Episode-4 領域‐Area:エリア(A)

       1




 朝一の予鈴のチャイムが聞こえる。

「もう美天のせいだよ! 遅れるって!!」

「まだ終わってない! 諦めるかーー!!」

 美天と瑠奈は校門前の坂を駆け上っていた。両者ともに中学の頃に東京都選抜の駅伝のメンバーであっただけにスタミナ切れはない。戦っているのは時間だ。

 チャイムの音が完全にやむ前に校門を潜れればセーフである、と言うのが美天の持論。中学の頃からそうしてきた。

 高校に入ってからは瑠奈と一緒に部屋を共にするようになったのでそのようなギリギリの戦いなどないと思っていたが、美天の寝相の悪さは同居人程度ではどうにかできるものではなかった。

 チャイムが最後の一音を鳴らす、校門前にいるのは生徒指導部の先生。

 美天と瑠奈の歩幅にしてあと三歩程度。

 校門前に壁の様に立っている生徒指導の先生などもはや眼中にない。

 チャイムの音が完全になくなるその前に、校門をくぐるゴールするのみ――ッ。

「でやッ!」

「やッ!」

 最後の三歩を走り幅跳びの様に飛び上がって省略。

 地に着地した瞬間に静かになった。

「ゴール! 立花選手、大勝利!」

「はぁ、はぁ……何で……っ、朝からこんなになるの……?」

 遅刻の原因を作った美天はともかく、瑠奈の場合はただただ巻き込まれただけなので、歓喜も何も感じられない。

 瑠奈は生徒指導の先生の方を見る。

「はよ行け」

 そう短く言い、まだ来ていない生徒がいないか校門の向こうの見張りを続ける。どうやら、情状酌量であるらしい。

「教室行こ、美天」

 ゴールに歓喜している美天の手を引っ張る、瑠奈。

「え、うん」

 瑠奈に手を引かれて校舎の中へ、教室の中へと入っていった。




       2




 朝のクラス会が終わり、担任の先生が教室を出ていった。

 一時間目の授業が開始されるまで十分間。

 その授業も移動教室でもないため、実質休憩時間である。

「今日さ、このDVD見ようよ!」

 などと、『極楽市場』と題されたアニメ映画のDVDを取り出した水樹。どうやら昨日、参加していたゲーム制作のサークルの学生に、打ち上げの時に勧められた物らしい。

 タイトルや表紙からしてギャグコメディなのには違いない。

 水樹の事なので、一人で楽しむよりもこう言うのは皆で楽しむ方がいいだろうと言うことなのだろうか。

「別にいいけど、どこで見るんですか?」

「そりゃ、ウチでに決まってるでしょ」

「お家の方はなんと?」

「まだ一週間ぐらいは帰ってこないから気にしないでよ」

 そんな、渚と水樹の会話の流れで今日は水樹の家にて放課後遊びに行くことになるようだ。

「そういえば、昨日の打ち上げ、どうだったの?」

「ん?」

 今度は瑠奈から水樹への問い。

「ほら、大学生と高校生ってちょっと雰囲気とか違う感じとかあるじゃん」

「もうね、バカ騒ぎだったよ。羽目を外してる感じがなんか青春真っ盛りってね」

「ふぅん……」

 瑠奈からすればやっぱりかと言う感じで完全に興味がなくなったようで、

「それで、どんなゲームなの出すのって」

「ノベルゲームだって。ちょっとエッチなやつ?」

「え……」

「まあ、私は妹役だったかからそんなシーン無かったけど」

「あぁ……そうなんだ」

 これはこれで予想斜めすぎであった。瑠奈だけではなく、美天や渚も閉口物である。

 さすがに次回作の事を聞くのは怖い。

「ん……?」

 と、瑠奈が美天の方を見て、何かに気づいたようだ。

「ん、どうしたの? 瑠奈」

「美天、携帯鳴ってるんじゃない?」

「え、嘘っ!?」

 瑠奈に言われて確かにどこかからかブブッという携帯のバイブの音が聞こえる。

 制服のポケットから携帯を取り出す美天。だが、携帯にはそんな着信やメールが北という様子もない。

「あれ、来てない?」

「うん……」

「じゃあ、どこ?」

 瑠奈は首を傾げる。

 はて、と美天は机に両肘を乗せるような形でもたれ掛かる。

 すると、その揺れる音が少し大きくなった。

「あっ」

 それでようやく分かった。

 なぜかは分からないが胸から下げているペンダントが小刻みに揺れているのだ。まるで何かを警告するかのように。

 だが、そのときにはすでにバイブ音からは興味が削がれていた瑠奈はまた渚と水樹との会話の中に入っていた。


――VEIDOからの、昨日のお詫びの品です

――大事に持っていただけたら、嬉しいです。


 そう、管理官から渡されたクリスタルである。もしかすると――


「――ッ」

 と考えてしまい、スッと悪寒がが背中を走る。

「美天? どうしたの」

「え、いや、なんでもないよ?」

 水樹に気遣われていることから、表情にでも出たのだろう。

 すぐに言葉を返して作り笑いを浮かべる。

「さっき話聞いてました?」

「え、うん、聞いてたよ。五時に水樹の家でしょ?」

「美天さん、五時じゃ間に合わないでしょ?」

「え、そうかなぁ?」

「今日学校の帰りしに水樹さんのお家によるからすぐに帰っちゃ駄目ですよ?」

「あ、うん、オーケーオーケーっ」

 美天は小さく親指を立ててうなずいた。

「美天が逃げないように捕まえておくから、大丈夫だよ」

「ちょっと、瑠奈ッ!? 逃げないって!」

 こんな、いつも通りの事が起きている日常の裏であの怪物と組織が動いている。願わくば、それがこちらにまで入り込まないでほしいと、美天は心底思っていた。




        3




 今日はほとんど来ない学校へ登校してきた七瀬。

 当然だが、彼女はこの学校では一番目立つ存在だ。女子高生にして日本を代表するアーティスト。華麗な美しさと刀のような強さを纏うルックスは男子女子にとっては高嶺の花同然であった。悪目立ちではないが、皆、彼女に近寄れない。

 しかも傍らから見ても分かるように少し苛ついている。

 原因は間違いなく、昨日のサンシードを掃討した直後の事である。

(なぜ……。なぜジェネクスが)

 ライブギアジェネクス。

 それはかつて、七瀬と肩を並べてイービルと戦っていたパートナー――光詩音ひかりしおんが使用していたライブギアであった。

 今の今までトップアーティストとして、ライブギアソーディアンのキャリアーとして戦っていられたのは、詩音のおかげ。


――自分で言ったことは何があっても絶対曲げない。それがアタシだ!

――だから七瀬、お前はお前の夢叶えてこい!


 そう言って、詩音は七瀬の背中を押し、彼女自身は一人で災厄のイービルに立ち向かい、光と共にその身を散らせた。

 なぜあの時にいつものように二人で戦いに赴く事が出来なかったのか。詩音の命を犠牲にしてまで、かなえたい夢だったのか。

 そんな罪悪感を抱え、七瀬は心を冷徹な鉄の刀へと変え、一人となった今もイービルに立ち向かっていた。

 だが、そんな鉄に酸を投じるかのように、ジェネクスを纏う彼女が――姫野麻里亜が現れた。


――分からない……。


 全然違う。


――この光が何なのかも。何故私に来たのかも……。


 麻里亜と、詩音は背負っている物も思いも、何もかもが違う。

 なぜ詩音のライブギアがあんな女の所に継承されたのか、それが苛立たしく、七瀬にとっては許されない事であった。

「クッ……」

 ギリッと強く拳を握り、ドンッと思わず机を殴ってしまった。

 突然大きな音が教室中に響いた物なので、クラスの空気がキンッと凍り付いた。

 そのときにようやく場の雰囲気に気づいた七瀬はふと、周囲を見渡す。

 いまこの状況になってしまったのが自分のせいだと察した七瀬は、「すまない」と一言残し、席から立って教室を出た。

 廊下で、授業の担当の先生に

「霧咲さん、どこいくんだ」

 呼び止められたので、

「少しお手洗いへ」

 と言い残し、そのまま廊下を歩き去っていった。




       4




 放課後。

「美天! 掃除終わらないの!」

「もう、急かすなら手伝ってよ」

 水樹が急かしてくる。

 今日は美天のいる班の掃除当番であった。

 掃除の班員は六人。

 余裕で六〇人も入る教室を掃除するには、すこし人手が足りない。掃除当番以外の生徒達は、すぐに帰っていくため助っ人が入るか入らないかは二分八分程度。ほとんど見込みがない。

 だが、美天は今日約束があるので瑠奈、水樹、渚三人が待ってくれている。だが手伝ってくれない。

「自分勝手すぎるんだって」

 等とぶつくさとつぶやく。

 ほかの同じ班の生徒達はまたいつものかと少しあきれ気味である故、大分気まずい。

 机、椅子は固定式なので、わざわざ移動させると言う手間が省けるのだがその分掃除が面倒になっている。

 しかも最後に掃除のチェックを行う担任の先生は潔癖症でもあるのかと疑ってしまうほど掃除に関しては厳しい。

 さすがにパッと見では見つけられないようなゴミは嫌々ながらも見逃してくれてはいるのだが、例えば机や椅子の下であったり、部屋の隙間の目立つような埃であったり、普通の担任ならば指摘しないような所でも指摘してきて余計に時間をかける。

 どうやら、掃除は一生なれることはないらしい。あと半年近くこれが続くのかと思うと少し鬱屈になる。ので、考えないようにしていた。

「校門で待っといてよ」

 それだけを水樹に言い投げ、掃除を続ける。

 七分ほど掃除をしてから、ようやく先生のチェックも通り美天たちは晴れて自由の身となった。

 鞄に持ってきた教材や荷物を入れて、教室を飛び出して廊下を駆け、外靴に履き替えて下校時間になって校門から出て行く生徒達の群の間を交わしながら校門まで走っていく。

 と、皆が校門前で集まって待ってくれていた。

「もう、美天遅いって!」

「だったら手伝ってって、もう……」

 水樹がさっきと同じ事をいってくるので同じ返しをする美天。

 このままではいつまでたっても移動できない。

 ところで、妙に校門前が少しざわつく。

 誰かに視線が集まっているようで、その道をどいてやっているようだ。

「あ……」

 そのざわつきに気づいた美天。

 生徒の視線の先にいるのは、霧咲七瀬であった。

 どれだけ有名人やアーティストであってもここまでの注目を集めることは無いだろうが、その見た目といい、醸し出される雰囲気と言い、しかも滅多に登校することもないので、生で見れるときに一目でもチラッと見ておきたいという人が多いのだろう。七瀬の花道を作るように、生徒たちが道をどく。

 その道を辿って来るとすれば美天たちの方へ――

「……ッ」

 七瀬が、美天の存在に気付きほんの一瞬表情が変わった。

 そしてその足は美天たちの方へ。

「えと……」

 その時、美天は昨日の時を思い出す。


――ライブギアをその身に纏う最高戦力でもあります。

――光に選ばれ、そしてその光を纏いイービルを討つ力を持つ者、これらはキャリアーと呼ばれ霧咲七瀬はそのライブギアのキャリアーなのです。


 管理官がおしえてくれた、自分が通う高校の先輩で、トップアーティスト霧咲七瀬のもう一つの顔。

 近寄りがたい雰囲気を出しているのは何も、彼女が有名人だからではない。人を喰らう怪物と日々戦っている中で、精神そのものが自分たちとは遠いところにあるのだ。

 七瀬がすぐ間近に来た時、美天は言葉を失った。

 しかも、七瀬が美天の前に立ち止まりじっと美天を見詰めてくる。

「あの……七瀬さん……?」

「…………」

 だがなにも口を開かない。

 ただじっと――まるで美天の心を見透かすように、美天の目を見てくる。

「えと、私……」

「まさか、本当に私の……」

「え?」

「いや、すまない。失礼する」

 と、初めて、七瀬に話しかけられたことに対する興奮――も感じる事も出来ず、ただ唖然として七瀬が自分とすれ違うところを見るだけであった。

 だがそれだけで美天にも注目の的は集まり、

「ちょっと美天!?」

「うぇ!?」

 突然水樹に肩をガシッと掴まれた

「なに!? さっきの、何よ美天!」

「な、何ってそりゃ――」

「知り合いなの? 何なのよ!」

「ちょっと――ッ、何でもないって! ちょっと知り合ったた程度だったから!」

「どこで!?」

「いや、まぁ、ちょっと近くのファミレスで?」

「七瀬さんファミレスとか行くの!?」

「い、行くんじゃないかなぁ?」

 嘘は言っていない。だが、会話をしたわけではないので「知り合った」というより「顔を合わせた程度」という発言の一部に語弊はある。

「ねえ、どこっ!? 出現地どこ!?」

「しゅ、出現地って」

 水樹も、美天と同様、霧咲七瀬の追いかけで同じ高校に入学したのだが、水樹の七瀬に対する執着心は美天のそれを大きく超えている。

 以前、七瀬が世界最高のアーティストフェスタにアーティストとして参加すると聞いた水樹はそのフェスタが開かれるというロンドンまで行って見に行ったことがある。

 さすがの美天でもそこまでは出来ない。

 故に、七瀬とその接点を友人である美天がもったと聞いて、黙っているはずもなく――

「出来れば七瀬さんの連絡先とか教えてくれない!?」

「ちょっと!?」

 水樹の目が若干狂気に満ちてきている。エスカレートした挙句に法に触れかねない事を聞いてきた。

「ほら、早く行こうよ」

 と瑠奈が間に割って入って二人を制し、ようやく移動。

 坂を降りた二〇〇メートル先に学校の最寄り駅がある。

 そこから終点まで行ってからバスに乗ること一〇分ほどしてようやく水樹の自宅へとたどり着く。

 電車の車内にて四人の会話が弾むさなか、ふと、電車の電工掲示板を見る。

 昨日、山中にてパーティーをしていた学生グループが行方不明になったそうで。現在、両親達からの警察に届け出がだされ捜索中であるらしい。




       5




 森林に囲まれた閑静な住宅街。

 その道路のなかにある停留所にてバスが停車。電子マネーで運賃を支払った四人は降車した。

 アジサイの咲く公園を通り抜けた向かい側の道路沿いに水樹の自宅がある。

「あれ?」

「ん?」

 その公園のベンチでスケッチブックにアジサイをクロッキーで描いている昴がいた。

 美天が声をあげたので向こうも気づいたようだ。

「昴君、何でこんなところに?」

「美天こそ――」

 と、昴自信も同じ事を聞こうとしていたようだが、先へと進んでいってふと美天がいないと気付いた三人の方を見て察したようで、「ああ……」と納得したように頷いた。

「遊びに行くとこか……」

「うん、友達のお家に。で、昴君は?」

「見れば分かるだろ、クロッキーの課題が出たんだよ。夏の花十種類をクロッキーで描いて、明後日までに提出なんだよ」

「ああ、そうなんだ……。って、じゃなくてなんでここにいるの」

「なんでって……ここ俺の学校の近所だし。帰りしにさっと課題終わらせようって思ってな?」

「ああ、そうなんだ……」

 美天自信、正直昴の学校の事はよく知らない。芸術専門の高等学校に通っていると言う程度の認識だ。今年の文化祭は美天も昴もお互いの学校に遊びに行くという約束があるので、何もなければその日に初めて知ることになる。

「立花さん、こちらの殿方は?」

「え?」

 いつまでたってもしゃべっていたためか、ほかの三人のほうからこちらに来た。

「ああ、んん……何って言おうかな。えと、斎田昴君……えと、私の彼氏?」

「聞くな」

 昴にすかさずつっこみを入れられる。

 どう言おうか悩んだあげくに結局はそのまま伝え、そして水樹と渚はカチンッと凍り付く。

 そして、

「美天あんた彼氏いたの!?」

「驚きましたよ、立花さん」

「いつッ!? いつからいたの!?」

「どれぐらいになるんですか?」

 水樹と渚の驚愕からの質問責めにあった。

 だからあまり近親の人間達に言いたくなかったのだ。瑠奈の時でさえ実際、瑠奈に美天と昴のデート現場を目撃したと問いつめられて、仕方なく打ち明けたほどであった。瑠奈は水樹と渚のような質問責めはなかったがしばらくは「今日はいいの?」とか「連絡取り合ってるの?」等といつにもましてお節介を焼かれた。デートしにいく日などを事前に言っておくことで瑠奈が寮監に「美天が外出して遅くなるかもしれない」と話しを通してくれるのでその点については助かっていた。今は瑠奈にお節介を焼かれた分はすべて美天がやっている。

「デート回数は何回ですか?」

「初チューは?」

「ちょっと!? それ質問しないで!」

 これ以上質問責めされたのでは美天の気が持たない。と言うより徐々に、質問の内容が深くなってきているためそろそろ止めないといけない。何とかして、昴か瑠奈に助け船を求めたい所。

「ねえ水樹、渚。美天も昴さんも困っちゃってるからやめてあげなさいよ」

 瑠奈には美天の気持ちが分かってくれたようで水樹と渚を止めに入った。

「いや、俺は別に困って――」

「昴君は黙ってて」

 瑠奈とは違って昴は美天が困っているところを見ているのがおもしろく感じていたらしい。

 すこし圧を出しながら昴の口を一言で制する美天。意地悪がすぎたかと、昴も素直に美天に従って口を閉ざす。

「ごめんなさい、昴さん」

「いやいいって瑠奈ちゃん。結構楽しい友達じゃないか」

「ああ……まぁ」

 と、瑠奈もこのような昴の態度には頭が上がらないようだ。精神年齢が実年齢を上回っているのが分かる。

「あの、昴さん、ウチで映画みるんですけど、一緒にどうですか?」

「水樹!?」

 そんな事を突然言い出す水樹に、美天は驚いた。

 初対面の人間、しかも自分の友人が彼女である男を誘えるものだと思ったからだ。しかもどう言うわけか昴は「んん」と少し考え、

「まあ、あと三つぐらいだしべつに構わないよ」

「ほんとですか!?」

「ああ」

 と、水樹の誘いにあっさりと乗った。

 スケッチブックをバッグにしまい、ペンを筆入れにいれてそれもしまって荷物を纏める。

「やっぱり男一人でもいないとね!」

 水樹が一番ノリに乗っている。まさかと思ってしまうが、そんなことないと信じたい。さすがにそこまで水樹は悪くはないだろう。

 とりあえず、

「……? 美天?」

「キープ……」

 昴が自分以外の誰かに手を出さないように片腕にしがみ付いておく。

 そんな二人を見るほか三人は「おぉー」と、声をあげて鼻の下を伸ばす。瑠奈も昴と美天がこうしている所はあまり見たことが無いので、水樹や渚同様、まだ耐性が無いようである。

 だが、当の美天本人は飼い主に寄る悪者を追い払う様な猫のような目つきで三人を睨んでいる。

 それがむしろ仲睦まじさを感じさせるようで、三人にとってはそれが見たかったと美天には見えないように笑いを堪えていた。

「美天さん……」

「…………」

 なわばりに入り込まれた猫のように警戒心を強くしている様子の美天に、昴の声は少し届き辛いようだ。当分この状態が続くのかと、昴はバツの悪そうな表情を浮かべて小さく溜め息を吐き、いつものように美天の頭をくしゃくしゃと撫でる。

 だが今回はいつもと違うようで、それだけでは美天の機嫌が収まる様子は無く、昴はこのまま時間に任せようと、諦めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る