第3話: 樹海の魔女
「お主はだれじゃ!」
開口一番、ドアが開け放たれるや否や若い女性の怒鳴り声が聞こえた。俺は声のする方へと視線を送る。
その瞳に映ってきたのは、ミリーと変わらないくらいの背格好のこれまた美少女と呼べる顔立ちをしている人物だった。
服装に思わずツッコミを入れたくなってしまったのをグッとこらえる。
と言うのも、あからさまな魔女の格好をしていたからだ。全身黒一色で特徴のある三角帽子も被っている。元いた世界なら魔女っ子コスプレ以外の何者でもない。
その格好に違う意味で見とれてしまい、返答するタイミングを逃してしまった。
「師匠! お帰りなさいです! この人はユウって言うの! すぐ外で行き倒れてたので介抱してあげてたのー」
「ちょっと待て、半分は正解だが、もう半分は違うだろそれ」
今度は耐えきれず思わずツッコミを入れてしまった。
「あれ? そだっけ? まー似たようなものでしょ!」
だいぶ違うと思うぞ? ま、別にいいけどさ。
「あ、ユウ! 紹介するね、この人が私の魔術の師匠でエスナって言うの!」
淡々としゃべるミリーに対してエスナの表情はかたい。
エスナは警戒していた。この場所に人が訪れるなど、あり得ないのだから。
この小屋の周りにはエスナ自身が人払いの結界を張っている。第3者はこの場所には近づけなくなっているのだ。それこそ高性能レーダーのようなものがない限りは⋯。
そんな事を考えているとはつゆ知らず俺は答える。
「道に迷って彷徨っていた所にこの小屋が見えたので道を訪ねようと⋯」
話しの途中にも関わらずエスナは口を挟む。
「語るに落ちたな。どうせどこぞのスパイであろう? この場所には人避けの魔術を施してあるのじゃ。迷ってたどり着くなどありえぬ事じゃ」
彼女が警戒している理由はそういう事か。でも困ったな。
俺がどう弁解しようか考えていると⋯
「ユウはスパイなんかじゃないよ! 優しいし、それにドジだし! そんなスパイいないと思うよ?」
フォローしてくれるのはありがたいのだが、まぁいいか。とりあえず被せとこう。
「ドジかどうかは置いといて、どうも俺にはその手の魔術には耐性があるみたいで効かないみたいなんだ」
シレッと言ってみた。
「ふむ⋯確かにかなりの魔力を保持しているようじゃな。ミリーもそう言っておるし、まぁ、とりあえず信じてやろう」
あら、意外とすんなりいったぞ。良かった良かった。でもかなりの魔力ってどういう意味なんだろう。疑問に思ったので聞いてみた。
「魔力が見えるのか?」
「普通は魔力を練るでもしない限りは見えんのじゃがな。お主の場合は、平常時でも魔力を垂れ流し過ぎじゃ」
「え、垂れ流してるって?」
素直にその発言に驚いてしまった。
「やはり無自覚じゃったか。まぁ良い。尚の事スパイである疑いは消えたからの。今日はもう遅い故。出て行くのは明日で良かろう」
ミリーと話しているうちにいつのまにか辺りは真っ暗になっていたようだ。ありがたい。異世界初日が野宿じゃなくてほんとに良かった。
「ありがとうございます」
そう答えて軽く会釈する。ミリーも喜んでいた。ミリーと話していたのは僅かな時間だったにも関わらず、大分打ち解けてくれたようだ。
エスナは2階へと上がっていった。寝室が2階にあるそうだ。
ん? 待てよ。一つ屋根の下で女の子2人と一緒に寝るとか⋯いいのかこれ?
いや、まぁ嫌ではないんだけど。気にしたら負けか。
その後ミリーと少し談笑した後、俺は用意してくれたベッドに入った。あれ、何か忘れている気がする。
あ、ご飯食べてない! というか朝から何も⋯
バタバタすぎてすっかり忘れていたな。うぅ⋯しょうがない、我慢して寝るか⋯
それにしても疲れたな⋯。今日1日いろいろあったが、目が覚めたら現実に戻ってたり⋯しないよなぁ⋯
などと考えているうちに眠ってしまった。
朝か⋯
俺はベッドから体を起こし周りを見渡す。
あぁ、そうだった。俺は異世界に居るんだったな。少しばかり結局これは夢落ちだったというのを期待してたんだけどな。
ミリーが慌ただしく朝食の準備をしている。エスナは早朝から何処かへ出掛けたようだ。
ふと窓の外を見る。そこには、巨大キノコ畑が見える。が、俺はもういちいち驚いたり心の中でツッコミするのはやめる事にした。なるべくね。例え目の前をポットが飛んでいようとも。ん?
ポット?あれ、ポットが飛んでる⋯。
あぁそうか、ミリーのスキルに確かあったな。浮遊術だったか。
興味本意でポットに触れてみる。
すると⋯
”浮遊術Lv1を獲得しました”
うわ、触れただけで覚えてしまった。これは流石にチートすぎる。
そのまま勢いでMAXだったLv3まで振ってしまった。まぁ、何かに使えるだろう。
と言うわけでこの話の冒頭のシーンに戻るわけではあるが⋯。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界生活が始まり1日が経過した。
段々とこの世界にも慣れてきていた。
「ユウ!おはよー朝ごはん出来たよー」
「おはよう。お、美味しそうだね。ありがとう、頂くよ」
こっちの世界に来て初めての食事だった。昨日一日何も食べていなかったのもあってか、全てが美味し来る感じた。キノコのシチューにキノコの姿焼きにキノコのソテーに⋯⋯ん?キノコばかりだな。
まぁ、美味しいからいいけど。
後で聞いてみたがやはり、窓の外に生えているキノコとの事。キノコを
名前:レッドマジックマッシュルーム
説明:食用。魔力で育つキノコ。食べる事で微細ながら魔力回復、魔力UPの効果がある。
うわお。なかなかいい効能があるみたいだな。野菜のくせに水じゃなくて魔力で育つのか。
これが一般的なのか、珍しいのかは俺には分からない。とりあえず、感想を言っておかないとね。
「ミリー、このキノコ食べた事がなかったけど、とっても美味しかったよ」
昨日の抹茶ココアのようなものを飲みながら答えた。
「でしょ!このキノコ世界中でも恐らくここにしか生えてないからとっても貴重なんだよー」
「そうなのか」
「うん! それにこのキノコを食べると魔力が上がる効能があるんだよ!」
うん、知ってる。けど知ってるのもおかしいのでとりあえず驚いておくのを忘れない。
さてと、このまま話をしていたいが長居するのも申し訳ないので俺は街へ向かう事をミリーに告げる。
ミリーは少し残念がっていたが理解してくれた。いつかまたここに戻ってくる事を約束して。
と、その時だった。
暫く様子を伺っていると⋯
どうやらまっすぐこちらへ向かってくるようだ。
小屋の外へ出る。嫌な予感がした。俺は足早にミリーに別れを告げ、小屋を後にし、赤い点の方へ歩み寄る。
予感は的中した。俺の目の前には見た事のあるモンスターがいた。
あの時のジャイアントウルフだ。
俺の匂いを追ってきたのか!とりあえず、この場を離れよう。
「俺に付いて来い!」
もちろん言葉は理解していないだろうが、やはり狙いは俺だったらしく後ろを追いかけて来る。
あの時は走って逃げてもすぐに追い付かれてしまったが、あの時よりもレベルが上がって身体能力が向上したのだろう。俺の方が若干早い。
少しずつだか相手との距離が開いていく。だが今回は逃げるつもりはない。
立ち止まり後ろを振り返る。10分くらい走っていただろうか。途中からは差がつき過ぎないようにペース配分を落としていた。10分も走っていたのにあまり疲れていないのは、何だか不思議な気分だな。
さて、やるか。
すぐさまジャイアントウルフは口を大きく開けて火の玉を放ってきた。
うお、あぶね。意外とスピードがあるな。
ギリギリでそれを躱し、奴の口元目掛けて魔力を込めた小石を投げ放つ。
小石は第2波を撃とうとして広げていた口から入り貫通してしまった。2mを超える巨体がズシンと倒れこむ。視界全体が数回点滅した。レベルが上がったようだ。今ので22になっていた。
一気に5も上がったのか。経験値多くね?
と、その時だった。背後から声が聞こえた。
「なかなかやるの」
聞き覚えのある声だった。
声のした方へと振り返りその正体を確認する。
エスナだった。いつの間に現れたのやら。
戻って来てみると俺とモンスターが走ってくるのが見えた為、透明化の魔術を使い尾行していたとの事。
透明化だと
「あいつを投石だけで倒すとはデタラメじゃの。見たところ
「ああ、そうだけど」
「
エスナは何やら考え込んでいる。そして俺の目を見て話し始めた。
「お主何者じゃ?」
初めて会った時にも言われた気がするが⋯
「見た目は人族だが普通の人族ではないのだろう? 」
俺は返事に困っていた。なんと言ってごまかせばいいのか考えていたのだ。それを見兼ねてか、
「そういえばワシも自己紹介がまだじゃったな。ワシの名前はエスターナ・メルウェル。ミリーはワシの事をエスナと呼ぶがな。儂はこの樹海に200年以上住んでおる。今までにいろんな奴を見て来たが、お主のような魔力質を持った者には会った事がないんじゃ。儂の種族も人族じゃが
エスナは淡々と自分の自己紹介をしていく。
俺はエスナに
名前:エスターナ・メルウェル
レベル:87
種族:人族 (神格者)
職種:魔術師
スキル:
称号:樹海の魔女
レベル高っ⋯それにスキル量多くない?
「今、目に魔力が宿っていたように見えたが⋯」
やばい、ばれてたか。
「ビジョン系のスキルか何か。確か対象者のステータスが分かるとかじゃったな」
だめだな、この人には嘘が通用しない気がする。それに見たところエスナは普通の人とは違うようだし悪い人ではないだろう。それに神格って神の資格を持ってるって事だよな。もしかしたら、元の世界に帰る方法を知ってるかもしれないし、全てを打ち明けよう。
「そうです、対象者のLvやスキルを閲覧できます。勝手に盗み見してすみません」
そう言って俺は頭を下げた。
「正直じゃの。それより儂も話したのじゃ、お主も話してくれると嬉しいんじゃが」
俺はエスナに自己紹介をした。
もちろん昨日異世界からこっちの世界に来た事も全て告げた。
最初はエスナも半信半疑だったが、俺が嘘を言ってないと判断したのか、どうやら信じてくれたようだ。
「まさか異世界からとは驚いたの。ワシも長い事生きてはおるが異世界人には会った事がない」
帰る方法を聞いてみたが、やはりエスナも知らないようだった。まぁ、そんな簡単に行くわけはないよな。
「これも何かの縁じゃ。お主が儂に出会えたのも神の御意志かもしれんしの。許す。ユウとか言ったな。神メルウェルの名の下にお主を儂の忠実な弟子にする事をここに認める」
弟子?ちょっと待ってくれ。話が飲み込めない。それに神メルウェルって何だ?
俺は半ば強引にエスナの弟子にされて、再び引っ張られて小屋まで戻って来ていた。
エスナときたら「儂の弟子になれるなんて名誉な事なんじゃぞ」とか言ってるし⋯
道中で聞いたが、神託が降りればその神の名を名乗らなければならないようだ。神メルウェル。この世界を作り賜うた5人の神のうちの一人だとか。エスナってやっぱりすごい人なのか?
あと、俺が異世界から来たというのはやはり他の人には言わない方がいいらしい。ただでさえこの世界は変わり者を差別する。自分達と違う者は迫害される。そして最悪の場合は⋯
もちろんミリーにも秘密だそうだ。今はまだ。
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