第4話: 魔術の特訓
小屋へ戻るとミリーが驚いていた。
俺は少し照れくさそうな顔をしながら、手を振る。
ミリーはエスナに事情を聞いて理解したようだ。というか「弟子になるという事は私の方が先輩なんだから姉御! って呼ぶ事!」なんて言ってるし⋯。
もちろん断ったけどね。
ミリーはミリーだ。俺の事もユウでいいし。
しかし、エスナの事は先生と呼ぶ事にした。
さすがに俺だってそれくらいわきまえているつもりだ。
早速修行を始めるというので、俺は先生とミリーの後ろについていく。
先ほど小屋の中で準備をしている途中に杖を渡された。
暫く歩き、木々の密集地帯を抜け、やがて荒野のような場所へと辿り着いた。
自然と道中に敵の反応はなかった。ミリーいわく先生を恐れて近付いてこないのだとか。
「さぁ着いたぞ」
どうやら目的地はこの荒野らしい。
先生は、20mほど先にある岩を指差す。
「ミリー、あの岩を壊すのじゃ」
5mはありそうな大岩だった。こんなか弱そうな少女にあれを破壊するなど常識ならば不可能だろう。しかし、ミリーは簡単簡単と言わんばかりに腕をフルフルとさせている。そして杖を大岩目掛けて構えた。
杖に魔力を込める。
するとどうだろうか、ミリーの魔力に呼応して杖先が眩い光を輝き始めた。
「ファイアーボルトっ!」
その声とともに杖から火の玉が出現し大岩に向かって飛んでいく。サッカーボール台のサイズだろうか。
なかなかの速度だな。そのまま火の玉は見事に大岩に命中し、大岩が崩れ落ちる。
その時だった。視界にスキル獲得の文字が現れた。
”
え? どゆこと? 見ただけで獲得してしまったぞ?
すぐに獲得した
ミリーはというと、さっきからドヤ顔を俺に向けてくる。
それを軽くスルーし、イメージトレーニングを始める。次は俺の番なのだ。
どうやら先生には俺がスキルを獲得した事が分かっているようだった。
「次はユウの番じゃ」
「え、ユウも魔術が使えるの?」
なぜかミリーが目をキラキラ輝かせている。何を期待されてるのか⋯
俺は生まれてから23年間今の今まで一度も魔術なんて使った事がないんだ。
いくらスキルを覚えたからってそんな簡単に⋯。
簡単だった。
ミリーの見よう見まねで杖をかざし魔力を注ぐ。そして別の位置にある、さっきミリーが砕いた2倍はあろうかという大岩めがけて撃ち放つ。
「ファイアーボルト!」
恐らくLv5の影響だろう。直径1m程度の火の玉がものすごい速度で放たれた。さっきのミリーの時よりも何倍も速い。
これはヤバイ⋯。
大岩は砕けるのとはまた違う、蒸発したような感じになっていた。それを見たミリーは口を大きく開き目を見開いて驚いていた。
先生はというと、表情は変わっていない。
「なにあれ⋯師匠並みの威力だよそれ!」
頭を抑えて姉弟子としての威厳が!とかブツブツ言っている。
MPゲージがほんの少し減っていた。相変わらず数値が見えないので良く分からないが、すぐに魔力が全回復した事から、余程の事がない限りは連射しても魔力が枯渇なんて事にはならなそうだ。
先生が俺の所に寄ってきた。
俺はスキルを獲得する過程の推測やスキルレベルはポイントが余っていれば自由に振れる事を先生に話す。
さすがの先生も予想はしていたらしいが、呆れた表情をしていた。
「相変わらずデタラメじゃな」
と言い放ち側を離れる。
去り際に、もし覚えた魔法を最大Lvで放てるならば、Lv3程度に留めておくように指摘された。
スキルを覚える為には二つの方法がある。
俺の推測はこうだ。
一つ目。俺自身がそのスキルもとい魔術をこの身に受ける。
二つ目。スキルもとい魔術を撃つ過程を観察し理解する事。
理解とは魔力の流れを感じる事なのだが、適当に見ているだけでは覚えられなかった。
何度か練習しているうちに威力のコツが掴めてきた。Lvを最大値まで振らなければいいのだが、何かあった時の為に威力コントロールを覚えておいて損はないしね。
その日は
気が付けば、いつの間にか夕方になっている。
この世界も一日が24時間なのだそうだ。しかし、時計はない。
どうやって時刻を把握するのだろうと思ったが、大体でしか把握できてないのだとか。
大きな町や都市に行けば、1時間に1回鐘の音が鳴るのでそれで時間の把握をしているのだそうだ。
修行を終え、小屋へと戻って来た。
食事はミリーの役回りらしい。しかし、居候の身であり、一応一番下っ端である負い目が俺にはあった。元いた世界で一人暮らしをするようになってからある程度料理は出来る。
俺も手伝おうとミリーの元へ向かったのだが、使い慣れていない道具のせいもあり、何とか邪魔にはならない程度でしかなかった。
それにしても相変わらず食材はキノコばっかりだな。まぁ美味しいからいいんだけど。
お腹もふくれたところで、いつものミリーが入れてくれたチャルを3人で並んで飲む。
そういえばこの世界にはお風呂の概念がないらしい。ではどうするのかというと、魔術でキレイにすると言う。
ん、でも2人ともステータスにそんなスキル表示はなかったよな。何故かは不明だが、2人ともそのスキルが使えている。俺も2人が使っている過程を観察した事で取得する事ができた。
観察といっても風呂場を覗くとかそんないやらしい意味ではない。断じて違う!
まぁ、少しも期待していなかったかと言われれば嘘になるが⋯。
そして、寝床へと向かい眠りへと落ちた。
次の日もその次の日も同じようにスキルを覚え、先生の説明を聞きながら状況に応じた威力、種類の使い分け方を学んでいく。
この世界に来てから1ヶ月程度が経ったある日。
「今日はモンスターを狩ってみるかの」
朝食を食べ終えたばかりの俺達に向かって先生が呟く。
ミリーが待ってましたと言わんばかりの表情をする。ミリー自身もモンスターの討伐経験は少ないらしい。
俺は今一度覚えたスキル一覧を確認する。
スキル:
これまでに先生やミリーに教えてもらった魔術は全て覚える事が出来た。これだけ覚えるのに本来ならば何十年という歳月が必要なのだろう。
小屋を出ていつものように俺とミリーは先生に着いて行く。しかし、いつもとはルートが違うようだ。モンスターがいる所でも探しているのだろうか?
暫く歩いていて何かを通り抜けたような妙な違和感を感じた。
俺が不思議そうな顔をしていると、
「何かを感じたのか?」
先生が俺に問いかけてくる。
「何か魔力のカーテンのようなものをくぐった感覚があったので」
「えー、私は何も感じなかったよ?」
先生が呆れたような顔をしている。
「それは儂が張った結界じゃ。結界の中にはモンスターが入って来られないようになっておる」
先生ぱねぇ⋯小屋からここまで1km位はあったぞ。よほど高位のモンスターでなければ結界を破られる事は出来ないのだそうだ。
俺が小屋を出て行こうとしたその日、モンスターが小屋の前まで近付いていた。本来は人除けの結界がモンスターにも作用し近くまでは寄ってこないらしいのだが、あの時はモンスター側の狙いが、明らかに俺にあった事と、明確な印である匂いを辿ってやって来ていた為、近寄ってこれたのだ。
先生は万全を期してあの日以来物理的に入ってこれない結界を毎晩張っていたという。
結界の効力は大凡1日。俺とミリーの安全を期してという事だが、ほんとに先生には頭が上がらない。
再び俺達3人は足を進め、目的地の狩場へと到着した。
久々に
先生もミリーもモンスターの気配を感じ取ったようだ。
なるべく物音を立てないようモンスターの方向へ足を運ぶ。
暫く歩くと、その姿が確認出来た。
《
名前:ビッグモール
レベル15
種族:土竜
弱点属性:火
スキル:
俺が答えるよりも先に先生の口が開く。
「モールの亜種じゃな。弱点は火じゃ。見た目にそぐわず、なかなかに素早いから油断するでないぞ」
さすが先生、博識でいらっしゃる。さすがに素早いまでの情報は
「まずはミリー、好きなようにやってみるのじゃ」
「ラジャー!」
ミリーはおデコに手を当てて了解のポーズを取った。
そしてゆっくりとビッグモールに近付いていく。
その距離が10m位になった時だろうか。
相手がミリーに気付いてしまった。
ビッグモールはスキルを使うべく魔力を溜める動作を取った。
「あわわ」
ミリーが驚いてたじろぐ。
マズい。気が付いたら俺は走り出していた。途端にビッグモールの
ビッグモールの正面から土煙が舞い上がり、地面が津波のように盛り上がり、その先のミリーを襲う。
間に合わない!そう思いとっさに魔術を発動させる。
《
俺がそう唱えると、ミリーの前に高さ3mはあろうかという石の壁が現れた。
その瞬間アースウェーブが石の壁に激突し、辺りにものすごい衝撃音が鳴り響いた。
「間に合った⋯」
ミリーは呆然と立ち尽くしていた。そして口を開く。
「あ、ありがとう」
ミリーが礼を言う。その時俺のすぐ後ろから先生の声がした。
「2人とも! 戦闘はまだ終わっていないぞ。気を抜くでない!」
そうだった、ミリーが無事だったので俺もモンスターから注意を逸らしてしまった。
すぐに
「ユウ、見てて!」
そう言い放ちミリーは杖を構えて魔力を込め始めた。いつもより込めるのに時間が掛かっているような気がした。
そして、
正確に狙い定めた火の玉が、ビッグモールを襲う。
ビッグモールは、避ける事が出来ず、火達磨になり暴れていた。しかし、HPゲージはまだ半分程度残っていた。まだ油断するなよ! と発言しようとしたその時だった。
2発目の火の玉がビッグモール目掛けて飛んでいく。どうやら初めから2発分を想定し準備していたようだ。
ビッグモールは2発目が着弾し、そのまま動かなくなった。
どうやら無事に倒せたようだ。
「やるじゃないか」
「えへへー」
先生が音もなく歩み寄り、頭にチョップを落としてきた。
「いでぇっ」
「あいたっ」
頭を抑えている俺達の頭を今度は撫でる。
ツンデレか!ツンデレなのか!
「ミリーは実践慣れしていないせいもあるがの。相手の動きをよく見て次にどう動くか、ある程度の想定はしておくのが重要じゃ。そうすれば、予期せぬ事が起きもある程度は対応できるじゃろう。じゃが、奴を仕留めた時は見事じゃったぞ」
再度先生は、ミリーの頭を撫でる。
ミリーは最初こそ泣きそうな顔をしていたが、今はえへへと嬉しそうだ。
次に先生は俺に対して、鋭い眼光を向ける。
「ユウは間に合わないと判断し、とっさの
と俺の頭も撫でる。
弟子と師匠の愛というのはまさにこういう感じなんだろうなと一人心の中で納得していた。
その後、俺とミリーはに苦戦する事もなく何体かモンスターを狩っていった。
日が暮れてきたので、狩りを切り上げ家路へと足を運んだ。いつの間にかレベルが1つ上がっていた。
今日も食卓にはキノコのフルコースが並んでいる。今日は何だかドッと疲れたな⋯。
食べ終わるとベッドに吸い込まれるように倒れこみ、そのまま眠ってしまった。
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