛けて残り僅かな魔力を使ってありったけの魔術を叩き込んだ。

 ドラゴンは口から血を吐き出し、その場に倒れこんでしまった。


 そして次第に動かなくなっていった。


 腹の中から誰かが出て来る。

 その姿は血まみれで、普通ならば誰なのか到底判別出来ないのだが、エスナはすぐに分かった。


 ユウだ。先程ドラゴンに食べられたはずのユウが生きていたのだ。そればかりか、内部から攻撃をしかけて、見事ドラゴンを倒したのだ。


 俺もすでに魔力が枯渇してフラフラの状態だった。なんとか腹から這い出た俺は、その場に倒れ込む。倒れ込んだはずなのだが地面の感触ではなかった。

 柔らかい腕の中のような感覚。

 徐に目を開けるとそこには俺以上にボロボロになったエスナ先生がいた。



 倒れ込む寸前に受け止めてくれていたのだ。


「ばかものが」


 エスナ先生は目に涙を浮かべていた。


「じゃが無事でよかった。ほんとによかった⋯」


 エスナ先生は俺を抱き締める。


「ギリギ⋯リでしたね⋯それに先生こそボロボロじゃないですか⋯」


 エスナ先生は俺に治癒ヒール洗浄ソフトウォッシュを施す。


 俺はいつの間にか気を失っていた。どれくらい気を失っていたのだろうか。

 頭の下に何やら柔らかいものを感じる。

 なんとも心地よい感触だった。

 俺は目を開ける。


 エスナ先生が俺を上から覗き込んでいる。あまりの至近距離に思わずドキッとしてしまった。

 どうやらエスナ先生に膝枕されていたみたいだな。


「エスナ先生に膝枕してもらえるなんて俺って幸せ者ですかね」


 あははと俺は笑いながら呟く。

 エスナ先生はちょっとだけ顔が赤くなっていた。


「ばかな事を言うでないわ。魔力が回復したらミリーの元に帰るぞ」


 エスナ先生もすでにMPポーションは使い切っており、時間をかけて回復するしかなかった。

 しかしドラゴンが倒された今、辺りを覆っていた邪悪な気配は消え、モンスターの反応もいつの間にかなくなっていた。ある程度回復した俺達は、戦利品をいくつかストレージに回収していく。

 驚いたのは、あのドラゴンの巨体がストレージに易々と入ってしまったのだ。その他にもモンスターの使っていた武器や素材をまるごとストレージに放り込んだ。

 念のためにみそぎの祠内を確認しておこうと先生が言うので、俺達は洞窟へと足を運んだ。


 百メートルほど進んだ先で何やら眩い光が目に入ってくる。

 なんと祠の最奥には、ドラゴンがどこからか集めてきたものだろうか、金銀財宝の山々があった。その価値は計り知れない。

 どうすれば良いかためらっていた俺にエスナ先生が告げる。


「こういう場合は、見つけた奴の物じゃ」


 この世界では、盗品はよほど明確な証拠がない限りは本人に戻ってくる事はまずないのだそうだ。

 しかたなくストレージに金銀財宝を回収した。しかたなくだ。


 それ以外は目ぼしいものは何もなく、俺達はその場を後にし、ミリーの待つ小屋へと急ぎ戻った。


 不思議と道中には高レベルモンスターはいなかった。やはりドラゴンが消えたせいだろう。

 小屋に辿りついた時は、すでに陽は落ち、辺りは真っ暗になっていた。

 小屋のドアの前にミリーの姿があった。

 ミリーは俺達に気が付くと手を振ってくる。


「もうー二人とも遅いよー。心配したんだからねーって、何! 服ボロボロじゃん!」


 ミリーは驚いていた。


「心配かけたな、じゃが無事に任務達成じゃ」

「ギリギリだったけどな」


 俺はミリーの頭を撫で、三人で小屋の中へと戻った。

 テーブルにはご飯の準備が出来ていた。少し冷めていたが、美味しかった。

 うん、今日もキノコは最高だ。


 ミリーに今日の出来事について色々と話していた。持ち帰った金銀財宝を少しだけストレージから机の上に取り出すと、これにはミリーも驚き興奮している。


 これだけあれば⋯グフフ⋯とつぶやきながら危ない顔して笑ってらっしゃる。

 ミリーさん怖いよ⋯。


 先生は道中獲得した綺麗なクリスタルの結晶をお土産と称してミリーに渡していた。

 そうしてしばらく談笑した後、それぞれの寝床へと向かった。


「今日はなかなかにハードだったな⋯。寝る前にステータスチェックでもしておくか」


 名前:ユウ

 レベル:80

 職種:魔術師

 スキル:鑑定アナライズ魔力注入マジックインジェクト範囲探索エリアサーチ、投石Lv2、火撃ファイアーボルトLv5、火嵐ファイアーストームLv5、水撃アクアボルトLv5、吹雪ブリザードLv5、雷撃ライトニングボルトLv5、雷嵐サンダーストームLv5、風刃ウィンドカッターLv5、衝撃波ソニックウェーブLv5、重力グラビティLv3、治癒ヒールLv5、浮遊術ふゆうじゅつLv3、石壁ロックウォールLv3、氷壁アイスウォールLv3、範囲結界セイフティードームLv3、速度増強アジリティアップLv3、状態回復リフレッシュLv3、念話テレパシー

 称号:異世界人、竜王を討伐せし者


 レベルが凄い事になっている。それに称号が増えてるな。恐らくドラゴンを倒したからだろう。

 今日はチェックだけにしておくか。

 疲れたし、もう寝る。

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