第2話 自衛官、極秘任務を受ける
まさか遠い異国の地で日本語を聞くとは思っていなかった。
しかも救助を要請してきている。
ひそかに安堵している結城に対し、少女はさらに話しかけてくる。
『こちらは一名が足を負傷している。救護施設への輸送を依頼したい』
『了解しました。マニピュレータによる搬送を行います。乗ってください』
そういって結城はASのアームを搭乗できる位置まで下ろす。
同時にアームの操作系統を輸送モードへ切り替えた。
機動性が落ちるかわりに輸送対象への衝撃を最小限に抑えることができる。
結城は半壊状態の泊地へ二人を運んだ。
『まずは武装を解除してください。また武装探知のスキャンをさせていただきます。
不快に思わないでください』
そう言って結城はASの探査システムを二人に向ける。
驚くべき事に負傷している方の人間も少女であった。
ハンドガンを向けた方よりもさらに幼いようだ。
(落ち着け、容姿が幼いからと言ってテロリストでない確証にはならない)
『申し訳ありません。今、この泊地には医療スタッフがいません。医療品を持ってきますのでこの部屋で待っていてください』
結城はまだ警戒をやめていない。
武装解除を確認した後、二人を格納庫にある鍵のかかる待機室へ案内した。
施錠を確認した後、結城は医療品を持って二人の元へと向かった。
・・・・・・・・・
予想外の事態はいつ起こるか判らない。
例えば今がそうだ。
結城が会議室に入ると、小柄な方の少女はソファに横たわり銃を構えていた方の少女は両手を頭の位置まで挙げ敵意が無いことを示していた。
それだけなら予想外とまでは行かないが、本当に予想外だったのは少女二人が上着を脱ぎ下着にシャツだけの姿で立っていたことだ。
『あなたが私達を警戒していることはわかる。だが私達に敵意は無い。速やかにこの娘を治療させてもらえないか?』
『申し訳ありません。必要と思われる医療品はもってきました。どうぞ使ってください』
結城がドギマギしている間に治療は終わった。大事に至る傷では無かったようだ。
『ご協力いただき感謝します。それで・・・その・・・所持品の確認が終わったら衣服を返していただきたいのですが・・・』
微妙な空気が流れる中、結城は所持品のチェックを済ませた。
事が一段落した後、結城は上層部への報告を試みた。
なんと言っても自衛隊の泊地がテロリストに襲撃を受けたのである。
ひとつ間違えば国際問題になりかねない。
しかし上層部の反応は冷静なものだった。
”襲撃に対する対応はやむなし”
”民間人を連れて速やかに安全地帯へ護送するように”
という内容である。
結城が怪訝に思っていると通信画面に別の声が割り込んできた。
『始めまして、明智技術一尉。私はメリッサ=マオ。しがないPMC(民間軍事会社)の社長よ』
PMC(Private Military Company)とは軍事的な業務を顧客に提供する、様々な民間企業の総称だ。
割り込んできた女性は上層部(と、通信を担っているオペレーター)を押しのけて強引に話しかけてくる。
『早速だけど、そこにオーリャ・・・強気な方の女の子はいるかしら?』
結城は後方に待機させていた少女を示した。
『元気そうで何よりね。その男にひどい事はされなかった?』
『武装解除の確認はされましたが、問題のある行為は行われませんでした』
『そう、それは何よりね。それなら次の指示を与えるわ。明智技術一尉と協力してレーナを日本まで連れて来てちょうだい』
会話の流れを聞いて始めて、結城は二人の名前が”オーリャ”と”レーナ”である事を知った。
『そういう事なんだけど、明智技術一尉。その二人を日本まで連れてきてもらえないかしら?上には話を通してあるわ』
そういってマオは画面から退く。
『聞いての通りだ、明智技術一尉。その民間人二人を無事日本まで送り届けて欲しい』
上層部からの意味の判らない正式命令を受けた結城は、後ろに控える少女を見た。
目は合ったが、残念ながら意思の疎通はできなかった。
第二話 ここまで
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます