Episode-4 領域‐Area:エリア

 下ろされたのは、美天の住む寮の最寄駅から三つほど離れた駅前。

 帰りの費用は、管理官のポケットマネーから出してくれた。

 駅のホームのベンチに座って電車を待っている間、ふと、先ほどの会話を思い出す。


        *     *     *     *     *


「あの、聞きたいんですけど……」

「はい」

 車から出る前、美天は管理官に話しかける。

 下ろされるところに近づいたためか、美天の目隠しをしていたアタッチメントは取り外され、少し気が楽になったからだ。

 一つ、気になったのだ。

「イービルって、何で市街地を襲わないんですか? それに、イービルが市街地を襲うなんて事って、あるんですか?」

「いえ、ありえません」

「どうして?」

「それは、機密事項です。それもVEIDOの人間でもごく一部の人間にしか知られない、トップシークレット」

「…………」

「御心配はいりません、あなたの身辺の人たちがイービルに襲われる可能性は低いでしょう」

 これを聞いて、少し気持ちに余裕が生まれた美天。

 黒いハイエースはタクシーの停留所に停まり、後部座席のドアが開いた。

「では、良い返事をお待ちしております、立花さん」


        *     *     *     *     *


 今も尚、管理官が見せた紳士的でも闇の深い笑みが頭の中にこびりついて離れない。

 良い返事とは、即ち美天がVEIDOに入るという事には違いない。

 美天にはイービルの放つウイルスのような物に対する耐性がある。イービル相手に銃を向ける事もできる。人の命を守る仕事であり、きっとそれはみんなのためになる。

 だが、ふと思い出す。

 自分自身が、今度はあの怪物に向かって行くのかと。そう思うと首を縦に振って入るという決心が出来ない。

 だがそれと同時に、あの怪物にもし自分の友達が襲われたら、と、思い浮かべてしまうと、入らなかったときの大きな罪悪感のような物にさいなまれてしまう。

 どっちを選んでも、きっと美天の苦悩は取り除かれない。

 いずれ当たるであろうそれにさいなまれている時、ズボンのポケットに入れていた携帯がブブブッと揺れた。着信である。

 ディスプレイの表示を見ると着信先は瑠奈であった。美天は携帯をとり、通話ボタンを押した。

「もしもし?」

『美天! どこまで行ってるの? 早く帰ってきなさいよ』

「ごめん……。ちょっと病院が込んでて」

『病院? やっぱりどこか悪いの?』

「ううん。何とも無かったよ。やっぱり疲れてただけみたい。ビタミン剤くれた」

『そう……。寮監さんにも言っとくから、早く帰ってきてね』

「うん……。分かった」

 通話終了。

 瑠奈が耳を離したであろうタイミングで、美天は通話終了のボタンを押した。

 携帯のディスプレイに昴が描いてくれた美天の絵が待ち受けとして映し出された。

(私……どうしたいの……?)

 携帯の画面を見つめる。

 今、この待ち受けに写っている大好きな昴が描いてくれた美天自信なら、何か答えてくれるかもしれない。

 当然何も答えてくれず、美天の気持ちは、暗い夜の中に迷い込んでいくようであった。

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