幕間
東京都郊外の森林――
新瀬水樹は知り合いの大学生たち一〇人と打ち上げのバーベキューに来ていた。
ゲーム制作のサークルで、水樹はつい最近完成し、マスターアップした作品の主人公の妹役の声優として登場していた。登場していたという事は参加者、関係者であるという事なので一緒に行こうと誘われたのだ。
時刻は21時半ごろ。全員明日も授業、講義があるというのでそろそろ引き上げ時である。
部長である少年はパンッと手を叩き、
「よし、今日はお開きにしよう。明日もあるからな。火の後始末して、片づけよう」
と、打ち上げの熱を惜しみながらも、片付けが始まった。
火を消化し、持ってきたバケツに水を入れてその中に炭を入れる。
荷物は林道を超えた先にある駐車場に停めてある車の中へ。
「じゃあ、これもっていくわ俺」
「ああ、頼むよ」
水で冷やしたバーベキューグリルを解体して、脚部をまとめてそれを取っ手にし、まとめて車の方へ持っていくのは、プログラマーの少年。
立つ鳥後を濁さず。
ゴミもしっかりと拾ってゴミ袋にすて、荷物を無くさないように一点にまとめる。
「新瀬さん、家まで送ろうか?」
「え、いいんですか?」
「さすがに女子高生を夜に一人で出歩かせるのは悪いだろ。帰り道も違うんだろ?」
「ええ、まぁ……」
「ボックスに荷物戻した後に送るよ」
「いやそんなの悪いですって。部長さんだって明日があるでしょう?」
「俺は明日昼からだから多少遅寝でも問題ないって。気を使うなよ。新瀬さんが入ってきてくれたからゲームが完成したんだ」
「でも……」
「明日ニュースで女子高生が強姦されたなんてニュース流れたら、ビクッてするだろ、俺が。何なら、俺のためだって思って、な?」
こつんっと肩を小突かれた水樹。
そこまで親切にしてくれるならば乗っかっても誰も文句言わないだろう。
「じゃあ喜んで」
と、水樹は部長の誘いに乗った。
早く帰るためにも荷物の片づけをさっさと済ませてしまおう。
としても、後は車へと持っていくだけなのだが、何分量が多い為に人手が欲しい。だが、先ほど荷物を持っていった彼が帰ってこない。
「もう持って行っとくね、部長」
「そうだな、アイツを見かけたら声をかけてやってくれ」
「あーい」
今回のゲームの脚本を担当してくれた少女は、比較的小さなコンロを持ち上げて駐車場のある方へ――
「うあっ!!! あぁぁあああああァアアッ!!」
その時、さっき荷物を車に積んでいったプログラマーの少年の悲鳴が聞こえた。林道の方からだ。
暗い道からこちらへと、何かから逃げているようだ。
「おい早くッ、誰かぁあッ!!――」
あと一歩で林道を抜けられる、ところで、プログラマーの少年の胴が何かに捕まった。
それは太い蔦である。人の手では切れない。
「嫌だッ! いやダァッ!! 助けて!!!」
プログラマーの少年を引き込んでいく闇の中の住人が、水樹たちの前に姿を現した。
その姿はまさしく、魔物であるよう。
全身が蔦や蔓の鎧に纏われ、花輪をあちらこちらへと向かせてまるでほかの獲物がいないかを探っているようだ。
「あぁっ――! あっ、アッ!!」
プログラマーの少年はその魔物に身を持ち上げられて完全に抵抗できないようにさせられ、
「嫌d――ッ」
瞬間、魔物の蔦の鎧が開かれて露わになったイカの口の形をした穴の中へと放り込まれ、鎧が閉じられた。わずかに、ぐちゃぐちゃと、咀嚼する音が聞こえる。
「いやぁぁぁぁぁあああああああああッッ!!!!」
制作進行の少女の悲鳴が響く。
「逃げろ!! 早く逃げろ!!!」
部長が言わずとも、すでにパニック状態となって全員が散開してしまっていた。
だが、魔物は体中から蔦をあちらこちらへと伸ばして逃げていった部員たちを一斉に捕まえる。
「いやぁあああ!! 離して! 離せ!!」「あああぁぁ……ッ!! 止めろ、止めろ……ッ!!」「うああっ! くっそぉ!!」
ヒステリックな悲鳴をあげたり、あきらめて懇願していたり、捕まって尚あきらめられずに抵抗をしたりと、
しかしその全員が食われ、咀嚼音と共にすべてが途端に立ち消えていく。
水樹だけ、完全に逃げ遅れてしまっていた。
恐怖あまり足がすくんでしまっていた。
「うあっ! あぁあああああァアアッ!!!」
そしてもう一本蔓をのばし、魔物がとらえたのは部長の少年。
「くそッ! 離せ! 離せよ!!」
「いや……っ、あっ……!」
自分の体をとらえる魔物の蔦を何度も殴ったり、引き剥がそうとしたりする。
当然、人の力ではどうにも出来ない。
その様子をただ見ているしかできない水樹。
「くそっ、何d――」
瞬間、
食された。
一気食いではない。
まずは首から上をかみちぎってじっくりと味わうように咀嚼。
首の断面図からはドボドボと血が流れ落ち、両手足がだらんと下がる。
いっぺんの肉片も残すまいと首を下向きにして部長の体を持ち上げてそのまま一口目で上半身を、二口目で下半身を食しきった。
その隙に逃げ出せばよかった物を、
水樹は、そんな物を間近で見たものなので腰が抜けて動けなくなっている様子。
そんな彼女を、魔物が放って置くはずもない。
格好の獲物だと、しかし水樹の恐怖をさらにかき立てようとじっくりと近づいていく。妙な、カチカチッという音を立てながら。
「いや……やだっ」
蔦の鎧が開き、魔物の口があらわになった。
「誰か……っ
助け――っ」
魔物の口が水樹へと覆い被さった。
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